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押してダメなら引いてみな―――つまり困ったら釣り出せ。
というわけで、栄E級迷宮に潜ることにした。
フィールドは草原&砂漠。
足場の良し悪しが激しいステージだ。
出現する魔物は
だからか高階層になればなるほど、進度が普通は遅くなる。単純に疲れるからね。でも既に踏破している身としては、もうボス部屋以外物足りない体になっている。
本当はD級に潜ることも検討したが、そうすると参加する連中が少しばかり減ってしまうのでは?と考えてE級を選んだ。
強者の釣り出しならDだが、雑魚を一掃しなくてならない。それを踏まえるとね。
此方は最初から一軍である。
見る人が見ればレアモンスターずくめのパーティーだ。
成金だと勘違いされるレベルである。
「ピノキオ、リリエル、鬼。兎に角、下へ行くから寄り道はしないでガンガン行くよ。」
「オッケー!」
「……あい。」
「承知した。」
さくさく進んでいく俺は少々場違いで浮く。だからか、殺気を向けた視線も紛れる……なんてことないんだよなぁ。
つい笑みがこぼれる。どうやら綺麗に引っかかったようで。
端から見たら、レアで固めた魔物を使ってイキっているガキに見えるに違いない。
まあ、そういうのも含めて嫉妬なんかのヘイトを一般人からも買ってしまったわけだが、そこは心の中でごめんとしか言えない。
二時間―――無理な突撃をしたせいで、魔物と無駄にエンカウントしている明らかな傲慢さが招いたイキリプレイをかます。しかも連戦からか捌くに捌けなくなって被弾までしている。その度に苦悶の表情も浮かべる。基本演技だが、被弾してダメージを負った痛みは演技ではない。単純に不愉快だから、ちょこっとだけオーバーリアクションしているだけ。
後ろから感じる視線は最低でも三十人。なんかの族か?あ、ヤクザだったね。一人相手にその数をぶつけてくる辺りガチですねぇ。多分にそれでも陽動に割いてたりするだろうから全部が来てくれたわけではなさそうだけど。
階層を増やす毎に減っていく筈の視線が増えるんだもん。本当に笑いが込み上げて来てこの演技バレんじゃないかって思っちゃったけど、無双している主人公だと思ってるんだろうなぁ、この数釣れちゃうってさ。
8階層砂漠エリア―――俺はわざと階層階段からズレて逃げ場のない迷宮端へと足を向けた。
―――――――――――――――――――――――――――――
―――墨竜会、執行部幹部
「どっからどう見ても力に溺れたボンボン学生っすね。」
部下の一人が間の抜けた声でそう評価した相手は慢心からか雑魚を捌ききれず、被弾していた。
俺も全くもって同意見だ。
「持ってる魔物は個々の練度が高けえが、まだまだ荒い。あの雑魚共が殺されたのは慢心か?よっぽど女に現を抜かしてやがったとしか思えねえんだが?」
今回招集されていたのは幹部三人が率いる三十四名の墨竜会の《暴力》の象徴たる花形の執行部メンバーである。皆がE級踏破者、D級に行けるレベルだ。因みに幹部である俺はD級踏破済みでチームを組んだらC級にも行ける、ボスまでは行けないが。ソロだろうが、ここで後れを取るような奴はいない。まあ、流石にあれだけの数じゃ捌き切れずに被弾も止む無しだろうがそうならないよう立ち回るのが探索者である。そうなってしまっている状況になっているようじゃ力に溺れているイキリ探索者と思われても仕方のないことだ。
魔物数にして百二十を超える、全員が四体積み――E級で扱えるフルメンバーを揃えている。上の階層になれば三体が基本となるので正直四体出すより、三体で戦った方がパーティメンバーとしての練度が高くなるのだが、数は力だ。確実に殺せとのことだったので、渋々執行部は言う事を聞いた。
「こりゃ余裕だな。大人げないが予定通り、
「っす。」
一集団三人から四人の塊で動いていた暴力団だが、各幹部が似たような指示を飛ばす。だが、此処まで上手くいくと少し不気味だ。俺はそんな不安を覚えた自分に馬鹿馬鹿しいと罵り、考えを一蹴する。俺はそう思った自分が恥ずかしくなり、名も知らぬ――わざわざ覚えなかったともいうが……、高校生に当てつけのように怒りを視線でぶつけまくった。
部下を含めて、舐めているのは自分達だと知らずに。
「鴨が端っこに追い込まれてますね。」
「好機か。」
「やれ。」
「いけ。」
三人の幹部が指示を出す。
自分達はわざわざイイだろう、寧ろ数が数なだけに投入したら部下の魔物が邪魔になりかねないと判断して。
高校生が
あっという間に魔物囲まれる高校生。
どうなるかは火を見るより明らか―――だと思っていた。
「うっ。」
ちらっと苦悶の声が聴こえてきた。
フレンドリーファイアでもしたのか。
なんて無様な。そう思い、声を漏らした馬鹿な部下に目を向けようとしたら、至る所から声が漏れ聞こえてきた。
流石に可笑しい。
D級踏破目前の部下まで無言で冷や汗を浮かべている。全員が全員戦況を正しく見ているわけではない。魔物だけ高校生に仕向けて、此方に待機している奴が殆どだ。一瞬、雑な支持を出したかと思ったが、明らかに苦悶の表情を浮かべている者が多い。
考えられるとしたら、イレギュラーエンカウント。あの少年―――高校生の実力だと露ほどにも思わない。
「イレギュラーエンカウントか?それもかなり上位の。」
「かもしれねえなぁ、出張るか?」
「はぁ、しょうがねえ。俺のを行かせる。待ってな。」
「ぐっ?!」
五分もせず、ばたりと意識を失った部下まで出始めた。
これは……?
戦闘中であろう我聞は目を瞑り、精神が繋がっている魔物達に指示しているがその顔色が芳しくない。
まさか、苦戦しているのか?俺と同じC級にも潜れる我聞が?
いよいよ、きな臭くなってきた。
俺は何が起きているのか確認するために、高校生が居るであろう方へ足を運ぶ。
砂漠の山を一つ越え、その上から見てやろうと思ったのだ。
俺はその目を疑った。
百を超える魔物達が既に半数もいない。
何が原因か。その元凶に目を向けると突出してキルスコアの高い一匹の魔物に目が行く。
バターでも切っているかの如く、盾役から中距離、遠距離と斬られている。魔物の名前は――ピノキオ。
今まで見てきたのは何だったのかと思う。精彩に富み、剣舞でも魅せられているように感じてしまう。
明らかな異常はピノキオのバカげた火力によって行われいた。
「いけ。山椒魚、八腕剣士、戦牛鬼。八咫烏は全体支援。」
どれもD級魔物である。山椒魚は地形無視の潜伏型。トカゲのような見た目だが、優れたアサシンだ。
八椀剣士はガーゴイルの見た目で、違う点としたら腕が八本ある所だ。超攻撃型だが、ガーゴイル種でもある故に盾役もこなせる魔物である。
戦牛鬼はミノタロスの進化先で純粋なアタッカーとしても耐久も出来るが、何よりその攻撃速度はスピードアタッカーにも比肩する。
八咫烏は支援型兼妨害型の魔物だ。八枚羽のカラスで高速移動の出来る支援型魔物である。
固めの前衛二体に遊撃が一枚という攻撃こそ至高の俺が後方支援まで動員して挑まなければならないと思う程にピノキオがやばい。
目の前の味方が一方的に蹂躙されている。
俺の魔物が止めに入ろうにも、味方の魔物が邪魔で、上手く攻撃が出来ない。
人数を過剰にした事が弊害となってしまった。
大声を上げて、部下に引かせるべきだったのだが、そうすれば他の探索者にバレる危険性がある。八階層の端とはいえ、全くのゼロではないのだから。
俺は青筋を浮かべ、歯噛みしながら戦況を見ていることしかできなかった。
人生やり直して復讐するってよ。 @namatyu
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