第5話 鏡の世界の殺人鬼
「天宮さん、さっきの人たちって知り合いなの?」
帰り道、おずおずと訊いた。
「学校の同級生です」
天宮は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「あまり仲は良くなさそうだね」
「向こうは馬鹿にしているんですよ」
天宮はムスッとしていた。
「それより、この時間までどこに行っていたんですか?」
「それは散歩に」
天宮は俺の刀を一瞥して怪訝そうな顔をする。
「冒険者協会に寄ってみたんだ」
俺は笑ってごまかした。
病院は通院用の玄関と、先生たちが使っている住居区の玄関に分かれていた。天宮と別れて窓から病室に入ると、病室内には天宮先生が座って待っていた。
「散歩は終わったのかい?」
まさか、待っているとは思わなかった俺は思わず面食らった。窓の外に刀身に血の付いた刀と靴を隠していたため助かった。
「遅くなってすいません」
「何か思い出したかい?」
俺は神谷のことや、先ほど思い出したレインコートを着た人物のことを伝えた。血に濡れたレインコートを着ていたこと。それに――。
「その目は光っていたかい?」
なんでわかったんだ。天宮先生は真剣な目で俺を見ていた。俺は頷く。
「そうか」
天宮先生は頷いて、
「そのレインコートを着た人物の目の色は何色だった?」
と訊いてきた。
「薄い赤でした」
天宮先生の目つきが険しくなった。
「あいつは現実にいるんですか?」
「その可能性は高い」
思わず言葉を無くした。あれが現実にいるのか……。
「他に襲われた場所とか思い出せないかい?」
俺は思い出そうとしたができなかった。恐怖心を感じて気が付くと手が震えていた。
「大丈夫、ここは安全だ」
天宮先生が手を掴んできた。手が温かく。その手を伝って俺の体が湯につかったように温かくなる。
「超能力ですか?」
「あぁ、温度操作を使っている。ゆっくりと深呼吸をして」
俺は大きく息を吸って、ゆっくりと肺から空気を吐いた。
「あの光る眼は何なんですか?」
「光る眼を持っている人間は強い能力を持っている。能力は生まれ持った能力以上の強さを得るには魔物を倒す必要がある。死に触れる必要があるんだ」
天宮先生は自分の目を示した。すると、先生の瞳が
「同じことが人間でも起こる。人の死に触れた人間は能力が強くなる。さらに亡くなった人の能力が移ることがあるんだ。実証はされてないが死者の意思で生者に能力を託すという説などがある」
天宮先生は悲し気に目を伏せて、
「現にわたしも亡くなる人を看取ったことがあり複数の能力を持っている」
と言った。少しショックを受ける。
「医者ならよくあることなんだ」
天宮先生は優しい笑顔で言い、瞳の光りが消えていく。
「そのレインコートを着た人物は薄い赤に目が光っていると言っていたね。その場合は確実に複数の能力を持っている」
「どうしてわかるんですか?」
「能力の色を合成した色だからだよ。詳しいことはまた今度説明するが、複数の能力を持っているのはまず間違いない」
よくわからないが色で能力を複数持っていると判別できるらしい。複数の能力を持っているということはそれだけ危険なんだろう。そしてあいつのレインコートには血が付いていた。
「俺が見た光る眼をした人物のレインコートに血が付いていました。目が光っていたこと考えると」
思わず語尾が震える。あのレインコートを着た人物は――。
「その場で殺人を犯した可能性が高い。それを君が見てしまって、ショックを受けて記憶喪失になった可能性があるんだ。これはあくまで想像だけどね」
俺は再びあの情景を思い出そうとしたが、上手くいかなかった。
「思い出せないのが歯がゆいですね」
「無理せずに、ゆっくり思い出していけばいいんだ」
天宮先生に優しい声で言われた。
「今日はどこに行ったんだい?」
夕食時に天宮先生に訊かれた。
「近所に散歩に行きました」
「散歩って、どこに行ったんですか?」
天宮先生の隣に座っている天宮菜衣が訊いてくる。
「国道一号線をぶらぶら歩いてきたんです」
嘘は言ってなかった。
「国道ですか……」
と天宮菜衣が不思議そうな顔をする。
「彼には全て新鮮に感じるんだろう」
天宮先生がフォローしてくれた。
「遊覧船乗り場の近くにも行って、芦ノ湖も見てきました」
「記憶が戻り、体調が良くなったら、その遊覧船に乗ってみるといい。大自然や鬼たちの生活が見られる」
実際に鬼を殺した俺は冷汗が出てきた。
「それは、見てみたいですね」
「箱根図書館や箱根第一ホテルの常闇の月もオススメですよ」
「常闇の月?」
「夕闇の世界を作る能力石があるんです。波長操作を付与した能力石を使っていて」
波長操作を能力石に付与、よくわからない。能力石は動力じゃないのか?
「能力石って何なんですか?」
「能力石には超能力が付与できるんですよ」
天宮先生は戸棚から透明の能力石を取り出し、それを握ると、能力石が白く発光した。それがコップに入れられると、能力石から水が出てきた。
先生が杖のようなものを向けると、水が止まる。
すごい。まるで魔法の世界だ。
「常闇の月はもっと大きな能力石なんですよ」
と弾む声で天宮菜衣が言う。思わず興味が湧いた。
「見てみたいです」
「見せたいのはやまやまだが、箱根第一ホテルか……」
天宮先生が難しい顔をした。
「何か気になることでもあるんですか?」
「いや、君が倒れていたのもそこなんだ」
聞けば、そこで大けがをして倒れていたところを発見されて、天宮先生が呼ばれたらしい。
「なんか、ご迷惑をおかけしてすいません」
「患者の君は気にしないでくれ」
俺は考える。そこに行けば何か思い出すかもしれない。
「そこに行けば記憶も戻るんじゃないですか?」
「その可能性はあるが、君に精神に負荷がかかるかもしれない」
「それでも、そこに行ってみたいです」
「わかった。菜衣、明日中沢くんを案内してあげなさい」
天宮先生は悩んでいたが折れてくれた。天宮は頷き俺を見て、
「案内は任せてください」
と言ってくれた。優しい家族だ。
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