第18話:新人戦大会②

 五校総当たりの新人戦大会第七会場、一回戦目のA高校とSS高校はA高校の二勝+不戦勝の三勝の五勝という圧勝で幕が開けた。

 この結果に、同会場で受ける出場校は度肝を抜かれている。

 まさに圧勝、完勝、そんな言葉が似あう一方的な勝ち方だったから。

 DDD、F、GGG高校は三者三様。

 先ほどまで驚愕に顔を染めていた彼等—――DDDは苦虫を潰したかのような表情を浮かべ、より真剣な表情に。

 F高校は記念勢らしく、女子生徒の一部はあんな醜態晒したくない、あの人と戦いたくないよぉ…なんて泣きべそをかいている。

 GGG高校も記念勢だが、顔を青くしている程度でA高校と当たる前に全滅覚悟で戦えばよくね?とA高校以外との戦いで力を出し尽くす気満々みたいだ。


 —―――詰まる所、F高校とGGG高校は、千堂には勝てないと、一方は心が折れ、一方は試合を観て察したらしく素早い切替をみせている。

 

『続きまして、DDD高校とGGG高校のみなさん上がって下さい。第二回戦をこれより始めます。』


 本会場で最有力候補のDDD高校がGGG高校にとっての初戦となった。


『DDD高校—――先鋒は荒井大樹くん――――対するGGG高校—―――先鋒は斎藤はじめくん――――闘技場へ!!!』


 DDD高校はE級フロストキッズ、E級下忍、D級ロックゴーレム。

 フロストキッズは雹や霜を生み出し、一部天候の操作をして有利な環境を作り出すことが出来る魔物。下忍は人型のTHE忍。

 ロックゴーレムはD級の岩石型ゴーレムタンク。


 GGG高校はE級デーモンラット、D級死霊の騎士、F級イビルラットだ。

 此方は、悪魔系統の魔物で構成されている。

 GGG高校も結構な強さだ。イビルラットの進化系がデーモンラットだ。D級の死霊の騎士は守護騎士と相対する存在として話題に良く挙げられる。

 守護騎士が白騎士、死霊の騎士が黒騎士なんて呼ばれ方もするくらい。

 ただ、性能は全く異なる。タンクに見える死霊の騎士はえげつない程の高火力アタッカーとして有名である。


 俺は、観戦席でみんなと一緒に試合を観ている。もちろん、隣は遥だ。

 端にいるので、隣は遥だけ。

 なぜ、端の席かというと、みんなのためにポップコーンを買い出しに行っていたからだ。


 そうなった経緯は、俺がぼろ勝ちしたせいだ。

 言い方が良くないな。対戦相手の女子生徒を失禁させたからだ。

 遥曰く、「やりすぎ!」だそうで。

 辱めるつもりはなかったんだけど、早く終われば他の会場で一戦でも情報収集出来るから――――っていう思いからどうしても手を抜かなかった結果なのだが……。

 応援に来ていた男子生徒含め宮前君ですら、女子生徒の放尿シーンに歓喜の筈が、気まずそうだった。

 もちろん、俺は顔には出さなかったよ。なんたって、紳士ですから。エロティックアクシデントとの遭遇は無罪システム導入してますから。

 風で見えてしまったパンチラは合法だろ?

 丈的に見えた夏の女性の脇チラは合法だろ?

 俺は心に焼き付けただけだぜ?

 


 まあ、そういうのも全部、見透かされたみたいでだいぶ遥さんはお冠なようです。

 なぜだ!何故バレている?!イヤ試されているのか?!

 兎に角、俺は甘んじて罰でポップコーンの買い出しに言ったわけだ。

 人数分なので、青い平らなプレートまで貰っての運搬だ。

 まあ、ポップコーン自体軽いので問題はない。


 席に着くと、戦いが丁度始まっていた。

 

 フロストキッズが闘技場の面を霜で覆う。

 有利な環境を作ったDDDが有利に見えるが、ラット系のような敏捷系は総じて、器用さも高いので、大した効果はないようだ。人型である死霊の騎士も基本的に器用さが高い。今回はフロストキッズの効果は薄い。

 

 ロックゴーレムが死霊の騎士の前に立ちはだかる。

 正面からぶつかるようだ。耐久馬鹿力vs技巧派馬鹿力の戦いだ。死霊の騎士が素早く何連撃も攻撃を加えているが、ロックゴーレムの耐久力は相当に高い。

 ロックゴーレムをみるに、《自己再生》でもスキルで持っているみたいだ。受けた剣傷が徐々に回復しているように見える。

 そして、ゴーレムの横薙ぎ一振り。

 足場が悪く、踏ん張りの効かない死霊の騎士は見事に吹っ飛ばされる。

 下忍の姿はない。何処だ?セオリー通りなら―――――俺は、イビルラットに着目する。

 やはり―――、一番弱いであろうイビルラットを始末するつもりのようだ。

 下忍の背面攻撃が繰り出される。

 イビルラットは苦無で斬られるも、反転攻勢に出るのが早い。

 怯まない辺り、勇猛果敢な性格なようだ。

 これはイビルラットの《毒歯》を下忍は食らってしまう。そこにデーモンラットも追撃。

 ここで状態異常は厄介だが、流石に一撃では《毒》状態には出来なかったみたいだ。

 ここで《毒》状態になれば相当に有利な展開だったんだけどな。実に惜しい。

 俺が状態異常攻撃を得意とする魔物を厄介だと思いつつも使わない点は、今みたいに肝心な時に一発で決まらなかったりするからだ。それにゴーレム系の無機物と死体系、幽霊・幽鬼も効果がない。案外、ボス戦では効く奴は効くので、戦略として補欠採用しておくのはアリなんだけどね。

 具体的に言うと、大須通のF級ボスに出てくるオークとかね。

 《毒》状態にした後は、逃げ回るだけで倒せる。

 まあ、《毒》状態に出来たら、の話なんだけどね。


 ああ、そろそろか。

 何度やっても《毒》が入らなかったのが運の尽き。

 イビルラットは戦闘不能前にカード化して倒されるのを防いだっぽいが三対二は形勢不利だ。

 下忍が落とせそうではあるが、一々隠密を使って姿をくらます敵は厄介である。

 追えば、逃げ、放っておけば、動かれる。

 

 下忍の体力の具合は、マスターをみれば分かる。

 先鋒の荒井くんとやらの息遣いは大分荒い。

 荒井だけにつってね?


「さむ?!なに?!」

 遥が突然寒がり出した。

 ふむ。フロストキッズめ……会場の温度が下がる程か。恐ろしい魔物だ。


 おっと?

 DDD先鋒の荒井君はどうやら、痛みに対して耐性が低いみたいだ。

 意識が、下忍に集中し過ぎてフロストキッズとロックゴーレムの指示が甘くなってしまっている。

 そこをうまく突いたのがGGG側。死霊の騎士がタゲ変更してフロストキッズに致命傷を与える。

 後衛キャラは前線に出すことが少ないので、経験値の入りがね?どうしても偏るよね。

 ま、耐久ステが上がった所で、後衛キャラは基礎HPの上限が低いからどれだけ鍛えてもちょっと硬い後衛にしかならないんだけど。それでも一撃耐えるか、二撃耐えるかじゃ、大きく変わってくるけど。


「ぐああああああああ!!!!」


 後衛の支援が戦闘不能になり、痛恨の喪失ロスト状態。

 デスペナルティのダメージでもう統率を失ったか。

 ダメージを避けてきたツケが大会で露呈したな。もう立て直せないだろう。それに今大会でのルール上、フロストキッズはもう使えないし。

 通常の24時間ペナルティも食らうだろうから、探索するなら二軍次第だろうけど、効率落ち確定は御愁傷様だね。

  

 自分で二人の探索者の主力を全て撃破した時は無慈悲なくせに、他人が他人の魔物を撃破したときだけ、謎に憐憫を抱く千堂であった。


「—――――――――ギブアップ!!!!」


 デーモンラットと死霊の騎士がロックゴーレムを袋叩きにし始めたので、DDD顧問がタオルを投げ込んだ。

 お陰で、次の他校との試合はロックゴーレムと下忍は使うことが出来る。

 

『DDD高校vsGGG高校の初戦は――――――なんと!GGG高校が勝ち取りました!!流石、先鋒に出てくるだけあって、両者ともよきよき!な戦いをみせてくれましたが、被弾する痛みに対して、DDD高校の荒井君は耐性が足りてませんでしたね!!!でもこれを馬鹿にしちゃいけませんよ?!回避&奇襲型の魔物を使う探索者マスターあるあるなんですから。あ、ピノキオくんの言葉を借りちゃいました、探索者エクスプローラーあるあるですから!!』

『別に言い直さなくていいですよ。』


 実況サポートする男性スタッフに注意されたのがマイクに入る。会場ではくすくす笑いが起きている。


 実況者は女だ。このノリの良さはマイチューブで活動している綾瀬だろう。探索者ガチ勢というよりかは育成の仕方や倒し方、有効打などの初心者が躓くであろう部分をサポートしている配信者だ。この人は多岐にわたる育成方針を打ち出し、幅広くカバーするちょっとした有名人なのだったのだが、現在のところは分からない。あくまで俺が知っているのは未来では、の話だ。


 安静を取って、GGG高校は先鋒は初戦勝で次鋒に。

 つまり、両方次鋒戦に突入した。

 五対五の勝ち抜き戦なので、好きなようにしていい。一人で二枚抜き三枚抜きもアリ。一戦ずつでも可。

 その判断はチームでしてもいいし、個人に委ねてもいい。


 次鋒戦は明らかにDDD高校の地力の差があった。

 もしかしたら先鋒がGGG高校のエースだった?と思えるくらいに。

 

 


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