第14話:日常

「えーとですね。皆さんに検討して貰いたいことがあります。—――それは、六月にある新人戦大会についてです。今年度は、参加条件を満たしているので、説明を聞いた上で、参加の有無等、話し合いをしていきたいと思います。」

 部活動開始前。

 賀茂川先生が部室に集まる生徒に話始めた。

 「新人戦の説明からします」と、前置きがあって、


「一年生限定団体戦の部と、一年生、二年生、三年生、—―各学年から一組ずつ選出した総合戦の部の二部存在します。一年生の部は先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の五人を選出し、勝ち抜き戦をする事になります。登録出来る魔物は全部で三体までです。倒された魔物は迷宮と同じ、24時間の使用不可制限と、ステータス低下&性格改悪が起きる可能性があります。途中、倒された魔物がいる場合、使う事が出来ないので、勝ち抜いていっても三対二や、三対一といった数的不利が生じる試合も出てくるでしょう。最悪の場合、不戦敗となってしまう事もあるので気を付けてください。戦略的撤退も視野に戦うことになるということです。参加するメリットは賞品が手に入ります。優勝チーム全員に、好きなD級カード二枚とアイテムが、準優勝チーム全員に、運営が足りないと思った即戦力になるD級カード一枚とアイテムが、三位チーム全員に、E級カードとアイテムが配られます。勿論、参加する意義は他にもあります。冷静な判断力や、手持ちの見直し、連携の大切さを知る事で、皆さんの実力の底上げが図れる良い機会です。ので、先ずは参加したい方が5名居ればいんですけど……一年生のみなさんの中で参加意欲のある方は挙手してください。」


 俺は、賞品に食いついた。

 思わず手を上げてしまう。

 この手に釣られやすいんだよなぁ。

 周りを見てみると、俺だけではなく―――男子は俺含め七名、女子は遥に雪村さん、藤井さんの三名だ。

 参加枠は当然、5枠しかない。

 どうやって決めるのか。


「10名ですか。意外に多いですね。では、試合をするので学内にある模擬試合部屋に行きましょうか。あそこなら、ペナルティの全てを無効化出来ますから。思う存分、戦えるでしょうし。総当たり戦といきましょう。」

 

 俺達は、部室から直通で繋がっている模擬試合部屋に訪れた。

 参加表明しなかった女子も付いてきている。

 魔物とばかり戦っていたので試合に惹かれたのかもしれない。

 部屋の造りは、20メートル四方の正四角形の部屋だ。壁はガラス張りのような材質で、地面は衝撃板みたいなものを練り込んだ特殊素材。部屋の中は外から丸見えだ。お陰で模擬戦闘する者以外は、部屋の外から観戦することが出来る。

 外から拡声器を使って、室内にアナウンスすることが出来る。



「では、まず――千堂君vs板倉君。土俵に上がって下さい。」

『はい。』

 どうやら初っ端で、しかも四月にちょっとだけ揉めた子と当たるとは。

 お互い、謝罪し合ったので蟠りはない。

 ただ、変な感じ。変な空気。

 ああいう事があっても辞めなかったって、割と精神は強いよね。

「千堂が強いのは知ってる。既にE級迷宮に潜ってるくらいだ。俺自身が、全力を出す相手でもないって分かってるけど、手加減はしないでくれ。どのくらい力量は離れてるか知りたいんだ。」

 板倉は真剣そのものだ。

 最初から手を抜くつもりはなかったけど、本気でやろうか。

「分かったよ。どうせ倒されても24時間ペナも何もないもんな。よろしくな。」


 俺と板倉はお互い、魔物を三対召喚する。

 俺は――ピノキオ、鬼、リリエルだ。

 板倉は――メドゥーサボール、ミノタロス、闘牛蛙だ。

 メドゥーサボールはE級。

 浮遊している球に大量の蛇がうねうねとしている。

 神話に出てくるメドゥーサの頭みたいなやつだ。

 ミノタロスはE級ボスで出てきたよね。牛頭人体だ。

 闘牛蛙はE級。

 闘牛がベースに蛙のような跳躍を可能とした蛙足、舌が特徴的。機動力が高い中距離魔物だ。

 全てE級で揃えてきている辺り、やるなぁ。

 普通に出来る子くんだわ。


『では、戦闘—―はじめ!!』


「ピノキオ、《噓つきは力の源》。鬼は《挑発》、リリエルは闘牛蛙の突進に気を付けてサポートしろ。」


『テンムスはアイチのモノ!ミエはダマッテロ!』

 やめろよ、触れにくい所触れるの!!

 ピノキオくん、後半はただの暴言だぞ!よくないぞ!

 鼻がにょきにょき伸びる。一段階攻撃力強化成功。


『《挑発》!!』

『《突進ぶもぉ》!!!』

 鬼のスキルと闘牛蛙のスキルは同時に発動している。

 ただ、突進中に《挑発》しても進路はもう決まっている。

 鬼をすり抜け、後衛のリリエルに突撃敢行成功――でもそれをリリエルはひらりと回避する。

 リリエルは背面を見せた闘牛蛙に矢を番え、照準を合わせる。 迎撃—―ばびゅん!!!ズドドドド――。

 敏捷、力、耐久、どれをとっても、高水準の闘牛蛙に着弾。

 同じEランクではあるけど、リリエルの連射に闘牛蛙—―撃破。

 ミノタロスが鬼に釣られている。

 攻撃を正面から打ち合っているが、此方の方がステータスが高い。確実に打ち勝っている。


「メドゥーサボール、《石化噛みつき》!!」

 

『シャアアアア!!!—――!』

 ―――スパン!!

 噛みつかれる前に、ピノキオが一閃。メドゥーサボール――撃破。

 そして、背後から二閃。

 ミノタロス――撃破。


『勝者――千堂君!』


「後衛狙いの《突進》は良かったよ。初戦は確実に初見殺し出来るんじゃないか?」

「ああ、簡単に躱されてたけどな。精進するよ。全力で来てくれてありがとな。」

 俺は板倉との戦いから、順に、宮前、西、東郷、南、北川—―男子六人をいとも簡単に倒し、女子陣とも戦う。


『では、志水さん入室してください。』

 先生のアナウンスで次の相手が指名された。

 お次は遥だ。

 

「彼女だからって手加減しなくていいからね。」

「手加減したら、足元掬われちゃうよ。」

 俺達は軽口をたたき合いながら、召喚する。

 召喚するたびに、魔物のHPは全回復するのだ。

 俺の魔物は初戦から変わらない。

 遥は――影狼シャドウウルフ聖猫ホーリーキャット、怨念猿だ。

 俺が不良の始末をしている間に、彼女は彼女で融合進化でもしたらしい。供物も掛け合わせているのかな?

 E級魔物・影狼は通常種でもレアである。それが赤い影狼……赤いボディに黒金が混ざり合った紋様—―素晴らしくカッコいい。

「本当は、今日迷宮でお披露目する予定だったんだけどね。」

 これは本当に舐めてるとキツイかもしれない。

「遥が相手でも負けないよ。」

 俺は気合を入れ直す。


『戦闘、—――はじめ!!』


「ピノキオは《噓つきは力の源》、鬼は《挑発》、リリエルは牽制!サポートに徹してくれ!」


『マスターはウワキモノ!オンナ、フタリ、ゼイタク!ユルスマジ!!』

 ちょ?!勘弁してくれよ。

 チームメンバーが女二人だからって浮気者って!!!

 部屋の外では笑い声が聞こえてくる。

 はずいいい……精神攻撃だーーー。


『《挑発》!』

 鬼がヘイトを集める。

 釣られたのは、聖猫だ。

『《影分体にゃ》』

 四方を囲まれて、鬼は分体の相手を背ざる負えない。

 空中に陸に包囲の仕方も厄介だ。

 鬼が倒そうにも、敏捷特化型の同ランクでは中々本体を仕留めることは叶わない。

 同じように戦闘訓練を積んだだけあって、まじで強い。


『……《マルチレーザー》!!』

 本体含め、全ての敵にリリエルの攻撃が炸裂する。

 聖猫、怨念猿に攻撃が当たる。

 

 分散した威力のせいで、《マルチレーザー》は牽制程度にしかならない。

 影狼の姿はない。


『《影牢》』


 隠れていた影狼にリリエルが囚われる。

 遠距離に回して以来—――中々耐久が上がってなかったせいで、囚われたリリエルは影狼の強襲に耐えられない。

 大ダメージを受け続けたリリエルは速攻—――撃破された。

 戦闘で、最初に魔物を一枚失ったのは――俺。

 

『イッチョアガリ!!』

 ピノキオは、怨念猿の《投石》を避け、距離を詰めていたが、《マルチレーザー》を受け、一瞬怯んだ隙を突いて間合いを詰めることに成功していた。

 お陰で、怨念猿を射程圏内に捉えたピノキオは片手剣で薙ぎ払う。

 二軍—―まともに育成出来ていなかった怨念猿は一撃で倒れた。


 一段階攻撃力強化を積むせいで、いつも初動が遅れる。

 まくれるだけの強さはあるんだけどなあ。

 最初は防御態勢—―余裕があったらバフを盛るべきだろうか。脳筋しすぎた?ちょっと考えものかもしれない。


 反省点を見出していると―――、 


「聖猫、影狼、頑張って鬼を集中攻撃!!!」

 聖猫と影狼の連携技に翻弄されている鬼。

 でも鬼の耐久は随一。そう簡単に倒れはしない。

 でも回復手段を失ってしまったので、バカスカ攻撃を食らっても居られない。

 鬼は、猛攻に耐えた。

 鬼の下へ――ピノキオが合流して、二対二。

 しかし、数的有利は向こうにある。

 聖猫の《影分体》のせいで向こうに軍配が上がる。

 パッと見、二対七くらいだろうか。

 ピノキオの一撃には耐えられず――――、

 一体一体、聖猫の数は減っていく。


 圧倒的攻撃力で先ずは、聖猫を撃破した。


『マスター!ホンキでタタカエ!スキなオンナだからッテ、テをヌクナ!イヤ……コレが、ホンキ?』


 鼻がにょきにょき、二段階攻撃力強化成功。

 手は抜いてない。そもそも本気だ。

 元々脳筋だった故、仕方ないのだ。

 初手油断したのは事実だけど……。


「ピノキオ、鬼!!影狼だけだぞ!捕まるなよ!気を付けろ!」

 

 ダメージが蓄積されまくった鬼は、落ちかけだ。

 誰よりも火力も敏捷もあるエース級影狼に、正直驚いている。


『《影牙シャドウファング》』

 鬼が喰われた。

 影に潜んで、逃げ隠れする影狼が実体化した隙を見逃さず、ピノキオが一閃。

 食い破られた鬼の敵討ち―――影狼を討ち取った。


『勝者――千堂君!!すごいですね、志水さんは千堂君を良く追い詰めたと思います。』


 今までサクサクと俺が倒してきたので、遥の戦いぶりにみんな熱狂している。

 先生まで、遥を褒める始末だもの。

 俺は?ねえ、勝ったの俺なんだけど。

 模擬戦闘部屋から出ていく遥の方が人気者とは、これ如何に。

 激戦であったのは間違いない。

 普通にセンスあるんだよなぁ。遥さんて……。

 ピノキオじゃなかったら、もしかしたら負けてたかもしれないレベルなんだよなぁ……。


 雪村さんは、インプ、二尾狐、双子座の乙女。

 天使の派生形の進化—―双子座の乙女。

 E級だが二対一体で、戦乙女見習いみたいな、女の子だ。

 盾と剣、盾と短槍の組み合わせ。

 長髪(青)と短髪(赤)で可愛いし純粋に強い。

 バランスタイプだ。

 二尾狐は正統派進化—―D級だ。

 尻尾が二又に、且つ成体になった狐。

 インプはE級。割愛。

 

 そして、戦いは―――否、!割愛させて頂こう。

 インプさえ、まともに機能していれば、そこそこの戦いにはなったかな?って感じ。


 まだ三週間程度だし。

 ピノキオの時はって?

 育成の仕方が違い過ぎる。

 俺はストレス値はギリギリを攻めてたよ。

 それこそ、モ〇スターファームガチ勢レベル並みの調整よ。

 しごいたし、明らかな魔物格差を――対応の差をピノキオ自身に味わってもらったからね。

 それに比べて……雪村氏はやはり甘い、甘すぎる、甘党だよ。

 命令が聞けたら、すーぐ純度100%の飴をあげるんだから。

 中々どうして、スパルタ指導力が足りないのだ。

 飴の中にも毒を仕込まねば無理ぞ。



 藤井さんは、堅実なパーティーだった。

 E級ゴーレム、E級魔女っ子、D級プチラウネ。

 前衛、中衛、後衛のバランスの取れている。

 D級のプチラウネが回復役に状態異常付与、E級の魔女っ子が魔法攻撃、耐久・物理攻撃特化のゴーレム。

 セオリー通りのパーティーは崩しやすい。

 純粋な力技が通るからね。

 プチラウネは、アルラウネの―――植物型の幼体形態みたいな人を模した魔物。

 魔女っ子は、魔女見習いみたいな女の子だ。おジャ魔女ど○みを彷彿とさせる見た目だ。これは完全に人間にしか見えん。

 ゴーレムは、ボスで紹介済み。割愛。

 

 この強さなら普通にE級に挑戦しても問題ないように思える水準だった。欲を言った指摘……をすると、ちょっと火力面が足りないかな……って感じ。

 栄と大須で取れる魔物E級魔物を使ってるせいもある。


 戦い自体に歯ごたえはなかったけど、思ったより楽しかった。

 前世は、こういったお互いの手持ちを知る機会とか、戦術とか、高め合って学び合うような部活らしい部活をしてなかったからね。

 痛い→遥→痛い→遥→痛い→痛い→耐えって感じ?もう目の前の戦いで手一杯で、他人の事なんて気に掛ける余裕がなかったとも言うんだけど。

 

 全勝した俺に続いて強かったのは―――遥。

 三番手に、藤井さん。

 四番手に板倉くん。

 五番手が宮前くん。


 惜しくも、六番手に雪村氏—―となった。

 インプがまともに試合し始めたのが丁度、この五人に敗れてからだった。真面目にやらないと負ける→負けるのなんか腹立つ。→言う事聞く。みたいな感じで。

 俺以外の時にずっと不真面目だったかっていうと、インプもちょこちょこ言う事は聞いてたけど、その程度で倒せる程……探索者が愛情込めて育ててる魔物は弱くない。

 

 雪村氏にとっては恥辱の極みだったかもしれないけど、インプにとっては、良いお灸になったかもしれない。


「それでは、一年生団体戦は、千堂くん、志水さん、藤井さん、板倉くん、宮前くんの五名で異論はないですね?」

『はい!』


 なんだかんだ、根を詰めて皆迷宮探索をしていたので良いリフレッシュになったと思う。


「上位二人――千堂くんと志水さんにペアになって、総合戦も戦って貰おうかと思ってるんですが、ペア戦もやってみますか?」


「いや、大丈夫です。そこが組まれたら勝てそうにないんで。」

 宮前くんが言う。

 それを皮切りに上位入賞ペア達はみな戦うことを諦めた。


「では、総合戦の部は、三年—―武臣&刑部ペア、二年—―福部&斎藤ペア、一年—―千堂&志水ペアという事で宜しいですかね。」


「ついに……ついに大会に出れるのか!!部の存続だけで手一杯だった俺達が―――!!!」

「暑苦しいわね。武臣部長のやる気が空回りしないよう、副部長としてしっかり調しておくから安心してね。」


 調整ってなんだ。

 刑部副部長がやっぱり裏番長—―いや権力を握っているよな。


「……。」

「一応、やる気はあるみたいだから。ははは。」

 

 福部先輩は相変わらず、斎藤先輩が尻拭いしている。

 

 先輩達の関係性に首を突っ込むのもアレがアレなので、そっとしておこう。



 話がまとまったので、俺達はいつものように栄F級迷宮に飛んだ。




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