第5話:ボス戦の旅
四戦目のオーク戦も難無く勝っている。
ドロップ品は――魔核のみ。
宝箱は――魔核。
渋い。ね?こんなもんなんですわ。
だから基本的にカードはギルドで買うのが王道。
出た魔核を換金してお金を貯める。貯めたお金でカードを買う。安全に迷宮攻略するために消耗品アイテムを買う。
まだ回復薬すら満足に変えない初心者中の初心者。
同じ初心者が苦戦しないようVチューブでも始めるか。
戦闘記録を只々撮る。垂れ流しで、作戦方法だけテロップで記載。滅茶苦茶簡単な動画である。
戦闘も15戦を超えてきた。カードはまだない。確率5%なので20戦して一枚だからね。焦るときではない。
そしてやっと新魔物がきた。
『グオォーーー!!』
ミノタロスだ。
亜人型E級魔物。斧持ちなのでリーチが長い。
茶色の体毛に覆われた牛頭人体。通常種だ。敏捷初期値は132。
「基本的に、小鬼は《挑発》!敵の攻撃は回避&カウンター!天使は制空権を活かして攻撃。敵の射程範囲に居座り続けないように!ゴブリンは常に背後に回って攻撃!」
ミノタロスが一番怖いまである。こいつは難敵なので、指示も細かにしておく。
と言っても、出てくるのが遅かったな。
初戦なら、確実にゴブリンに勝っていたであろう敏捷も15戦もした後に出てきちゃ…ね。
ステータス
ステータス
小鬼(青) 性格;血気盛ん・従順
力:I 46→66 耐久:I 28→40 器用:I 44→50 敏捷:I 49→68 魔力:I 5 幸運:I 28→39
【スキル】…《挑発》
天使 性格;のんびり
力:I 35→53 耐久:I 18 器用:I 38→49 敏捷:I 49→76 魔力:I 5 幸運:I 23→34
ゴブリン(黒緑) 性格;勇敢・従順
力:I 20→30 耐久:I 14 器用:I 31→45 敏捷:I 39→50 魔力:I 7 幸運:I 24→35
【スキル】…罠解除
十一戦分、ワームが割と多く出たので、ゴブリンは【スキル】で《罠解除》を手に入れている。如何に罠解除をさせてきたか――器用の伸びが凄いでしょう?天使を抜いたからね。
小鬼の耐久が上がっているのは、《挑発》をしているからだ。
紙一重で避ける戦いをしていたら、掠る場面も出てくるというものだ。勿論、回復薬(小)は使ってある。
十一戦して、連戦ボーナスもあって、報酬で3本回復薬(小)が出てきている。
後は魔核だ。言わせないで欲しい。それでも渋いなって思ったでしょう?渋いんです。言うてたったの15連戦目ですしおすし。
『グオォーーー!!!』
《最後の一振り》かな?強烈な一撃を与えるスキル攻撃だ。瀕死のミノタロスがする最大最高の攻撃だ。
「小鬼は《挑発》!回避は大きく!確実に避けろ!」
『グァ!』
命令通り、小鬼は適切な動きをみせた。
ミノタロスの渾身の一撃は地面へ。
天使と、ゴブリンに後ろから首、腰に攻撃を与えることに成功。ミノタロスはこれにて撃破。
ドロップ品は――魔核とミノタロスの戦斧。
カードじゃないんかい。アイテムは装備出来る。
このミノタロスの斧は
宝箱は――回復薬(小)
アタリ回ではあったかもしれない。
ミノタロスの戦斧
装備条件;力が50以上。
ステータス:力をプラス15上昇補正。敏捷マイナス5下方補正。
16、17、18、19戦目はワーム、ワーム、ゴーレムだ。
ドロップ品は――魔核のみ。
宝箱は――魔核×3、回復薬(小)×1
合計、回復薬(小)は5本である。
20戦目。
まだカードは出ていない。
『……。』
ぷるぷるしている。アシッドスライムだ。
無形生物型E級魔物だ。
黄色が濁ったような、色味だ。これは通常種だ。
酸性の水脂肪に覆われた魔核が弱点だ。
物理攻撃耐性持ちである。敏捷は120。Eランク界の鈍足である。
時間は掛かるが、勝てないわけではない。
水脂肪を削り切るときに、ダメージを受ける。
だがそれも魔核さえ、攻撃の射程範囲内に入れば終わりだ。
ドロップ品は――魔核のみ。
宝箱は――回復薬(小)
三体に一本ずつ、回復薬(小)を使う。
回復薬(小)の合計数は3本。
カードも落ちないし、回復薬(小)のストックを一気に使う事になったし。耐久が上がったと思えばいいのか。
ステータス
小鬼(青) 性格;血気盛ん・従順
力:I 66→72 耐久:I 40→70 器用:I 50→60 敏捷:I 68→76 魔力:I 5 幸運:I 39→45
【スキル】…《挑発》
天使 性格;のんびり
力:I 53→69 耐久:I 18→42 器用:I 49→70 敏捷:I 76→88 魔力:I 5 幸運:I 34→40
ゴブリン(黒緑) 性格;勇敢・従順
力:I 30→40 耐久:I 14→39 器用:I 45→60 敏捷:I 50→60 魔力:I 7 幸運:I 35→41
【スキル】…罠解除
トータル耐久80オーバー上昇。うん、良き。
ボス戦—―21、22…………38連戦目。
宝箱から出た回復薬(小)は9個。
消費した回復薬は、アシッドスライム戦×2で6本。小鬼が被弾したのを回復で2個。計8本消費で合計数は4個。
一本増えたね!やったね!…泣いていいですか。
市場価格4本なら120万くらいだよ。
『ブモォオオ!』
オークだ。ピンクの肌。通常種。
もうカードは落ちないのだろうか。
それくらい確率が下振れしている。
ルーティーン化した豚狩りを終える。
ドロップ品は――魔核……とカードだ。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
やっと来た。ボスドロップ!!ステータスをみる。
ステータス
オーク 性格;間抜け ランク:E
力:H 140 耐久:H 150 器用:I 120 敏捷:H 130 魔力:I 0 幸運:I 0
流石Eランク。初期値が高い。H評価からだ。
でも?性格が《間抜け》と。これは必中攻撃スキルすら外すと言われている恐ろしい性格だ。—――なし。なしなしなしなし。
あるあるだし、凹んではいられない。
一昔前なら盛大に凹んでたけどな。
宝箱は――回復薬(小)×1
せめてもの救いだ。
手持ち回復薬(小)はこれで5本。
戦う事40戦。
まともに五分休憩を取らずにきた。
戦闘時間は恐らく15分程。十時間は戦っているだろうか。
16時過ぎには遥と別れた筈。現在時刻は大体夜中の3時くらいか。気づいたら日曜。昼食が遅かったとはいえ、流石に夕食も抜きで良くやるなって?デート前に買い出ししておいた食料と眠け吹っ飛ばし剤のお陰だ。
今日は21時か22時まで帰る気はない。
その為の買い出しも済ませてある。
基本的に出てくるボスは同じだ。
ここまでくれば、寝ていても問題はない、いやあるけど。
でも、見る必要のないボスは目を瞑っておく。
こうしておくことだけでも、リラックスできる。
幸い、闘技場なので観客席—―石造りの平坦な座席スペースもある。
横にもなれる。
はあ。
ボス連戦する事92戦目。時刻は15時くらい?
腕時計を持っておくべきか。
迷宮ではスマホ等電子機器は使えない。
――アナログな腕時計が必要なのだ。
もちろん、持ってない。
何となくで時間経過を図っている。
回復薬は10個までストック出来ている。
『グオォーーー!』
ミノタロスだ。
「小鬼は《挑発》!敵の攻撃は回避&カウンター!天使は制空権を活かして攻撃。敵の射程範囲に居座り続けないように!ゴブリンは常に背後に回って攻撃!」
舐めてかかるのは良くない唯一の敵。
『グァ!』
『あい。』
『ごぶぅ!』
相も変わらず、元気一杯だ。
流石、七日間で世界中の国を相手取って、蹂躙し続けた魔物達よ。人間と同じ尺度で測るのも烏滸がましい。
気合の入った魔物達をみて、俺もやる気を出す。
《最後の一振り》が、発動している。
ドロップ品は――魔核のみ。
宝箱は――魔核。
討伐時間にして十分程か?初戦より確実に早くなっているのは分かる。ステータスの伸びを確認するか。
以下、38戦目からボス92戦後のステータス
ステータス
小鬼(青) 性格;血気盛ん・従順 ランク:F
力:I→H 72→166 耐久:I→H 70→150 器用:I→H 60→142 敏捷:I→H 76→166 魔力:I 5 幸運:I→H 45→117
【スキル】…《挑発》
天使 性格;のんびり ランク:F
力:I→H 69→109 耐久:I 42→182 器用:I 70→170 敏捷:I 88→189 魔力:I 5 幸運:I→H 40→112
ゴブリン(黒緑) 性格;勇敢・従順 ランク:F
力:I 40→140 耐久:I→H 39→134 器用:I→H 60→120 敏捷:I→H 60→170 魔力:I 7 幸運:I→H 41→113
【スキル】…罠解除
普通に強い。
実力だけみたらEランクと並んでいる。
一対一でも何とか頑張れるレベルだ。
負ける気がしない。
恐らく15分も掛かっていないかな?
魔核を闘技場中央へ投げ捨てる。
100戦目を終え—―――101戦目。
ここからは
迷信だ。多分。俺は信じていない。
死に戻り前も怖くて検証していない。
俺がA級に上がる前—―B級時代でも110戦くらいの検証動画は上がっていた。実際の所、『10戦しか検証してねえ』だの『検証なんだから100戦目以降、100戦してから動画あげろ。』との声が多くて叩かれていた人がいる。心ある人は『10戦分でも貴重。データ、ありがとう。』とかもあったけどね。
取り敢えず、10戦は安心だろう。
『ニシシシシシッ』
死に戻り前なら聞いたことのある魔物声だ。
赤い帽子、夏服を着せ、赤い靴履いた、木製の男子人形。
出てきたのは、—――ピノキオだ。
童話系魔物――変則魔物だ。
まさかの万能型か。…片手剣と丸盾持ちかよ。
変則魔物は戦闘に出ている
此方はオールF。
つまり、このピノキオのランクは――Dランク。
そんなことってありか。
オークを出していなかったのは幸いだ。
Cランクとかいうボスモンスターになっていたら詰んでいた。
実力的には全て格上。
『オイラ、カヨワインダ。』
鼻がニョキニョキと伸びる。
こいつは嘘をつく事で自身の肉体を強化することが出来る。
何もせずに、攻撃力が一段階上がってしまった。
不覚。動揺したせいだ。
「小鬼!《挑発》!基本的に防御!隙を突いて攻撃!天使は制空権を利用!確実にダメージを稼げ!ゴブリンは撹乱!小鬼と天使のサポートを頼んだ!」
『グァ!』
『あい。』
『ごぶぅ!』
明らかな格上だ。戦闘は初っ端から激化している。
バフを許してしまったのが痛い。
ただでさえ、ステータス負けしているのに。
小鬼でも圧倒的膂力負けしているせいで、往なし切れず着実にダメージを負う。
だが、此方も天使の上空からの攻撃、裏取りしたゴブリンの攻撃が着実に入っている。
『ウットオシイナァ!』
ピノキオがウザがっている。《挑発》スキルで、対象が小鬼から変更できないためモロに食らうしかない。
《挑発》スキルは、発動時間1分。
《挑発》スキルが切れると、溜まっていたヘイトが爆発する。
反転したピノキオは天使、ゴブリンに意識が割かれる。
小鬼は背を見せたピノキオに強攻撃!乱打!!
『ドイツモコイツモォ!!!』
ステータスでは小鬼の力は70オーバーだ。
受けるとダメージが一番大きい。
『オイラニハ、ゼンゼンキカナイゾ!』
鼻がニョキニョキと伸びる。
攻撃力二段階バフだ。
再使用時間が経った。
『小鬼、《挑発》!敏捷を活かせ!動き回って攻撃を回避!無理そうな時に往なせ!』
『オマエ、キライ!!!!』
ピノキオの攻撃対象が、再び小鬼へ。
俺は、恐ろしい程の手の痺れを感じている。
小鬼が辛うじて、守勢に回ってくれているので前線を維持できているものの、二段階目で限界か。
ここで回復薬(小)を飲む。小鬼の体力は全快だ。
ダメージレースでは勝っている。数の暴力。手数が違う。
『オイラ、ナカヨクシタイダケナノニ!』
鼻がニョキニョキと伸びる。
三段階
小鬼が遂に吹っ飛ぶ。闘技場の壁にぶち当たる。
俺にも全身を打ち付けたような衝撃が走った。
先程全回復していなければ、小鬼は此処で脱落していただろう。
回復薬(小)を飲んだ。対象は――小鬼。
回復薬は使役者が飲むことでも、その精神的繋がりを通して効果が発揮出来る。
「前線回復!小鬼、頼む!ここからは避けろ!」
『グァ!』
まだやれる。意気込みは凄い。
全快したからな。
小鬼の《挑発》スキルが、丁度切れていた。
本当に偶々、九死に一生を得ただけだぞ。
天使、ゴブリンは敏捷を活かして、回避の連続。二体にヘイトが溜まっている為、ピノキオはあっち、こっちと攻撃対象を近しいどちらかでしか選んでいないせいだ。
起き上がった小鬼の強攻撃!ヘイトが溜まり過ぎて、此方を向かない。乱打乱打乱打。
『ウアアアアアアア!!!イタイイタイイタイ!!!』
ピノキオは後ろから止まらない攻撃に流石に防御&反撃を繰り出す。強攻撃を盾で防御された小鬼は大きく回避する。
お陰で反撃攻撃は喰らわずに済んだ。小鬼に牙を剥くと…?
ピノキオは、天使とゴブリンからの強襲に遭う。
そろそろか。
「小鬼、退避ッ!こっちにこい!」
『ユルセナイ……ユルサナイ……!』
ピノキオはニョキニョキと伸びた鼻をへし折った。
《自傷行為》だ。
へし折った《ピノキオの鼻》は《ピノキオの投擲矢》に変わる。
これはピノキオ自体、もう瀕死寸前という合図。
最後の足搔きだ。足搔きにして最強の一撃。これはBランク探索者時代の
確殺の投擲術なのだ。
『シネエエエッ!!!1』
「召喚—―オーク!」
オークのランクはE。
変則型魔物のピノキオのステータスがCランクへ上がる。
『ブ、モォオオ……!!』
オークは一撃で消滅した。
俺自身も、左腕の感覚がなくなる程の痛みと無数の切り傷がぶわっと出来る。ズタズタにリスカしたかのようだ。
『キャハハハハ!……グギャ?!ナナナ……!?』
一匹討ち取った高揚感や激増したステータスのせいで、悦に浸ってしまったのだ。変則魔物の性格は決まっている。ピノキオの初期性格設定は《お調子者》と《嘘つき》。必殺の一撃が決まっただけなら、こうはならなかった。ピノキオ自身が油断してくれるポイントは一撃必殺の攻撃モーション中、ピノキオのランクを引き上げる事。そしてピノキオの攻撃をまともに食らい、此方の最高ランクが撃破される事。
中々シビアな条件だが、俺は勝った。
激増したとはいえ、ピノキオは元々瀕死寸前。HPは1%程か。トドメの一撃が天使と、ゴブリンの強攻撃だけなら足りなかったかもしれない。本来撃破される筈だった、現攻撃力最強の小鬼。三体の防御無視の攻撃乱舞が綺麗に決まった。
ドロップ品は――魔核とピノキオのカード。
宝箱は――回復薬(小)、F級転移核。
左腕の痛みと傷み具合が見せられないよ状態である。
回復薬(小)はバトル中を含め6本消費し、俺自身を含め、魔物達を労る。
結局、回復薬(小)は5本。
それと死に戻り前でもお目に掛ったことのない《F級転移核》。なんじゃこりゃ?帰ったら調べるか。
戦果はあった。
Cランクのピノキオが手に入ったのだ。
因みにオークは一度目の初戦闘不能状態なので低確率だが、ステータスダウンか性格に悪影響が出た可能性がある。
24時間経たないと、召喚もステータスも見る事が出来ないのでどうなっているのかは分からない。
まあ、使わないから良しとする。
「小鬼、天使、ゴブリン。よくやったよ。ありがとうな。」
『グァ!』
『あい。』
『ごぶぅ!』
ステータス
ピノキオ 剣盾ver 性格;お調子者・嘘つき ランク;C
力:F 354 耐久:F 368 器用:F 399 敏捷:F 364 魔力:F 322 幸運:I 0
【スキル】…《ピノキオの投擲矢》、《嘘つきは力の源》
出来ないわけではないけどFランクで、三段階格上のCランク魔物を狩ることなど現実的ではない。詰みだといった理由がこのステータスだ。最後以外、ワンランク下のD級状態だから、全てのステータスは100以上、下回ってる筈。ステータス評価的にGレベルを相手にしてたのかな?
変則型魔物の特徴として、強化種並みの強さを誇る。それがボスになるのだ。ステータスがランク規定を超え過ぎなのだ。
その分、チート級の経験値が貰えたのだがね。
こんな事をやるのは、死に戻りした俺とか、師に戻る前の世界で居たSランク探索者くらいだろう。知らんけど。
少なくともS級探索者とA級探索者の間には、それ位かけ離れたステータス差があったのだ。やっていても可笑しくはない。
ステータス
小鬼(青) 性格;血気盛ん・従順 ランク:F
力:H→G 166→201 耐久:H→G 150→261 器用:H→G 142→202 敏捷:H→G 166→219 魔力:I 5 幸運:H 117→126
【スキル】…《挑発》
【パッシブ】…《格上級
天使 性格;のんびり ランク:F
力:H→G 109→177 耐久:I 182 器用:H→G 170→271 敏捷:H→F 189→301 魔力:I 5 幸運:H 112→121
【パッシブ】…《格上級殺し》
ゴブリン(黒緑) 性格;勇敢・従順 ランク:F
力:H 140→199 耐久:H 134 器用:H→G 120→211 敏捷:H→G 170→230 魔力:I 7 幸運:H 113→122
【スキル】…《罠解除》
【パッシブ】…《格上級殺し》
ドヤァ。
天使の敏捷に限って言えば、二段階評価上がってます。
40戦した時が推定3時だったと仮定してたから…そこから60戦。恐らく――現在時刻は13から18時くらいか?
曖昧過ぎる……。もう疲れた。一旦出ることに決めた。
超強化合宿は終わりだ、終わり!
テレポート陣に乘って、俺はF級迷宮の入り口に転移した。
—―――しゅぴーん――――――
『おおおおおおっ!!!!』
ん?周りから変な声が聞こえる。ああ、そうか。初心者迷宮だもんな。ボスに行くやつは一皮も二皮も剥けて、魔物のステータスがH評価近いか、超えた奴だけだ。基本的に、そこまで行くのにはじっくり時間を掛けた狩りが必要だ。最初の頃……水曜だから5日前の俺だな。あの時の伸びを見てくれたら分かるだろ。
あのレベルの人が迷宮で狩りをする場なのだから、ボス突破が珍しいのだろうね。
だから、そういう『おおお』なんだろう。
「
はて?なんのこっちゃ…。
よく分からないおじさんの事は無視して、スマホを取り出す。時刻をスマホで確認するためだ。
ふむ…18時か。何となく外の暗さから、そんな気はしてた。
これはあれかな。アシッドスライムとか…長引いてしょうがない敵との闘いのせいかもしれん。
よし。帰ろう。俺は、家に帰るため、歩き出す。
「ちょ、きみ?!まって?!」
呼び止められた気がするが、変なおじさんに関わってはいけない。ましてや、ここは初心者の巣窟。変な勧誘かもしれない。俺は、妖しい話、上手い話には乗らない、聞かない、関わらない。をモットーに生きていくんだい!
「おい、待てよ。」
ん?どこかで聞いたことのある声だ。
俺は思わず振り向いた。
そして、感動した。
「あ、
S級探索者の一人、
「は?先生?なに…」
「サインください。」
俺はファンだったのだ。こんな機会滅多にない。
サイン貰うっきゃない!
――
昨日の夜、20時頃。
俺は、ボスを倒す予定で此処、大須通りのF級迷宮に訪れた。
ボス部屋に着いた時、扉は開かず。
誰かが戦っているのだろう。
そう思った。ボスに挑む奴だし。長くても一時間。
ま、すぐに終わるだろうと結論付けた。
だが、幾つになっても終わらない。
次第に俺以外の社会人探索者もボス部屋前で待機する始末。
「きみ、いつから待ってる感じ?」
話し掛けられた。
俺はコミュニケーション能力が低いのに。
くそ。
おちつけ。いつからだから……来た時間を言ってやればいいだけだ。
「……20時。」
よし言えた。
「は?僕が潜ってきたのが23時だぞ。それが本当なら……。」
社会人探索者の顔はどんどん青くなっていく。
流石の俺も、理解した。
「…やられるのが怖くて、逃げ回ってるのか。」
ボス部屋は入ったら最後。
ボスを倒すか、死ぬまで出てこられない。
はあ、早く死なねえかな。
不謹慎だとは思ったが、敵前逃亡する奴の事など、どうだっていい。魔物を倒すのが探索者の使命だ。腕を磨いて、磨いて、磨いて。この世から魔物を駆逐する。
こればかりは仕方ない。
探索者は義務付けられているわけではないのだから。
「悪いが扉が開き次第、死体回収を優先する。ボスの単独撃破は回収後と言う事で、協力願えないだろうか。」
社会人探索者が相談を持ち掛けてきた。
探索者としては
「……分かった。」
「協力に感謝するよ。」
社会人探索者はコミュニケーション能力が高い。
爽やかだ。ヒトとして人格者だな。
俺はちょっとだけ、名も知らない社会人探索者を尊敬した。
だが、待てども待てども扉は開かない。
流石に、眠気もやってくる。
俺達は、探索者ギルド職員に、中で起きている事を説明した。
死体回収の役目は探索者ギルドの職員に任せたわけだ。
翌日。
十時過ぎ。
俺は再び、大須通りのF級迷宮に訪れた。
あの後の事を職員に一応、確認しておいた方がいいだろう。
「あの、昨日のボス部屋の件どうなりましたか?」
職員に勇気をもって話し掛けた。
精一杯の日本語を駆使した。
割とスマートだったと思う。
「あ、昨日から知っておられる方ですか……。えっとですね……ボス部屋はまだ開きません。すみません。もし、ボスに挑戦したいなら、栄の方にもF級迷宮がございます。ので、そちらをご利用ください。」
まだ、籠ってるだと?もう十二時間は籠ってる事になる。
逃げ惑う奴にそんな事が可能なのか。
ちょっとだけ引っ掛かった。
でも、此処に居てもボスとは戦えないらしい。
潜る前で良かった。
俺は、会釈して感謝を伝えると、栄に向かった。
俺は晴れてボスを倒すことが出来た。
だが、あんまり嬉しくはない。
気になっていることがあるからだ。
まだ、大須通りのF級迷宮のボス部屋は使えないのか。
時刻は15時を過ぎている。
死んでしまったという報告でもいいと思った。
ただ、出来ればまだ使えない状態であって欲しいとも思った。
無性に気になって仕方ないのだ。
大した距離ではない。15分も掛からないだろう。
寄るだけだ。
面白い。
これはボス部屋で何かやってる。
周りは心配の声を上げている。
俺は違う。中にいるのは正真正銘の
俺は同族を、探索者をこの目で見たくなったのだ。
そして18時過ぎ。
「やっと出てきた。」
俺が、この目で見たかった探索者は、俺と似たような歳の奴だった。これもまた、俺をすこぶる嬉しくさせた。
出てきた奴は飄々としている。
こんな奴が、逃げ回っていたわけがないのだ。
ボスも軽くあしらっていたに違いない。
名前を聞かなくては。
俺はそう思ってるうちに奴は動き出した。
俺は焦った。
「おい、ちょっと待てよ。」
これは最低だ。
愛想のない俺がこんな事言ったら、間違いなく喧嘩腰で言ってるように聞こえちまう。
でも、奴は止まってくれた。
そして俺の顔をみるなり、
「あ、上治先生だ。」
恐らく初対面の奴に名前を当てられ、先生呼びをされて、頭の中はパニック状態だ。
「は?先生?なに…」
理解が追い付かず、頑張って喋る。
しかし奴もコミュニケーション能力が高い。
「サインください。」
ふぁ?!ナニ?滅茶苦茶キラキラした目で見てくる。どう考えてもこれは本気だ。いや本気と書いてマジと読むレベルだ。
俺は言われるがまま、スマホの裏に名前を書いた。
大喜びで帰って行った。
普通は落書きされたも同然。怒る所なのに。
もう訳が分からなくて、可笑しくて、ぶっとんだ奴だと。
俺の脳内に奴が焼き付いた瞬間だった。
俺は久々に笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます