第40話 騒乱のパレード

 気が付くと、手を捕まれていた。天宮だった。

「元気そうでよかった」

 天宮が珍しくはにかんで言った。

「負けるわけにはいかないからな」

「この刀使えよ。対人用だ。切れないようになってる」

 神谷がぶっきらぼうに刀を渡してきた。それは先がつぶれている刀だった。

「ありがとう」

 俺は思わず生返事を返す。

「向こうで配信を開始するよ。今日はよろしくね、中沢くん!」

 テレビをチラチラ見ていた渡辺が笑顔を見せる。

「あぁ、よろしく頼む!」

「先頭は任せたぜ!」

 神谷は口の端を少し上げて見せた。

「あぁ、みんな、協力してくれてありがとう!」

「それは解決してから言ってよ」

 天宮は杖を出した。

「そうね」

 渡辺がレーザーポインターを出し、こちらを見てきた。

「中沢、一言頼む」

 神谷が銃を出し、イタズラっぽくニヤッと笑った。

「真実を明らかにしよう!」

 俺は手を出した。

「仲間のために!」

 天宮が手を乗せる。

「ライバルのために!」

 神谷が手を乗せる。

「正しい情報を伝えるために!」

 渡辺が手を乗せる。


 みんなで結束を固めていると、不意に一人の刑事が室内に入ってきた。焦ったような表情をしている。テレビを見ても、公園にはパレード用の車――フレート車はまだ来てなかった。

「もう公園を通り過ぎている」

 どういうことだ? 俺たちは顔を見合わせた。すぐに俺は手を出し、みんなが掴んだところで意識を公園の駐車場に集中した。

 公園の木々が見えてきた。それと共に人波が見える。俺たちに続いて、渡辺たちも来たようだ。

 近くには赤川刑事たちがいた。それも警官が大勢いる。彼らは見て見ぬふりをしていた。

 道路の方を見た。人垣は見えるが、フレート車は見えなかった。

「フロート車、結構前じゃない?」

 天宮が杖で水を貯めながら声を上げる。

「時差配信していたんだ!」

 神谷が悔しそうに言った。

「来たか」

 浅井さんたち赤魔法団の人たちが待機していた。

「配信を開始します。わたしは今、中沢さんの後ろにいます!」

「行こう!」

 俺は力強く言った。

「やってやろうぜ!」

 神谷の声に続くように天宮が貯めていた大量の水が前方の人波をかき分ける。集まっていた人はたまらず道を開ける。

「彼らについていきましょう!」

 渡辺が実況を続ける。

「通してくれ!」

 俺は水でできた道を通った。

「中沢容疑者がいたぞ!」

 後ろでわざとらしい声が上がり足音が聞こえた。

「止まりなさい!」

 警官隊の数人がこちらに来た。

「怪我したくなかったら、手を上げろ!」

 神谷が銃を撃った。警官がたまらず倒れていく。俺の役目はできるだけ、前に出ること、俺は天宮と相談した作戦通り、天宮の手を取った。軽さを意識する。

「天宮、飛ぶぞ!」

「わかった!」

 俺は思い切り飛んだ。二メートル近い高さを飛ぶ、前をふさいでいた警官隊の上を通る。市長の乗っている車はかなり先だった。

「この野郎!」

 警官隊の一人が警棒のような長いものを振り上げてきた。俺はそれを片手で持った刀ではじく。

 両脇から火と水が飛んできた。それを天宮の氷が防いでくれた。

 俺はさらに前に飛び、対応してきた警官隊を質量の込めた刀で殴った。

「式典は荒れ模様です!」

 後ろで楽しそうに実況しながら渡辺がレーザーポインターを向けると雷撃が走り、当たった警官は倒れていく。

 俺たちの近くにいた神谷が素早く銃で警官隊を倒してくれた。

「前!」

 天宮の言葉に見れば前に張られていた氷水が拡散した。見れば素早く警察官がこちらに狙いを済ませて警棒を向けてきた。それはあのとき追って来た刑事だった。

 俺は間一髪のところで、それを刀で受ける。速さでわかった。速度強化だ。

 警察官は舌打ちをすると、すぐさま、別の角度から攻撃を仕掛けてきた。でも受けられない早さではなかった。警棒を受けると同時に銃声が聞こえ、刑事は呻いて離れた。神谷の銃だ。

 俺はその隙を見逃さず刀を振るい警棒を遠くに飛ばした。

「くそ、銃規制法違反だ!」

 警察官が吐き捨てた。すると、

「武器を捨てなさい!」

 目の前にいた職員らしき人たちが杖を取り出した。それに派手な見た目をした連中が群衆から出てきた。天宮が目の前に氷の壁を作る。炎が見え、同時に氷がひび割れ、前が見えなくなる。

「未来!」

 神谷が大声を出して銃を放って間を作る。そして渡辺が飛びながら、レザーポインターを向けるとレーザが複数に分かれて、前方に照射した。職員たちがいる前方に光の道筋がいくつもできる。

 渡辺が杖を振るう。雷が拡散上に広がった。同時に雷鳴が聞こえて、前方の職員たちが倒れていく。

「市長が市役所に逃げていくのが見えます!」

 渡辺が実況する。見れば市役所前まで道が出来ていた。市長が慌てた足取りで市役所に入っていくのが見えた。この二人すげぇ。

「乗り込むぞ!」

 神谷が声をかけてきた。天宮の手が氷り触れて消した。


 俺たちはそのまま、市役所に入った。自動扉を通り、中に入る。そこには警官隊と見覚えのある女性がいた。秘書の山瀬だった。隣にはあの大男がいた。その奥で市長が一人、エレベーターに乗るのが分かった。

「来たな」

 吹き抜けになっている二階を見たが、二階の吹き抜けを覆うように蜘蛛の巣のような糸が張られていた。階段は防火シャッターが下ろされている。

「熱海警察もお揃いね」

 山瀬は頭を抑えて、杖を振るった。天宮が氷でガードしようとしてくれたが間に合わなかった。

 渡辺がレーザーポインターを秘書の山瀬に向けたが、糸の束で防がれていた。

 俺は空間移動で外そうとしたが、空間移動自体が出来なかった。俺自身が糸で繋がれていて移動できないせいか。

 大男が迫っていた。その背後には東伊豆警察もいる。フッと目の前に人影が現れ、引く力がなくなった。

 俺が大男に切り込んでいた。鈍い音が立て続けに聞こえる。

 大男が拳を突き出す。とっさに俺は刀でガードしたが、その刀が折れるのが見えた。

「やるじゃないか!」

 拳がこちらに向かって来た。息が漏れる。

 山瀬が糸を伸ばしてきた。避けようとしたが、糸が拡散上に広がった。その蜘蛛の糸のようなものが、俺のワイシャツに付いた。俺は刀で切ろうとしたが、刃がつぶれていることを思い出した。

 オレンジ色の瞳をした神谷が銃を撃った。銃声からマグナムだとわかる。大男は数歩後退した。

「こいつは俺に任せろ」

 浅井さんが俺と入れ替わりに前に出た。

「奴は透明物質操作です」

 俺は叫んで後退する。その間に天宮が氷で壊れた壁をふさいでくれる。

 俺はなんとか糸を剥がそうとしたが、ズボンまでついていて離れない。左右では東伊豆警察と熱海警察が闘っていた。

「燃やすわ!」

 そう言ってくれたのは森永さんだった。杖の先から火を出して糸を燃やしていった。火が俺に到達する前に消えた。

「助かりました」

 俺は上を見た。柵から見える二階には誰もいない。それに今、天宮の氷が敵の攻撃を防いでくれている。

「森永さん、あそこを燃やしてください!」

「了解!」

 森永さんは火炎放射を出した。糸が燃え尽きる。俺は軽さを意識して飛んだ。何とか手すりを乗り越えると同時に階段に向けて走った。

「エレベーターは最上階の三十階で止まりました! 最上階です! 中沢くん、行って!」

 渡辺がもう隠すことを止め、叫んだ。俺は階段を駆け上った。息も絶え絶えながら必死に上る。

 三十の数字が見えた時には限界に近く足が重かった。展望レストランと書かれた文字も見える。肩で息を整える。階段はさらに上に続いていた。おそらく屋上だ。俺は迷った挙句、階段をさらに上った。

 ドアには錠があり、縦方向に向いている。鍵が空いているんだ。追い詰めた。一人で行くか? 俺は一瞬、悩んだが、どうなっているかわからない一階に戻って敵に囲まれるよりか、進むことを選んだ。

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