石の華

※古いネタが沢山出てきますが、判らない人はスルーでお願いしますm(__)m

※マジに昔の窓95初期型はFD二十枚とかだったんだ。


これは、ゲドの話。

記憶に語り掛ける様な…、それでいて古の仮想の話。


暗闇に語りかける様に、十四枚目のカードを入れた。

静かな部屋で、まるで振り子時計の様な音がカタカタと鳴る。


全部でカード二十枚、アクセスランプがチカチカとなって。

窓の外を見ながら、ただ無心に星を見ていた。


蒼い月が、ゲドの顔を照らす。


「頼むよ、エラー何か出んなよっ…。頼むよ、やり直しだとリトライ無いから全部やり直しなんだ」


傷が入ったらアウト、読めなくてもアウト。

震える手で、画面を見ながら。


根幹ソフト入れるだけで、どんだけヤバいんだ。

畜生そうかと言って、円盤は高くて買えやしねぇ。

貧乏だからってのもあるが、店が殆ど無い。


業者用ばっかで、個人相手にしてくれるようなとこは殆ど無い。

こりゃ、それ用に内部ボックス作らないとダメだな。


石に語りかけ、石に魅入られて。


仮想の世界では今日も、ゲドの様なもの達がしのぎを削る


あまりの遅さに、チェーンで組む事も考えた。

圧縮する事も、命令文で通らない事もあった。

手繰り寄せる様に、恐れながらキーを押す。


言語なんて、拘ってる場合じゃねぇ。


チップやエンジンに固有や、へんてこな癖がありすぎて。設計すら模索段階だからつかまされたら拳から血を出して握りしめて葉を食いしばる。


命令そのものでコケる事もあった、入力ミスって全部すっ飛んでくこともあった。


だから、走らせる前に念を押す。

押し過ぎて、手が震える位。

画面の前で指を指し、口で唱える。


「恋人に語り掛ける様に、祈る様に」


それが、仮想に生きる事。


パイプラインも大丈夫、放熱も問題ない。

前回のは、焼肉ができるホットプレートかよって位爆熱だった。


大体コケるのはサウンド周りに曲者が潜むが、ドライバだって初期のが無くて自作か探しに行くしか無かった。


探しに行ったら、同じように困って彷徨い歩いてる奴が沢山いて。


「何だ、お前もか」って笑ってた。


メーカーは、違うラベルはりゃ売れると思って変なのを掴ませようとしてくるし。クロックで熱だけ出して、肝心の処理はカタツムリなんてことだってあった。


ちょっと、デカいもん走らせたら。

もう、パフェ食いに遠出しておみあげ買って来れる位には。


画面に完了しましたって出てたらさ、おかえりなさいって言われてるみたいで。


「変な気持ちになるんだよな、その癖大抵はエラー吐いて止まってるんだ」


そりゃ、行で止まるタイプの言語もあるけど。

出来ない事が多すぎて、直ぐにやめた。


判んねぇ奴ほど、魔法みたいな注文出しやがる。

判ってたら、その金額と時間じゃ出せねぇ事位判るだろが。


「そんな、魔法と奇跡があるなら俺が手にしてぇよ」


そんな事を言いながら、たった一食のウグイス餡をかじるんだ。


「高いからさ、食費も削る位じゃなきゃ環境すら揃えられねぇんだ」


だから、大切にしてきた。


何もない空からぶら下がる、ブランコに少女がのってる様に。

妖精の幻覚が見える位には、霞む眼をこすって仮想を創り上げる。


仮想は仕組み、言語は伝える言葉だ。

石はアホだ、石はクソ真面目で可愛い。


俺が語りかけて石が理解できないのなら、言葉も仕組みも扱いもみんなみんな変えていく。



いつしか、テンプレ作ってエンジン作って。

それでも足りなきゃ、口に手を当てて。


それでも、走り出してしばらくは。

「ホントかよ、本当に大丈夫かよって疑って。こけたらやっぱりなって溜息ついて、こけなかったら画面に向かって乾杯だ」


魔圧が維持できない時もありゃ、揺れる時もある。

石は熱によぇぇ癖に、潤沢に満ちて無きゃ十全な力を出さねぇ。


「泣かないでとあやして、手をとって処理から逃げ回る」


泥くせぇ、そんな可愛げのないツンデレが仮想ってもんなんだ。


ツールが良くなって、コードを圧縮しなくて良くなっても。

見やすく判りやすくかいて、何も問題を起こさないくらい石が良くなって。


それでも、中でやってる事はそんなに変わっちゃいねぇのよ。

めんどくせぇ奴だけど、俺を食わせてくれる。


石だけじゃねぇ、カードも良くなった。ボックスも良くなった、良くなってねぇのは言語操ってる俺だけなんて洒落にもならねぇ。


十全に、余裕を見て組み立てねぇと。

時代と共に、要求が加速度的に良くなるのなら。

作り手達も、その速度で良くならなきゃ。


マシンが良くなっても、それに甘やかされちゃ。

仮想は勝者総取り、勝てない奴はただの礎なんだよ。


足掻き続けて、なんぼの汚泥道(おでいみち)。


まだ走り続けるのなら、礎にならずに済むだろうよ。

どうせ、礎になるのなら。

自分の選んだ奴の下敷きがいい、俺はそう思う。

知らねぇ奴の、下敷きなんてまっぴらだ。


時々思い出す、若い頃。

四角い黒ぶち眼鏡を、ゆっくりと置いて。


ゲドが、喫煙室で火をつけた。

しわが見え、自身の左手をかざす様に見る。


右手で煙草を挟み、くゆらせては苦笑した。


「魔法の様な技術を手に入れても、年にゃ勝てんのよ。俺は神様なんて言われてたって、本当の神様じゃねぇからよ」


(なぁ…神様)


「まさか本当の神様のとこで、仕事するなんて人生判んねぇもんだな」


(…でもよ)


(…ホントかよを全て実現する神様よ)


「気に入らなければ、私は握り潰すねぇ…」

「俺には出来ねぇから、そんな事」


「石をあやして、部下をあやして。取引先の希望聞きながら、手取り足取りやって、やっとこさなんだよ。俺はただのおっさんだもの」


俺は、魔族だけど人間だからさ。

車が走るだけのレース、点が動くだけのテニス。

それが、自分で考えて答えてやり取りできる頭脳と拡張現実になっても尚突き付けられる。


「神と呼ばれた男と、本物の神様じゃ違いすぎるよな」


(だから、俺は死ぬまでこれで生きてくさ)


「それしか出来ねぇのなら、それで輝いてくしかねぇ。輝いてるのは脂ぎったデコと、薄くなった頭だけなんて洒落にもならねぇ」


(マジでそれは、洒落にもならねぇ…)


「あれ、ゲドさん煙草っすか」

「おう、処理中だからな。きっとエラーが沢山でる。その前に、おっさんは休息しておくって訳だ。エラーが出ないと困るが、沢山でてもしんどいから程々で勘弁してくれって祈りながらな」


「祈っても、うちら魔族の神様ニートじゃねぇですか」

「そうだな、じゃ俺らは祈らず頑張るしかねぇか」

「そうそう、その意気ですよ」

「そろそろ引退したいが、まだダメそうかい」


そういうと、急に真剣な顔をした。


「嫌ですよ、ゲドさんいなくなったら誰がやるんです?」

「お前とか?」

「絶対いやです、荷が重すぎるっす」

「何処かのスライムが仕事増やすからか?」

「何処か連合全社もっすよ」


「くたばるまでは付き合うが、もうちっと育ってくれないとダメか」

「ゲドさん抜けたら、今の五倍は遅くなるっすよ」

「五倍で済むなら、頑張ってくれや」


そういって、お互い笑いあう。


「ニート神より、神と呼ばれたおっさんの方が何倍も頼りになるっすよ」

「世辞でも嬉しいねぇ、何も出ねぇけど」

「元気とコードだけ出たら十分すよ」

「「ちげぇねぇわ」」




おしまい

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