第15話:

「……。双子ちゃん達は、前線維持。二尾ちゃんは《火輪かりん》ね。インプは《幻惑》。」

「ま、まあユキちゃん。そんなに根詰めなくても。」

「………。」


 遥のフォローも聞いているのか聞いてないのか。

 ただひたすら、インプの指導をしている。

 インプもインプでおふざけモードを早々に切り上げ、珍しくずっと言う事を聞いている。

 使役魔物とは精神が繋がってるからね。

 雪村氏が真面目くさってるから、インプもいつもとの違いを感じて素直になっている。

 二尾狐や、双子座の乙女の冷たい視線のせいもあるかもしれない。

 これが、ずっと続けば性格矯正できるだろうね。

 こればっかりは魔物もだけど、使役者本人がスパルタ指導しないと無理なのだ。

 インプだけは呼び捨てにしてるから雪村氏の覚悟が伝わってくる。

 精神が繋がっている魔物達はこういった些細な事もしっかりするしね。優しい雪村氏にこんなことされちゃ、インプには大ダメージだろうね。



「E級の魔物はもう相手じゃないね。」

「油断大敵……って言いたいけど、実際そうだよね。アキくんのキルスコアのお陰で、700体以上、倒せてるし。」

「それを言うなら、遥の影狼もヤバいけどね。ぶっちゃけ鬼と大差ないレベルで火力あるでしょ。」

 

 確実に三強の中に遥の影狼が入ってくる。

 リリエルは回復もこなしているから、ダメージレースで鑑みると聖猫や前線で戦ってる雪村氏の双子ちゃん達や二尾狐にも劣りそうだ。

 

 因みに怨念猿と眠眠羊の色違いが出てきている。

 砂漠地帯で戦う頻度が少ないので、悪蠍の色違いは手に入っていない。

 黒紫の体毛が黄色だから分かり易い。

 暫定で組み込んでいる遥に渡しておいた。

 俺も普通に使いたいけど、現状二枠しかスタメン起用してなかった遥の戦力増強が急務ということもあっての判断だ。


 

 ステータス

 鬼(青&黒) 性格:勇敢・勇猛 ランク:E

 力:D 572→586 耐久:C 650→660 器用:D 551→558 敏捷:D 540→550 魔力:I 8 幸運:D→C 600→642

 【スキル】…《挑発》、《罠解除》

 【パッシブ】…《格上級殺しキラー》、《耐状態異常》


 リリエル(黒) 性格;のんびりや ランク:E

 力:E 400→420 耐久:F 339→342 器用:D 520→530 敏捷:C 670→680 魔力:E 480→489 幸運:E 489→531

 【スキル】…《マルチレーザー》、《ヒール》

 【パッシブ】…《格上級殺しキラー


 ピノキオ 剣盾ver 性格;従順・嘘つき ランク;C

 力:D 520→525 耐久:C 608→612 器用:D 560→568 敏捷:D 562→565 魔力:E→D 490→502 幸運:H→G 369→411

 【スキル】…《ピノキオの投擲矢》、《嘘つきは力の源》

 【パッシブ】…《ガード貫通》、《耐状態異常》



 

 ステータスが軒並みD評価まで上がってるのに対して、リリエルの耐久の浮き具合は著しい。

 遠距離攻撃持ちの定めなんだけどさ。

 脳筋としてはやっぱりステータスの高さに安心感を得ると言いますか。敏捷がずば抜けてるから、回避したらいいんだけどさ。

 戦術にちゃんと組み込めてないから、倒されるという不甲斐ない事になってしまったわけで。


 《挑発》の判定範囲内に居ない敵はどうしてもすり抜ける。

 だから、雑魚狩りの時は、①攻撃、②回復でやったり、逆転させたり――後衛にヘイトが行くようでは前衛に火力を集中している戦法を取っていた――その延長戦上で対人戦をした結果が、あれだよ。


 だから遥に倒されて以来、①徹底した回避、②回復、③攻撃の順に仕込んでいる。

 

 もう易々と後衛崩しさせないんだからね!



「暫定後衛キャラに支援回復は積ませるべきだと思うけど、遥は怨念猿でいくの?」

「うーん、そこは悩んでる。まだ迷宮を潜るようになって二月だし……、正直こんなに早く一人のチカラを求められる日がくるとは思ってなかったから。」


 確かに。

 俺も遥の為にウルフしか用意してなかったし。

 せめて、三体揃えてあげてたら……いやぁ、きちい。

 自分の事で手一杯だったし。

 聖猫と影狼は……回復を覚えなくもない。

 自己完結型の回復能力だけど。

 他者を癒す能力持ちはショップで買うと高いからなぁ。

 ショップって探索局ね。

 

 こうなったら、やるしかないよね?

 何を?って?

 もちろん、ボス狩りさ!



「ええと、土曜から日曜にかけて、ボス狩りをしたいと思います。」 

「その心は。」

「支援回復役を手に入れるためです。」

「それはどの位掛かるの?」

「分かりません。階層主ボスがD級だからね。まず戦ってみないと。」

「E級迷宮の階層主を倒せるようになったら、一人前の探索者なんだよね?」

「はい。」

「ウチら、まだ迷宮探索始めて、二カ月だよね?」

「はい。」

「これって普通なの?」

「はい。」

『噓つけええええええ!!!!』

「……喫茶店ではお静かに。他のお客様もいるんだから。」

『誰が声荒げさせとんじゃーーー!!!』


「お客様、店内ではお静かにしてください。」


『あ、すみません………。』


 三人で店員さんに謝る。

 そう、此処は喫茶店である。

 コ〇ダ珈琲というお店だ。

 部活帰りに御飯も少し食べたいよねって事で、スタンバックスじゃなくて此方の喫茶店に寄ることになった。

 そして、大会までに支援回復系のD級を捕まえようかなと相談を持ち掛けたわけなんですが……。

 なかなかどうして、そんなに怒る事かなぁ?


「嫌なら全然僕一人で潜るよ。」

「アキくん、それは無理。」

「千堂くん、無茶は良くないよ。」

 


 流石に急いていると、言うことで話はまとまった。



 一人で潜るのは基本的にF級迷宮だろうと推奨されていない。

 E級で且つ、ボス戦ともなると二人が否定的な意見を述べるのは至極当然である。

 でも、もうE級どころかD級迷宮ソロ圏内の強さなんだよなぁ。


 E級くらいサクッと終わらせたいところなのだ。

 元より強さに、貪欲になっているのは自覚している。

 拍車を掛けるように――焦っているように見えるのだろうか。

 でも、俺は止まらない。

 もう止まらない。

 

 

 俺は取り敢えず、ボス一戦辺り何分掛かるのか調査することにした。


 E級は10階層もある。

 登っていくのは面倒だ。

 いや、実際には下っているのか。

 ボス部屋に辿り着くには一度は登らなければならない。

 でも一度で充分ともいえる。

 幸い、迷宮は階層スキップが可能だ。

 一度訪れた階層には入り口からワープすることが出来る。

 E級を攻略する気でいた俺は、とっくに10階層まで行くことが出来る。ただ、これは迷宮の罠でもある。

 行きはよいよい、帰りは恐い。

 探索者内で、そう囁かれる理由は――帰りはどれだけ下層に潜っても帰りだけはしっかり来た分の階層を一つずつ戻るしかないのだ。

 それが嫌なら、ボスを倒して、テレポート陣に乘る。

 だから基本的には攻略する気がないなら、一階層から順に慣らして進んで、狩場をその都度見繕う。これが一般的だ。


 

 平日の、夜活で時間は大してないけどボス戦と洒落込む。

 休日の時間がある時にやりたかったけどね。

 しょうがないね、連れ達が乗り気でないから。

 苦戦しないことを祈る。

 

『—―――キュイイイイイイイン!!!』

 

 甲高い鳴き声。

 一角が生えた白馬。

 ユニコーンだ。

 ランクはD。

 

 ボス部屋は平原。

 爽やかな風が吹き撫でる。

 奥に見える宝箱の存在が、なんともシュールである。


「鬼は《挑発》。制空権を活かして、リリエルも攻撃重視。ピノキオは《噓つきは力の源》を常に、そして苛烈に攻めろ。」


『了。—―《挑発》』

『……あい。』

『オッケー!ユニコーンはフケツ・フジョウのソンザイ!』

 敵を罵倒するか。

 今回が一番まともな嘘だわ。

 相手が理解してるならね?


 鬼が《挑発》する。

 このおかげで、ユニコーンは意図せずして、広いフィールドを活かせずにいる。

 鬼への攻撃欲求を抑えられず、離れられないから。

 それを真正面から受けて立つ。

 実に素晴らしい。

 それだけの耐久も往なすだけの器用も持ち合わせている。


 リリエルは上空から撃ち放題のやりたい放題だ。

 ユニコーンは天馬ではない。

 ユニコーンの上位互換—―C級になると天馬になるのだが、この時点では飛べない。

 野を駆ける馬でしかない。

 鬼に手綱を握られた馬にやれることは大してない。

 ダメージ覚悟で攻撃するくらいしかね。

 ユニコーンは回復スキルを持っているので、肉弾戦は実は得意である。

 殴れる回復役ヒーラーなのだ。

 

 だが、相性が悪い。

 此方は、肉弾戦に特化しているのだから。

 

 初戦闘時間は5分。

 ボス耐久用に強化されていてもこんなものらしい。

 俺は難無く、D級階層主を屠り続けた。


 ピノキオのバフが三段階にもなると――――、1分も掛からなくなってくる。

 攻撃こそ最大の防御と言わんばかりに苛烈に攻め立てる。

 攻撃の手は緩めない。

 

 ユニコーン、バフォメット、キメラ、毒骸、顎蟻、死神剣士、守護騎士、タイタン、蛮族—―Dランクの魔物をそこそこ手に入れることに成功した。

 

 ユニコーンと守護騎士くらいか。

 回復量で言うと、ユニコーンかな?

 守護騎士は全体防御強化も出来るので、回復量が少なくてもダメージ量が減るので、一概には言えない。

 

 取り敢えず、候補の育成を少しばかり済ませるためにユニコーンと守護騎士を召喚しておく。

 E級迷宮は5体まで召喚可能だからね。

 気づいたら、100体など優に超え、150体程ボス狩りが終わる。

 

 ピノキオや巴御前みたいな敵は出てこない代わりに――雑魚とボスがセットで出てきた。

 

「なにが起きた?」

 雑魚は鬼とリリエル。

 俺の手持ちと同じE級が出てきた。

 意味が分からない。

 ボスの強さは変わらず。

 敵が三体に増えた。なぜ三体?

 疑問は尽きない。

 雑魚ならもっと湧いてもいいだろうに。

 色違いが出てきた事にも驚愕している。

 聞いたことのない情報だ。

 まあ、一介のA級探索者程度だった自分の持っている情報などたかが知れてるんだけどさ。


 新発見—――というには余りにも衝撃的事実。

 

 取り敢えず、雑魚から。

 これは戦術の基本である。

 鬼とリリエルを倒すと、ちゃんとカード化……もするようだ。

 魔核も落ちる。ついでに《E級迷宮転移核》も入手した。

 雑魚魔物は無限湧きらしい。


 育成前だったりで検証しようもんなら命の危険にさらされてたけど。

 どれだけ倒しても、出てくるE級魔物は何故か、鬼とリリエルのみ。もしかしたら召喚しているE級魔物が出てくるのか?

 D級の守護騎士をカード化し、怨念猿を呼び出す。

 すると、怨念猿が出現した。

 雑魚の種類が一枠増える。

 怨念猿をカード化して戻すと、雑魚として湧かなくなる。

 

 仮説が正しいと証明された。

 

 雑魚が増えて難易度が上がったが、これは一体どこまで難易度が上がるのか……というさらなる疑問が生まれた。

 ただの雑魚魔物も、もしかしたら色違い化したりするのだろうか。

 仮にそうなら、凄いことだ。

 どれだけの死線の連続を潜り抜ければS級の―――、あの隔絶した高みに辿り着けるのか。その答えが分かった気がした。




 


 

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