灯火蛍(とうかほたる)

※第百三十九幕 死屍累々のその後



芽久は体の節々が痛む事で、少し早めに目が覚めた。


余りの疲れ具合で、どうやら倒れる様に寝てしまっていたらしい。


「シャワー、浴びよ」


寝ぼけ眼で、そう呟くと一人シャワールームに入っていく。

ゆっくりと、シャワーを浴びて。長い髪を、タオルで軽く叩く様に拭いて。


ようやく目が覚め、服も昨日のイベント用のミニスカサンタから普段着に着替えて戻ってくると違和感があった。


クリスマス後なので、全員が泥の様に眠っている。それはいい、それは毎年の事だ。


自分が居た場所に、布がかけてあって長靴の菓子やプレゼントが置いてある事で誰が布などをかけていったかなどは判っていた。


「私はもう、子供じゃないのに」


レムオン様はいつも、我ら幹部を自分の子供の様に扱う。


だが、その事も毎年の事でそれも違和感とはなる筈がない。

顔を一瞬だけ赤らめるも、直ぐに我にかえって周りを見渡した。


「何だろう、この随分いつもより床面積が少ない様な」


そういって、もう一度見渡して眼を見開く。


「起きてっ、みんな起きて!!」


全員が迷惑そうな顔をしながら、疲れた体をゆっくりと起こす。


「おい、芽久。どうした、そんな朝から大声上げて」


窯で寝ていた、炎の魔神が体の炎を揺らめかせ芽久を睨む。


「いいから、ちょっと周りを見てみなさいよ!」


あん?といいながら、炎の魔神が見渡してそれに気がつくと眼を見開いた。


「おっおい!みんな一大事だ起きろ!!」


その声で、ただ事ではないと飛び起きる吸血鬼やグリフォン達。


そう、蘇生してプレゼント代わりにリボンをくっつけて何の説明も無しに全員が床に寝ていたらそりゃ驚く。


自分達は、仲間の蘇生を目標に今までやってきたのだから。


「お金が盗まれたとか?それとも芽久さんのブラジャーがまたどっか行ったとか?」


炎の魔神がグリフォンにそう尋ねられても、首を素早く横に振った。


「金なんか盗まれる訳ねぇだろ、ここ何処だと思ってんだ。それに、芽久のブラジャーなんか誰も欲しがらないだろ。そんなこっちゃねぇんだ、周りをよく見てみろ」


そういって、何事なのかとグリフォンが体ごとぐるりと回って事態を理解すると満面の笑顔で叫んだ。


「なんじゃこりゃぁぁぁ、憂鬱の幹部全員いるやんか。どないなってんねや、誰か何かきいてないんか」


芽久はキョロキョロと見渡すと、テーブルの上に見覚えのない手紙が置かれている事に気がついた。


「何々、あぁぁぁ?」


奇声を上げては、声が裏返る。


(箱舟の労働者へ、ダメな神様より)


光を探す様に、仲間の蘇生を求めて来たお前達へ。

お前達の数年の労働に報い、ちょっとしたクリスマスプレゼントだ。

全員の願いである、憂鬱幹部残り六体の蘇生。

闇の王に希望を求める、愚かで可愛いもの達へ。


レムオンには、もう知らせてある。願いを叶えしもの達よ、ここから先の事はお前達のボスであるレムオンとお前達全員と相談するといい。


「これからも、お前達の友情と忠誠と。そして、愛が永遠である事を私は心より願っているよ」



位階神:エターナルニート


それを、読み上げた幹部が握り潰し破り捨てた。


「どこが、ちょっとしただよ!」


俺達が六年、どれだけの思いで働いていたと思ってやがる。


「蘇生されたお前らに、現状を説明するぞ」


それから、十二夜の長椅子に全員で座った。


「まず、俺達は欄干に負けた。負けて、レムオン様以外は全員死んだ。そして、レムオン様は最初助けを求めてアクシスの所に行ったんだ。東のダンジョンに何度も死にかけながら、そこで言われたんだ」


(俺達全員を五体満足で蘇生させたいと言って、そんな真似ができるのはエノ位だと)


「位階神なら全員出来るらしいが、アクシスが位階神で居場所を知ってるのはエノだけだった。そして、エノが出した条件は箱舟連合本店で労働者をする事だった」


ちょっと待てよ、箱舟連合本店って魔国の企業じゃねぇのかよと誰かが言えば説明していた吸血鬼が睨む。


「最後まで聞け、その箱舟の最高責任者はダストだがそれに全面的に力を貸している存在こそこの世の理不尽。位階神様だったんだよ」


そこで、蘇生された六体が全員唸る。


「レムオン様は最初に芽久を、リーダーを蘇らせて。そこからは俺達グリフォンや吸血鬼等順番に蘇らせてもらった、ボーナスで貰った権利を使ってな」


蘇った俺達も、そのボーナスを貯める協力をする為にここでピザ屋の十二夜をやっているという訳だ。


炎の魔神にはすまねぇが、窯に座って貰ってピザの火力をやって貰った。


そこで、炎の魔神が手を振った。


「そして、今年その位階神様の気まぐれでボーナス以外にプレゼントでお前ら全員蘇らせてもらって。御嬢はそんな事できるんなら、ボーナスとかで毟り取るなとか思ってんだろ。まぁ、気持ちはわかるが俺達は依頼する側だ。しかも、神様にしちゃとてつもなく気前がいい。俺達の気分は、宜しくないが」


「んで、これからどうするって話だが…」


真剣な眼をして、吸血鬼は全員を見た。


「俺はこれからだろうが、今までだろうが死ぬまでも。死んだ後も、レムオン様についてく」


真剣な眼差しで、全員に言ったが誰もが同じ意見だと真剣に頷いた。


「なぁ、リーダー。俺達は、憂鬱の幹部の前にレムオン様の部下だからな。アンタが辞めるんなら、俺が幹部のリーダー貰ってもいいんだぜ?」


吸血鬼の頭をすぱこーんと景気よく、芽久が叩いた。


「何、バカ言ってんのよ。私もレムオン様に、ついてくに決まってるでしょうが。アンタこそ辞めるなら辞表位書きなさいよ」


それを見て、全員がどっと笑って。

(あぁ、いつもの光景だ。やっと、俺達の毎日が戻ってきたんだ)


「レムオン様が、後で全員そろったお祝いするってよ。参加のするしないだけ、連絡しろってさ」


そういって、レムオンからの連絡を受け取った全員がメッセージを見せる。


「ここでやるなら、全員参加よ。異議は受け付けない、ぱーっとやるわよ」

と芽久が叫べば、全員が力強く頷く。


「リーダー、参加しないバカはいませんよ」

と誰かが言えばみんなで笑い出した。


「そうね、私達の悲願だものね」


そういって、いそいそと準備を始めた。


「臨時休業の張り紙してくらぁ!」


そういって、皆準備に駆け出していく。


そうして、レムオンが来るまでバタバタと全員が走り回り。

レムオンが、感動で半べそになるまでがワンセット。


「みんな、今日までありがとう」


そうレムオンは短く言ったが、逆に全員に肩を一回づつ叩かれて。


「何言ってんすか、俺達は何処までもレムオン様についてきますって」


最期に肩を叩いた吸血鬼が、爽やかにレムオンに向かって笑った。

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