第27話:奪われし者

 闘技場はやたらと盛り上がっている。

 人が多い。

 どれもみな探索者である。

 屋台が立ち並び、あちこちで賑わいを見せている。

 

 そういった場所には悪巧みを画策する者も…。


「あの坊主と、あの嬢ちゃん。あの子もだな。」

「主要メンバーは殆ど倒されてるみたいだ。バカだよなぁ。」

「鴨っすね。」

「そうだな、マークだけしておけ。ガキがばらけるまでは動くんじゃねえぞ。」

「へい。」



 柄の悪そうな大男が手下と思しき連中に何かしらの命令を下す。

 彼等の正体は盗賊シーフだ。

 ダンジョンに蔓延る癌である。

 人類を狙い、その者の魔物を奪って生計を立てる悪人だ。


 ダンジョンは学など必要ない。

 強者たれば誰もが成功を収めることが出来る。

 だからこういう輩も全国に数多くいる。

 取り締まるのは実にキビシイ。

 

 狙われているのは、ことごとく魔物を倒されてしまった高校生たちだ。

 

「ああ、もう。私お嫁にいけるかな。」

「大丈夫よ。女の子はなんだかんだ需要があるから。そんなことより男子の方がきついって。」

「言うな、それ以上何も言うな……。俺のメンタルは崩壊寸前だ。千堂め……恨むぞ。」

「ほらね?」

「あはは……。」


 心に傷を負ってしまったのはSS高校の田辺くんと秋津さんだ。それを慰めているのが水沢さんである。

 田辺君は先鋒、秋津さんは次鋒、水沢さんは中堅で棄権。

 全て千堂が討ち取った、棄権に追い込んだ選手たちだ。


「容赦なかったよね、あたし人睨みされてぶるっと来ちゃったもん。あ、おしっこね。」

「女の子がそういうこと言っちゃダメでしょう…!田辺君もいるんだから。」

「俺の事は気にするな。いないものとして会話してくれくださいだ。」

 なんだしてくれくださいって。勘付いたのか秋津さんはジト目で、水沢さんはニタニタと笑みを溢している。


「あたしのおしっこかけてあげようか?」

「ちょ!!」

「なに?!」


 秋津さんと田辺君は驚きを露わにしているが、一方は困惑、一方は歓喜の色が見える。


「いーひっひっひ!」

 

 水沢さんは実に楽しそうに笑う。

 悪役の魔女みたいな笑いで華の女子高校生とは思えない悪魔的な笑みである。

 

「冗談に決まってるでしょう?」

「そ、そうだよね。」

「ああ、残念だ、あだだだだ!!!」


 流石にか。

 田辺も下心を言葉にしたのはいけなかったようで、秋津さんと水沢さんに抓られ制裁を受けていた。


 そんな三人は悪い男達に付け狙われていることなど知る由もなかった。

 

「あーあ、憂さ晴らししたくても魔物倒されちまったしなぁ……。」

「24時間の辛抱ね。」

「サブの子達使ってなら低階層で潜れない事もないよね?」

「まあ、あたしは棄権したから実質的な被害ないし、付き合っても良いよ。三パでも組む?」

「お?俺もいいのか?サブならいるけど。ここらで都会の迷宮巡りするのもありだよなぁ。」


 暇になって時間がたっぷり余ってしまった彼等は近場の迷宮探索するか話し合った。


「じゃ、決定!!!」

「両手に華だ。うらやましがれ、他校生共よ。」

「華と言われて悪い気はしないけど、調子には乗らないで。」

「はい、すみません。」

『よろしい。』


 調子に乗った田辺が反省しつつ、三人は迷宮へ行ってしまうのだった。

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