第34話 侵入の目的

「おい、起きろ。朝だぞ」

 ドアのノックで俺は起きた。

「お前、追われているのに良く寝れるよな」

 神谷は呆れている。

「天宮さんから伝言だ。喫茶店に来いだって」

「あぁ、わかった」

 俺は着替えを済ませてテレポートで喫茶店に飛んだ。


 喫茶店には天宮や浅井さん、森永さん、それに刑事の赤川さんがいた。

「無事でよかったよ」

 浅井さんに言われた。

「助かりました。ほんとありがとうございます」

「暴漢たちはとっちめてやったわ」

 森永さんが満足そうに拳を作って見せる。

「そのポーチに発信機が付いていたそうだね」

 赤川刑事が訊いてきた。

「はい、それで警察は場所を把握していたみたいです」

「能力も使えなくなっていたんです」

 天宮が補足する。そうだった。

「どこかで飲み物を飲まなかったかい?」

「ホテルの朝食と県知事と会ったときにお茶を飲みました」

「私は能力が使えて飲まなかったんです」

 天宮がおずおずと言った。

「裏にいるのは県知事ってこと? でもどうして?」

 森永さんが驚く。

「事前に能力無効化剤を入れた飲み物と発信機を準備していたことから計画性がある。中沢くんに駅の修復を頼んだのも知事の秘書だったそうだね」

 俺は頷く。

「きな臭いですね」

 と浅井さんの言葉に赤川刑事が頷く。

「あの知事には黒い噂がある」

 赤川刑事は難しい顔をしていたが続けて、

「恐らく同じ目的だろうが、悪い話がある」

 と言った。俺たちの顔が強張った。

「白浜が護送中に逃走した。半ぐれやギャングに護送車が狙われたんだ」

「渚は今どこに?」

 天宮が訊いた。

「今追っているよ。実はそのすぐ後に彼女の自宅に侵入があった」

 赤川刑事は何枚かの写真を取り出して、

「君たちは以前、彼女の部屋に入ったことがあるそうだね」

「はい、お茶に誘われて」

「この中の写真を見て何か取られたものや、違和感を感じたら教えてほしい」

 写真には白浜の部屋が映っていた。荒らされたのか陶器の破片などが散らばっている。戸棚にあったティーカップなどは無残にも一つ残らず壊されたのか、床に破片が散らばっている。

 誰がこんなことをしたんだろう。白浜か、その仲間たちだろうか?

「この写真は渚の家族ですか?」

 天宮が示した写真には写真立てだろうか? 若い夫婦とその前に立つ幼い少女の姿が映っていた。

「飛行機事故で両親を失くしていたそうだ」

「そうですか」

 天宮は視線を落とす。白浜が言っていた話は本当だったんだろう。

 赤川刑事は犯行前の写真も見せてくれた。白浜が捕まった直後に撮ったものらしい。戸棚にはきちんと陶器のティーカップや同じく陶器のティーポットが置かれている。

「力になれずにごめんなさい。荒らされたことぐらいしか分からないです」

 天宮が答える。俺も同じ感想だったが、もう少し見てみる。窓が映っている写真には、窓ガラスが壊されていた。室内側にガラスが散らばっていることからそこから侵入したんだろう。

「犯人は窓から侵入したんですか?」

「あぁ、窓の桟に足跡が付いていた。それに玄関の戸は鍵がかかっていた。おそらく窓から入り、そのまま窓から出たんだろう」

 戸棚のガラス戸は無事だった。散らかっているものはノートや教科書、文庫本、ティーカップの破片、それから茶葉などが広がっていた。ノートの上に茶葉や、ティーカップの破片だろう白い破片の上に透明な破片が乗っていたりする。

「天宮なら何かわかるんじゃないか?」

「わからないよ。この間だって気が付いたのは偶然だし」

 と言いつつ天宮は写真を見ていた。俺も考えたがいい考えは浮かばなかった。

「天宮、白浜は本当に紅茶が好きだったと思うか?」

「ないと思う。好きなら紅茶を犯罪に使わないでしょう」

「いや、この茶葉は種類が豊富だ。とても学生には出せるお金じゃない」

 写真を見ていた浅井さんが口を挟む。

「写真を見ただけで分かるの?」

「それはな。君もバイトなんだから知識として知っておいた方がいい」

 森永さんは「あー、はいはい」と軽く受け流す。 

「それに入れ方もちゃんとしていたようだ」

「どうしてわかるの?」

「ティーポットがあるだろう」

 浅井さんが指し示す先には白い装飾の付いた陶器のティーポットらしきものがあった。と言うのは割れているためだ。

 天宮は犯行前後の写真を見比べていた。

「赤川さん、犯行前に部屋を確認しているんですよね。その時、ガラス製のティーカップなどの製品はありました?」

 赤川刑事はしばし考えて、

「なかったはずだ」

「変ですね」

「変?」

「ここを見てください。陶器の破片の上に窓ガラスの破片が乗っています」

 赤川刑事ははっとしたように写真を見ていた。

「なるほど、普通なら逆なんだね」

「はい、順番的には侵入時に窓ガラスが割れる。その後にティーカップを壊すため、窓ガラスの破片の上に陶器の破片が乗ってないといけないんです」

「どうしてなのかしら?」

 森永さんは不思議そうな顔をする。そう意味が分からない。

「ガラスの破片を再度もって割る意味もないな」

 浅井さんの言葉にみんな考え込んでしまった。

「ガラスって白浜の能力だな」

 俺は呟く。天宮はハッとしたような顔をしていた。

「能力を使うとき、水に塩水が混ざっていたら違和感を覚えますよね」

 その言葉に赤川刑事はハッとしていた。悲しいな。俺には分からない。

「二回落としたんです。ティーカップを割ってから再度、粉々になっている陶器の破片とガラスの破片をまとめて拾い上げて落とした」

「確かにそれなら陶器の上にガラス片が乗っていた理由になるね」

 赤川刑事は苦笑して天宮を見てきた。

「動機はティーカップか?」

 俺が言うと天宮は頷く。

「ティーカップを盗んだのを隠したかったのよ」

「ティーカップを一つ一つ復元すればどのティーカップを隠したかったのかわかるね」

 赤川刑事が言った。気が遠くなるような作業だ。俺を含めたみんなが天宮を見ていた。

「さすがだ」

「探偵みたいね」

「ありがとう。調べてみるよ」

「さすが探偵だな」

 天宮は恥ずかしそうに俯いていた。

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