第12話:探索局

 5月に入りました。 

 今日は、お買い物です。

 いや、見るだけ!見るだけなの!

 名古屋駅近くにある支店に訪れている。

 本店は東京だ。

 中央集権国家だからね。

 何でもかんでも集めたがるんだよな。

 今の最前線は兵庫なのに。

 探索局たんさくギルドに入店する。

 よく分からんセンサー付きゲートを通り、ボディチェックを受ける。防犯の為だろうけど、滅茶苦茶厳重である。

 チェックが終わると、中はいたって普通。

 カードショップみたいに飾ってある。

 カードパックも存在する。

 割高だ。一パック十万とかする。

 パック買ってカード手に入れる人とか、初期費用半端ないね。

 ま、高(等)級ハイランクのカードだとウン百・ウン千万するから高いかどうかは、その人の資本金次第かね。


「—―!すごい可愛いよこれ!」

 サキュバスか。B級魔物カードだ。

 めっちゃ人気高いんだよな。

 エロいと強いが合わさった最強カードと言ってもいい。

 因みにインキュバスはサキュバスの男版。

 だから……まあ、お金持ちの人とか独り身とかだと……ね?

 魔物趣味モンスターコンプレックスという言葉もあるくらいだから。色んな意味で絶大な人気を誇っている。


「こ、これは――!!インキュバスさま?!」

 ああ、やっぱり。

 鬼に食いついた辺りでそんな気はしてたけども!

 雪村さんは好きだと思ってたよ。


「インキュバスの値段は……一、十、百、千……12億かぁ。」

 雪村氏は値札のゼロの数をかぞえて、がっくりと項垂れる。

 無理すぎるよね。

 これだから、俺は此処にはあまり来たくないのだ。

 夢のような商品は夢のまた夢の価格だから。

 

「インプから育ててみたら?上手くいけば進化したらインキュバスに出来るかもよ。」

 俺は、他の客もいるので雪村さんに耳打ちする。

 この情報はA級探索者になった時に探索局が開示してくれる情報だ。つまり、A級以上でなければ情報規制によって知り得ない話なのだ。

 雪村氏の目があらん限りに開いた。

 近いし。近すぎるし。

 目の血管がしっかり見えて、—―いやもう血走っててちょっとホラーです。

「……それはほんとう?」

「ああ、僕を信じて?」

 《F級迷宮転移核》をもっているチーター野郎の言う事だ。知らない情報――に対しての信憑性は他の誰よりも高い。

「インプは安いんだよ。E級の相場は10万を超えてくるけど、8万円だよ。」

 買えなくはない。

 我々は日給3万は稼いでいる。

 買えてしまうのです。

「な、なななんで相場より安いの?」

 ごもっともな質問だ。

「インプは育てにくいんだよ。ステータスは敏捷魔法系のE級として優秀なんだけどね。如何せん性格特性で、殆どが《悪戯好き》を持ってるんだ。」

「《悪戯好き》って?」

 遥も話に入ってきた。

「《悪戯好き》持ちは、戦闘に参加しなかったり、邪魔したり、言う事が利きにくくてね。」

『あー。』

 二人して、割と渋い顔をしている。

「そういう訳で、性格矯正からしないといけないんだ。E級でも使いにくい点で、値段はF級の性格厳選、スキル厳選された良魔物と同等、あるいは一万円低く見積もられているか……って感じだね。ま、ステータスはE級としての性能を備えてるから戦ってくれるなら初心者にとっては即戦力だよ。」

 インプを買うべきかどうか。

 俺の話を聞いて、悩んでいる。

 稼いではいるけど、8万円は大金だ。金銭感覚が狂う程の豪遊などしていない健全高校生達だ。

 今までのお金に対する価値観は早々変わらない。

 まあたかだか一月ひとつきですもの。


「買うなら良インプが売られてないか、店員に訊く?」

 俺は雪村氏に訊いた。

 彼女は首を縦に振る。

 コクコクって。

 喋りすらせんのかい!


「あの、店員さん。インプの購入を検討しているんですけど、カードを見せてもらえませんか?」

「かしこまりました。では、奥の部屋へご案内しますね。」

「はい、ありがとうございます。」


 俺達は、仮召喚部屋に入る。

 此処では、探索者は攻撃等の命令は出来ない。

 ステータスの詳しい情報を見るための部屋だ。

 因みに自分の魔物を召喚して戯れることもできる。



 インプカードを召喚して、実際に性格やらスキルやらを確認する。50から60枚はあったから、確認も大変だ。

 

「僕が視た中だと――マシなのは《悪戯好き》&《陽気》と、《悪戯好き》&《さみしがり》かな。」

 パリピかメンヘラか。

 理由は――《魔力回路》のパッシブスキルを持っていたから。

 《魔力回路》持ちは魔力消費量を抑え、魔法威力を上げる。

 

「私んとこは、《悪戯好き》単体の子かな」

 遥のおすすめは――《魔力回路》は持ってないか。


「ウチのほうは、《悪戯好き》&《やんちゃ》かな」

 《魔力回路》持ちか。

 ただのウザい奴か、じゃじゃ馬か、パリピか、メンヘラか。


「買うならこの辺りだね。」


 躾けやすさで言うと、メンヘラか。

 いたずら。→スルー。→さみしがり特性発動→さみしい気持ちを満たしてやる対価にいたずらを辞めさせる。みたいな感じで、矯正するのだ。

 

「あ、店員さん獣系の高級ハイランク魔物モンスターをタブレットで閲覧とかってできますか。」

「ええ、出来ますよ。………こちらですね。」

 俺は店員からタブレットを受け取る。


「ウルフの進化先を見たらいいよ。」

「え、うん!」

 遥にタブレットを渡す。

 本来の目的を達成してもらう為にね。

 

「九尾とかケルベロスとか有名なのも売ってるんだね。」

 そうそう。

 遥の相棒だった奴ね。

「A級だからね。」

「それ以降は?」

「さあ?」

 遥の追及は濁しておいた。

 本当は知ってるけどね。

 A級になるとS級商品が本店で買えるようになる。

 A級百枚分でS級一枚の交換のみ。

 普通に買えないだけでなく、トレードも鬼畜仕様。

 知らされた時は、驚いたな。

 

 遥と雪村さんは将来アレがいいだの、コレがいいだの言って盛り上がっていた。 

 

「《やんちゃ》なインプ、このコがインキュバス様に…ぐへへ。」

 女の子が、ぐへへは不味いです。

 遥も空笑いを浮かべている。


「遥は何か買ったの?」

 雪村氏が遥に戦果を訊いた。

「うん、アイテムだけどね。ウルフが欲しそうにしてたから。《デッドリータイガーの爪》を一枚ね。五千円だったよ。」

 俗に言う、換金アイテムだ。

 進化素材にもなるけど、用途が限定的だ。そういうのは比較的安い。

 

「そのアイテム使えば進化しちゃう?」

 雪村さんは期待の眼差しを遥に向けている。

「それが進化しないんだよね。多分足りない?」

「難しいんだね。」

 女子二人であーだこーだ楽しそうに色々話している。


 因みに俺は、地味にまだ持っていたオークをスケルトンに融合させて、骸骨戦士スケルトンウォリアに進化させた。

 二軍キャラである。一応E級だ。

 武器が斧に。強そうな蛮族みたいな骸骨の戦士だ。

 でも大して育ててないから野良の初期値に毛が生えたようなステータスの魔物になった。

 

 欲しい魔物は高かったから買ってない。

 ぶっちゃけ税金の支払いがあるから、容易に高い買い物なんてできないんだな。

 4月だけで188万くらい稼いでいる。

 20%だから約37万税金で納めたばかりだ。

 約150万円の稼ぎは一旦貯蓄なのだ。

 貯蓄と言っても、ワックドナルドの株が100株…30万切っていたので、500株買って投資中だ。

 残ったお金は微々たるもんだ。


「じゃ、二人ともそろそろE級迷宮に行く?」

 俺は栄E級迷宮に誘った。

「私達三人なら、いける?」

「ウチらならいけるよ!いこいこ!」

 遥もE級にノリ気みたい。

 雪村氏はノリノリだ。


「じゃ、初のE級に行こうか!」

『おー!』

 俺達は栄E級迷宮に潜った。


 フィールドは草原&砂漠。

 足場の良し悪しが激しいステージだ。

 出現する魔物は悪蠍イビルスコーピオン怨念猿おんねんざる眠眠羊スリープシープの三体だ。

 

 攻撃力が高いだけでなく、麻痺毒を浴びせてくる悪蠍イビルスコーピオン

 集団戦を仕掛けてくる怨念猿おんねんざる

 睡眠状態にしてくる眠眠羊スリープシープ


 実に面倒である。

 ソロだったらね。

 基本的には怨念猿と眠眠羊スリープシープの連携攻撃をさせなければいいのだ。

 優先して倒す魔物は眠眠羊スリープシープ悪蠍イビルスコーピオン怨念猿おんねんざる

 これを鬼とピノキオ、リリエルに徹底させている。


「矢ってどこから生成してんだ……。」

『……ひみつ。』

 俺の呟きを聴いていたようで。

 でも秘密らしい。

 ビュンビュンと矢を射ている。


『フリンは、ブンカ!オイラは、キコンシャ!』

 お前はまた何言ってんだ。

 ピノキオの鼻がニョキニョキ伸びて、一段階攻撃力強化。

 敵はE級だ。

 それなりに硬かったのかもしれないね。

 盾を使って、殴りや投石を防御&回避して、堅実に片手剣で攻撃している。


『《挑発》!』

 掛かってこい!と言わんばかり。

 シンプルにスキルだけ使って注意ヘイトを引いているのは鬼。

 鬼棍棒の範囲攻撃が良い。

 群れる怨念猿を一掃出来る。


 一対一が得意なピノキオ、範囲攻撃が得意な鬼。

 遠距離攻撃シューティングゲーをしているリリエル。

 中々どうして、バランスが良くなったではないか。


 

「こらー!インプ!ダメでしょ!」

『いひひ。』

 インプは早速戦わず、飛び回っている。

『《狐火こん》!』

 幼狐は自発的に《狐火》を使用している。

 敵に対して牽制&追撃役をこなしているっぽい。

 こりゃ、大変そうだ。

 雪村氏は、体長10センチくらいの飛び回る悪魔に悪戦苦闘中。


「ウルフは、攻撃&回避を基本!聖猫ホーリーキャットは《影分体》で撹乱!お願いね!」

 遥は地味に天使と幼猫を融合進化させてたみたい。

 白猫の背にちっちゃな羽根が付いて、頭には天使の輪が付いている。

 見ようによっちゃ死んだ白猫みたいだ。

 機能性があるのかどうか分からん羽根、これ飛べるんですね。

 ビュンビュン飛び回って、撹乱攻撃している。


 E級迷宮でも戦えるみたい。

 若干一名、味方に足引っ張られてるけど。

 しょうがないね。

 


 ステータス

 鬼(青&黒) 性格:勇敢・勇猛 ランク:E

 力:E→D 477→560 耐久:D→C 590→630 器用:E→D 489→539 敏捷:E→D 488→520 魔力:I 8 幸運:D 516→523

 【スキル】…《挑発》、《罠解除》

 【パッシブ】…《格上級殺しキラー》、《耐状態異常》


 リリエル(黒) 性格;のんびりや ランク:E

 力:F 320→360 耐久:F 339 器用:E 426→490 敏捷:D 572→640 魔力:F 303→399 幸運:E 405→412

 【スキル】…《マルチレーザー》、《ヒール》

 【パッシブ】…《格上級殺しキラー


 ピノキオ 剣盾ver 性格;従順・嘘つき ランク;C

 力:E→D 459→500 耐久:D 520→590 器用:E→D 490→550 敏捷:E→D 460→550 魔力:E 400→480 幸運:H 285→292

 【スキル】…《ピノキオの投擲矢》、《嘘つきは力の源》

 【パッシブ】…《ガード貫通》、《耐状態異常》


 トータル700体越え討伐。

 E級迷宮は討伐数が減ったものの、ステータスの伸びは最高だ。経験値の質が違う。

 同じE級魔物でも、F級迷宮で戦っていたボス並みに硬いわけでもないのにね。

 被弾数が多くて耐久も上がるし!

 状態異常系で嵌められることがあるんですよね。

 数が多いとどうしても避けられない。

 お陰で、前衛は耐性を習得してくれた。

 100%だったのが50%くらいの確率になるだけだけど。

 ないよりあった方がいい。

 良成長ですわ。わははっはっははは!


 

――――――――――――――――――――――――――――


「最近アイツ等見なくね?」

「またF級迷宮で女漁りでもしてんじゃね?」


 愛知県—―某所にある廃ビル―――そこは不良のたまり場になっている。十数人の若者が屯している。


「まだ、知らなかったん?アイツ等、F級迷宮でヘマして死んだよ。」 

「は?」 

「F級迷宮で?だっせええええ!!!!!」

「ぎゃはハハハハハ!!!」


「安藤、それ、もちっと詳しく話せや。」

 その会話を黙って聞いていた不良のリーダーが口を開いた。

 安藤と呼ばれた、不良の一人がビクッと肩を震わせる。

 さっきまで笑っていた奴、雑談してた奴…諸々の不良たちは静かになる。

 安藤は話始めた。

「えっと、俺も詳しくは知らないんすけど、死んだ|カゲの母ちゃん曰く、三階層でタケもシンジも死んでたって探索局から報告があったって。たまたま探索者エクスプローラーが早く見つけてくれたからドッグタグが回収出来たって事しか分からないっす。」

 

「ボス部屋でもなく……?三階層で死ぬとしたら?魔物宴モンスターパーティか?」

「たぶん、そうだと思います。」

 安藤は不良のリーダーの見解に同意する。

「あいつらが、魔物宴に出くわして戦うと思うか……?」


 そういや……、とか、タケは阿保にしても…だの、E級魔物持ちの三人組の死因について深くまで考えていなかった不良たちは無い頭をフルに使って論議し始める。


 そして、一つの結論に至る。


「もしかしたら、殺されたんじゃね?」

「報復か?」

「どこかでバレた?」

 散々悪さしてきた彼等には思い当たる節が多い。

 迷宮内殺人もしたことがある。

 

「俺は、ほぼ間違いなく殺されたと思ってんだよね。カゲ達をヤれるって事は、最低でもE級迷宮に潜れる実力者にやられたんじゃねーかなって思うんだよなぁ。でもって、レアな魔物持ってたりしてなぁ?」

 不良のリーダーは、頭が物凄く切れた。

 「レアな魔物」というワードに不良達は妖しく目を輝かせた。

「やられたらやり返さねえとな?メンツに関わってくる。お前ら、連れの女も呼べよ。人手がいるぞー?」

 リーダーは不敵な笑いを浮かべた。


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