黒電話

箱舟連合では、会社にも社員寮にもこの黒電話が必ず設置する事が義務付けられている。


採用された社員の場合は、それ用の特別番号を教えられ会社を辞めた時に番号が使えなくなる。


社員一同には口酸っぱく上司から言われる言葉として、困ったらこの黒電話で早めに電話しろという箱舟連合では珍しい程強く強く命令として言われる。


とあるシングルマザーやファーザーの社員が居たとしよう。夜泣き等で夜たたき起こされれば睡眠する事も難しく、又、箱舟連合でそれは起こらないが一定の収入を越えた事で各種のサポートが打ち切られて結果サポートを受けている時より苦しくなる。


数多の手続きの度些細なミスで書類を送り返され、その間ずっと困り果てていたとしよう。だが、この社員専用回線の黒電話に電話する場合こうなる。


また、この電話だけはかけたタイミングで誰がかけて何に使ったかは本部に即連絡がいくようになっている。


つまり、大して困ってもいないのにかけると減俸やクビの可能性がある。

しかし、逆に心から困り果てている場合はガンガン使えと言われるのである。



(ケースA)



とぅるるとぅるる、ガチャ。


「あのぅ…」


「あぁ、〇〇で働くハナさんですか。どうされました?」


「子供が夜泣きで、眠れなくて」


「えっと、担当がそっち行くので十五分だけお待ち頂けますか?担当はちょっと夜の街に居そうな色気ムンムンの片鳴(かたなり)さんって女性の方が行きますんで」



(十五分後)



「すいません、箱舟黒電話課から来ました片鳴ですぅ」


そこに居たのは、サキュバスが人化した。文字通りボンキュボンのひょうたんの様な体形の女性だ。


同じ女性が、眼のやり場に困る様な薄着の。


「夜泣きで困っているそうで、私が二時間程面倒を見る事になりましたのでその二時間の間に仮眠をとるなり休むなりして頂けますか?」


そういって、手慣れた様子で子供をあやす。


そうと知って居なければ、慈母の様に見えるが彼女は悪魔つまりマルギルの部下だ。



そういって、防音結界を部屋に張り巡らせると椅子の上で子供を抱きしめながら優しい子守唄を歌っていた。


知らなければ、悪魔系の彼女があんな優しい顔で子守唄を歌う様な存在だと誰が思うのか。



母親が崩れ落ちる様に眠ったのを見つめ、ソファーに寝かせると口を尖らせた。



「全く…、我らは不足があってはならぬと上司から厳命されているのだからもっと早く呼んで頂きたいものだわ」


そんな呟きは、さっきまで泣いていて今は大人しく指をくわえる子供しか聞いていなかったが。




(ケースB)



とぅるるとぅるる、ガチャ。


「ちわっす、箱舟黒電話課の十兵衛っすどないしたっすか?」



「各種の補助金が収入を理由にうち切られてしまって、明日からどうしていけばいいのか……」



「あっ、そっすか。そしたら、印鑑とペンだけ用意しておいて下さい。三十分後に、担当者がそっち行きますんで。担当者はケツに孔雀みたいな羽飾りしてゲーミングレインボーなモヒカンがトレードマークの十兵衛が担当するっす」



(三十分後)



「ちわっす、いやぁ大変すね~。収入理由に補助金切るとか頑張った奴が損するクソ制度っすよね、それで子供が宝とかちゃんちゃらおかしいっす。あー、愚痴が出たっす許して欲しいっス。そしたら、この書類を確認してからオッケーならサインくれっス」


そこには、箱舟連合所属の正社員が受けられる補助金や補助システムの書類がありどんなサポートをどんな風に受けられるかの説明と各種保険や食のサポート呼ばれるお弁当宅配サービスなどの書類だった。


「箱舟連合の社員は、これらの十全なサポートをデットベースマネタリーシステムズから受けられるっすよ。流石に正社員以外だと、受けられるサポート内容は減るっすけど」


思わず目が点になった、電話をかけた樋口。


「え?この弁当一月で百って書いてあるけど、一食じゃなくて?」


正直、今切り詰める様に一食を作って三百かかっている食費を頭に思い浮かべながら尋ねた。


「そうっすよ、残りはデットベースマネタリーシステムズが負担するっす。連合の社員だけの特権の一つみたいなものっすね。流石に、メニューは選べないっすけどAとBとCランチくらいは選べてお茶がつくっす。社員だけなら社員食堂のビュッフェが無料だけど、社員証のない子供は入れないっすからね。そういうひとの家族の為のサービスっすよこれ」


離乳食やミルク等もAとBとCから選べるようになっているらしい、その書類をデカいジェラルミンケースから取り出しては並べていく十兵衛。


もっと早く知りたかったと呟いた瞬間、十兵衛の眼が殺し屋の様になって言った。


「箱舟は電話しなきゃ何もしてもらえないっす、その為の黒電話っすよ。俺らの仕事なんだと思ってるんスか」


そう、この十兵衛殺し屋の様ではなく実際にマフィア系の殺し屋(ヒットマン)。


デットベースマネタリーシステムズは金融保険各種や外向けのサポートをしてはいるが、吸収合併したのは会社だけではなくマフィアやヤクザも力づくで統合した正真正銘の本職が八割位存在する組織。


(力で統制して、下手な軍隊より統制が取れているというオチ)


「あー、特に困って無い時に電話すると流石に俺らの業務にも支障がでるんで。困った時だけ、じゃんじゃん相談して欲しいっス」


また、営業スマイルに戻って狐の様な細い眼に戻ってにっこり笑った。


「後、聞きたい事があったら黒電話じゃなくて。箱舟本店はろわの方に相談してほしいっス。子供が心配な社員の為にカメラ取り付けたり、面倒みる保育所や人員手配したり。各種の書類代行や役所書類のチェックなんかもやってる部署あるんで相談にのってくれるっすよ。箱舟では知らない事は努力が足りないとみなされるっス、でもちゃんと知る努力をしたらサポートは十全過ぎる位にするっス」


そしたら、去り際に背中を向けたまま殺気を放って言った。


「箱舟で不足なんか出したら、俺ら殺されるっスよ…。俺ら闇社会に生きてるもの達はボスの恐ろしさを知ってる。そのボスがいるから、こんな統制取れてるんス。その電話が黒いのは、ボスが真っ黒とかいう理由だからっス」


※と大路達の組織の人達は思っていますが、実際はエタナちゃんの趣味です残念。

※実際彼がボスと思ってるのは大路で、実際のボスはエタナちゃんですもっと残念


「あんたも、箱舟の社員になったなら知る努力をするっス。箱舟は努力には凄く優しいっスから」


声が聞こえた時には、十兵衛の姿は消えていた。


「やっべぇとこに、就職しちまったかなぁ……」


樋口は、十兵衛が消えた玄関を見つめて。そう、笑顔で呟いた。

にしても、あんなド派手な見た目で消えるのが一瞬って…。



※今回のは一例ですが、箱舟連合は社員一人一人に対して制度や意見を求めそれを黒電話の部署がこうしてサポートをしながら、仮想や技術や神材と人材リソースで支え本店が集計しては制度に変えていく事で進化を繰り返しています。


電話一本で、どんなサポートも受けられる組織ってある意味強すぎますよね(==)

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