銃VS屑(十一幕別ルート)

こんなのが、こんなのが神だと。


「ふざけるなよっ!!」


ラストワードは素早く、左足を踏み出す。


直ぐにそれは右拳をうち出す原動力に変わるが、それを苦も無く挟み込む女性の手が見えた。


よく見れば全く同じ姿の、エノが三柱(さんにん)。

遍在で作り出した二人のエノがそれぞれ右拳と左拳を出し挟み込む様に止めたのだ、それも関節を狙って肘鉄を加える形で上下で挟み込むように止めた。


本体は、ピーカーブーのまま落ちてきていた。そのまま本体の肘がラストワードの頭上を捕える。


ラストワードは素早く、自身の権能。

ラストワード・ブリンガーを発動する。


その発動で、存在値が少し減るがそのまま自身の体を肘がすり抜けていく。



ラストワードは、更に言葉をこめた。


直ぐにそれは形となって表れ、黄金のラインが入った砂色の拳銃。

ラストワードはその銃を素早く、二丁拳銃に分けると両手に握りしめる。



エノはウィービングをしながら、それでいて歩法はまるで別物。

遍在の二人は幻影を伴って、不規則に揺れた。


幽鬼のごときにブレながら、ラストワードの照準を合わせさせない。



ならばと、ラストワードは新たに言葉を込める。


月面宙返りトリガー(ムーンサルトトリガー)、ラストワードの弾丸は撃ったら撃った分だけエノに着弾した。


それこそ、無限の軌道に空間跳躍。

およそ、弾丸の動きではないそれが数多エノを襲った。


ラストワードの権能で通用しそうなのは、これだけだった。


言葉を込めて、それが本質となる。(ラストワード・フィンファイヤー)

込められる言葉は全部で八、すでに二つ魂こめ(たま)をしてしまった。


残りは六…、ダメージは入ってないか。



本当、マジかよ。


エノは、ふんと鼻を鳴らしたかと思うと。



「星に願いを、星の数だけ欲望あり星の数だけ願いあり。幾星霜の天秤が傾くそれは、ただのいたずらな風。己に吹かれ己に飛ばされ己によって更なる己が生まれる。如何なる狡知に長けようと、それらは全てが狂える顎(あぎと)。巻き起こる、その全てが神殺し。悪意と怨嗟、黒き雫は今を彩る」




(メモリアルソルジャー:黒陽獄獣望顎(こくようごくじゅうはのぞむあぎと))




私にとって、全ては些事である。

故に、望むままに全てを成そう。


遍在で、ラストワードの弾丸と同じだけの漆黒の水泡を一瞬で創り出し。弾丸を包み握り潰したかと思えばその弾丸を圧縮して口にほおりこんだ。


まるでチョコレートでも食べてるかの様にがりがりと音を立て、そして一言。


「マズ…」


というと、ラストワードの足が右から崩れ落ちた。

あいつ、弾丸に込められた俺の力ごと食ってやがる。

あの黒い水泡全部が神殺しの顎だってのか、あのクソアマ。


一瞬で空気中にソーダ水の炭酸の様に無数の漆黒の水が明滅する様に、消えたり出たりしている。


ラストワードは拳銃ではなく、巨大なバカでかい巨大な戦艦に変形させ。


単体殲滅用決戦兵装:ラストワード・ブラッド・ゴースト


戦艦の甲板部分には恐るべき兵器がまるで富士山盛りにみえるがごとき兵装、その側面も後方も余すことなく銃口が飛び出ていた。


相変わらず砂色に、黄金のラインが走っているそれは質量を無視して顕現した。


神の魂である、存在値を言葉と共にこめていく。




エタナは背中の翼を広げた、蠢く程の黒い手手手…。それは翼の形をしただけの、漆黒の手の集まり。


翼一枚が、エタナの大きさの約三倍はあろうかという巨大な手の集合体。


六対十二枚の漆黒の蠢く手が重なる翼の血管が走る度、漆黒の羽を模した手に数多の権能が集まる。


エターナルニート・エノがかつて地獄の日に食らった神達の権能が、漆黒の手の指の爪一つ一つに脈動しているではないか。


巨大な戦艦の主砲がみるみるエネルギーを蓄え、その轟雷は放たれる時を待った。



食えない、大質量の力をぶつけてやる。


「咲き誇れ、一筋の轟雷。紫電のそれは手向けの花束、神を滅ぼし、神を喰らい。その光はあらゆる存在を否定する。花束は空へ、花束は心。数多の魂という花を束ねて無間の刹那一束ねのブーケはアナタへ届けと投げられた」


戦艦から同時に火を噴いた、光はただ一つの塊に集いそのままエタナに直進する。


ラストワードは一気に、四つの言葉を告げ。


「神滅」「存在値食い」「取得不可」「残値一充(ざんちいってつ)」


残り二、これで決められなければ厳しいな。

そう思いながら、確信をもって撃鉄を引く。


既にムーンサルトトリガーが入ってるので外れる心配はない、だがあのエノとかいう奴はなんかやる気だ。


よけようとも、防ごうともしてねぇ。


うち出された巨大なエネルギーは虚数を創り、存在値を喰らい、神を滅ぼす為の一撃。己の存在値の八割をその一撃にこめた、文字通り渾身の一撃。


右側の翼を模る、ただ一本の腕が何かを握りしめる動作をした。


そして小さく呟く「圧壊(あっかい)」と。


それだけで、神を滅ぼすはずの巨大なエネルギーはまるでそこになかったかの様にみるみる小さく固められ潰れていく。


彼女と砲身からの距離の真ん中に至る頃には、そのエネルギーはビー玉の様なサイズになっていた。


木星と同じサイズの巨大なエネルギーが、見るも無残に握り潰されていき彼女に届くころには部屋のホコリのごときサイズと威力に変えられた。


ラストワードは流石に声が出なかった、確かに自分の権能は発動し神を滅ぼす為に存在値を喰らい取り込めず必中の一撃を放ったのだ。


だが彼女は本体ではなく、遍在の翼の一部の権能だけでいともたやすく潰した。

純粋な権能だけで作ったものを。


神滅等の自身に不利な属性を一瞬で書き換え、それを純粋な力に変換してからその何億倍という力でいともたやすく。



ワンアクション、一言という短さでそれを実現する。



同じ神滅で取り込めないならば、膨大なそれ以上の力で潰してしまえばいい。


乾坤一擲ほぼ使えうる力全部を残値一充で全て込めた、存在値を喰らうはずのそれすら喰らって消化しきれない程の膨大な力で口の中に存在値をいれ続けて体ごと弾けさせた。


神にとって存在値は権能、精神力。

それすら、なんて事ない様に食わせ続けてパンクさせる様なやり方でそれを防ぐなんて。


「ははっ、マジでありえねぇわお前」


要するにこういう事である、ラストワードの権能の全身全霊の一撃は彼女にとってあの蠢くような翼を模る手一本よりも弱い。


俺の魂をありったけ込めても、翼一枚分どころか羽一枚分の権能で潰されんのかよ。

そこからは、もうただラストワードが殴られるだけであった。


無表情のエノが、無言でガードの後ろから睨む。

ガードが上がりっぱなしになってるのに、何て手数と威力だ。

風に巻き上げられた砂粒を通常の方法で数えられないように、エノの拳打の速さはまさに風の中で火花が散っているようにしか見えないのだ。


戦争の神の眼をもってしても、加減をくわえて殴っているだけで。

そして、拳が当たる度に存在ごとその威力で削っていく。


彼が仮に全ての言葉を一つに束ねても、彼女の羽一枚分にも至らないと気づいてしまった。


ラストワードから見ても、まるで火打石からでる火花の様にしか認識できない。

痛みが来るより、殴られている速度の方が遥かに早い。


戻す位置がピーカーブーなのに、その両手はまるで息の合った夫婦の様に別々に機能しているのだ。


よく見れば、爪でこちらの弾丸を弾き飛ばしているのが判る。


一人から殴られているのに、イナゴの大群に突っ込んだような手数を仕掛けられている。しかも、その一撃ごとに存在値が食いちぎられて存在ごと力任せに引きちぎられていく。


ただ、彼は知りたかった。

ただ、彼は見て見たかった。



位階神、その高みを。

強さとは信念にのみ宿る、その真髄を見せられた気がした。



その真髄がどれだけ身勝手なものだったとしても、その心が強靭であればある程に強さを増す。


彼女の在り方はまるで、銀河そのもの。


星の形は数多にあれど、銀河という形を遠くから見ればそれは美しいだけなのだから。


どれだけ凶悪に物質を喰らい続ける、ブラックホールがあったとしても。

隕石の様なゴミ屑が混じっていたとしても、それは遠くからみれば輝けるだけの星々。


ただ、そこで膨脹するのだ。長い時をかけて、気がふれるような時間をかけて。

その時間の概念さえも、実は星の自転によって星の時間が決まっているだけなのだ。


常識が違う、観点がすでに違うのだ。

彼女も、別に彼をいたぶったり殺す趣味などなかった。


ただ、眠る事を邪魔したハエを叩き落とすだけの意識しかなかった。

彼女はただ、挑むものを叩き伏せるだけなのだから。


彼女は殺そうと思えば、殴る必要すらないのだ。


殺さず、消滅させず。

身の程知らずが、逃げるなら逃がしてやると。

だから、ラストワードは命が助かった。

ラストワードは、残りの言葉を使い。


そこから逃げ出した、彼にとっては命がけであった。


ただ、背後から言われただけだった。


「全ての努力は自己満足、どこまでいっても何をしても。見なければ信じないなら、見てみれば良い。どれ程己が小さいか理解できる、理解できる事が全ての始まり」



彼女にとっては部屋に入ってきたハエが、灯りに誘われて廊下にでるような。

たったそれだけの事だった、だから彼女は直ぐに彼の事をすぐに忘れた。


また、段ボール箱に戻って指を銜え(くわえ)眠ってしまう。


「知ることがただの始まりなら、無知は罪だってか。マニュアルは入り、経験で磨かれ最後にそれは宝石となる。故にこうも言える、宝石となった者は皆年寄で、年に寄らない生き物こそ真の老害であると」


まぁ、俺は逃げられたんだ。

命があるなら次がある、命があるなら失敗は失敗じゃねぇ。


権能の魂は後一つ、ゼロまで使っちまったら命がなくなっちまうからな。


ちっ、魂が一つしかねぇってのは体の芯から冷えやがる…

その両手は、ボロボロに焼けただれ。


足は膝が笑い、それでも彼は満足そうに大の字で横になる。


頭を動かしただけで、痛みが走るのに表情は彼が今まで生きたなかで一番晴れやかであった。


本当に、俺は短絡的で大したことのねぇ神だなぁ…。

知る事が始まり、長く生きてるだけでは辿りつかない高みか。



俺は、知った。


だから、始めよう。


神としてではなく、ラストワードとして始めよう。

俺は人じゃねぇんだ、時間は腐るほどある。


腐って潰れていく、神のなんと多い事か。

甘えに消えていく、人のなんと多い事か。


少なくとも、俺は上を見て折れなければ目指し続ける事ができるんだ。


ちっ、両手が魂一つじゃもどりゃしねぇ。

存在値なんてのは、時間をかけりゃ戻るんだ。


クソ、しっかしあんなのが後十一柱もいると思うとぞっとしねぇわ。

止まらない…、神は何も感じないはずなのになぁ。

震えがとまらねぇ、マジかよ。


もう一度、自身のボロボロの両手をみた。


そして、大の字になったままその両手をかざしてみる。

肘を上げるのもおっくうで、その手から自身を構成している力が光の砂になって零れ落ちた。


明日におびえる事は罪じゃねぇ、知らねぇことが罪なんだ。

明日を夢見る事は罪じゃねぇ、明日を知らねぇから哀れなんだ。


我慢していい事なんか一つもねぇよ、我慢してる間に我慢させてる奴が笑うだけだ。


「愚かで、助かるよ」ってな具合でな。


俺はラストワード、神様としちゃ半端もん。

俺はラストワード、旅が好きで色んなものが知りたいだけの変わりもん。


何かを救いたいならよそでやれ、何かを支配したいならよそでやれ。

俺は知りたいだけさ、知った事で楽しんで飽きるのを恐れる。

長生きはつれぇよな、短命な連中が閃光の様に生き火花の様に生きる事に憧れるわ。


でも、いざ消えそうになってみると。

悪くねぇ、看取る者もいず空にかえっていくのも悪くねぇよ。


死にはしないって判ってるけど、それでもこんなに使ったのは初めてだな。

それでも届かないか、普通一つ二つで十分なんだけどな。


そして、ラストワードは存在値が戻った後ははろわに行く。


もっと、先を知る為に。

あいつはあれで終わりじゃねぇ、絶対まだ隠してる。

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