第5話:ボス戦の旅

 四戦目のオーク戦も難無く勝っている。


 ドロップ品は――魔核のみ。

 宝箱は――魔核。


 渋い。ね?こんなもんなんですわ。

 だから基本的にカードはギルドで買うのが王道。

 出た魔核を換金してお金を貯める。貯めたお金でカードを買う。安全に迷宮攻略するために消耗品アイテムを買う。

 探索者エクスプローラーの稼ぎの大体の出費は—―いや経費を占めてくる。

 

 まだ回復薬すら満足に変えない初心者中の初心者。

 同じ初心者が苦戦しないようVチューブでも始めるか。

 戦闘記録を只々撮る。垂れ流しで、作戦方法だけテロップで記載。滅茶苦茶簡単な動画である。

 


 戦闘も15戦を超えてきた。カードはまだない。確率5%なので20戦して一枚だからね。焦るときではない。

 そしてやっと新魔物がきた。


『グオォーーー!!』


 ミノタロスだ。

 亜人型E級魔物。斧持ちなのでリーチが長い。体力エイチピー膂力パワー耐久スタミナ敏捷スピード—―E級界の頑丈タフガイとして知られている。

 茶色の体毛に覆われた牛頭人体。通常種だ。敏捷初期値は132。

 

「基本的に、小鬼は《挑発》!敵の攻撃は回避&カウンター!天使は制空権を活かして攻撃。敵の射程範囲に居座り続けないように!ゴブリンは常に背後に回って攻撃!」


 ミノタロスが一番怖いまである。こいつは難敵なので、指示も細かにしておく。

 と言っても、出てくるのが遅かったな。

 初戦なら、確実にゴブリンに勝っていたであろう敏捷も15戦もした後に出てきちゃ…ね。


 ステータス


 ステータス


 小鬼(青) 性格;血気盛ん・従順

 力:I 46→66 耐久:I 28→40 器用:I 44→50 敏捷:I 49→68 魔力:I 5 幸運:I 28→39

 【スキル】…《挑発》


 天使 性格;のんびり

 力:I 35→53 耐久:I 18 器用:I 38→49 敏捷:I 49→76 魔力:I 5 幸運:I 23→34

 

 ゴブリン(黒緑) 性格;勇敢・従順

 力:I 20→30 耐久:I 14 器用:I 31→45 敏捷:I 39→50 魔力:I 7 幸運:I 24→35

 【スキル】…罠解除



 十一戦分、ワームが割と多く出たので、ゴブリンは【スキル】で《罠解除》を手に入れている。如何に罠解除をさせてきたか――器用の伸びが凄いでしょう?天使を抜いたからね。

 小鬼の耐久が上がっているのは、《挑発》をしているからだ。 

 紙一重で避ける戦いをしていたら、掠る場面も出てくるというものだ。勿論、回復薬(小)は使ってある。

 十一戦して、連戦ボーナスもあって、報酬で3本回復薬(小)が出てきている。

 後は魔核だ。言わせないで欲しい。それでも渋いなって思ったでしょう?渋いんです。言うてたったの15連戦目ですしおすし。


『グオォーーー!!!』

 《最後の一振り》かな?強烈な一撃を与えるスキル攻撃だ。瀕死のミノタロスがする最大最高の攻撃だ。


「小鬼は《挑発》!回避は大きく!確実に避けろ!」

『グァ!』


 命令通り、小鬼は適切な動きをみせた。

 ミノタロスの渾身の一撃は地面へ。

 天使と、ゴブリンに後ろから首、腰に攻撃を与えることに成功。ミノタロスはこれにて撃破。

 

 ドロップ品は――魔核とミノタロスの戦斧。

 カードじゃないんかい。アイテムは装備出来る。

 このミノタロスの斧はチカラが50超えていないと装備出来ない。現状誰も装備できない。

 宝箱は――回復薬(小)

 アタリ回ではあったかもしれない。


 ミノタロスの戦斧

 装備条件;力が50以上。

 ステータス:力をプラス15上昇補正。敏捷マイナス5下方補正。

 


 16、17、18、19戦目はワーム、ワーム、ゴーレムだ。

 ドロップ品は――魔核のみ。

 宝箱は――魔核×3、回復薬(小)×1

 合計、回復薬(小)は5本である。



 20戦目。

 まだカードは出ていない。

 

『……。』

 ぷるぷるしている。アシッドスライムだ。

 無形生物型E級魔物だ。

 黄色が濁ったような、色味だ。これは通常種だ。

 酸性の水脂肪に覆われた魔核が弱点だ。

 物理攻撃耐性持ちである。敏捷は120。Eランク界の鈍足である。

 時間は掛かるが、勝てないわけではない。

 

 水脂肪を削り切るときに、ダメージを受ける。

 だがそれも魔核さえ、攻撃の射程範囲内に入れば終わりだ。

 

 ドロップ品は――魔核のみ。

 宝箱は――回復薬(小)


 三体に一本ずつ、回復薬(小)を使う。

 回復薬(小)の合計数は3本。

 カードも落ちないし、回復薬(小)のストックを一気に使う事になったし。耐久が上がったと思えばいいのか。


 ステータス


 小鬼(青) 性格;血気盛ん・従順

 力:I 66→72 耐久:I 40→70 器用:I 50→60 敏捷:I 68→76 魔力:I 5 幸運:I 39→45

 【スキル】…《挑発》


 天使 性格;のんびり

 力:I 53→69 耐久:I 18→42 器用:I 49→70 敏捷:I 76→88 魔力:I 5 幸運:I 34→40

 

 ゴブリン(黒緑) 性格;勇敢・従順

 力:I 30→40 耐久:I 14→39 器用:I 45→60 敏捷:I 50→60 魔力:I 7 幸運:I 35→41

 【スキル】…罠解除


 トータル耐久80オーバー上昇。うん、良き。

 


 ボス戦—―21、22…………38連戦目。

 宝箱から出た回復薬(小)は9個。

 消費した回復薬は、アシッドスライム戦×2で6本。小鬼が被弾したのを回復で2個。計8本消費で合計数は4個。

 一本増えたね!やったね!…泣いていいですか。

 市場価格4本なら120万くらいだよ。


 『ブモォオオ!』

 オークだ。ピンクの肌。通常種。

 もうカードは落ちないのだろうか。

 それくらい確率が下振れしている。

 ルーティーン化した豚狩りを終える。


 ドロップ品は――魔核……とカードだ。

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

 やっと来た。ボスドロップ!!ステータスをみる。

 

 ステータス

 オーク 性格;間抜け ランク:E

 力:H 140 耐久:H 150 器用:I 120 敏捷:H 130 魔力:I 0 幸運:I 0


 流石Eランク。初期値が高い。H評価からだ。

 でも?性格が《間抜け》と。これは必中攻撃スキルすら外すと言われている恐ろしい性格だ。—――なし。なしなしなしなし。

 あるあるだし、凹んではいられない。

 一昔前なら盛大に凹んでたけどな。

 宝箱は――回復薬(小)×1

 せめてもの救いだ。

 手持ち回復薬(小)はこれで5本。

 

 

 戦う事40戦。

 まともに五分休憩を取らずにきた。

 戦闘時間は恐らく15分程。十時間は戦っているだろうか。

 16時過ぎには遥と別れた筈。現在時刻は大体夜中の3時くらいか。気づいたら日曜。昼食が遅かったとはいえ、流石に夕食も抜きで良くやるなって?デート前に買い出ししておいた食料と眠け吹っ飛ばし剤のお陰だ。

 今日は21時か22時まで帰る気はない。

 その為の買い出しも済ませてある。

 基本的に出てくるボスは同じだ。

 ここまでくれば、寝ていても問題はない、いやあるけど。

 でも、見る必要のないボスは目を瞑っておく。

 こうしておくことだけでも、リラックスできる。

 幸い、闘技場なので観客席—―石造りの平坦な座席スペースもある。

 横にもなれる。

 

 はあ。


 ボス連戦する事92戦目。時刻は15時くらい?

 腕時計を持っておくべきか。

 迷宮ではスマホ等電子機器は使えない。

 ――アナログな腕時計が必要なのだ。

 もちろん、持ってない。

 何となくで時間経過を図っている。

 回復薬は10個までストック出来ている。

 『グオォーーー!』

 

 ミノタロスだ。

 

「小鬼は《挑発》!敵の攻撃は回避&カウンター!天使は制空権を活かして攻撃。敵の射程範囲に居座り続けないように!ゴブリンは常に背後に回って攻撃!」


 舐めてかかるのは良くない唯一の敵。

 

『グァ!』

『あい。』

『ごぶぅ!』


 相も変わらず、元気一杯だ。

 流石、七日間で世界中の国を相手取って、蹂躙し続けた魔物達よ。人間と同じ尺度で測るのも烏滸がましい。


 気合の入った魔物達をみて、俺もやる気を出す。


 《最後の一振り》が、発動している。

 

 ドロップ品は――魔核のみ。

 宝箱は――魔核。


 討伐時間にして十分程か?初戦より確実に早くなっているのは分かる。ステータスの伸びを確認するか。

 以下、38戦目からボス92戦後のステータス


 ステータス

 小鬼(青) 性格;血気盛ん・従順 ランク:F

 力:I→H 72→166 耐久:I→H 70→150 器用:I→H 60→142 敏捷:I→H 76→166 魔力:I 5 幸運:I→H 45→117

 【スキル】…《挑発》


 天使 性格;のんびり ランク:F

 力:I→H 69→109 耐久:I 42→182 器用:I 70→170 敏捷:I 88→189 魔力:I 5 幸運:I→H 40→112


 ゴブリン(黒緑) 性格;勇敢・従順 ランク:F

 力:I 40→140 耐久:I→H 39→134 器用:I→H 60→120 敏捷:I→H 60→170 魔力:I 7 幸運:I→H 41→113

 【スキル】…罠解除 



 普通に強い。

 実力だけみたらEランクと並んでいる。

 一対一でも何とか頑張れるレベルだ。

 負ける気がしない。

 恐らく15分も掛かっていないかな?

 魔核を闘技場中央へ投げ捨てる。


 100戦目を終え—―――101戦目。

 ここからは変則イレギュラー魔物が出てくる可能性が高くなる…と言われている。

 迷信だ。多分。俺は信じていない。

 死に戻り前も怖くて検証していない。

 俺がA級に上がる前—―B級時代でも110戦くらいの検証動画は上がっていた。実際の所、『10戦しか検証してねえ』だの『検証なんだから100戦目以降、100戦してから動画あげろ。』との声が多くて叩かれていた人がいる。心ある人は『10戦分でも貴重。データ、ありがとう。』とかもあったけどね。

 取り敢えず、10戦は安心だろう。

 


『ニシシシシシッ』


 聞いたことのある魔物声だ。

 赤い帽子、夏服を着せ、赤い靴履いた、木製の男子人形。

 出てきたのは、—――ピノキオだ。

 童話系魔物――変則魔物だ。

 まさかの万能型か。…片手剣と丸盾持ちかよ。

 変則魔物は戦闘に出ている最高級魔物さいこうランクモンスターの二等級格上で出てくる。

 此方はオールF。

 つまり、このピノキオのランクは――Dランク。

 そんなことってありか。

 オークを出していなかったのは幸いだ。

 Cランクとかいうボスモンスターになっていたら詰んでいた。

 実力的には全て格上。

 

『オイラ、カヨワインダ。』

 鼻がニョキニョキと伸びる。

 こいつは嘘をつく事で自身の肉体を強化することが出来る。

 何もせずに、攻撃力が一段階上がってしまった。

 不覚。動揺したせいだ。


「小鬼!《挑発》!基本的に防御!隙を突いて攻撃!天使は制空権を利用!確実にダメージを稼げ!ゴブリンは撹乱!小鬼と天使のサポートを頼んだ!」


『グァ!』

『あい。』

『ごぶぅ!』


 明らかな格上だ。戦闘は初っ端から激化している。

 バフを許してしまったのが痛い。

 ただでさえ、ステータス負けしているのに。

 小鬼でも圧倒的膂力負けしているせいで、往なし切れず着実にダメージを負う。

 だが、此方も天使の上空からの攻撃、裏取りしたゴブリンの攻撃が着実に入っている。


『ウットオシイナァ!』

 ピノキオがウザがっている。《挑発》スキルで、対象が小鬼から変更できないためモロに食らうしかない。

 《挑発》スキルは、発動時間1分。再使用時間クールタイム3分。

 《挑発》スキルが切れると、溜まっていたヘイトが爆発する。

 反転したピノキオは天使、ゴブリンに意識が割かれる。


 小鬼は背を見せたピノキオに強攻撃!乱打!!


『ドイツモコイツモォ!!!』


 ステータスでは小鬼の力は70オーバーだ。

 受けるとダメージが一番大きい。

 

『オイラニハ、ゼンゼンキカナイゾ!』

 鼻がニョキニョキと伸びる。

 攻撃力二段階バフだ。


 再使用時間が経った。

『小鬼、《挑発》!敏捷を活かせ!動き回って攻撃を回避!無理そうな時に往なせ!』


『オマエ、キライ!!!!』


 ピノキオの攻撃対象が、再び小鬼へ。


 俺は、恐ろしい程の手の痺れを感じている。

 小鬼が辛うじて、守勢に回ってくれているので前線を維持できているものの、二段階目で限界か。

 ここで回復薬(小)を飲む。小鬼の体力は全快だ。

 ダメージレースでは勝っている。数の暴力。手数が違う。



『オイラ、ナカヨクシタイダケナノニ!』

 鼻がニョキニョキと伸びる。

 三段階攻撃上昇バフだと?


 小鬼が遂に吹っ飛ぶ。闘技場の壁にぶち当たる。

 俺にも全身を打ち付けたような衝撃が走った。

 先程全回復していなければ、小鬼は此処で脱落していただろう。

 回復薬(小)を飲んだ。対象は――小鬼。

 回復薬は使役者が飲むことでも、その精神的繋がりを通して効果が発揮出来る。

 

「前線回復!小鬼、頼む!ここからは避けろ!」


『グァ!』

 まだやれる。意気込みは凄い。

 全快したからな。

 小鬼の《挑発》スキルが、丁度切れていた。

 本当に偶々、九死に一生を得ただけだぞ。


 天使、ゴブリンは敏捷を活かして、回避の連続。二体にヘイトが溜まっている為、ピノキオはあっち、こっちと攻撃対象を近しいどちらかでしか選んでいないせいだ。

 起き上がった小鬼の強攻撃!ヘイトが溜まり過ぎて、此方を向かない。乱打乱打乱打。


『ウアアアアアアア!!!イタイイタイイタイ!!!』

 

 ピノキオは後ろから止まらない攻撃に流石に防御&反撃を繰り出す。強攻撃を盾で防御された小鬼は大きく回避する。

 お陰で反撃攻撃は喰らわずに済んだ。小鬼に牙を剥くと…?

 ピノキオは、天使とゴブリンからの強襲に遭う。

 そろそろか。

「小鬼、退避ッ!こっちにこい!」


『ユルセナイ……ユルサナイ……!』

 ピノキオはニョキニョキと伸びた鼻をへし折った。

 《自傷行為》だ。

 へし折った《ピノキオの鼻》は《ピノキオの投擲矢》に変わる。

 これはピノキオ自体、もう瀕死寸前という合図。

 最後の足搔きだ。足搔きにして最強の一撃。これはBランク探索者時代の盾魔物タンクでも防げなかった。

 確殺の投擲術なのだ。

 

『シネエエエッ!!!1』

「召喚—―オーク!」


 オークのランクはE。

 変則型魔物のピノキオのステータスがCランクへ上がる。

 

『ブ、モォオオ……!!』

 オークは一撃で消滅した。

 俺自身も、左腕の感覚がなくなる程の痛みと無数の切り傷がぶわっと出来る。ズタズタにリスカしたかのようだ。

 

『キャハハハハ!……グギャ?!ナナナ……!?』

 一匹討ち取った高揚感や激増したステータスのせいで、悦に浸ってしまったのだ。変則魔物の性格は決まっている。ピノキオの初期性格設定は《お調子者》と《嘘つき》。必殺の一撃が決まっただけなら、こうはならなかった。ピノキオ自身が油断してくれるポイントは一撃必殺の攻撃モーション中、ピノキオのランクを引き上げる事。そしてピノキオの攻撃をまともに食らい、此方の最高ランクが撃破される事。

 中々シビアな条件だが、俺は勝った。



 激増したとはいえ、ピノキオは元々瀕死寸前。HPは1%程か。トドメの一撃が天使と、ゴブリンの強攻撃だけなら足りなかったかもしれない。本来撃破される筈だった、現攻撃力最強の小鬼。三体の防御無視の攻撃乱舞が綺麗に決まった。


 ドロップ品は――魔核とピノキオのカード。

 宝箱は――回復薬(小)、F級転移核。


 左腕の痛みと傷み具合が見せられないよ状態である。

 回復薬(小)はバトル中を含め6本消費し、俺自身を含め、魔物達を労る。

 結局、回復薬(小)は5本。

 それと死に戻り前でもお目に掛ったことのない《F級転移核》。なんじゃこりゃ?帰ったら調べるか。

 戦果はあった。

 Cランクのピノキオが手に入ったのだ。

 因みにオークは一度目の初戦闘不能状態なので低確率だが、ステータスダウンか性格に悪影響が出た可能性がある。

 24時間経たないと、召喚もステータスも見る事が出来ないのでどうなっているのかは分からない。

 まあ、使わないから良しとする。

「小鬼、天使、ゴブリン。よくやったよ。ありがとうな。」

『グァ!』

『あい。』

『ごぶぅ!』


 ステータス

 ピノキオ 剣盾ver 性格;お調子者・嘘つき ランク;C

 力:F 354 耐久:F 368 器用:F 399 敏捷:F 364 魔力:F 322 幸運:I 0

 【スキル】…《ピノキオの投擲矢》、《嘘つきは力の源》


 出来ないわけではないけどFランクで、三段階格上のCランク魔物を狩ることなど現実的ではない。詰みだといった理由がこのステータスだ。最後以外、ワンランク下のD級状態だから、全てのステータスは100以上、下回ってる筈。ステータス評価的にGレベルを相手にしてたのかな?

 変則型魔物の特徴として、強化種並みの強さを誇る。それがボスになるのだ。ステータスがランク規定を超え過ぎなのだ。

 その分、チート級の経験値が貰えたのだがね。

 こんな事をやるのは、死に戻りした俺とか、師に戻る前の世界で居たSランク探索者くらいだろう。知らんけど。

 少なくともS級探索者とA級探索者の間には、それ位かけ離れたステータス差があったのだ。やっていても可笑しくはない。

 

 


 ステータス

 小鬼(青) 性格;血気盛ん・従順 ランク:F

 力:H→G 166→201 耐久:H→G 150→261 器用:H→G 142→202 敏捷:H→G 166→219 魔力:I 5 幸運:H 117→126

 【スキル】…《挑発》

 【パッシブ】…《格上級殺しキラー


 天使 性格;のんびり ランク:F

 力:H→G 109→177 耐久:I 182 器用:H→G 170→271 敏捷:H→F 189→301 魔力:I 5 幸運:H 112→121

 【パッシブ】…《格上級殺し》


 ゴブリン(黒緑) 性格;勇敢・従順 ランク:F

 力:H 140→199 耐久:H 134 器用:H→G 120→211 敏捷:H→G 170→230 魔力:I 7 幸運:H 113→122

 【スキル】…《罠解除》 

 【パッシブ】…《格上級殺し》

 ドヤァ。

 天使の敏捷に限って言えば、二段階評価上がってます。

 40戦した時が推定3時だったと仮定してたから…そこから60戦。恐らく――現在時刻は13から18時くらいか?

 曖昧過ぎる……。もう疲れた。一旦出ることに決めた。

 超強化合宿は終わりだ、終わり!


 テレポート陣に乘って、俺はF級迷宮の入り口に転移した。


 —―――しゅぴーん――――――


『おおおおおおっ!!!!』


 ん?周りから変な声が聞こえる。ああ、そうか。初心者迷宮だもんな。ボスに行くやつは一皮も二皮も剥けて、魔物のステータスがH評価近いか、超えた奴だけだ。基本的に、そこまで行くのにはじっくり時間を掛けた狩りが必要だ。最初の頃……水曜だから5日前の俺だな。あの時の伸びを見てくれたら分かるだろ。

 あのレベルの人が迷宮で狩りをする場なのだから、ボス突破が珍しいのだろうね。

 だから、そういう『おおお』なんだろう。


きみ、大丈夫だったのかね?」

 はて?なんのこっちゃ…。

 よく分からないおじさんの事は、スマホを取り出す。時刻をスマホで確認するためだ。

 ふむ…18時か。何となく外の暗さから、そんな気はしてた。

 これはあれかな。アシッドスライムとか…長引いてしょうがない敵との闘いのせいかもしれん。

 よし。帰ろう。俺は、家に帰るため、歩き出す。


「ちょ、きみ?!まって?!」


 呼び止められた気がするが、変なおじさんに関わってはいけない。ましてや、ここは初心者の巣窟。変な勧誘かもしれない。俺は、妖しい話、上手い話には乗らない、聞かない、関わらない。をモットーに生きていくんだい!

 


「おい、待てよ。」

 ん?どこかで聞いたことのある声だ。

 俺は思わず振り向いた。

 そして、感動した。

「あ、上治かみじ先生だ。」

 S級探索者の一人、上治大翔かみじはると先生に会えるとは。

「は?先生?なに…」

「サインください。」

 俺はファンだったのだ。こんな機会滅多にない。

 サイン貰うっきゃない!


――大翔はると視点—―



 昨日の夜、20時頃。

 俺は、ボスを倒す予定で此処、大須通りのF級迷宮に訪れた。

 ボス部屋に着いた時、扉は開かず。

 誰かが戦っているのだろう。

 そう思った。ボスに挑む奴だし。長くても一時間。

 ま、すぐに終わるだろうと結論付けた。

 

 だが、幾つになっても終わらない。

 次第に俺以外の社会人探索者もボス部屋前で待機する始末。


「きみ、いつから待ってる感じ?」

 話し掛けられた。

 俺はコミュニケーション能力が低いのに。

 くそ。

 おちつけ。いつからだから……来た時間を言ってやればいいだけだ。

「……20時。」

 よし言えた。


「は?僕が潜ってきたのが23時だぞ。それが本当なら……。」

 社会人探索者の顔はどんどん青くなっていく。

 流石の俺も、理解した。

「…やられるのが怖くて、逃げ回ってるのか。」

 ボス部屋は入ったら最後。

 ボスを倒すか、死ぬまで出てこられない。


 はあ、早く死なねえかな。

 不謹慎だとは思ったが、敵前逃亡する奴の事など、どうだっていい。魔物を倒すのが探索者の使命だ。腕を磨いて、磨いて、磨いて。この世から魔物を駆逐する。

 大翔はるとの中の探索者エクスプローラーは、研鑽を惜しまない者…強者になろうと努力する者なのだ。

 こればかりは仕方ない。

 探索者は義務付けられているわけではないのだから。

 

「悪いが扉が開き次第、死体回収を優先する。ボスの単独撃破は回収後と言う事で、協力願えないだろうか。」

 社会人探索者が相談を持ち掛けてきた。

 探索者としては弱者ふぬけだろうが――流石に死んだ奴の事を蔑んだりする感性は持ち合わせていない。

 

「……分かった。」

「協力に感謝するよ。」

 社会人探索者はコミュニケーション能力が高い。

 爽やかだ。ヒトとして人格者だな。

 俺はちょっとだけ、名も知らない社会人探索者を尊敬した。


 だが、待てども待てども扉は開かない。

 流石に、眠気もやってくる。

 俺達は、探索者ギルド職員に、中で起きている事を説明した。  

 死体回収の役目は探索者ギルドの職員に任せたわけだ。


 翌日。

 十時過ぎ。

 俺は再び、大須通りのF級迷宮に訪れた。

 あの後の事を職員に一応、確認しておいた方がいいだろう。


「あの、昨日のボス部屋の件どうなりましたか?」

 職員に勇気をもって話し掛けた。

 精一杯の日本語を駆使した。

 割とスマートだったと思う。

「あ、昨日から知っておられる方ですか……。えっとですね……ボス部屋はまだ開きません。すみません。もし、ボスに挑戦したいなら、栄の方にもF級迷宮がございます。ので、そちらをご利用ください。」

 まだ、籠ってるだと?もう十二時間は籠ってる事になる。

 逃げ惑う奴にそんな事が可能なのか。

 ちょっとだけ引っ掛かった。

 でも、此処に居てもボスとは戦えないらしい。

 潜る前で良かった。

 俺は、会釈して感謝を伝えると、栄に向かった。


 俺は晴れてボスを倒すことが出来た。

 だが、あんまり嬉しくはない。

 気になっていることがあるからだ。

 まだ、大須通りのF級迷宮のボス部屋は使えないのか。

 

 時刻は15時を過ぎている。

 死んでしまったという報告でもいいと思った。

 ただ、出来ればまだ使えない状態であって欲しいとも思った。

 無性に気になって仕方ないのだ。

 大した距離ではない。15分も掛からないだろう。

 寄るだけだ。


 

 面白い。

 これはボス部屋で何かやってる。

 周りは心配の声を上げている。

 俺は違う。中にいるのは正真正銘の探索者エクスプローラーだ。

 俺は同族を、探索者をこの目で見たくなったのだ。

 

 そして18時過ぎ。


「やっと出てきた。」


 俺が、この目で見たかった探索者は、俺と似たような歳の奴だった。これもまた、俺をすこぶる嬉しくさせた。

 出てきた奴は飄々としている。

 こんな奴が、逃げ回っていたわけがないのだ。

 ボスも軽くあしらっていたに違いない。

 名前を聞かなくては。

 俺はそう思ってるうちに奴は動き出した。

 俺は焦った。


「おい、ちょっと待てよ。」

 これは最低だ。

 愛想のない俺がこんな事言ったら、間違いなく喧嘩腰で言ってるように聞こえちまう。

 でも、奴は止まってくれた。

 そして俺の顔をみるなり、

「あ、上治先生だ。」

 恐らく初対面の奴に名前を当てられ、先生呼びをされて、頭の中はパニック状態だ。

「は?先生?なに…」

 理解が追い付かず、頑張って喋る。

 しかし奴もコミュニケーション能力が高い。

「サインください。」

 ふぁ?!ナニ?滅茶苦茶キラキラした目で見てくる。どう考えてもこれは本気だ。いや本気と書いてマジと読むレベルだ。

 俺は言われるがまま、スマホの裏に名前を書いた。


 大喜びで帰って行った。

 普通は落書きされたも同然。怒る所なのに。

 もう訳が分からなくて、可笑しくて、ぶっとんだ奴だと。

 俺の脳内に奴が焼き付いた瞬間だった。

 俺は久々に笑った。

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