第17話 熱海~伊東

 トンネルの熱海南交通所を抜けると、海沿いの景色が広がる。俺は手を上げて背を伸ばした。

「だらしがない。わたしが起こさなかったら遅刻してたわよ」

 天宮が俺を見てきた。天宮にドアを叩いてくれて何とか起きることができた。昨日、緊張で眠れなかったためだ。

「ありがとうな」

 と俺は欠伸をしながら言う。

「サンドイッチ食べる? 朝、白浜さんと作ったの」

 天宮が訊いてきた。

「いただきます」

 朝食を食べてない俺はありがたくいただくことにした。左手には海と砂浜が見ながら俺は卵サンドを頬張る。

 一本道でここは狩りつくされ鬼が出てこない区間のため気が楽だった。

 次第にあの廃ホテルや廃墟になった商店が見えてきた。ここ下多賀しもたがは魔物がいて、冒険者たちの狩場だった。

「あそこのお土産屋さんに鬼が二体以上いるみたいだな。そのほかに近くを巡回している剣や槍を持った鬼もいる」

 街路樹の陰から覗いて見えた情報を後ろの二人に連携する。

 天宮が息を飲んだ。鬼が冒険者の装備を持っているということは、その持ち主の冒険者たちはやられたんだろう。

「俺と天宮が前衛で、伊東さんは無理しない程度に後方からフォローを頼む」

 二人は頷いてくれた。右手は商店や民家が奥まで続いているため、室内に潜んでいる他の鬼に気付かれる恐れがあった。

 俺は刀を抜き、空いている右手で、二人に合図を送って走った。


 鬼がこちらに気が付くが、武器を持ってないため、そのまま刀を振るう。鬼の首から血が噴き出るのが見えた。数秒遅れて、天宮がもう一体の鬼を処理してくれた。

 店の中にいた三、四体目の鬼と小鬼の姿を確認する。鬼が奇声を上げて、近くにあった箒を掴んだ。

 俺がその鬼の喉に刀を突き刺した。鬼は苦しそうにうめいて倒れた。刀を引き抜き、天宮が相手をしている鬼の背後から心臓部を突き刺した。

「今の音で巡回中の鬼が来ました!」

 白浜の緊張した声が聞こえる。道路の向こうから、五体の鬼がこちらに向かっていた。その内の二体が冒険者の装備を持っていた。制服を着た剣持ち一体に鎧を着た槍持ち一体だ。他の三体もバールや、物干し竿、包丁の武器を持っていた。

「左を天宮が、右の残りを俺がやる、白浜は天宮のバックアップを」

 俺はそう指示すると、正面にいる制服を着た鬼を見やった。瞳が赤く光っていた。

俺は近づこうとしたが、隣のやり持ちが大振りに槍を横なぎに振るった。俺は寸前のところでバックステップでかわす。

 チラッと横を見たが、天宮たちも苦戦しているようだ。鬼たちが俺の通ったところに差し掛かりテレポートの間合いに入った。

 俺は鬼たちの背後に飛ぶと、まずは槍持ちの鬼の首を狙った。血が噴き出し、鬼が倒れるのを確認し、慌ててこちらに向けて剣を構える制服持ちの鬼の背後に落ち着いてテレポートした。

 鬼は一瞬反応したが、それよりも早く俺が首を裂いていた。

 素早く残りの鬼を確認すると、一体は天宮が倒していて、物干し材を持った鬼が残っていた。リーチが長いらしく天宮たちは近づけないでいた。

 俺は背後から刀を突き刺そうとしたが、鬼はこちらに気が付き、物干し竿を向けてきた。

 なぜか不意に鬼が崩れ落ちた。白浜が手を向けている。重力だろうか? 距離を詰めて、首に刀を突き刺して息の根を止める。

「助かったよ」

「お役に立ててよかったです」

 と白浜は表情を少し緩める。

 

「やっぱり、冒険者の物みたい」

 いち早く能力石を回収した後、天宮がポツリと言った。鬼が持っていた剣と槍が落ちている。剣には赤い能力石の装飾が付いていた。剣と槍のどちらにも錆はなく、比較的新しいものに見える。また制服を着ていたことから、被害に遭ったのは俺たちと同じ高校生だ。その制服の背中部分はどす黒い血に染まっていた。おそらく背後からやられたんだろう。

「武器、持って帰る?」

 天宮が訊いてきた。

「そうだな。後で冒険者協会に届けよう」

 俺は武器を掴んで、武器だけを自室にテレポートで送った。


 下多賀を抜け、海と山に囲まれた国道を進んでいた。道には魔物の姿はなく、海からの潮風が頬に当たり、大型の廃墟ホテルなどが目に入った。

「そろそろ、休憩にするか……」

「そうね、この先に橋があるわ。そこでお昼休憩にしよう」

 天宮が指さした。地図を暗記しているらしい。

「……すみません。気を使っていただいて」

「気にするなよ。君は依頼者なんだし、俺たちも休みたかった」

 明かりのついたトンネルを抜けると、海を臨む橋が見えてきた。俺たちはそこで少し早めの昼休憩を取った。

 各々、橋の欄干にもたれたり、座ったりして、天宮たちが作ってくれたサンドウィッチを食べ始める。

 食後にトイレ休憩のために、入れ替わり冒険者協会に俺が空間移動した。

 この先に宇佐美がある。そこを越えたら目的地の伊東市だ。

 俺は女子たちを見る。二人は海を見て談笑していた。海から来る潮風が心地いい。

「そろそろ、出発しないか?」

「うん」「はい」

 宇佐美でも魔物に出くわしたが、順調に倒して進んでいく。

 宇佐美を抜けると、伊東マリンパーク跡地が見えてきた。道路の路肩に座り込んで話し込む冒険者たちや、こちらに手を挙げてくる冒険者の姿が目に入った。もう魔物は少ないようだ。

 道路に隣接する歩道にヤシの木が生えている。左手には海があり、それはさながら南国気分だ。

「見えてきたわ」

 天宮の言うように伊東北通行所が見えてきた。

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