第33話 逃走者

 山瀬さんに見送られて外に出ると、黒いセダンが県庁前に止まっていた。派手な私腹を着たガラの悪い男女たちがこちらに向かってくる。なんだろう。何かあったのか? 注視していると男たちは俺の前に立っていた。不意にお腹から空気が抜けた。殴られたんだとすぐにわかった。息ができない。

 素早く男が俺を車に入れようと体が掴まれた。俺はとっさに逃げようとしたがどかすように不意に誰かが間に入った。

「中沢くん、逃げろ!」

 それは浅井さんだった。俺は判断ができなかった。男の一人がこちらに向かって来た。そいつが倒れる。森永さんが足を出していた。

「行こう!」

 天宮に手を引かれた。俺たちは逃げた。

 

「さっきのギャングか」

 アウトレットのショッピングモールに入ったところで走った息を整えながら天宮に訊いた。

「そうかも、とにかくテレポートで戻ろう」

 言われて、俺は天宮の手を掴んでテレポートしようとしたがなぜか頭痛がしてできなかった。

「どうしたの?」

「いや、飛べないんだ」

「頭痛はする?」

 俺は頷くと、天宮の顔は強張っていた。

「……能力無効化剤」

 その言葉に俺は聞覚えがあった。白浜が俺たちに入れた飲み物に入っていたとされる薬だ。どこで飲んだんだ? 足音が聞こえた。徐々に近づいてくる。

 どうしてだ。周囲を見ても建物の陰になっているため人影はない。

 俺はポーチを探った。そして見覚えのない黒い装飾品のようなものを見つけた。

「……発信機だ」

 足音はもうすぐ近くだった。

「いたぞ!」

 ガラの悪い男たちの姿が見えた。

「中沢くん、逃げて!」

 天宮が氷の礫で攻撃して男たちが倒れた。しかし、後ろにいる大きな男は倒れなかった。俺は刀を抜き、奴に向かって走った。

「ダメ!」

 天宮の叫ぶ声が聞こえたが、そのまま峰を振るう。

 しかし、金属音が聞こえて刃はが止まった。同時に攻撃が来て、俺は体重を軽くして刀で防いだ。

 後方に吹っ飛ばされる。体重を軽くしているためだ。俺は地面に何とか足を付ける。

「なんで攻撃が効かない?」

「さあ、なんでだろうな」

 大男はフンと鼻で笑うと、近づいてきた。天宮が氷で壁を立てて防ぐ。

「中沢くん、わたしを信じて!」

「わかった。捕まるなよ!」

 俺は天宮を信じて走って逃げた。


 それから俺は無我夢中で走った。山瀬さんが車で送迎してくれた経路を逆に進んでいた。恐らく駅は封鎖されているだろうと言う考えはあった。

 俺は通行所で手帳を見せて外に出た。幸いなことに刀は手元にあった。不審者を見るように見ている受付の人の視線を避けて外に出る。

 時計を見る。今は午後の二時だ。薬の効き目が切れさえすればどこからでも戻ることができる。俺は夜も過ごせる美術館を目指した。

 鬼は昨日退治していたためあまり姿はなかった。美術館にたどり着いたところで時計を見ると、午後四時を回っていた。時間ギリギリだ。すぐに美術館に入る。

 薬の効き目が切れたのはそれから八時間後の午前零時だった。何度目かのテレポートを試して頭痛が消えたのを確認し、俺は熱海の少し考えて寮の裏に飛んだ。


 熱海の寮は深夜だからか明かりは消えている。俺は自分の部屋を見てみたが電気は付いてない。恐る恐る寮に入ると、神谷がいた。

「どうしたんだ?」

 心配そうな顔をしている。

「誰か来なかったか?」

「来たな、柄の悪い奴が二人。追い返してやったけど」

 俺はホッと息を付いてハッとした。

「天宮は!?」

 神谷はなぜかニヤッと笑った。

「天宮さんならそこにいるぜ」

 ホールに入ると、天宮がいた。彼女は俺を見るとすぐに近づいてきた。

「中沢くん!」

「天宮、よかった」

 俺はホッとして近くの椅子に崩れるように座り込んだ。

「それはこっちのセリフよ」

 天宮も肩の力が抜けたのか、椅子に座り込んだ。

「浅井さんたちは?」

「暴漢の数人を警察に引き渡したそうよ」

 さすがはあの二人だ。

「何があったんだよ」

 神谷が訊いてくる。

「俺、追われているんだ」

 俺が深刻な表情で言うと、

「そっか、映画みたいだな」

 神谷は目を輝かせていた。

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