第44話 決断

 俺は手早く出発の準備をした。あいつらが帰ってくる前に出発しないといけない。必要なものを買うお金を持ち、さっと着替えると俺は部屋を出た。

 天宮は怒るだろうか? でもこうすれば彼女や神谷たちは助けることができるはずだ。

 熱海駅前の武器屋に寄り、俺は木刀を買った。強化されている木で刃先は尖っていため、殺傷能力もある。木は犯人が操作できないはずだ。お金を払おうとすると、なぜか腕を掴まれた。

「やっぱりここに来た」

 見れば天宮だった。

「なんでここが!?」

「犯人を倒すなら木でしょう?」

「ええと、お客さん」

 店員の声に慌ててお金を払った。

「離せよ」

 お店を出たところで天宮に言う。

「私も一緒に行っていい?」

「それじゃあ、意味がないんだ。俺にとって大切な人は天宮だから」

 俺ははっきり言った。天宮は目を丸めて顔を赤くした。

「私にとっても中沢くんは大切よ」

 小さい声で言われた。嬉しさと悲しい気持ちが襲って来た。これは無理だな。もう断れない。断ったら彼女を傷つけてしまう。

「一緒に行くか?」

「うん」

 手を持ったまま天宮は頷いた。

「逃げないから手を放してくれないか?」

「約束よ」

 天宮がまっすぐに俺の目を見てきた。顔が近いうっすらと涙が見える。俺は目を離さずに小さく頷いた。天宮は手を離して、

「やるからには勝とう!」

「だな、そのために木刀を買ったんだ。倒すぞ!」

 俺ははっきりと言った。


 近くのコンビニでパンを買って朝食にした。食べ終わったころには日が上っていた。

「犯人は少なくとも黒田くんの生命操作、柏野さんの化学エネルギー操作と心的操作、それから渚の重力操作とセラミック操作、知事の金属操作を持ってるわ」

 天宮が手帳にまとめながら言った。

「金属操作は木刀、重力操作は俺の質量操作で対応する。セラミックと化学エネルギー操作は任せてもいいか?」

「うん、任せて」

 天宮が頷いて見せて、

「残りはどうする?」

「心的操作は気合だ」

 天宮が呆れたような顔をした。

「それしかないというより、それが一番効果的だ」

 心的操作は相手を拒絶すればするほど、効き目が悪くなる。ただ渡辺がやられてしまったことを考えると、難しいかもしれない。

「生命操作は?」

「それは考えがある」

 俺が天宮に伝えると、彼女は目を輝かせていた。

「すごいよ。さすがリーダーね」

 天宮にそう言われるのは嬉しかった。。

「ねぇ、箱根でわたしの家に寄っていい? 薬を取っておこうと思って」

「薬?」

「能力無効化剤」

 目には目だ。

「いい考えだな」

 俺が言うと天宮はにやりと笑った。

「それと犯人が誰なのか突き止めた方がいいと思う」

 それが問題だな。

「なぁ、修学旅行って普通グループを作るよな」

「そうだと思う」

 天宮は思案気に言った。

「もしかしたらもう一人いたんじゃないかと思うんだ」

 俺はガラスに反射する自分を見て、

「三人目の仲間がいたんだとしたらどうだ?」

「その人の記憶は一切ないの?」

「あぁ、まったく。でも箱根の通行所の記録を見ればわかるはずだ」

 四人で行ったなら、そこに名前が記載されているはずだ。いずれにしてもわかる。


 天宮が着替えるため、俺は一旦寮にテレポートした。

「シャワー浴びてくるね」

 天宮はそう呟きさっと寮に入っていった。

「おい」

 まあいいか。最後になるかもしれない。天宮の好きなことをさせてあげるべきだろう。

「二人で行く気か?」

 声に顔を上げると、そこには神谷と渡辺がいた。

「あぁ、そのつもりだ」

 神谷はため息をついた。

「だったら、俺も連れてけ」

「お前、なんでそこまで」

「一応、悪友だしな。一人でも多い方が強いだろ」

 馬鹿だなと思う。でも正直心強かった。

「あたしも手伝うよ。もう腐れ縁だしね」

 にぃと渡辺が笑顔を見せる。

「ありがとう」

「馬鹿、お前のためじゃねぇよ。この街の人たちを守るためだ」

「そうそう。あたしもこの経験を投稿したいし」

「勝とう」

「だな」

「うん」

 俺たちは手を合わせる。


「天宮、遅いよ」

 制服姿の天宮が見えると渡辺が呆れたように言う。

「あなたたちも行くの?」

 天宮は絶句していた。

「こいつら本気らしい」

「よろしくな」

「よろしく」

 天宮は嫌そうな顔で二人を見ていたが、

「腐れ縁ね」

 その言葉に俺と神谷は噴き出した。渡辺はバツの悪そうな顔をしていた。


 出発前にこれまでのことを神谷と渡辺に連携した。

「俺が金属を消して金属操作を無効する」

 神谷が言ってくれた。

「未来の雷はどうなの?」

「それが効かなかったのよ」

「電気操作をもっているってことか?」

 俺が訊くと、渡辺は悩んでいた。

「その可能性もあるね」

 七つも能力を持っているとなると、きついな。

「あたしが無効化させるから」

「頼む」

「そういや、犯人が三人目って言っていたよな、それって修学旅行でも一緒にいたってことか?」

「あぁ、見覚えないか?」

「違うクラスでグループも違うからな」

 神谷は思案気に腕を組んだ。

「どういう取り決めでグループを作ったの?」

 天宮が訊いた。

「男子が二人から三人、女子も二人から三人でグループを作ってそれを合わせる感じだったな」

「それなら一人は?」

「俺のクラスはいなかった」

「まあ、普通はいないよね」

 渡辺が天宮をいぶかしげに見ていた。

「まさか、天宮」

「私だってちゃんとグループにいたわよ」

 不満気に天宮が答える。

「でも実際は違うこともできたんだ。旅行先で男女に別れたりとか、女子だけのグループだけで回ったりとかしていた奴らもいたぜ」

「あー、それあたしたちもあったよ。仲のいい隣のクラスの友だちとかと回るやつだよね」

 その話に俺は困惑した。

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