第22話:新人戦大会⑥

「いけ、鬼火!!《ファイアボール》だ!!」

「ああっ!?」


 どうやら、趨勢は決したらしい。

 高校生、一年の戦いでは立て直しを図るのは難しいらしく、押され切ってしまう―――ごり押し戦法がかなり有用みたい。

 脳筋の俺に近い戦いを多く観ることが出来て、実に好ましい。

 

『第八闘技場—――Q高校とW高校の試合は3対2でQ高校の勝利となります!!』

 

 どちらの高校も、基本的に勝っても負けても一人、一回の戦いに徹しているようだ。それもまた戦略なのだろう。

 勝ちが常に残った場合—――勝って負けてを繰り返すと、最大試合数は一校当たり9試合になる。

 最終まで、もつれ込んだ場合、最大5の白星が得られるが4回の黒星も付いてしまう。勝ち星で判断する場合というのは勝数が同率校である場合のみなのだが、勝数-負数=得点……のような形になる。だから一人で多く戦えば良いという訳ではない。

 それが分かっているから、一人一殺じゃないけど、一人一試合にしているのだろう。

 俺が異例なのだ。


「この感じなら、本戦もアキくん一人で充分じゃない?」

「いやいや、そんなことはないよ。まだ全力とは限らないし。」

「それもそっか。」


 隣席している――、一緒に敵情視察をしている遥の目にはどうにも格下に見えてらしい。

 俺の目から見ても、それは間違いないのだが、そう開けっぴろげに言う事でもないので、マイルドに諫めておく。

 どうやら第八闘技場はハズレだったようで、見ている限り大した試合はなかった。

  

 —――というのもあり、肩透かしを食らってしまった感が否めず、僕達は屋台でご飯を買う事に―――。


「あー、このイカ焼き美味しそう。あっちはクレープだって!」

「この品揃え―――お祭りじゃん…。あ、イカ焼き一つ下さい。」

「あったりまえだよ!人が集まる所にお金を得るチャンスはやってくるもんだよ!出店で賑わってないわけないじゃん!あ、おじさんイカ焼きありがとうね!!」

「—―はは、まいどありぃ!」

 

 屋台のおじちゃんも苦笑している。すみません、と軽く頭を下げる僕に、気にしてないよ、と手を振るイカ焼きおじちゃん。

 僕達は色々な所で一つだけ、購入して買い食いする。

 何でもちょこちょこ色々食べたいらしく、半分こしているのだ。食べたのは――イカ焼き、クレープ、たこ焼き、ジャガバター、タンの串焼きなんてものもあった。

 

「まんぞくだー。」

「結構食べたね。」

「へへ、まあねー。」

 

 食べ歩きしてお腹が満たされた遥は満足そうに肩にもたれかかってきた。

 外で甘えることは珍しいので、頭を撫でてやる。

 すると、我に返ったのかもたれかかるのを止めてしまった。


「恥ずかし、アタシなにしてんだろ。」

「外で甘えるの珍しいよね。」

「ていうか、殆ど狩りばっかで甘えられてないけどね!」

「あ、すみません。その件に関しましては、大変申し訳なく―――」

「かたーい!アキ君はサラリーマンか!うちのおとんじゃないんだから!そうじゃなくて、ちょっとはカレカノ的な時間も作って欲しいっていうか……」

「え、ごめん。途中から周りの声にかき消されて……」

「もう、ばか!」

「ごめんなさい……。」

「時間ちゃんと作ってよね!」

「ああ、そうだね。隔週とかで日曜は家デートでもしよっか。」

「ほんと?!ぜったいだよ!!」

「うん、約束する。」

「えへへ。」


 遥は満足げな表情を浮かべてたと思ったら、恥ずかしがったり、すねたり、ツッコんだり、怒ったり、喜んだり、コロコロと表情が変わる。

 休息が余程、嬉しかったのか遥は破顔している。

 

「あーー、いちゃいちゃしてー。ウチらが敵情視察してる時に!」

「全勝だって?流石だな。その様子じゃ、オレが集めた情報は要らないかな?」

 僕らの事を発見して、声を掛けてきたのは雪村さんと一足先に情報収集してくれていた板倉だ。


「ああ、いや。俺達も第八の情報は集めてたよ。いまはご飯休憩してただけだ。板倉のその言い方だと、何か良い情報でも?」

 

 俺が弁解しつつ、板倉に話を振る。


「そうだ。第一闘技場に千堂—――お前みたいなバケモンがいるぞ。確か、名前は―――上治大翔かみじはると。M校の上治大翔かみじはるとだ。三枚抜きして交代するんだが、アレは俺じゃ厳しいな。」

「なにぃ?!上治大翔かみじはると先生がいるのか?!」

 俺は食い気味に身を乗り出す。板倉と雪村さんを交互に見る。本当なのかと問うように。

「え、えぇ、そうよ?てか知り合い?どういう関係?」

 雪村さんが困惑しつつ訊いてきたので、スマホのカバーを外し裏面を見せてやった。論より証拠を。


上治大翔かみじはるとのサインが書いてあるわ……」

「書いてるね。」

「わぉ……一般人の……同級生?知り合い?のサイン……誇らしく見せてくる人はじめてみた。」


 順に板倉、遥、雪村さん、三者三様の反応を示した。


「上治先生はまだ無名かもしれないけど、S級探索者になるお方だぞ?今からサインはもらっておけ。」

「たしかに凄かったけど…、で、結局どういう仲よ……。」

「先生らしいぞ……やたら強調して言ってるじゃないか……」

「アタシの彼氏、もしかして男もイケる……?」

 俺が変に自信満々にいうものだから、三人に変な顔でみられた。そこで我に返った。確かにこんなこといったら頭のおかしな奴に思われても仕方ない。遥に限っては変な誤解も持たれかける始末。


「じゃ、みんなで第一闘技場に行こうか!上治先生を応援しに!あ、いや敵情視察しに!!」

『………。』


 三人ともにジト目で見られた。

 それは俺に効く、やめろ!!

 下心よ、どうか透けないでくれ!!

 俺は視線でぶっ刺されながらも何とか第一闘技場に辿り着いたのだった。

 

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