第13話:栄E級迷宮

 ゴールデンウィークという名のゴールデンタイムは終わった。

 俺は日々の学校生活と迷宮探索に精を出している。

 俺はソロでもE級迷宮へ潜るようになった。

 部活終わり――今は、三階層を拠点に夜活中だ。


 最近やけに、不良が多い気がする。

 探索者は潜っていると出くわすことはある。

 穴場でもない場所での狩りは特に。

 探索者同士の揉め事を回避するためにも、、近づかない。それが暗黙の了解だ。


 向こうもマナーを守っているので、出くわした不良達に難癖をつける。といったことはしない。

 最近、不良を嵌め殺したばかりだからか、似たような人間に敏感になっているのかもしれない。


「意外とセンチメンタル…?」

 俺は、自分が感傷的になっている可能性について黙考する。

 深層心理はどうなのか。

 何とも思ってない筈なんだけど。

 もしかしたら、本当に不良が多い可能性も捨てきれない。

 

 俺は、時刻は22時だが早めに切り上げることにした。

 

「ソロとかアンタつえーんだね?」

 

 刈込を入れたイカツイ不良達が近寄ってきた。

 戦闘中でもないし、話し掛けちゃいけないって決まりはない。


「どうなんですかね。」

 当たり障りのないような、流す様に返す。


「色違いじゃん。やるねぇ」

「ほんと、すごーい。」

「俺も色違いほしーわ」

 なんて、男女混合三人組の不良達が口々に言ってくる。

 俺の帰りのパーティーは骸骨戦士、怨念猿、リリエルだ。

 これは二軍の育成と色違いだらけなのを隠すためだ。

 悪蠍イビルスコーピオンも持っている。

 だが、回復役なしでソロで帰還するのは流石に困難。

 致し方無く、リリエルは召喚している。

 一体だけとはいえ、不良達は目敏く、リリエルが色違いなのを指摘した。

 ま、天使系なのに翼が黒だからね。目立つのかもしれんけど。


「俺、そろそろ帰るんで、お先に失礼しますね。探索頑張って下さい。」

 俺はそう言って、そそくさと迷宮を出た。

 引き留められるわけでもなく――何事もなくて良かったよ。


「アイツじゃね?」

「だよねえ。」 

「違っててもいいわ。天使系の色違いとかアツすぎ。」

 ニヤニヤと不良達が不穏な会話をしている。

 もちろん、足早に迷宮を出た俺はその会話を知る由はない。


 

 某廃ビル。

「なんでアタシまで呼ばれなきゃいけないの?タイガだるすぎ。」

 女は、不良リーダーの膝に座って愚痴を零す。 


「いーじゃん。お前サキ、レアモンスター欲しがってたろ?」

 タイガと呼ばれたリーダーは、サキという女を宥める。

 

「—―――!連絡ありました。天使系の色違い持ってるソロ探索者がいたそうです。」

 不良の下っ端がリーダー達に報告する。

「天使系の色違いだってよ。激熱じゃん?」

「そうねえ。プレゼントしてくれる?」

「もちろん。サキにやるよ。」


 他人のカードを奪う事が前提の下衆い会話だ。

 誰だか、分かんねえけど目を付けられたおめえがわりぃ…なんてことを下っ端不良は考えていた。


 五月中旬。


「ホントに貴方達、E級に潜れるようになったんだね。」

「頼もしい後輩達だなっ!!!」

 刑部副部長&武臣部長ペアが喋りかけてきた。

 一緒にE級迷宮に向かっている所なのだ。

「僕達の立つ瀬がない……。」

「私達とは意欲が違うのよ。今年の新人ちゃん達は。」

 福部&斎藤二年生ペアも勿論一緒だ。

 珍しく福部先輩も喋るくらい。

 最低限の事しか話をしない人が自発的に話すくらいだ。

 普段喋らない相方が話しているのが嬉しいのか、斎藤先輩は微笑んでいる。

 まるで、保護者だな。 


「無理はしないようにしてくださいね。不良との揉め事の一件で、私は主に一年生の方の巡回強化をします。此方は部長達にお任せしますよ。」

 賀茂川先生は、F級迷宮の治安の方が気になっているみたいだ。

 ま、被害に遭ったのは一年だしね。

 でも、そっちの害虫は潰しておいたんだよ?なんて言えないし、害虫は他にもいるかもしれないから。

 巡回は頑張ってもらいたい所だ。




 ステータス

 鬼(青&黒) 性格:勇敢・勇猛 ランク:E

 力:D 560→572 耐久:C 630→650 器用:D 539→551 敏捷:D 520→540 魔力:I 8 幸運:D→C 523→600

 【スキル】…《挑発》、《罠解除》

 【パッシブ】…《格上級殺しキラー》、《耐状態異常》


 リリエル(黒) 性格;のんびりや ランク:E

 力:F→E 360→400 耐久:F 339 器用:E→D 490→520 敏捷:C 640→670 魔力:F→E 399→480 幸運:E 412→489

 【スキル】…《マルチレーザー》、《ヒール》

 【パッシブ】…《格上級殺しキラー


 ピノキオ 剣盾ver 性格;従順・嘘つき ランク;C

 力:D 500→520 耐久:D→C 590→608 器用:D 550→560 敏捷:D 550→562 魔力:E 480→490 幸運:H→G 292→369

 【スキル】…《ピノキオの投擲矢》、《嘘つきは力の源》

 【パッシブ】…《ガード貫通》、《耐状態異常》



 確実に成長し続けているお陰で、最高評価はCまで来た。これはA級魔物の初期値にぎりぎり――最底辺のラインである。

 前衛達の耐久はA級に匹敵し、後衛の敏捷はA級に匹敵するということだ。

 E級迷宮どころか、D級も攻略基準を大幅に超えるだろう。

 ソロ攻略も夢ではない数値だ。

 流石にC級迷宮は無理だけどね。

 

 部活帰り――。俺達は各々メンバーチェンジしている。

 色違いは悪目立ちするからね。

 最低限、遥はウルフを連れ、雪村女史は幼狐を抱っこしているけど。俺はリリエルを連れているし。


 三階層から二階層へ移動中。

 二階層は見通しが少しばかり悪い。

 草原の草の丈が地味に高かったりする。

 だから、俺達は三階層を拠点にしていた。 


「おお、すげえじゃん。」

「三体も色違い?みんな一体ずつ持ってんの?やば!」

「しかも、高校生が二人も女連れちゃってよ。やるねえ。」


 制服姿の俺達をみて、冷やかし&ダル絡みをしてきたのは夜活していた時に出くわした不良達だ。

 召喚している魔物はE級、F級の混合パーティーだ。

 似たような編成に既視感を感じる。

 俺が殺したF級にいた奴等……栄を拠点に活動してた不良グループ連中なのかもしれないな。

 

「俺達、もう帰る所なんで。」

 俺がそれだけ言って、脇をすり抜けようとする。

 すると、通せんぼするように草陰から不良が増える増える。

 計、6人まで増えた。


「ちょっと、俺達も色違いとかいうレアモンスター欲しいんだよね~。譲ってくんない?」

 刈込を入れた金髪の男が、先頭に立って交渉……いや脅迫してくる。

「無理に決まってんじゃん!ばかじゃないの?!」

「そうよ、ウチらの魔物を奪おうとかあり得ないんだけど!!」 

 遥と雪村女史は激昂して、言い返す。


「奪おうなんてしてねえよ。譲れっていってんだ。」

 不良が威圧的な態度に出ると怖いんだよなぁ。


「その態度で、譲るわけないでしょう。せめて全裸になって、土下座でもして懇願してくれないと。もちろん、お前ら全員な。」

 俺は挑発的な言葉を掛けた。

 戦闘は避けられないしね。


「舐めやがって!!!」

「じゃあ、奪っちゃえ♡」

 いやらしく笑い、不良達は続々と魔物を召喚していく。

 

「おめえら、やっちまえ!」


『グオオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 敵の魔物達の咆哮が木霊する。


「遥、雪村さん、出し惜しみしてらんないよ。それと深追いはしないで。僕に任せてね。」

「うん!」

「おっけー!」

 俺達は一軍パーティーに切り替える。


 一番ガタイの良い男の魔物は――ミノタロス、ゴーレム、悪蠍。どれもE級だ。

 

「ピノキオ、《噓つきは力の源》。鬼は《挑発》、リリエルは《マルチレーザー》。速攻で片付けるぞ。」

 

『マッカセテ!オイラは、アイドル!トイレなんか、シナイヨ!』

 鼻がにょきにょき伸び、一段階攻撃力強化。

 えげつない攻撃がゴーレムを即死させる。

「ギャアアアアああ!!!!」

 

『《挑発》ッ!!……カカッテコイ!!』

 鬼にヘイトが集まり、不良達の指示は思う通りに通らない。

 ま、不良共は指示らしい指示なんてしてないけどね。

 敵の前衛組は一様に、鬼へ集中砲火。

 そこらにいる雑魚と一緒ってわけじゃない。

 ここにいるのは、探索者の魔物だ。

 やはり、それなりにダメージは入る。

 

「効いてるぞ!やれええええええ!!!!」

 

 俺がダメージを受けているのを見て、狂笑を浮かべている。

 勝てると思っているのだろうな。

 馬鹿が。


 鬼が薙ぎ払う。

 敵は思わぬ反撃に、防御が間に合わない。

 

「キャアアア!!何してくれんのよ!!」

 そこらのブスが悲鳴を上げる。

 痛かったんだろうな。


「グォオオ……!!!」

 大柄の男が倒れ伏す。

 パーティーが全滅したのだ。


「おい、クソっ!!」

 倒れた男を起こそうにも、脱力し切った大男を支えるのは不可能だ。刈込の金髪野郎は一人で抱えきれないので二人掛かりで救助している。


「オイラは、女装家ジョソウカ!マスターも、女装ジョソウダイスキ!」

 ぐふ。なんか違うダメージが?!

 ピノキオさん!?

 し、白い目で見られてるような気がする!!!!

 鼻がにょきにょき伸び、二段階攻撃力強化。

 このあとの方が怖いです!!!


「イデエエエエエエ!!!」

「ギャアアアア!!」

「逃げろ!!!俺達じゃ無理だ!!ひけ!!!!」

 半分程蹂躙すると、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


「待って、まってよ。ブフッ!!!」

 トロくさい女が逃げ遅れた。

 俺はクソ女の鳩尾を思いっきり蹴りつけた。

 草陰に倒れ込んでいる。

 幸い、二人は散り散りに逃げていく奴等に意識が向いていたみたいでバレてないぽい。


「なあ、遥と雪村さんはこの事を先輩達に報告してきてくれ。もしかしたら、生徒を狙った犯行かもしれない。先輩達は二人組だし、危険な目に遭ってるかも。俺が背後からの奇襲に備えて、殿を務めるから。二人は前だけ見て、急いで!!」

「分かった!アキくんも気を付けてね!」

「ウチらにまっかせて!!!」

 二人はダッシュでフィールドを駆け抜けていく。


 草陰で倒れ込んでいるクソ女の髪を引っ掴む。

「お前が、知ってる事全部話せ。」

「うぅ……わ、わがっ……ちょ、っと…まって」

 女は先ほどとは一転、怯えている。喋りにくいのは単に鳩尾に入った攻撃のせいだろう。


 カードホルダードッグタグは預かっている。

 もうこいつは召喚出来ない。

 首元にはピノキオの剣が、正面には鬼、上空からはリリエルが弓を構えて、狙いを定めている。


「う、うちらは名古屋の―――某所廃ビルにいつもいて、多分、逃げたアイツ等はもっと大勢引き連れてアンタ達を執拗にねらうでしょうね!!」

 テンプレみたいな脅し文句で交渉してるつもりか?

 でも居場所は分かった。

 もうこいつに用はない。


「リリエル。」

『……あい。』

 弓が引き絞られる。


「ちょ、ちょっと待って!!!も、もしウチを逃がしてくれたら辞めるように説得してあげる。ねえ、それか一発させてあげるわ。アンタ、どうせ童貞でしょ?!女すら知らないなら十分な報酬にならない?!」


 スパンッ!!

「ごふっっ!!……?!?!?」

 女の喉が穿たれている。

 リリエルの放った矢が命中したのだ。


「ピノキオ。」

「マッカセテ!!」


 ズバン!!!!

 一刀両断した。


 女は絶命した。

 死体はどうせ迷宮が吸収する。

 もしくは魔物が食い荒らすだろう。


 俺は、遥達と合流することにした。



 制服姿なので、割と分かり易い。

 色違いのウルフも目印になる。

 

「無事だった?」

「うん。そっちも無事だったみたいで良かった。」

 遥は遅れてきた俺を心配していたみたいだ。

「先輩達も、揃ってますね。話は遥達から聞きましたか?」

「ええ、もちろんよ。それに貴方達の言う、不良達が逃げるように迷宮から出ていく所を私達も見てたしね。」

 刑部副部長達は、一階層で戦っていたから、出入りする人を見ていたらしい。

 その中でも、パッと見で悪そうな輩は記憶に強く残っていたみたいだ。

「あの時の連中か!!!俺も覚えてるぞ!!!」

 許せん、と憤慨している武臣部長。

 後輩が絡まれたのが三週間くらい前の出来事だ。

 彼も警戒していたみたい。


 俺達は、迷宮から出た。

 部活が終了時刻ということもあってね。


「はぁ……分かりました。もしかしたら、教員を増やすか、外部の高校とも連携して、強化する必要があるかもしれないですね……。すぐに、解決は出来そうにないかもしれません。」

 報告を受けた賀茂川先生は頭を悩ませながら話す。

 

「そちらは大丈夫でしたか?」

「ああ、F級迷宮は治安が良かったですね。たまたま運が良かったのかもしれませんが。もしくは制服効果……があったのなら、千堂君達は襲われなかったか……はぁ。」

 先生は溜息を吐いた。

 幸せが逃げちゃうぞ。


「とりあえず、皆さんが無事で良かったです。夜も更けてきましたので、解散しましょう。」

『お疲れ様でした。』

 

 俺達は、解散した。

 遥を駅まで見送り――そして、夜活だ。

 いつもの流れである。


 襲われたばかりなのに不用心だろう?

 でも、それも作戦だ。



「あいつ等、まじで強かったんだよ!!!聞いてくれよ!!!」

「ほ、ほんとよ!ほんとなんだから!!!」

 逃げ帰ってきた不良連中は必死に弁明する。

「逃げ帰ってきたカス共はもう要らね。食え、オーガ。」

 街中での召喚は違法。

 だが、廃ビルに警察の目はない。

「や、やめで――――――!!!」

 碌に戦えない状態の先発隊はD級魔物オーガに無惨にも食われた。男女問わず、殺し、死体はオーガの腹の中へ。リーダー・タイガが栄エリアを牛耳っている。殺しを平気で行える精神に強さを持ち合わせているから――不良のボスとして君臨している。逆らう者、使えない者は殺されるのだ。栄エリアでタイガに逆らう不良はいない。


「はあ。洗剤撒いて、水洗いすっか。掃除が済んだら、迷宮に行くか。」

『うっす!』

 震えながら、血だまりの掃除を始める下っ端不良達。

 仲間だった者の忠告を無視するだけでなく、容赦なく命を奪う化け物の機嫌を損ねたい者はいない。


五人分の血だまりを洗い流し―――

リーダーとその側近達とりまきがE級に向かった。


「タイガ、ほんとにこの辺り?てか、今日襲われたのに来てたら不用心過ぎない?」

「いや、大体の主力を倒したと思ってるんだとしたら……クールタイムの24時間は寧ろ安全だと考えているんじゃないか?高校生が夜活までしてるんだ。合理的に考えて、報復は準備を整えてからって思うだろう。寧ろ、無理してでも、対抗するために経験値稼ぎしてる可能性だってある。」

 タイガと呼ばれたリーダーは饒舌になっている。

 久しぶりの狩りに気分が高揚しているのだ。

 リーダーの女、サキは呆れている。

 側近の不良男二人に下っ端が三人。

 合計、七人。

「しかも事前情報じゃ、夜活してる時は一人なんだろう?六対三じゃ、実質二対一だ。だが、俺達は七人。七対一で負けるわけねえ。D級持ちだろうと勝てる。」

「……。そうね。いたらラッキーって感じね。」

 サキはどこまでも冷めている。

 


「おおー。不良の方々がまた大勢で。」

 場所は四階層—―――俺から話し掛けた。

「骸骨剣士に天使系の色違い……単独探索者ソロエクスプローラー……お前か。まさか、そっちから出て来てくれるとはね。」

「ラッキー。ただの馬鹿じゃん。」

 女の声に覚えがあった。

 俺はソイツを一瞥する。

 見知った顔だった。

 いや、十年若返った女の顔だ。

「早紀……?高杉早紀か……?」

 多少、上擦ってしまったかもしれない。

 震えそうになる声を必死に抑えながら…。

 俺は名指しで不良グループの女の名前を呼んでみる。

 

「なになに?!どういう関係?」

「近所の子だったり?知り合いなん?」

 側近連中が冷やかし混じりにサキに質問攻めしている。


「知らないわよ、こんな餓鬼。気持ち悪い、ストーカーかなにかなの?」

 本気で気味悪がっている目だ。

 俺がニヤついているのもあるからだろう。

 俺は興奮を隠しきれない。

 狂喜を抑えられない。

 表情に出ても仕方あるまい。

「……薄気味わりいガキだな。やっちまえ!!!」

 

 リーダー格っぽい男の声で戦いの幕が切って下ろされた。


「ピノキオ、一体ずつだ。ワイト、オーガの順で倒せ。絶対に誰一人逃がすなよ。鬼、《挑発》だ!リリエルはサポート。骸骨戦士はリリエルの護衛、無理はするな。怨念猿は《投石》。牽制程度にな。」

 E級も五体まで召喚できる。

「マッカセテ!!」

 ピノキオは既に三段階攻撃力強化を済ませてある。

 敵の前衛、中衛問わず、バターのように切り裂いていく。

 相手の後衛にはワイトが居た。

 D級で《召喚》が使える極めて厄介かつ強力な魔物だ。

 数で守ったり、押したりする戦法は早紀の得意戦術だ。

 早紀の手持ちであろうワイトのせいで敵の数は50を超える。

 だが、どれもこれも見たことのある雑魚とボスの混合パーティーだ。

『《挑発》!!』

 鬼はヘイトを集める。お決まりのパターンだ。

 敵の魔物は鬼へ意識を割かざる負えない。

 《挑発》は性格特性マイペースでも持ってない限り、効かない敵はいない。ボスですら効くのだから。

「いけ、オーガ!!」

 リーダーの男が持っているエース級魔物だろう。

 オーガのランクはD。

 そして色違いだ。通常種の赤の皮膚ではなく、青だから。

 もしかしたらと思ったけど、不良のボスをしているだけのことはある。

 オーガのナックルを鬼は防御して受け止める。

 もちろん、俺にダメージが入る。

 俺は衝撃で、血を少々吐く。

 初心者ならパニックだろうな。

「おせおせおせおせぇええええ!!!!!」

 敵もちゃんと育成しているみたいだけど、指示がてんでなってない。


『グォオオオオオオ!?』

 オーガは背後からの急襲で深手を負った。

『アレレ、一撃じゃナイ?!コイツぅ!!ナマイキ!!』

 ピノキオが連撃を見舞う。


 オーガは倒れ伏した。

「ぐぅうううううううう!!!」

 流石、リーダーを務めるだけはある。

 周りでは、阿鼻叫喚だというのに、コイツだけは叫ばない。

 A級探索者だったサキですら―――

「いだいよおおおおおお!!!」

 このざまだ。

 ワイトを倒され、ペナルティが入ったんだろう。

 まだ、A級でもなんでもないんだろうけど、無様だ。

 狩る側が狩られる側になって、恐慌状態パニックを起こしている。実に楽しい。


 戦いじゃない、これは虐殺だ。蹂躙だ。

 俺がどれだけの魔物を狩ってきたと思ってる。

 普通ならとっくに死んでるような経験を《死に戻り》してから――三回は積んでるんだよ。死ぬ痛みなら、前世でたーっぷり味わったしな。

 

「逃げようとする探索者の脚は斬り落とせ。潰せ、撃ち抜け、叩け!!誰一人として、逃がすなよ。」

 エース級が死んだ後は、リーダーぽい男の魔物は悉く斃れた。

 最後まで叫ばずに泡を吹いて――――気絶したみたい。



「まっでくれ、だずげで。っひっぐ。わるがっだ!!!」

 泣いて縋って、命乞いか。

 戦闘を諦め、逃げようとした奴は鬼に足を潰されている。

「魔物の全てを失ったお前ら全員を助けるのは不可能だ。迷宮に食われるか、俺に殺されるか。選べ。」

 俺はどちらのが良いか、選択肢を与える。


「いや、いやよ!!私は女よ!!こんなことして良いと思ってんの?!男が女に手を上げるなんて最低!!くず!!!」

 早紀が俺を罵る。

「ピノキオ、こいつの全四肢を斬り落とせ。」

「オッケー、マスター!!」

 ピノキオの流れるような剣捌きで、あっという間に達磨女になる。

「—―――い、いやぁアアアアアアアアアアッ!!!?」

 血が溢れて、失血死しちゃうね。

「リリエル、《ヒール》で傷を塞いでやれ。」

「……《ヒール》。」

 簡単には死なせない。

 辛うじて、保っている意識を何発もの張り手をくらわして覚醒させる。

「うっうう……ひどい…私がなにしたってんのよ……」

 被害者ぶって。

 まだ俺に危害は加えてない……?いや、加えようとしたからこうなったんだよな?

 負けてたら俺、……これ普通に殺されてただろう?

 こいつら前世でも悪行を隠れてしてたんだろうな。

 あの時の俺は性格終わってる冷酷な奴程度の評価だったけど。

 俺がコイツを始末する事で被害者が最小限に済むんだ。

 復讐する相手が目の前に現れてくれて感謝しかない。

 

「まあ、みてろよ。」 

 俺はそう言うと少しの間、早紀の髪を引っ掴んで、待った。

 魔物が現れた。—――怨念猿だ。

 本来なら魔物対魔物になる筈だが、彼等はもう戦えない。戦えない人間を最優先で迷宮の魔物は襲う。

「ひっ、いやだ、たすけて…おねがイッ!!?」

 頭から齧り付かれた。

 下っ端か側近みたいな奴だか分からんけど。

 顔は覚えてないしな。

 てか、イキリ顔がしわくちゃのぐちゃぐちゃに泣き腫らした顔にビフォーアフターするんだもん。

 誰が誰だか、まじでわからん。魔物の質を見ても、初見さんだろうしね。

 

「起きて!!タイガ起き……いやああああ……。」

 早紀は小便を漏らした。

 汚いし、臭いなぁ。

 仲間が食われていくのだから、ぞっとするよな。

 絶望だろう。

 でも、これでやっっっっと、俺と同じかな?

 ああ、お前の男はレイプされてねえな。

 同じじゃないわ。

 かといって、こんなクソ女で童貞喪失とかあり得ん。

 精神的童貞は卒業してても、苦痛が過ぎる。

 俺は達磨化した早紀を抱きかかえて、別れを告げる。


「さようなら。元・宵の明星ギルド所属…サブマス隊メンバー、高杉早紀。—―地獄に墜ちろ。」

「え……?なんの、こと…?—――。」


 俺は心から笑えた。

 何も知らずに、殺されるのだから。

 俺も嵌められて死んだし。

 遥達が逃げてくれればそれでいいなんて、思ってたら遥達に、さらなる苦痛を与えてしまった俺の罪悪感たるや……。


 ああ、でも最期を俺の手で迎えさせる事が出来るのだから。

 こんなにも早く!!!!!

 出会えるなんて思いもしなかった。

 まだまだ時間が掛かるもんだとばかり…。


 復讐相手—―まず一人。

 思わぬ僥倖に感謝した。


 俺は怨念猿の中に早紀も同様に投げ捨てた。

 野生の怨念猿の食事が増える。

 無我夢中で食べている。新しい餌に歓喜している魔物どもと同様に俺も気狂いの哄笑を上げる。

 

 七人全員の皆殺しが完了。

 全ては魔物と迷宮が消し去ってくれた。

 早紀のドッグタグだけは俺の懐に持っておく。

 全ての復讐が終わるまで。

 誰を殺したのか忘れないためにもね。


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