29話目:俺のせい?

 新人戦大会一日目昼過ぎ。


 第七闘技場は異例の早さで予選が終わってしまったが、他はそうではない。

 実力が拮抗していればそれだけ長引くというものだ。


 異例の早さで終わった予選落ち高校生の中には闘技場から離れた者がいるらしい。

 その件で、顧問の賀茂川先生に呼び出しを食らっているところだ。


「SS高校の生徒さんなんですが、見かけませんでしたか?」


 どこそこ高校だよ。

 俺がぽかんとしていると、遥から肘打ちをかまされる。


「ぐへぇ!?」


 なんとも情けない声を出して、涙目で俺は遥を非難した。

 何かした?!


「居なくなったSS高校の生徒さんは、千堂君。貴方が初戦から全力で倒した相手なんですが?忘れましたか?」


 賀茂川先生がさりげなく補足説明してくれるが、もう覚えてるわけないよね。

 いたいやめて!迷宮で味わう痛みより、遥に攻撃される方が痛い。なんていうか、心が。

 雪村さんもジト目で見てくるが、俺が何したってんだ!

 付いてきただけの板倉に限っては、俺と同じで良く分かってない。でも俺が女子ーズに責められるのは愉快なようだ。目がニマニマしている。口は堅く引き結んでいるが、目が語っているのだよキミ。覚えておきなさい。


「ええ、忘れてましたが、思い出しました。僕がやりましたすみませんでした。」


「はて、それは終わってから手を出したって事ですか?居なくなったのは千堂君が関与してると?」


「あ、それは全然。何も関与してません。紛らわしい言い方ですみません。」


「ええと、それで。その生徒さん方の行方が分からないそうで。取り敢えず何も心当たりはないんですね?試合終わりに接点とかもないんですね?」


「ええ、勿論。もう顔も名前も思い出せませんから!ぐふっ。」


 こめかみを押さえ、頭を悩ませつつも賀茂川先生の尋問モドキは終わる。

 が、話はそこで終わりではなかったようだ。


「では、申し訳ないんですが、その説明も兼ねてSS高校の顧問の先生の下へ一緒に説明に行きたいと思いますので、ついてきてください。」


「はい?」


「それではいきますよ。」


 いや疑問形で答えたのに、付いていくことに。

 それも俺一人。どうやら雪村さんらと遥は此処で待っているらしい。

 これが強制連行という奴か。


 訳も分からないまま、取り敢えず賀茂川先生の後をついていく。因みに此処は我が校の為の控室である。

 闘技場裏に用意されている一室なのだが、そこには色々な高校の名前がドアに張り紙でぺたりと貼られている。

 どうやらグループ分けされているわけではないらしい。

 うちの控室とSS高校の控室は二十は離れた場所にあったからだ。


「失礼します。A高校の顧問賀茂川です。西都の千堂君も一緒に連れてきました。」


「ああ、どうぞ。急に御呼び立てしてすみません。SS高校顧問の波風と申します。千堂君もわざわざすまないね。」


「あ、いえ。僕は未だに何故呼ばれたのか把握してませんが大丈夫ですか?」


 波風先生とやらは俺の目をじっと見つめて、かれこれ3秒くらい黙った後、ええ、大丈夫ですよ。と柔和な笑みを作って俺達に席を進めてきた。


 どうやら話が長くなりそうな予感がする。


「ええと、それでいなくなったそちらの生徒さんのお名前は。」


「千堂君の初戦相手の田辺まこと君、次鋒の秋津ゆきさん、中堅の水沢みどりさんですね。千堂君、彼等と試合終わりに会って話したりしたかい?」


「いや、見かけもしませんでしたね?っていうかもう顔も思い出せません。」


 素直に彼等の印象を伝えると、苦笑しつつ波風先生は頷いた。

 どうやら信じてくれたみたいだ。


「ああ、なんで千堂くんに話が訊きたかったと言うとね?今あげた三人と実は連絡が取れなくてね。それでもしかしたら生徒同士で揉め事とかがあったのかもしれないなと思ったのだよ。」


 ああ、なるほど。初戦で戦った相手で且つ、魔物を三体とも24時間使えなくしたのが俺だから恨まれてなんか的な?

 はいはい。でもそんなことはなかったよ。お宅の生徒さんは良い子達だよ、そんな事例があったのかもしれんけど、少なくともそういった面倒な絡みはされてないからね?

 自信もちな?お宅の生徒さんはいいこだよ?

 俺が何となく理解したのを頷いて示し、そんなことはありませんでしたよ、といなくなった原因が波風先生が思っているようなことではないとはっきりと伝えておく。


「となると、やはり迷宮でしょうか?此方も主力をうちの生徒が潰してしまった負い目がありますから、捜索するならお手伝いしますよ。」

 

 迷宮で捜索?賀茂川先生がなにやら物騒なことを言い出したので、俺が顔を顰めて彼の横顔をみる。

 

「生徒同士のいざこざなら良かったんですがね。彼等は主力を失った状態で迷宮に潜った可能性が高まってきましたね。」


 波風先生の表情が暗い。あれ、これ俺のせいで迷宮でピンチになったかもしれないってこと?

 脳筋のワイでもここまでくると分かる。

 でもふと疑問にも思う。

 中堅の子は戦いもせず、棄権したような?と。

 戦った相手の顔は思出せないが、流石に戦った回数は覚えていた千堂脳わいにグッジョブといいたい。


「えっと、中堅の子、水沢さんでしたっけ?その子は僕は棄権されて戦ってないのではないかと思うのですが。」


「それがですね、彼女のパーティー編成は少々偏ってまして…。」


 波風さんよぉ。そこはしっかり指導してくれよ。

 聞くところによると、後衛偏重らしい。

 痛いの嫌いな女の子がよくやるんです。遠くからビシバシやって近寄らせなかったらダメージ喰らわないし、痛い思いしないじゃん編成。

 この話を聞いて、俺が頭を抱えてしまったよ。


 もし迷宮で不測の事態に陥ったのなら、主力を奪った俺のせいか?そんなことを考えて、うわぁあああああっと内心動揺しまくりだが、先生二人がいるなか、発狂も出来ず、二人の話し合いが終わるまで、ぐるぐると同じようなことをずっと考えてしまった。


 これ、俺のせい?って。

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