第47話 生者に願いを1
「事件の振り返ると、冒険者を目指すために箱根に来た中沢くんたちは南箱根通行所を通り……」
――緊張しているのか?
彰が俺の顔を見て訊いてきた。
――冒険を楽しもうよ。
千陽が笑顔で背中を叩いてくる。
――崩れ落ちろ。
千陽の声で鬼が倒れる。彰が能力で鬼の首切り、俺も剣で鬼の心臓を突き刺した。
――やったね。
――能力石を回収しよう。
――うわ、これは慣れないよ。
――俺が取ってやるよ。
血をふき取って千陽に渡すと、彼女は嬉しそうに能力石を掲げた。
――なんか、宝石みたい。
景色は変わり、廃旅館が見えてきた。
――古いな。
――なんだか、時代を感じるね。
ダメだ。入るな。俺はそう心の中で叫んだが、俺たちは中に入っていく。
――俺はここで警戒してる。何かあったら呼べ。
彰がホールの椅子に腰かけた。
――わかった。お前も何かあったら大声を出せよ。
彰は論文を広げて頷いた。
「大丈夫?」
天宮が心配そうに訊いてくる。
「また記憶が戻った。続けてくれ」
記憶が戻りかけているようだ。
「廃旅館に着いた。そこで中沢くんたちは殺人鬼に襲われて、柏野さんと黒田くんが殺された」
天宮は俺を心配そうに見ていたが、
「遺体から柏野さんと黒田くんは首を生きたまま切断された。中沢くん、廃旅館で落ちていたセーラー服の様子は覚えている? 服の襟にかけて雨模様の赤い斑点が付いていた。これは首を切られた際に上がった血しぶきが付いたものよ。それと同じ模様のワイシャツをわたしたちは見たことがある」
「それって」
渡辺が震えた。
「えぇ、箱根の商店街で中沢くんが倒した鬼が来ていたワイシャツよ。そのワイシャツも襟にかけて赤い斑点が付いていた。同じく首を切られたのよ」
「他の人間か鬼が首を切られたときに付いたものかもしれないんじゃないか?」
「あの鬼にはある特徴があった。あの鬼は中沢くんを見て、一直線に中沢くんを狙って来たように見えた。変だと思わない?」
俺は思い返してみる。確かに鬼は他の人ではなく俺に向かって来た。
「廃旅館で中沢くんが倒したのは小鬼二体にセーラー服を着た鬼よ。鬼も繁殖する。そしてセーラー服を着た鬼は小鬼たちの親だと考えられる。そして、夫婦ならもう一人親がいるはず。つがいの親や子供たちを殺されたのを見て、その親は中沢くんを恨んだだとしてもおかしくない」
「家族を殺した復讐か?」
天宮は頷いた。
「鬼は嗅覚が発達している。現場に残った俺の匂いを記憶して、人間を殺せと操られながらも中沢くんを殺そうとしたんだとしたらどう?」
俺はあの鬼に恨まれていたのか。
「そう考えると、あの鬼が来ていたワイシャツは廃旅館に落ちていた黒田くんのものだと考えられる。ただ、ワイシャツについていた焦げ跡に疑問が残るのよ」
天宮は自らのワイシャツの袖を掴んで見せて、
「鬼の皮膚には火傷はなかった。つまり、その前の持ち主が火傷を負った」
「その前の持ち主ってことは彰か?」
天宮は頷いた。
「その前の持ち主は黒田くんしかいない。なぜなら廃旅館で殺された家族の復習のために中沢くんを狙ったから」
問題は火傷だ。どうして彰のワイシャツに火傷が付いたのか?
「どうして火傷を負ったのか、それが問題なの。ワイシャツの火傷の跡はひどかった。あれは普段着は出来ないほど。つまり初めての箱根の冒険で付いたのよ。あの冒険で化学エネルギー操作を持っているのは柏野さんだった」
俺は焦燥感を抱いていた。それはありえない。そんなの。
「火傷は柏野さんが付けた。黒田くんは柏野さんと争っていたのよ。つまり、柏野さんと中沢くんを襲った殺人鬼は黒田くんだった」
「待ってくれ、彰は死んだはずだ」
「そう矛盾しているわ。でも知事たちが研究していたのは遺伝子研究だった。そして彼らは大切な人を失くしている。渚は両親を県知事は息子を」
彰も両親を失くしていた。
「研究しているのが人の生死にかかわるものだとしたら。もっと言うと人体を一から作り出す研究だとしたら?」
俺は言葉が出なかった。
「廃旅館でも同じことをしたのよ。研究の首謀者だった黒田くんは自らの遺体を作り出した」
「警察が死亡解剖した遺体は黒田くんが作ったものってこと?」
「うん、その時は不完全だった。だから遺体の頭部だけが見つからなかった。最も人体で複雑な頭部だけは作り出せなかった」
記憶の中に黒いレインコートを着た奴がいた。
――千陽、離れてろ。
俺は奴に剣を振るったが、その手が動かなくなった。不意に手が爆発したように離れた。千陽の悲鳴が聞こえて俺は倒れた。
――修一、逃げて!
千陽が杖を掲げて、俺の前に立った。火炎が奴に向かったが水で防がれる。
――崩れ落ちろ。
千陽が叫んだが、レインコートの人物は膝をつくだけですぐに立ち上がる。千陽が再度命令したが、今度は足を止めただけだった。
じりじりとレインコートが迫り、二人の距離が縮まる。千陽が動かなくなった。彼女の首が裂ける。
――やめろ! やめてくれ!
俺の悲痛な叫び声が反響した。首がぽとりと落ちた。
レインコートを着た奴の目は赤く光っていた。
「……全て思い出した」
俺が言うと、三人は言葉を無くしたように俺を見ていた。俺は自分が涙を流していることに気が付いた。
足音が聞こえてレインコートを着た人物がこちらに向かって来た。みんなが身構える。
「お前のなのか、彰」
レインコートを着た奴はフードを下した。そこには矯正な顔に冷めた目をした彰の顔があった。
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