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救急車に運ばれていく三名の死傷者達。
死んだのが丸わかりでも運んでくれるらしい。
遺族は病院へ呼ばれることになるのだろうか。
俺は速やかに顧問の賀茂川先生に連絡を入れる。
『三名を発見。二名を保護したした。N大学病院には三名搬送されてます。 千堂。』
電話は迷宮内は電波がないのでメールを送っておいた。
彼らが迷宮から出たらすぐに届くように。
「すみません。彼等の関係者ですよね?申し訳ないんですが、彼らについて話を病院のほうでもしていただけますか?そちらにギルドの特派員と警察官も来る予定ですので。」
「わかりました。」
救急隊員が走り寄ってきてすぐに乗り込むよう急かしてくる。
内臓にダメージがあれば命の危機だろうしな。
俺も即快諾し、救急車に乗り込んだ。
病院に着くと、警察官二名に黒服を着たギルド特派員が三名待ち構えていた。一人は死亡、一人は意識不明、一人は心的外傷が大きすぎて碌に話せない状態だそうで、特に男性に対して異常な怯えと錯乱、拒絶反応から嘔吐や眩暈、頭痛を訴え気を失ってしまったらしい。
何故かギルド特派員の女性特派員が怒気を孕ませて警察官を睨んでおり、それに対し警察官達はバツの悪そうな顔をしているが、俺が事情説明する分に関係なさそうだったのでスルーすることにして説明を始める。
「彼らは今日開かれている高校生新人戦大会出場していたS高校生の方々で、主戦力を失った状態で迷宮に入った。主戦力を失ってしまった状態というのは大会を見ていたら分かることで、彼らは目を付けられていたのでは?というのが、千堂君の話だが、我々の理解は正しいかい?」
黒服姿のエージェントみたいなジェルできっちりオールバックに固められた男性特派員さんが代表してまとめてくれる。
「そうですね。迷宮にはビックリするくらいに人がいませんでした。階層を上っていくほど人気は少なくなりますがF級では異常といっていいほどに。そこに手練れと思しき8人のグループが偶然に彼らと鉢合わせたと考えるのは無理があります。発見したのは4階層、東端の中央辺りです。自分が走って12、3分の距離でしょうか。もしかしたらなんですが、これは組織で計画された犯行なのではないでしょうか。自分は至急、他生徒が主力を失った状態で迷宮に潜っていないか調査と保護をしていただきたいです。自分の顧問の先生―――賀茂川先生という方が眼鏡に白衣を着た状態で栄のF級かE級の方に潜っているはずです。できたら其方の方にも伝えていただけるとS高校の顧問の先生もいらっしゃるはずなので被害者三名の保護者への連絡もスムーズに行えるかと思います。それとまだ怪しい人間がいるかもしれません、会場にも人を送ることは出来ないでしょうか?」
「ああ、そうだね。至急、栄の方にも人材を送れ。それと学生服で迷宮に潜っている生徒がいれば、保護するように。我々は迷宮を隈なく捜査する。」
「はっ。」
オールバック男が2メートルはありそうなごつい男性特派員に命令すると、携帯を取り出しこの場を離れていく。
「か、会場の警備及び巡回は警察に任せておきなさい。急ぎ、本部へ連絡だ。」
「はっ。」
役割分担らしい。まあどっちがどっちを言い争われても困るし、スムーズでいいけどこの警察官は頼りないという印象しかない。大丈夫だろうか。
仮にも計画犯罪の可能性があるのに、警察は現場に人を送らないつもりか?力関係は良く分からないが、それでいいのかと問いたい。
「本当に散々な所に出くわしてしまったようだね。だいぶ顔色が悪いし怪我もしているようだ。千堂君も診てもらった方がいいんじゃないかい?」
ああ、確かに。実はピノキオが結構なダメージを貰いながら戦ったせいだ。孤軍奮闘の代償に体中切り傷塗れである。
それだけ激戦だったのだろうけど、詳細はピノキオと途中参戦したリリエルしか分からない。
うちの主力に相当なダメージを与え、スキルまで即座に使わせたという事実から、かなりの実力者だったことだけは伺えるが。
まあ、でもそれによって受けた傷というかダメージは一度死んだ身としてはたかが知れている。というか些事だ。些末な事よ。本当に。死んでから傷つくことに殆ど恐怖も苦痛も感じなくなっているのだから。
それよりもフラッシュバックしてしまった影響の方が強い。
仲間が仲間に裏切られ、殺される悪夢。強姦していたあの悍ましい光景が、人殺しというか屑殺しには何の抵抗も呵責にも苛まれない俺がショックを受けてしまっている。
少し油断するだけで吐いてしまいそうだ。体が休息を求めている。俺は昔から風邪だと自覚すると一気に体調が悪くなるタイプなのだが、エージェントスミスみたいな特派員さんの指摘で気持ち悪さが限界突破してまいそうだった。
「そうですね。どうやら自分はやっと現実味が湧いてきたみたいで、うっ………!!!!」
急いでトイレに駆け込もうとするも嘔吐いでしまい、その場でしゃがみ込み手で受け皿を作る。
最大限の配慮だ。幸い自分の服はゲロ塗れになってしまったが、病院のフローリングは汚さず死守出来たのでほめてほしい。
すぐにピンクの桶みたいなものを持ってきた看護師や、今にも倒れそうな俺を医者や特派員さんが支えてくれる。
思う存分吐いて、膝から崩れた俺はまだ直接先生たちに報告するという使命を放棄し無責任にも意識を手放した。
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