第5話 洗礼

 朝、起床ラッパが鳴った。初めての起床ラッパ。そして、外から聞こえてくる初めての銃声。


 「おい!おい!さっさと起きろ!おい!」


 ゆうたくんがベッドの上の僕をゆすって起こしてくれた。


 よくわかんないけど、頑張ってベッドから飛び降りてみんなの後ろについていく。帽子を取って、被って、校庭に走って向かう。


 みんな、僕たちが来る前からきれいに並んでてすごいなと思った。


 「なかむら候補生、以下4名!只今到着致しましたー---!!!!!」


 なかむらくんがそれまで聞いたこともないような声でびしって感じで叫んだ。すごいなって、僕にはそんなことできないなって思った。


 目の前を見る。


 迷彩の服を着たおじさん。サングラスをかけ、帽子をかぶってる。なんか、怖い感じで、僕たちを睨んでる感じがした。


 おじさんはゆっくりと腕時計を見た。かたつむりみたいって思って、ちょっとおもしろかった。


 「只今の時刻……0609、総員!腕立てようー-----いっ!!!!」


 その瞬間、僕の周りの全員が一斉に伏せた。違う、足は地面につけ、手の平で自分の体を持ち上げている。


 え?みんな何してるんだろうって思った。


 「バカ!!さっさとしろ!!!」


 右下からなかむらくんが叫んでくる。さっさとする?なにを……?


 「なかむら候補生、そいつは昨日入った新隊員だろ?どうやら状況を理解できてねぇみたいだが、それは一重にお前の責任だろうが、昨日のうちにお前はここでの暮らし方をちゃんと室長として説明して理解させねぇといけなかったんじゃねぇのか!?」


 おじさんが、腕立ての姿勢のまま顔だけこっちに向けて怒鳴りつけている。


 「……は…い!!!自分の責任でした!!!!ひとえに自分のミスであります!!」


 「よー-----し!!!!お前ら!!!仲間がミスした時はどうするか教えたよなぁ!?」


 「「「助けます!!」」」


 みんなが一斉に叫んだ。みんな、僕より頭が低い位置にある。なんだか、少しだけ偉くなったみたいだなって思ったけど、その後、すぐに自分がなにかまずいことをしでかしてるんじゃないかって思った。いじわるされてるのかなって。


 「よ~~~~~~~し!!!!そうと決まれば!この新隊員のぶんも、お前らできっちりやるぞ!!0605から遅れは4分、つまり40回、そしてその新隊員のぶんで2倍!つまり、今日は80回だ!!!!!!」


 80回?


 周りの子たちを見る。みんな、下から僕の顔を見ている。なんだか、すごい怒っている感じがする。


 僕も、おんなじことしなきゃ。ぼくだけ、みんなと違うことをしてるわけにはいかない。そう思ったから、同じように腕立ての姿勢をとった。


 「待て待て!大丈夫!君は昨日入って来たばっかりの新隊員だ!ルールも分かってないんだからこれはやらなくて大丈夫!君が今日やるべきなのはみんなと同じことをするんじゃなくて、見て学ぶことだ!しっかり立って皆を見てなさい!」


 え…?


 「もう一度言うね!これ、やらないで!君は立ってみてて!」


 なんだか、よくわからなかったし、したくなかったけど、おじさんは変な笑顔を腕立ての姿勢でこっちにむけたまま固まってたから、僕は立った。


 本当にまずい。なんだか僕は本当にまずいことをした。何をしたのかは分からないけど、本当に何かとんでもないことをしでかした。胸のあたりが痛くて、すぐにでもここから走って逃げたかった。お腹の中を何かが動いてるような感覚がする。

 

 「行くぞ!!!!い~~~~~~~~~ち!!!!」


 おじさんがすごくゆっくりと数字を数えながら、体を下げて、そして上げる。周りのみんなも同じようにする。すごい苦しそうな表情だった。


 本当にその場から走って逃げたかった。でも、僕の周りが皆、腕立てをして、そして苦しそうな声で数字を数えている。すごくいっぱいの視線を感じる。


 その場から逃げることなんてできなかった。


 ~


 「79.6ぅ~~~~~~~~~~~~~!!!!!」


 79から先に進まない。


 なんか、皆大丈夫かどうか気になったけど、周りを見れなかった。なんでかはよくわかんないけど、頭を動かすことができなかった。前だけ見てずっとそのままだった。


 「8~~~~~~0~~~~~~~~~~!!!」


 80。終わった?何かが……?


 みんながバラバラって感じで立ち上がって、でも、皆じゃなくて、何人かはそのまま地面に突っ伏したまま動かない。


 「佐竹2尉!」


 おじさんがそうやっていうと、後ろから他の同じようなおじさんが走って来て、その突っ伏してる子たちをなんかガラガラに載せて連れて行った。


 「こやま!!今日の状況報告!!」


 「総員29名!たなべ候補生!疲労!やまなみ候補生!疲労!その他27名!異常なし!」


 「よぉし!お前ら!今日は、それぞれの座学の後、1400から第1室内射撃場にて実弾射撃訓練を執り行う!支給した耳栓、弾帯、弾のうを忘れるな!特に耳栓を忘れるな!もし忘れたら必ず申し出ろ!いいな!?」


 「「「は``い``!!」」」


 皆、フラフラになりながら……その目線が僕にあるみたいに思った。


 

 


 


 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る