第6話:学校生活

 俺はC級魔物――ピノキオを手に入れた。

 これは即戦力級だ。 

 ステータス

 ピノキオ 剣盾ver 性格;お調子者・嘘つき ランク;C

 力:F 354 耐久:F 368 器用:F 399 敏捷:F 364 魔力:F 322 幸運:I 0

 【スキル】…《ピノキオの投擲矢》、《嘘つきは力の源》

 

 現段階でのエースアタッカーがまさかの野生。

 無論、狩り効率が上がるから即採用である。

 耐久もずば抜けているので、F級迷宮に出てくる通常種ならワンパンだろう。

 色違いで苦戦を強いられるような事もなくなったかもしれない。いや、そこはとっくに解消されてるか。

 

 ステータス

 小鬼(青) 性格;血気盛ん・従順 ランク:F

 力:G 201 耐久:G 261 器用:G 202 敏捷:G 219 魔力:I 5 幸運:H 126

 【スキル】…《挑発》

 【パッシブ】…《格上級殺しキラー


 天使 性格;のんびり ランク:F

 力:G 177 耐久:I 182 器用:G 170→271 敏捷:F 301 魔力:I 5 幸運:H 121

 【パッシブ】…《格上級殺しキラー


 ゴブリン(黒緑) 性格;勇敢・従順 ランク:F

 力:H 199 耐久:H 134 器用:G 211 敏捷:G 230 魔力:I 7 幸運:H 122

 【スキル】…罠解除 

 【パッシブ】…《格上級殺しキラー


 ステータスは三桁を越え、初心者の中級者って所か。

 パッシブスキルがやばい。相手のランクが高いと自動的にステータス補正の入るアタリスキルだ。

 カードステータスをみて、頬が弛むんでしまうのも致し方ない。なんせ、五日だからな。流石に俺も信じられない。確実にピノキオの経験値が最高過ぎた。

 《F級迷宮転移核》は、やはり情報は出回っていない。

 使い切りなのか、半永久仕様なのか分からない。

 ま、移動の時短になりそうだから、次の迷宮探索に行く際は使おうと思っている。所詮、F級迷宮にしか転移出来ないのだろうし。そして、スマホの裏には上治先生のサインが書かれている。

 良いこと尽くめで有頂天。疲れた体にベッドは癒し。

 くたくたに疲れていた俺は、《F級迷宮転移核》を早々に使う予定を立てて寝落ちした。



 高校生活。

 それは、学業や部活に専念する時期である。

 多少の色恋もね。


「千堂君、勉強も出来るんだね。」

 遥がえらいと褒めてくれる。二周目みたいなもんだからな。

「そうでもないよ。ちゃんと勉強しないと全然ダメ。」

 これは本当の事だ。

「謙遜を。羨ましい限りよ。」

 雪村さんだ。スタートしたばかりだろうに。

 まだ高校生活2週目。

 ちょっと授業受けただけだろ。

「そんな事言って。僕より定期考査で結果良かったりしてね?」

 まだ一度もテストを受けてないからね。

 

「遥、勉強分からなくなったら訊いて?僕で答えられる範囲のことは教えるからね。」

「ありがとうね。」

 遥は別に勉強はそこそこ出来る。

 同じ大学に入学したが、俺はギリ。

 彼女は余裕をもって合格していた。

 その後の単位も効率よく取っていたし。

 もしかしたら、彼女は無理せず、こなす事が生き甲斐モットーなのかもしれない。

 前世は自分の方が出来なかった癖に。

 俺は調子に乗ったようだ。

 カッコつけて教えるとか言った手前、勉強も頑張らないと。

 

「そういえば、二人はどこの部活に決めたんだ?」

 雪村さんも含めて質問する。

 一緒に居るのに遥単体じゃ、流石に体裁が悪い。


「私は探索部…だよ。」

 遥は少し照れながら言う。

 探索部に照れる要素があるのか。

 俺と一緒の所だから入ろうって決めたのか?

 いや、自惚れるな。未だ、千堂君だぞ。

 彼女の道は、千里の道。千里の道は一歩から。

「ウチも探索部ッ!」

 雪村さんからは探索部本来の目的以外で探索部に決めたような、そんな感じがする。

「じゃあ、僕達三人でチームでも組むかい?」

『チーム?』

 二人は声を揃えてクエスチョンマークを頭の上に具現化させている。

 そうだった。二人はまだ知らないのか。

 二度目の俺は知っている。

 探索部は部活が始まると、実力が近しい者同士で――二人から三人でチームを組まされる。

 実力に開きがあれば、チーム解消もあり得るが、基本的には一年生同士、二年生同士、三年生同士で組む。

 これは大体が高校デビューと共に、探索者として活動する者が大多数だからだ。

 小学生、中学生から探索者をしているような、英才教育を受けた人間は探索者専門の養成高校にでも通っているのだ。

 そして、うちの高校は普通科が多く割合を占める高校だ。

 そんな奴はいない。いや、記憶では居なかった。が正しいか。

 だから、学年が同じ奴と組むのだが、そういう話は敢えて言わないことになっている。

 なぜなら、『あの先輩が好きだから~』の純粋な恋愛目的とか、『お金持ちになりそうな人とお近づきになりたいの♡』と考えている現金な女子層が一定数いる。そういう層にも入って貰わなくては困るのだ。仮にそういう層が早々に見限り、幽霊部員になろうとも。部員として名前を連ねて貰えることが大切なのだ。

 俺が死に戻りする前は、割といた。

 痛いの、イヤ。って奴。

 御肌に悪いって奴。

 使役する魔物すら怖いって奴。

 歩くの疲れるって奴。

 体育会系過ぎない?って文句言う奴。

 先輩と組めない。って嘆く奴。

 実力のなさに将来性を感じないって言ってた奴。

 そんな層でも探索部に入って貰わないと、部の存続が危ういのである。そう!弱小探索部なのである。

 幽霊部員と組むと、必然的にソロ活動になってしまう。

 デュオやトリオを組んた相手が蒸発、実質ソロ同士が組む事になる。

 俺と遥が高校三年間組んでいた理由は――相方達が早々に幽霊部員になったから。


 これは一種の検証でもある。

 アレは一生分の人生を予知夢か何かで体験しただけなのか。 

 それなら、未来は変えられないのか。

 変えられるとして、何処までが同じ流れになるのか。 

 昔と違う事はしている。

 前世の俺は此処まで、やる気を出して探索者として打ち込んではいない。

 俺を鍛える分には今の所、変化に対しての皺寄せ…みたいな何かが起きた……ってのはないよな。

 本来は相方が幽霊部員なることでチームを組む事になる筈の俺達は先にチームを組む事が出来るのか。

 出来たとして――それが他者の未来をも干渉することに繋がるのか。

 何か不都合が生まれるのか。

 それとも、断られてしまってチームは組めないのか。

 俺は、今が現実なのか、実のところ、走馬灯を追体験している説だって捨てきれていない。だから、ちょっとばかし無茶もしている。


 話が少々脱線したな。

 

 うちの顧問の賀茂川かもがわは生徒に特に何も求めてない。

 探索部として高校生限定賞レースもあるというのに、大会云々系でとやかく言う事はない。

 寧ろ、怪我人が出たり、死人が出ないように、安全第一をモットーに顧問活動をしていた印象だ。

 高校生の頃は、何となくで魔物を育てて、お金を換金して貰って、痛みに耐える俺かっけー!をモチベーションに部活動してた痛い奴だったから。賞レースはガチ勢頑張れって感じだったし。 

 賀茂川の事を悪く言う気はない。

 確か、俺が部員として活動してた時は、死者・重傷者ゼロだった筈。

 賀茂川先生は賀茂川先生なりにちゃんと仕事してたって事ヨ。


 そんな賀茂川の努力をあの時は知りもしないで……!

 俺ってやつはよぉ…!

 ――ちょっとばかし後悔しているので、今世界線では賀茂川の為にも、ビシバシ同期を鍛えて鍛えて鍛えまくって!部の安全を強化したいと思っております。

 

 フフフフフフフフフフ!!!


「あ、なんかハルちゃんの旦那、悪い顔してる。」

「うん、どうしたんだろうね…?ってええ、旦那さんじゃないもん!」

『まだ?』

 我に返った俺は、不覚にも雪村さんと同じく遥の発言の揚げ足取りみたいな事をしてしまう。

「あうぅうう~!あ、それでチームって?」

 話を逸らしたな。いや、最初に説明しようとしたのに説明しなかった奴が何を言うか。遥のためにも、乗ってあげる。

「チームっていうのはね。安全に迷宮攻略活動する上で固定の仲間を作りましょうって事。迷宮はF級から存在するけど、そのF級迷宮ですら、ソロは推奨してないんだ。なのに、高校生である僕等みたいなペーペーが単独者ソロ活動したらどうなると思う?」

「危ないって事ね。」

 雪村さんも真剣な顔になっている。

「自惚れ屋さんには抑止力者ストッパーが必要だもんね。」

 グサッ。単独行動して、俺つえ―!したから《自惚れ屋さん》だと思われてるのかも。いやもしかしたら、デートの日にほんのちょっぴり血に塗れて登場した事を思い出してしまったのかもしれないです、はい。

 

「そうだね、ハハハ。ま、そういう訳だから近しい人同士で組んだ方がね?折角、仲良くやれてるわけだしさ。」

「私はいいよ。」

「ウチはお邪魔じゃないなら。」

 決まりだ。

 チームを組む成り行きは変える事が、出来た。

 俺の未来への干渉がどうのなんてのは知りもしない、遥は純粋に嬉しそうだ。考えすぎなのだろうか。


「それじゃ、各自部活動に励むように。解散」

 ホームルームが終わり――。

 放課後、部活動の時間となる。

 一緒のクラスなので、そのまま三人で割り当てられている部室に向かう。

 俺が先頭で部室の引き扉を開けた。


『らっしゃ~い!』


 先輩たちが歓迎してくれる。

 前世界線の記憶通りなら――同期の宮前くんと藤井さんはもう居るのか。

 どうやら、人は大体集まっているようだ。


宮前健太みやまえけんた—―」

 純朴な青年って感じ――。

 170前後。

藤井加奈ふじいかな—――」

 168センチくらいか。

 女子にしては大きい身長。

 肩に掛かる長髪と、モデルのように全体的に線の細い子だ。

雪村奏ゆきむらかなで—―」

 160センチくらいだろう。

 胸下まである長髪に丸い眼鏡を掛けている。

 このコは出るとこがしっかり出ている。

志水遥しみずはるか—―」

 150センチくらいだったっけ。小柄で可愛い。

 ショート――ボブヘアだ。くりっとした目に小さな唇。

 身長の割に程よく成長している胸。小さすぎず、大きすぎず。

 俺の大切な人である。

 前世では唯一肉体関係を持った女性である。


 新一年の挨拶も大体済み――

「千堂秋です。よろしくお願いします。」

 俺の挨拶もつつがなく終わった。

 高校一年で168。確か三年時か、大学一年の健康診断で172センチまで伸びたんだっけか。

 容姿は特にパッとしないから紹介は割愛させてもらう。


「3年—―部長の武臣哲郎たけおみてつろうです。困ったことがあれば相談に乗ります。」

 180センチはあるだろう。巨躯だ。

 野球部かな?ってくらいの坊主に、キリっとした瞳。

 硬派な印象を受けるだろう。

 

「3年—―副部長の刑部南おさべみなみです。部長がこの通り、生真面目でお堅い男子なので、女子部員で言いにくい方は私でも構いません。困ったことがあれば遠慮なく、言って下さいね。」

 160センチくらいか。

 眼鏡が似合う優しい印象の女性だ。

 割ときっぱりと言う人だ。

 図書委員と出来るOLさんに居そうな印象だ。


「2年—―福部実ふくべみのる。」

 165センチくらいだろうか。

 男子にしては小柄だ。

 この人は無口だ。大人しい印象の先輩。

 校則ぎりぎりを狙った頭髪だ。

「同じく2年—―斎藤明日香さいとうあすか

 158センチくらい。

 真面目タイプだ。

 優等生に居そうなお堅い先輩だ。

 腰までありそうな黒髪。

 いつもポニーテールをしている。


「えっと、最後になります。顧問の賀茂川です。一応D級迷宮までの引率ならできます。F級迷宮の課外活動は報告の義務はありません。ですが、E級迷宮へ潜る時から、先生に報告、連絡、相談をしてください。無許可での迷宮探索は先生怒りますからね。それだけはやめてください。お願いします。」

 ぼさぼさの髪に、白衣を着ている。ああ、そうだった。

 この人保険医だったわ。


 高校生活で、主要人物の紹介は終わった。

 

「それじゃ、一年生はチーム決めから始めてくれ。二人一組デュオ三人一組トリオまでならいいぞ。四人はダメだ。経験値が分散し過ぎて、ランクの高い迷宮に行かないと損をするからな。」

 部長の一言で、一年生達はざわざわし出す。

 俺達は、決まっているので自然と集合する。


「改めて、よろしく。」

 俺は簡易的な挨拶を終わらせる。 

「こちらこそだよ。」

 遥は微笑む。

「お邪魔しないように頑張るわ。」

 お邪魔とは何か。


「おお、お前女二人と組むのか?冴えない奴なのに意外とやるな!」


 うざい。肩に手を回してきた。

 たしか板倉だったか。

 こいつは幽霊部員になる筈。

 関わるだけ損だ。

 それに探索者に女も男もない。

 完全な実力主義の世界だ。

 男と――女と――って考えが先行してるコイツは、そういう目的なのだろう。要は、この絡みは嫉妬から。


「ウチら、クラスが一緒でね。元から仲がいいのよ。」


 最初に牽制し出したのは雪村さんだった。

 意外だ。

 俺がダル絡みされたというのに。


「そういうこと。変な勘繰りはよしてくれよ。」


 俺は肩に回された腕を振りほどいた。

 俺の言い方が気に入らなかったようだ。

 

 板倉のダル絡みは続く。


「へえ、知ってるか知らねえけど俺も同じ組なんだぜ?」

 

 まじかよ。陰薄すぎて記憶になかったわ。


「で?」

 

 冷たく、返すのはこれまた雪村さん。

 これは、流石に板倉も、たじろいだ。

 そして、雪村さんの態度をみて、標的を絞ったのだろう。

 一言も喋ってない遥に話を持ち掛けた。


「ハルカちゃん。男でも良いなら、俺達のとこに来ないか?」

 

 気持ち悪い男が志水さんではなく、ハルカちゃんと呼んだ。

 俺は狭量だ。独占欲も高い。嫌悪感で敵対心が湧く。

 そして何より、気持ち悪い男が遥に触れようとしている。

 あの時の記憶がフラッシュバックする。


 思わず、俺は板倉の手をはたく。

 そして、板倉を睨んだ。


「な、なんだよ。俺達のとこはまだ二人だ。もう一人勧誘してもいい筈だろ?!」

 

 板倉の言ってる事は間違ってない。

 でも、もう決まってる班から引き抜かなくてもいいだろう?

 同じクラスだと知っていたという事は、狙いやすいって思ったんだろ?だから、積極的になったんだろ?

 俺はな、人様のもん手を出す奴は許さんぞ。

 断じて許さんぞ。

 

「遥に触れようとすんじゃねえよ。俺の女だ。殺すぞてめえ。」

 

 キレてしまったので、だいぶ口が悪くなる。

 これには板倉も一瞬怯んだが、すぐにニヤっと笑い、俺に言い返してきた。


「なんだなんだ。お前ら付き合ってたのか?」


「…いや、まだ付き合ってない。」


 俺と遥を冷やかしてやろうって魂胆だ。

 そして、まだ付き合ってない。

 これはやってしまった。

 あちゃーと、雪村さんは天を仰ぐ。

 遥は何も言わない。


?付き合ってもないのに、俺の女とか言っちゃった感じ?やば!チーム組んだだけで俺の女とか言われちゃ堪ったもんじゃねえよな。」

 

 板倉が饒舌になる。且つ、大声と来たもんだ。

 その目には嘲笑さえ見て取れる。

 他の生徒も静まり返って、俺達に注目している。

 ああ、言い返せんわ。再反省。 


「確かに、付き合ってないよ。でも、だから何?

私が不愉快だとか堪ったもんじゃないって言った?てか人様の人間関係にとやかく言うとか何様?確かに、貴方のような、こういった場で人を貶め、嘲ったりするような下衆に言われたら反吐が出るわ。そもそも私はあきくんから、正式に誘われてOKしたの。だから下衆とチームなんて組めないよ。あと私の事、馴れ馴れしく名前で呼ばないで!触ろうともしないで!気持ち悪い。もう関わらないで下さい!」

 

 今まで黙っていた遥が板倉に胸の内をぶちまけた。

 強烈な反撃に遭ったのは、板倉だった。

 板倉は何も言い返せない。


「板倉。お前に話がある。」


 スッと出てきたのは巨人—―いや部長だ。


 首を引っ掴まれて、部室から出て行った。


「ハイ、注目!みんな無理強いしてチーム勧誘とか止めようね。チームは大体決まったよね。部長達は後で来ると思うから。先にF級迷宮にレッツゴー!」

 

 おおう。

 副部長が仕切り、俺達は課外活動へ。

 場所は栄。

 F級迷宮は此処にもある。栄にはE級迷宮も存在する。

 一年生の俺達はF級迷宮。

 二年、三年はE級迷宮へ行くらしい。

 賀茂川先生はF級迷宮とE級迷宮を巡回するようだ。

 栄は、近くにF級・E級迷宮があるから、先生も大助かりだろう。愛知県は初心者育成がしやすい土地なのだ。

 他に徒歩十分程度で迷宮がある所は東京、北海道、大阪の三つくらいだ。

 原爆が投下された広島・長崎に近くなればなるほど、魔境のようになっている。

 迷宮の難易度は高く、出てくる魔物も凶悪。

 迷宮そのものが暴走し、魔物が地上を闊歩している状態だ。

 確か、高校生の時の最終防衛ラインは兵庫県。

 今から11年経つと――俺がA級になっていた頃は—―京都が最終防衛ラインになる。

 俺が殺されたのは、兵庫奪還作戦に参加させられたせいでもある。小さな未来の変化は可能らしいが――もし大局で見た時の未来自体が、変えられないなら俺は抗う力をそれ迄に蓄えなければならない。二度と仲間も遥も傷つかないようにするために。

 

 時間はあるようでない。

 という訳で、あのアイテムを使おうと思う。


「あの、皆さん。出来るか分からないんですけど、手を握って頂けませんか?全員が繋がるように。円陣みたいなもんなんですけど、繋ぐのは手だけでいいです。」

 準備をしていた皆は困惑する。

 突然手を繋げと言い出すのだから。

「よく分かんないけど、いいよ。はい、みんな千堂君の言う通り。手を繋いで。この後すぐ出るから荷物は持ってるね?」

 副部長の刑部さんは段取りがいい。

 俺は遥と、遥のもう片方の手は雪村さんと………副部長、賀茂川先生が最後となる。やれるか分からんしな。

 俺だけは片手が空いている。

 ポケットに手を突っ込み、《F級迷宮転移核》を握る。

 場所は行ったコトのある大須通りF級迷宮だ。

 

 ――――――――しゅぴーん—――――――――


 一瞬で転移出来た。

 それも全員。

 もしかしたらお一人様用かとも思ったけど、手の中には《F級迷宮転移核》が残っている。

 

『おおおおおおお?!』

 

 みんなが驚きの声をあげている。

 転移した辺りは人が閑散としている。

 平日と言うこともあるだろう。

 大須通りF級迷宮には探索者ギルド職員が換金所に居る位だ。


「すみません、此処大須通りのF級迷宮なんで、15分くらい歩くことになると思います。」

 学校から電車へ。電車を三駅乗り継いで、名古屋駅から徒歩にって思うと時短だろう。

 

「いや、すごいなぁ。」

「こんなことが出来るなら部長達待てば良かったかしら?」

 賀茂川先生と刑部副部長が其々感想と最適解を模索した見解を述べ始めた。


「あ、出来るか分かんなかったんで。刑部副部長、それは考えても仕方ないです。は、待てばいいだけです。」

 あ、消耗品てことにすれば良かった。しくった。

 言って気付いた。

 そして刑部副部長はしっかり聞いていたようで。


「それもそうね?よろしくね。どうしてこんな事が出来るのか分からないし、探索者として聞くのも聞かないけど!!!!今年は良い子が入って来てくれたわ!みんな、ガンガン強くなってね!」

 敢えて、部活動のみんなに聞こえるように言う。

『はい!』

 意図を汲んでか、元気のいい返事だけが続く。

 でもみなさん……悪い顔になってますよ。

 みせられないよ、モザイクしちゃうぞ。


 副部長の激励と、転移体験に興奮した若者達のやる気は凄い。


 此処から、弱小探索部、A高校の探索者名門校として名を馳せる、華々しい活躍が始まるのであった。


 

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