第7話:努力は裏切らない

 俺達は純粋に課外活動の時間が増えた。

 一時間程、増えたと言っても過言ではない。

 俺の《F級迷宮転移核》のお陰なんだけど。

 移動時間短縮チートのお陰で、人より長く経験が積める。

 これが、精神に良いように作用したようだ。

 努力した分だけ、それが長ければ長いほど、探索者は強くなれるからだ。

 俺が大学から本腰入れて頑張って、A級探索者になれたのも時間を掛けて努力したから。

 一般高校で、こういう特別待遇みたいな恩恵は受けられない。

 実際、探索者養成学校でも転移なんてのは聞いたことがない。

 そんな便利な物があるならA級探索者になってた俺が知らないはずないだろう?


 偶然の産物たからばこで、手に入ったものだが。

 

 栄F級迷宮の魔物は少し種類が違う。

 フィールドは平地+森。

 主に出てくる魔物は――スケルトン、天使、ブラッドスパイダー。

 天使以外、新顔魔物である。

 此処のボスは死霊系が出てくる。

 死霊系は二種類。物理耐性持ちと魔法耐性持ち。

 相手が骨系スケルトンなら物理が良く通る。

 霊体系ゴーストだと魔法が有効打になる。


 魔法は使役魔物と要相談である。

 覚えさせようと思っても、覚えるかどうかは分からない。

 見て、覚えることもあれば、真似て、覚えることもある。

 魔法は難しいのである。


 ただ物理・魔法両方のアタッカーが揃っているなら――此処のボスの特徴として弱点を突けば耐久が低いので、狩りやすい。

 どちらか一方だと、両極端の結果を生む。

 安定感はボス狩りに於いて難易度に直結して考えられる。

 そのため、ボス討伐は大須通りF級迷宮の方が人気だ。


 皆も此処ではレベル上げがメインだろう。

 それと――男女問わず、人気を誇る天使カードを手に入れる気だ!

 

「天使ちゃんゲットするぞー!」 

 此処にも一人、天使ファンが…。

 ――雪村さんである。


 三人で1階層の森エリアの奥へ移動してきている。

 此処まで、俺のピノキオ、小鬼、ゴブリンと遥のウルフが道を切り開いてきた。

 天使は敵にも出てくるので、r連携ミスを避ける為に後衛で護衛兼、アイテム回収班に回ってもらっている。


「そう言えば雪村さんはどんな魔物を持ってるんだ?」

 俺と遥は召喚済み。

「ウチはこのコ。—―幼狐。」

 召喚されたのは字の如く幼い狐――E級魔物――幼狐であった。

「このコは中距離魔法が使えるの。—―幼狐、《狐火》。」


『こーん!』

 雪村さんの命令を聞き、《狐火》で倒していく。

 実に羨ましい。

 雪村さんの使役魔物は育てていけば、九尾になると言われている。


「ユキちゃんのも可愛いし、強いね!」

「うれし!ハルちゃんのも色違いだしカッコいいよぉ!」

 

 女子同士でわいわい盛り上がっているみたい。

 ま、敵なしではあるけど。

「ゴブリンは、ウルフのサポート!小鬼は《挑発》スキルをガンガン使って!」


『ごぶぅ!』

『グァ!』


「ピノキオ、調子に乗るな!被弾してて恥ずかしくないのか!」


『マスター、オイラにキビシイ!』


 ピノキオは、むくれながらも気が引き締まったようようだ。

 性格特性の《お調子者》は被弾率を上げてしまう。俺が勝てたのは攻略法を知っていただけではない。性格特性上、ピノキオが攻撃を回避したり防御する事が少ないのもあった。敵としてはありがたいが、味方としては許容できない。舐め腐った戦闘プレイを辞めさせる為にも、厳しく言わないといけない。

 暫くは、ピノキオにはこんな感じだ。


「ピノくんも頑張ってるよ?」

『マスターのヨメ、ヤサシイ!スキ!』

 遥よ。ソイツのステは基本的に他の三倍はあるんだぞ。

 甘やかすんじゃありません。


『イタタ、マスター、オイラもホメロ!』

「言われたら直すのはえらいぞ。でも言われる前からガンバロウナー?」

 俺はピノキオを遥から引き剥がし、褒めて叱るあげておとす

『ウゥ、ヤッパリ、マスター、キビシイ。』

 

 心を鬼にせねば、性格は治らんのじゃ。


 小鬼や、天使、ゴブリンはピノキオに対しての俺の様子に当初は困惑していたものの、自分達への態度が変わらない事、実際にすぐ防御・回避を怠っているピノキオの様子をみて、三体は平常運転に戻っている。

 

「ふぁ~、今日凄かったね。ガンガン、ステータス上がるもんだから楽しくて楽しくて!ウルフも、よく頑張ったね!えらいね~!!」


『くぅ~ん。』

 遥に頭を撫でられて、ご満悦の色違いウルフ。

 ウルフは、しっかり遥の相棒を務めている。

 狼ではなく、忠犬だな。


「いやぁ、ウチも恩恵に預かれて…ホクホクです。ねー、幼狐」


『こーん!』

 此方も可愛がられて、モフられまくりのよう。

 雪村さん、猫吸いならぬ狐吸いか。


 部活としては19時で終わりである。

 一度、迷宮を出る。

 顧問の賀茂川先生が点呼を取る。

 生存確認、怪我の有無を把握する為だ。


「皆さん、本日の活動も安全に行えたようで何よりです。お疲れさまでした。これ以降の研鑽での事故は、学校側が責任を取ることはありません。まだ励むようであれば、自己責任になります。では、また明日。」


 先生も大変である。

 毎度このセリフを言っていた気がする。

 

「千堂君のお陰で時間が多く取れたの。ありがとう!」


 女子生徒の多くは、先生の恩恵を大いに受ける。

 部活動中は、輩に絡まれる心配がないからだ。

 裏を返せば、部活動後は、絡まれてしまうわけだ。

 見回ってくれる先生の尽力あって、安心して潜る事が出来ている。

 そういった事が主な理由で、部活後は速やかに帰る女子生徒が殆どである。時間が限られた中での育成はやはり厳しい。

 序盤の厳しさ抜け出せず、根を上げ、辞めてしまう子が殆どだが、感謝しに来てくれたコ達は、割と意欲的に見えた。


「俺達、もしかしたら探索者として大成できっかもな。」

「もちっと頑張るか?やったらやっただけ探索者は強くなれるしな。」

 見覚えのない男子生徒達も、やたらモチベが高い。

 良いスタートダッシュが切れたみたいだ。


 部活開始時間をフルに育成探索に使える高校生は早々居ない。

 普通に考えれば、努力をし続ければ俺にもチャンスが…?なんて考えが過ぎっても仕方ない。

 実際に努力は裏切らない世界だしな。

 何はともあれ、全体的に士気が高いのは良いことだ。


 辺りを見ていると、視線を感じた。

 そこに居たのは、板倉であった。

 目が合うと、気まずそうにして、背を向けて去って行った。


「もう怒ってないよ。」


 結果的に遥が庇ってくれたし。

 俺は聴こえるわけがないような小声で彼の背に向けて呟いた。

 

「?どうかした?」

 遥が俺の顔を覗いて訊ねてきた。

「んん、今日は僕が声を荒げた時、庇ってくれてありがとう。」

 遥は板倉との件を思い出したようだ。

「いや、アレは…最初に庇ってくれたの……千堂君のほうでしょう?」

 そうなんだけど。

「ね、遥さん。付き合ってくれませんか?」

 本当はもっと時間を掛けるべきなんだろうけど。

「俺に、貴方を守る権利を下さい。恋人でもない奴が、って言われてさ…。言い返せなかったのが悔しかったのもあるけど、僕は遥を誰にも取られたくないんだな。って再認識したんだよね。」

 だめかな?

 真摯に告白したつもりだ。

「……うん。えへへ、よろしくお願いします。」

 照れ笑いしながら、承諾を得た。

 俺は嬉しくて、つい抱きしめた。

 抱きしめて数秒後、顔を見合わせる。

 目と目が合う。


「はい、そこまでね?ここ外よ?」

 雪村さんはニヤっと笑みながら、制止してきた。

 すっかり忘れてた。

 楽しく談笑していた辺りの女子生徒や一般女性陣は興奮している。ちらほらと、男性陣からも拍手を貰う。

 恥ずかしい。

 流石に俺も遥も、プチトマト状態である。

 顔が燃えそうだ。

 

 ま、何はともあれ。

 名実ともに恋人になれた俺は遥の隣に居ても文句を言われない仲になれたわけだ。

 早すぎる恋人展開は、世界に影響を与えないものだと信じてる。

 

「さ、送るよ。」

「…うん。」

 手を繋いで、俺達は帰路に着いた。


 俺は駅まで遥を送った。

 駅までで良いと、遥が言ったからだ。

 そこからは雪村さんと帰って行った。


 俺も一旦、家に帰った。

 流石に腹が減った。

 豪快に夕飯を食べ終わる。

 風呂を上り。

 予習勉強に宿題を終わらせる。

 現在時刻は21時。 

 MIRINという通話アプリで、遥と少しだけ会話した。

 少しなのは、俺が迷宮に潜るからだ。


「遥、ゆっくり休んでね。」

君も、無理しないでね。」

 遥の声は少しだけ寂しそうだ。

「大丈夫だよ、安心して。大好きだよ。それじゃまた、明日学校でね。おやすみ。」

「うん、私も好き。学校でね。おやすみなさい。」 


 行きは楽だ。

 《F級迷宮転移核》を使う。

 思い浮かべた場所は栄F級迷宮だ。

 ここで、色違いの旅を再開する。

 狙いは天使の色違いだ。

 24時まで。

 それ以降は流石に人が少なくなりすぎて補導されかねない。

 俺はマスクをして幼さを隠す。

 帽子に運動用の黒ジャージ。

 腰にカードホルダーを取り付けた格好だ。

 如何にも夜活する探索者風である。

 

 ピノキオ、ゴブリン、小鬼の三魔体制で乱獲する。

 天使は、アイテム回収を主にサポートに回って貰っている。

 天使の様子がおかしい。

 何かしようとしている。

 これは魔法の兆候か。

 幼狐の攻撃方法を見て学んだか。

『……。』

 まあ、難しいよな。

 そもそも《狐火》は固有攻撃魔法だし。

 

 因みに、前世の記憶では、この段階では覚えない。

 覚えさせるとしたら、ステータス……魔力値の底上げか。

 それが出来るのは色違いを探す事。

 もしくは、覚えている強個体天使のカード化を狙う事くらいだと思う。

 手っ取り早く、済ませたいならそれもいいけど折角育ててきた天使を別個体の天使に変えるのは可哀想だからしません。

 手に入ったなら遥にでもあげればいいさ。

 そもそも天使の進化先はヴァルキリーだけじゃないしね。

 


 あっという間に時間が経った。

 収穫は……600体オーバーの魔核。天使カード2枚。ブラッドスパイダーが6枚。スケルトンが6枚。

 色違いはなし。


「みんな、お疲れさま。確実にキル数は増えてるよ。ありがとうね。これからもその調子で頼むよ。」

『グァ!』

『……あい。』

『ごぶぅ!』

『えへへ。オイラ、ダイカツヤク!』


 一日目の色違い旅は終了した。


 ステータス

 小鬼(青) 性格;血気盛ん・従順 ランク:F

 力:G 201→207 耐久:G 261→263 器用:G 202→204 敏捷:G 219→222 魔力:I 5 幸運:H 126→138

 【スキル】…《挑発》

 【パッシブ】…《格上級殺しキラー


 天使 性格;のんびり ランク:F

 力:G 177 耐久:I 182 器用:G 271→273 敏捷:F 301→308 魔力:I 5→6 幸運:H 121→133

 【パッシブ】…《格上級殺しキラー


 ゴブリン(黒緑) 性格;勇敢・従順 ランク:F

 力:H→G 199→202 耐久:H 134→135 器用:G 211→213 敏捷:G 230→233 魔力:I 7 幸運:H 122→134

 【スキル】…罠解除 

 【パッシブ】…《格上級殺しキラー


 ピノキオ 剣盾ver 性格;お調子者・嘘つき ランク;C

 力:F 354→356 耐久:F 368→375 器用:F→E 399→401 敏捷:F 364→365 魔力:F 322 幸運:I 0→12

 【スキル】…《ピノキオの投擲矢》、《嘘つきは力の源》


 まあまあ渋い。

 部活+夜活で1200体は倒しているけど、ステータス差があって伸びが悪い。伸びてる内はまだ良しとする。

 

 翌日。

 朝活は探索者部にはない。

 授業後のみの活動だから朝はのんびり登校出来る。

 彼氏として初めての挨拶を遥と交わす。

 『おはよう。』

 ハモった。

 お互い、微笑む。

 遥は体を怪我でもしてないか、見ているようだが、何の問題もない。

「大丈夫だって言ったでしょう?」

 俺は遥に耳打ちする。

「そうみたいね?」

 遥は安心したように笑った。


 キーンコーンカーンコーン。


「勉強終わり!」

「今日も頑張ろ!」

「うん。」


 部室に行くと、結構な人数がいた。

 それも結構活気づいている。

「あ、きたきた。」

 刑部副部長は声を張って言う。

「みなさん、お揃いですか?」

 どうやら、みんないるらしい。

 勿論、部長も板倉も。

「今日は俺も頼むぞ。」

 ズズイっと出てきた武臣部長の圧が凄い。

 置いていった事を根にもってないといいが。


「それじゃ、昨日と同様手を繋いでください。ご協力お願いします。」

『はーい』、『はいはーい』、「うむ!」など、変に意気込んでいる人もいるが気にしない。

 俺は遥とちゃっかり恋人繋ぎをして、ポケットに手を突っ込んだ。《F級迷宮転移核》を作動させる。

 思い浮かべたのは栄F級迷宮。


 —――――しゅぴーん――――――

 

 全員を栄F級迷宮に着いた。

 どうやら人が少ない所に飛ばしてくれるようだ。

 転移した先で、ドンと人同士のぶつかり合いは起きないようになっているらしい。

 

「おおぅ……!!」

 武臣部長は感激している。

「……。」

 板倉も周りをきょろきょろしている。

 二回目でも、転移自体がアトラクション化しているのか、みな楽しそうだ。

「はい、じゃ、潜るよー!時間一杯頑張る事!」

 武臣部長が使えないので、刑部副部長が仕切る。

『はーい!』


 上級生組はE級へ。俺達はそのまま、F級迷宮へ。

 賀茂川先生は今日も巡回へ。


 俺達は、二階層へ。

 階層が増えれば、魔物への遭遇率も上がる。

 二階層の森エリアで今日は狩る。

 

「そう言えば、昨日夜活してて、天使2枚に、ブラッドスパイダー6枚、スケルトン6枚手に入ったけど二人ともいる?使えそうなのがブラッドスパイダーとスケルトンは一枚ずつかな。性格が悪い子達が多くてね。」

 

「天使は欲しいかも。」

 遥が言う。蜘蛛と骨は要らないと。予想通りだな。

「ウチは天使とブラッドスパイダーが欲しいな。」

 雪村さんは天使と蜘蛛か。

 二人の注文通り、カードをプレゼントする。

 性格悪なカードは、誰も受け取らなかったスケルトンへ経験値として注ぎ込んだ。

 そういえば、初戦闘不能状態で24時間召喚不可能だったオークは性格が《間抜け》から《間抜け・臆病》になっていた。

 使わないけど、可哀想な結果だ。


 探索者ギルドに売っても訳アリカードとして安値で買い叩かれること間違いなし。

 

 戦力が増強されたお陰で、安定感が増す。

 チームを組んでいるので、入ってくる経験値は均等分けされる。狩って狩って狩りまくる。


「ピノキオ!脇が甘いぞ。盾を活かせ。」

 しっかりと防御が疎かになるピノキオへの指示も忘れない。

「ウー、ワカッテル!」

 喝を入れると、頑張るんだよなぁ。


 今日は、フォローには入らない。

 二人には被弾して痛みに慣れてもらう。

 昨日でステータスが激増している筈だから、賞味大した被弾はしないと思うけど。

 


「蜘蛛ちゃんと天使ちゃんが攻撃された時は、いったいわぁ。」

 雪村さんの本日の感想。

「分かる。私も天使ちゃんの時、痛かったなぁ。」

 遥の肌にも幸い傷は出来てないみたい。

 雪村さんと遥のエースアタッカーが獅子奮迅の働きを見せて、フルボッコにやられる事はなかったようだ。

 

「どうしても、痛かったら回復薬(小)を使って。」

 俺は、ハードな狩りに付き合わせていることを自覚している。

 だから、二人に回復薬(小)を一本ずつ渡す。

 これで、残りは回復薬(小)は3本。


『え?!』

 と、二人は驚いている。

 大体、30万円の魔法美容薬にでも見えているに違いない。

 目が、ぎらついている。

「この事は、内密にね。」

『もちろん。』

 バレたら大変だもの。

 特に女子生徒にバレたら。

 一滴肌に塗り込めば、たちまち赤ちゃんみたいなぷる肌になるのだから。

 今日狩った魔物は1000体オーバー。

 此方の手数も増え、一階層から二階層へ進出しただけのことはある。三人で大体、10万円の儲けだ。

 三人で割れば、3万円越え。

 良い日給である。

 

 他の生徒も頑張っているようで、一万円を超えている者もいるようだ。

 諭吉に大はしゃぎである。

 

 「百日頑張れば、美容薬が買えちゃう?!」

 なんて声もちらほら聞こえる。

 目標が出来たりするのは良いことだ。

 それに実際頑張れば、百日も掛けずに稼げる。


 全体で見ても、意欲は高い。

 とりわけ、男子達の意欲は高い。

 それと双璧を成すように美容薬目的&お小遣い稼ぎの金銭層が意欲的だ。16時から始まり、19時終わり。移動に約一時間、毎日二時間だったのが、活動三時間に増えた。やる気がなくても、休憩込みで一日の部活で最低5000円を貰える。

 それが、初日で判明した。休憩込みの3時間労働バイトだと考えると美味しすぎる。下手に移動する訳でもないし。

 交通費を一部負担しないとだとか、既定の制服がダサいだとか上司が口うるさいとか仕事量多いとか在り来たりな愚痴になるような部分も特にない。

 それを成し得ている――環境を作った男が身近にいる。

 恩恵に授かれている――特別感が彼等のやる気を引き出している。やる気がある内に、育成すれば戦闘も楽になる。

 そこまで意欲が続くように、発破を掛けるために《F級迷宮転移核》を使って全員の移動時間を短縮している。

 お陰で、上級生4人に同級生は15人程。

 

「千堂、ありがとな。」

「千堂君、ありがとうね。」

 男女問わず、感謝をしてくれる。

 人の為になる事をするって気分がいいね。


「それじゃ、遥。駅まで送るよ。」

「うん、帰ろっか!」

 俺達は手を繋いで、駅へ向かって歩き出す。


「な、なあ。」

 後ろから声が掛けられた。

 聞き覚えのある奴。

 俺は無視するのも良くないと思い、振り返る。

「ん?なに。」

 目に映ったのは板倉だ。


「この前はごめん。もごめん。」

 板倉は軽く頭を下げ、謝ってきた。


「いいよ。俺も声を荒げてごめん。」

「アキくんが許すなら許す!」


 それだけ言うと、遥と帰った。


「ねえ、許して偉いね。」


 遥が褒めてくれた。

 蟠りはないに越したことないからね。

 いがみ合うとかしんどいし。


「じゃ、家着いたら連絡してね。」

 駅まで着いた。

 あっという間だ。

「うん、またね。」

「じゃあね~!」

 遥と、何処からともなく現れた、雪村さんとも別れの言葉を交わす。



 遥と駅で別れ、俺は家に真っ直ぐ帰った。


 夕飯に、お風呂、勉強の三種の神器を済ませる。

 そして、MIRINを使って遥と通話する。

 まだ二日目だが、これがルーティーン化しそうだ。

 悪くない。


「じゃ、今日も迷宮に潜るの?」

 遥は夜活は反対派なのかもしれない。

 言い方がそんな感じだ。

「そうだね。土曜は午前が部活で潰れちゃうから毎日潜らないと。日曜しか丸一日潜れる日がないからね。」

「え?」

 俺の説明に遥は絶句する。

 何か言ったかな?

「私とデートとかしたくないの?」

 ああそう言う事か。

「そりゃ、もちろんしたいよ。だから、基本的に迷宮デートをしようかと。」

「……。」

「ほら、お金貯めれるから。貯めて夏休み旅行行くなりしたいでしょう?ほら、4月4週目って29日辺りからゴールデンウィークだよ?ちょっと遠出して、迷宮巡りしようよ。」

「ねぇ!途中までは良かったけど、結局迷宮じゃダメでしょ!」

 バレたか。

「まあ、確かに。でも遥の為でもあるんだよ?因みに旅行先はもう決めてるんだ。」

「どこに行こうとしてるのかだけ聞いてあげる。」

「静岡の浜松に行こうよ。」

 浜松餃子、サワヤカンというハンバーグ店、海鮮丼、静岡おでん…。

 食べ物巡りに旅館でお泊り合宿する作戦を打ち明けた。

 因みに母さんには恋人になったと報告済み&協力要請済み。

 未成年は、親が泊まりの電話しないと泊まらせてくれないからね。

 母さんは当人でもないのにノリノリだ。

 

「え、じゃあ決定な感じ?!」

「そう。後は遥さんがどうにか親御さんを説得出来れば、無問題だよ。」

「アキくん、手際良すぎだよ……。分かった。お泊りの件…二泊三日でママに言っとくね。」

 二泊三日か。

 そんな事言ってないけど二泊はしてくれるってことか。

 いや、それだけ稼げよってことかな?

「分かった、ゴールデンウィーク楽しめるように頑張って稼いでくるからね。」

「うん。でも無茶はダメだからね。」

「はーい。じゃ、遥、おやすみ。」

「一足先におやすみ、アキ君。」 


 電話を切って、今夜も夜活だ。


 さ、張り切ってくぞ!


 4月2週、火曜、夜活。

 トータル600オーバー。

 魔核換金…約6万

 

 色違いなし。

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