第9話:ゴールデンウィーク①

 ゴールデンウィークだ。


 待ちに待った、高校生、初めての長期休みである。

 因みに部活はある。午前だけ、現地集合。

 どう乗り切るか。

 簡単だ。先ずは、旅行先—―静岡県に向かう。

 そして、浜松にあるF級迷宮に入ってすぐに出る。

 これで、いつでも栄から浜松に飛べるわけだ。

 部活で栄に潜るもアリ、新天地で浜松F級迷宮に潜るもアリ。

 《F級迷宮転移核》のおかげでF級迷宮があれば、何処でも飛び放題のチートアイテムである。

 ま、訪れた所に限る。……なんだけどね。


「因みに、浜松F級迷宮には幼狐が出るよ。後はウルフと幼猫だったかな?」

 獣塗れだ。

「じゃあ、幼狐の色違いも出るって事?!」

 食いついてきたのは雪村さん。

 唯一色違いを持っていないからか、うらやまけしからんらしい。

「じゃ、私達は浜松F級迷宮に飛ぼうか。(私も幼猫ほしいし。)」

 小声で幼猫欲しいって言ってるの聴こえてるんだよなぁ。

 何てったって、A級探索者まで登り詰めた時の編成がウルフ、幼猫、ドリアードの進化後だったからね。

 遥は獣系と妖精が好きで育てていた。

 

 ステータスの伸びを考慮すると、そろそろ小鬼とゴブリンを融合させるべきだ。

 経験値も頭割なので多いより少ない方が配分が多くなるし。

 融合させると、ステータスの50パーセントを引き継げる。【スキル】が引き継げるかは分からない。

 みんなの手持ちはE級クラスの実力を有している。

 3人で狩るなら大して、変わらないだろう。

 よし、決めた。


 俺は、小鬼のカードをベースにゴブリンを融合させる。

 融合進化だ。

 出来たのは――鬼。

 E級にランクアップだ。

 色違い同士の融合は100%色違いが産まれる。

 そして前の色味を引き継ぐ事が出来る。お洒落ポイントだ。

 本来の鬼は赤。髪は白。野生の色違いはピンクとかだった筈。

 今回、産まれたコは青ベースに黒の斑模様。髪は黒髪がベースで青髪が混ざっている。


 ステータス

 鬼(青&黒) 性格:勇敢・勇猛 ランク:E

 力:F 345 耐久:E 434 器用:E 354 敏捷:E 380 魔力:I 8 幸運:F 310

 【スキル】…《挑発》、《罠解除》

 【パッシブ】…《格上級殺しキラー


 天使(黒) 性格;のんびり ランク:F

 力:H 212 耐久:G 230 器用:F 319 敏捷:F 366 魔力:I 15→17 幸運:G 203

 【スキル】…《マルチレーザー》、《プチヒール》

 【パッシブ】…《格上級殺しキラー


 ピノキオ 剣盾ver 性格;従順・嘘つき ランク;C

 力:F 380 耐久:E 459 器用:E 431 敏捷:F 389 魔力:F 344 幸運:I 82

 【スキル】…《ピノキオの投擲矢》、《嘘つきは力の源》

 【パッシブ】…《ガード貫通》


 第2のピノキオだ。

 E級のステではない。素晴らしい。

 育成を頑張っただけはある。

 討伐数1万は下らない経験値を吸収した鬼が初期でこれだ。

 前衛陣が、最高に強い&カッコいい。

 

 

 浜松F級迷宮で初陣と行こうじゃないか。

 フィールドは平原&岩場。

「わぁ、かっこいいね。」

「イケメンじゃん……。」

 遥、雪村さん共に鬼の容姿を褒める。


『ヌシよ…。ハズカシイ。』

 鬼自身からプチクレームが入った。

「ごめんね、あんまりじろじろ見ちゃイヤだって。」 

 俺が合間に入って、彼女等の視線を…遮れないけどなるべく隠す。

 なんせ、1.8メートル位ある。

 俺よりデカかったら隠せんぞ。


「たしかに。ジロジロみてごめんね?」

 遥はすぐに謝ってくれて、辞めてくれた。

「イケメン税だと思って……後生だから……!」

 有名税みたいに言うな。

 何処までも食い下がらんとする雪村さん。

 どタイプだったのかもしれん。

 

「じゃ、狩りするよ。色違いの幼狐をゲットするんでしょ?」

 俺が強引に色違いに意識を向けさせる。

「は?!そうだった!待っててね!ウチの色違いちゃん!!」

 冷静になった雪村さんもスイッチが入ったようだ。

「あはは……はぁ。」

 遥は呆れているみたい。

 

 

 ともあれ、俺達は初狩りだ。

 穴場探しから始める。

 ゴールデンウィークというのもあって、中々に人がいる。

 結局最上階の5層まで来た。

 穴場を見つけた俺達は狩りまくる。

 ※穴場とは一通または通り抜けが困難な、四方が囲まれた行き止まりのような空間。

 

「きたああああああああ!!!!!」

 え。

 400体オーバーで、色違い幼狐は姿を現した。

 白い毛は赤い毛に、赤色模様は金色模様に。

 耳の内とか縁とか、所々が金色でカッコいい。

 

「天使ちゃんは隙をみて、攻撃!幼狐は《狐火》!最大火力よ!!!!」

 

『こん?!』

 敵は余りの迫力に気圧されてしまったようだ。

 そんなに隙をみせたら……。

 あっという間に倒した。

 元より近接キャラではないので、味方あっての幼狐。

 雑魚敵は、俺と遥が押さえているから、多勢に無勢。

 瞬殺とはこの事。


 雪村さんの天使が色違い幼狐を手に入れ、さっそく色違い化させたようだ。

 雪村さんが抱っこしていた幼狐の毛色が、赤毛の金色模様に早変わりした。


「めっちゃかわいいいいいいい!!!!」

 テンションが爆発している。

 雪村さんの意外な一面だ。

 猫吸いならぬ狐吸いが留まる所を知らない。

 余りにも過激なスキンシップを受けている幼狐と目が合った。

 助けを求めているような気もしなくもなかった。

 俺は何も見なかった。

 俺は狩りに勤しんだ。


「まさか、初日から出ちゃうとはね。」

 遥は色違い幼狐をみて、俄然やる気が出たみたい。


 幼猫は生後1ヵ月程度の見た目の黒猫。

 色違いは白猫。

 敏捷特化で、幻術系スキルが扱える。 

 F級では初出の《影分隊》が使える。

 五つの実体を生み出し、攻撃と陽動の役割がこなせる。

 影はステータスの半分を引き継げる。

 味方にすると心強いが、敵にすると厄介である。

 ま、ピノキオと鬼のステータスごり押し作戦のお陰で、湧いた瞬間、第一優先で幼猫を屠っているからカバーしきれない部分はあるにしても大した問題ではない。

 幸い、俺の天使は《マルチレーザー》を習得している。

 影込みでダメージを与えれば、一番動きの良い幼猫は簡単に炙り出せる。

 そこを遥のウルフ達が倒してくれる。


 なかなか、連携が取れるようになってきた。

 中距離攻撃が一枚増えるだけで、近距離アタッカーがさらに輝く。ま、今まで近距離アタッカーが多すぎるだけなんだけどね。

 俗にいう、脳筋パーティーだったから。


 一応、通常種の幼猫はドロップしている。

 性格特性も、《控えめ》と悪くない。

 陽動作戦との相性が良い性格だ。

 《血気盛ん》とかだと、無茶することを恐れないので、攻撃したくてウズウズ…特攻なんて事がよくある。

 《攻撃特化型》なら、《血気盛ん》でもいい。

 《控えめ》だと、攻撃できるタイミングで攻撃しないことがある。安全マージンを大きく取るせいだ。

 《防御特化型》なら、《控えめ》だ。

 どちらの良い所も兼ね備えているのが、《冷静》である。

 性格厳選をして、色違いを探して、と。

 以前は、《血気盛ん》だった筈。

 常に速攻特攻の戦い方だったが、やはり殺人を厭わないようなゴミは徒党を組んでくる。

 救援を待てるなら、《控えめ》だが、倒せるときに倒したいなら、《冷静》だ。

 この事は、遥に良く説明している。

 仲間スタメンとして起用するのは、遥だからね。



 部活動の時間も終わり。

 俺達三人は、浜松の方にある都筑つづき海岸のカフェでお茶兼昼食を取っている。


「まだ、悩んでる?」


 俺は、それとなく聞いた。

 

「うん、まだ。でも《冷静》か、《控えめ》にしようとは思ってる。」

 悩むよなぁ。

 性格矯正は滅茶苦茶難しい。

 この性格になれ!でなるわけではないし。

 だから、ドロップ段階で選別するのが良い。

 

「本当にガチ勢探索者になるつもりなんだね。」


 雪村さんが言ってきた。

 アジのフライを箸で切り分け、美味しそうに食べている。


「まあね。たかが、性格。されど、性格だから。S級目指すなら、そういう小さな部分から厳選して行かないとね。」


 俺はランチメニューにあった海鮮丼を食べながら、返事を返す。うむ。やはり旨い。

 

「S級探索者エクスプローラーになるつもりなの?根源地にでも行く気?」

 冗談?本気?

 雪村さんの顔から困惑が見て取れる。 

「そこまではしないよ。ただ、守りたい者を守れない、弱者でいたくないだけ。」

 嘘は言ってない。

「それなら、A級とかでもいいんじゃない?ウチらなら頑張ればいけると思うよ。」

 まあね?でもなぁ…。

「それじゃ、ダメなんだよ……。ダメなんだ……。」

 あの時の、絶望、憤怒、憎悪、嫌悪、劣等・惰弱による自責の念…ありとあらゆる俺が味わった全てを奴等に味わわせないと気が済まないのだ。


「…大丈夫?」

 遥が俺の手を握る。心配そうに顔を覗いている。

「…ああ、大丈夫だよ。ごめんごめん。どうせ目指すならてっぺんをね。って、あはは。」

 俺はおどけるように明るく振舞う。

「もー、深刻な顔しちゃって。でもS級探索者なれるといいね。やっぱ友達がS級とかマウント取れちゃうだろうし?」

 空気が和んだ。さすが、雪村氏。

 分かってるね。空気の読める良い女だ。


「雪村さんも午後、迷宮行く?それとも観光?行かないなら栄か大須通りまで送るからね。」

 俺と遥はこのまま、幼猫狙いだ。

「今日と明日は学校のゴールデンウィーク課題かな。それ以降の休みは参加するよ。」

 雪村さん、偉いね。

 ゴールデンウィーク課題…あるんだよなぁ。

 勉強も大事だ。

「分かった。それじゃ、送るよ。」

「私も、ユキちゃん見送る!」


 三人で、栄に飛んだ。


 ――しゅぴーん――


 見送りを済ませ、二人で浜松F級迷宮へ。


 狩り効率はやはり、落ちた。

 それでも朝から含めてトータル2000オーバー。

 夕方まで粘った結果だ。


 ステータス

 鬼(青&黒) 性格:勇敢・勇猛 ランク:E

 力:F 345→370 耐久:E 434→450 器用:E 354→366 敏捷:E 380→390 魔力:I 8 幸運:F 310→330

 【スキル】…《挑発》、《罠解除》

 【パッシブ】…《格上級殺しキラー


 天使(黒) 性格;のんびり ランク:F

 力:H 212→216 耐久:G 230→238 器用:F 319→324 敏捷:F 366→370 魔力:I 17→36 幸運:G 203→223

 【スキル】…《マルチレーザー》、《プチヒール》

 【パッシブ】…《格上級殺しキラー


 ピノキオ 剣盾ver 性格;従順・嘘つき ランク;C

 力:F 380→386 耐久:E 459→466 器用:E 431→437 敏捷:F 389→396 魔力:F 344 幸運:I→H 82→102

 【スキル】…《ピノキオの投擲矢》、《嘘つきは力の源》

 【パッシブ】…《ガード貫通》


 初期状態の鬼はレベルの上がりが良い。

 1レベルからスタートした筈だから、伸びもいい。

 何レベルか分からない所が不便ではある。

 それはステータスの伸びで何となく把握するしかない。

 そう考えると天使のステータスの伸びは少し悪いか。

 そろそろ、融合するのもアリかもしれない。

 勿論、そのまま進化させるのも良い。

 融合させるなら騎士系か魔法系の何かが良いな。

 手持ちには残念ながらカードがないので買うか、新迷宮でも行くか。悩みどころである。

 因みにこれで性格特性が、《冷静》の幼猫も手に入った。


 旅館のチェックインをして、お風呂に入る。


 大浴場だ。気持ちが良い。

 1日の疲れが吹き飛ぶようだ。

 部屋へ戻ると、御飯の準備が整っていた。

「あ、おかえり。そろそろお風呂から上がってくると思って、ご飯の準備してもらってるよ。」

 さすが遥。気が利くね。

 そして、浴衣姿も可愛い。

「お腹空いたね。気を利かせてくれてありがとう。」

 出てくる御飯は天ぷらに刺身、味噌汁、わかめ御飯だった。

 旨い。the・和食だった。

 

「さ、僕達も課題しよっか。」

「そーだね。やらないとなー。」

 大して、授業は進んでない。

 出された課題は一月分の勉強の反復だ。

 爆速で全教科…古典、数学、英語、理科の課題を終わらせた。

 それでも時刻は22時。

 何時から始めたのかは分からないけどね。

 

「僕は終わったよ。遥の進捗は?」

「んー、私も丁度…終わったかな。」

 早い。

 やっぱり遥は出来るコである。

 俺達は、布団に寝転がる。

 これからいちゃいちゃタイムなんだろうけど……。

 ぶっちゃけ、もう寝そうである。

 思いの外、布団が気持ち良すぎるのだ。


「ねー、そっちの御布団に入ってもいい?」

「うん、いいよ。おいで…。」

 掛け布団を持ち上げ、遥を招く。

 もぞもぞと彼女が入ってくる。

 俺は彼女をゆるっと抱きしめた。

「えへへ。」

「……遥、大事。」

 俺は遥の頭を撫でる。

 こうすると前世は喜んでくれたから。

 俺は頭を撫でている所で、睡魔に負けた。


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