34

「PTSD―――心的外傷後ストレス障害ですね。2日間の眠りの最中、かなり魘されていましたが、覚えていますか?今回の事件の一端が自分にあると考え、そして悲惨な、非業の死を遂げてしまった男子生徒や女子生徒の非道な暴行の数々……目の当たりにした結果だと思います。」

 

 俺は悪夢から目覚めると、医者からそう診断された。

 あまりにも凄惨な現場を見たショックから倒れてしまったのだろうということらしかった。

 実際の所は、死んだ世界線での遥達の強烈に胸糞悪い死がフラッシュバックしただけなのだが、PTSDという診断には納得が言った。

 

 寝起きで頭が回らなかったが、2日……?

 俺は2日も眠っていたのか?

 大会はどうなった?

 棄権か?

 そんな終わり方で優勝を逃してしまったのか?

 大会メンバーにも合わす顔がないぞ?

 

 起きて早々、また顔色が悪くなり冷や汗をだらだらとかいてしまう。


「大丈夫ですか?目が覚めたようですが、体調が優れないようでしたら面会希望者にはお帰りになってもらうこともできますよ?」


「あ、面会希望者の方は通してください……。」


 回らない頭をフルに使い、何とかそう返事を絞り出した。

 用があって来ているのだろうに、精神的な問題で面会謝絶してしまう程、俺はやわじゃないぞ!と自分に一喝……いや百喝入れてなんとか―――丸わかりの無理した強がりであることは透けていただろうが絞り出すことが出来た。


 俺如きのために用意された個室から医者が出ていき、外で話をしているみたいだ。

 数分して、姿を見せたのは遥や賀茂川先生、大会出場メンバーだった。


「あきくん……!!」


 真っ先に入ってきたのは遥だった。俺の顔色が相当に悪いのか、かなり心配してしまっているみたいだ。よく見たら泣き腫らしたのか目が充血している。

  

「千堂君、に立ち会わせてしまい、大変申し訳なく思います。千堂君のばかりに、をさせたと深く反省しております。」

 

 入ってきて早々、賀茂川先生は平身低頭、土下座でもせんばかりの勢いで頭を下げた。

 人と人との命の奪い合いをした事も警察か特派員さんから聞いていることだろう。

 彼らは俺が恐らく犯行に及んだ連中を殺したことについては黙認していたというか、敢えて突っ込んでいなかったが、流石に先生には漏れているのだろう。

 他生徒もいるので、正当防衛とはいえ、殺人をさせてしまったという事実はオブラートな言葉に包んでやたら強調して謝辞をするいうことで分かる形で伝えてきた。

 

 殺しよりも友とは言わずとも、知り合いの殺人、強姦現場を見てPTSDを起こしただけなのだが、良い具合に誤解してくれている。馬鹿正直に死んで過去に戻ってきたと荒唐無稽な話をするわけにもいかないので、誤解は解かないでおく。


「賀茂川先生頭を上げてください。大変なことになってしまいましたが僕は大丈夫です。それよりも大会はどうなりました?僕のせいで棄権した……とかでしょうか?」


「んん、大会自体が一旦中止になったの。今回の事件で死者が出たから安全のためにもね。警察側の主張で本当はこのまま中止って事になるところだったんだけど、大会主催者というかスポンサーの方々が犯罪者に屈したようだと憤ってしまって、生徒の迷宮入場制限を掛ける事と当日の警備巡回員を増員する事で続行することになったの。5日後の土曜に大会は続行するみたいだよ。だから、棄権なんてしてないし、優勝は狙えちゃうんだからね。」


 遥が大会はまだ終わってないと教えてくれる。


「まったく。大事件に巻き込まれたと思ったら大会の顛末についてとか……千堂君の可愛い彼女はそれどころじゃないくらいあなたのこと心配してたのにねー。」


「ほんとだぜー。俺だってお前が倒れたってどんな事件だよって肝冷やして大会のことなんてすっぽり抜けたってのになー。」


 呆れた様子で雪村女史と板倉が茶化す。

 この二人似た者同士だな。と俺が思っていると、


『お前(千堂君)、今何考えてた(の)?』


 と、雪村女史と板倉がこれまた二人揃って不服そうな顔をして抗議してきた。

 なぜ、バレた。というより、本当に似てるなぁ。とこれには周囲も思ったようだ。


「千堂君、もし受け答えできるのならで構わないのですが、例の件について千堂君の口から語ってもらいたく。まとめての方が良いと思うので、S高の向田顧問と最期を知りたいと願い出ている親御さんの方にも……時間を作ってはいただけないでしょうか。」


「ええ、それはもちろん、大丈夫です。」


「ありがとうございます。因みにですが、ということですので、警察やギルド特派員が聴取を行ったのち、適切な処罰が下ると思います。」


 賀茂川先生が言いにくそうにしていたが、何故だろうか。全員死んでいた方が良かったのだろうか。手際から察するに全員相当悪さをしてそうだしな。四人は生き残ってたはず。あれ?でも気絶してた奴もいたろうに。


「何人ほどか聞いてますか?」


「三人でした。襲われてるところを保護し、その後拘束したそうです。」


 こりゃ気絶してたやつが見捨てられたか?

 迷宮内での犯罪は隠蔽しやすい。よって露見すれば重罪。

 今回は殺人に強姦、暴行と死罪は免れないだろう。


 せっかく仲間を見捨てたのにな。迷宮で死ぬか地上で死ぬかの違いだろうに。

 そこまで考えて、俺はどっと疲れてしまった。


「すみません、少し疲れました。」


「あきくん、ゆっくり・・・休ん・・・・・・」


 遥の声が遠のいて俺は再び意識を手放した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る