第23話新人戦大会⑦
第一闘技場観客席。
ここは第七と第八より観客席が埋まっている。
「こっちこっち―――!」
雪村さん達とも合流したので4席空いている場所を探すのは大変だったが、板倉がなんとか見つけてくれた。
他よりも質の高い試合が行われているのか、と思い闘技場に目を向ける。
—―――ふむ。
たった一試合……それも途中からの観戦だが、何処も似たようなものである。
本当にちょっと強いな、って思う程度だ。
正直失礼な話だと思うが、此処まで人の入り具合に差が産まれる程の名勝負は繰り広げられていないように感じた。
「なあ、どうしてここってこんなに観戦客が多いの?」
「さあ?」
「アキくんのが強いね。恐るるに足らず。」
「第一が入り口に一番近いからじゃね?」
若干一名、質問と嚙み合っていない返答がきたのは無視するね。
入場門を潜ると闘技場は横並びで、第一闘技場が一番手前に設置されている。
第二、第三……と行くにつれて奥へと歩かなければならない。
板倉の意見が濃厚そうだ。
大体の観客は、実力は大して変わらないもんだと思ってるのかもしれないね。実際、第七の優勝候補校も大したことなかったし。
「それで、いつになったら上治先生は出ておいでになられるのだ。」
俺は名前を出すだけで興奮して口調が変調してしまう。
「上治先生とやらは、私の恋敵に成り得る存在かえ?」
「その人はM校だから、今は休憩中だと思うよ。」
「うん、雪村さんの言う通り。多分どっかで観戦してるか、飯でも食べてるよ。」
俺は、若干一名、会話が嚙み合ってない人を無視しつつ、どうでもいい高校とどうでもいい高校が試合をしているのだと知る。
そんなことを聞かされたもんだから、急激に観る気が失せてしまった。
「正直俺と上治先生、戦ったらどっちが勝つと思う?観てたなら忌憚なく答えて。」
「私が上治先生とやらを叩きのめすわ。NTRマン、絶対許さない。」
「ぶっちゃけ、上治くんも余裕をもって戦ってるし千堂君の本気を知らないから、分かんないね。」
「そこなんだよなぁ。どっちも余力を残してるもんだからなぁ。」
勝手にNTRマンにされてる上治先生が可哀想だけど、此処で相手にしたら火に油を注ぎそうだから無視しつつ、二人の見解は見事に分からない、と来た。
まだS級でない上治先生だからこそ、俺は実は戦えることに悦胸を躍らせてしまう。
S級になってしまったら、俺など相手にもしてくれないと分かり切っているからだ。
上治は前世で頂点に立っていた男なのだ。
千堂の中で神格化されていても致し方ない。
――――――――――――――――――――――――――――
「—―――はぁ。」
誰にも聴こえないようにため息を吐く。
上治は大会に出場してくれと、顧問に泣きつかれたので渋々引き受けたのだ。
予想通り、お遊戯レベル戦いだ。
本当なら一人でやれるところを三試合と謎の制限を食らって、満足に戦う事も出来ず彼は暇を持た余していた。
(早いとこ帰って、迷宮もぐりてえな。)
そんあことを考える上治は、ある情報を耳にする。
それは、上治にとって無視できない内容だった。
訊けば、全てストレート勝ち、棄権する選手が続出したそうな。そしてそいつと戦った相手は男女に貴賎なく、魔物を全滅させたようだ。
俺は、全て……に驚いた。
顧問のごく一般的な考え――引き際は、一体やられれば試合続行不能だと判断して、基本的にはリタイアしがちだ。
出来たら一体やられる直前までか。
そこの判断がある程度強権気味でも、許容されるのは将来有望な雛達の育成が止まってしまう事の方が宜しくない事だと分かっているからだ。
それなのに、—――全滅。
一体をロストさせた、とかではない。
全滅という言葉にえもしれぬ恐怖と、そのような強者がこの大会に出場している喜びがない交ぜになって複雑な心境になってしまう。
(第七か、まだ試合は始まらないにしても遠すぎるな。)
一応、アナウンスやMINEという連絡ツールで呼んでくれるが万が一、第一で試合が始まってしまったら……。
自分は先鋒だ。
闘技場に参集できなければ、その時点で敵に一勝くれてやる事になる。
それが不味いことだと分かっているので、足を運ぶつもりはないが―――気になるのだ。
(それほどの強者……もしかして、いやまさかな。)
俺は思い当たる人物の姿が一人だけ思い浮かんだ。
それは、千堂だ。
だが、頭を振って否定する。
小腹が空いたので、屋台でジャガバターを購入して第一闘技場へ戻る。
そこで、上治は奇しくも先程考えが過ぎった―――千堂の姿を発見するのだった。
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