第3話色違い旅

 遥から返事が来ていた。

『千堂くん、よろしくね。いきなり抱き着かれて吃驚しました。告白もされて二重に吃驚したかも。でも気持ちは嬉しかったです。お付き合いの経験がないし、もっとお互いの事を知りたいです。なので友達からよろしくお願いします。』


 千堂君か、距離を感じる。でも前向きな感じのメールだ。

 時間が巻きもどった?のかは知らんが、遥はまだ俺の彼女ではない。今は此れで充分だな。

『返信ありがとう。志水さん。僕は貴方の事が好きだから、彼女になって欲しいから。好意は伝えていくし、特別扱いするかもだけど、その辺は前以って言っておくから覚悟してね。それじゃ、友達からよろしくね。話は変わるけど、部活はどうするつもり?僕は探索部に入るつもりだよ。志水さんはどうするの?』

 メールを送信っと。

『照れちゃうからお手柔らかにね。千堂君も探索部気になってるの?私もお小遣い稼げるし、いいなって思ってるんだ。痛いのとか、魔物が怖くないって言ったら嘘になるけど。。あれ、でも入部見学にいたっけ?』


 帰路に着いて、夕飯を爆速で食べている最中。

 遥からメールがきた。

 返信をしようとすると、

「こら、食事中くらい携帯は止めなさい。」

 母さんから注意が入る。


「母さん、このコ、志水遥さんっていうんだけど。一目惚れした。携帯弄るのは止める代わりに返事を一緒に考えて。」


 なんと!!と母さんが衝撃を受けている。それと同時にニヤケが止まらないようだ。

 さっきまで携帯云々言っていたのに、俺以上に食いついてメールを見ている。過去のメールまで。


「あきくん!もう告白したの!?すごい!はぁ~青春ね。」

 恋バナは何歳になっても好きらしい。


「ねえ、あきくん。入部見学行ったの?行ってないのに、入る気なの?居なかったって書いてあるわよ?」


「いや、行ってないよ。」

 僕は目玉焼きが乗ったハンバーグを醤油、ケチャップ、ハンバーグを焼いた時に出た肉汁を加熱して混ぜ合わせたソースに付けて平らげる。


 デミグラスソースも好きだが、簡単ソースも母さんが良く作ってくれるので大好きだ。白米がすすむすすむ。


 野菜は大して好きではないが、出されたサラダもモリモリ食べ

ながら母さんに言う。


「行かないと!このコを落としたいなら、ちょっとでも接点を持てるようにね。メールも良いけど、直接アタックしなきゃ!」

「そうだね。頑張るよ。」


 食事を早々に終え、母さんの手から携帯を奪取する。

 俺は風呂に入ると、自室で勉強に打ち込んでおく。

 死ぬ前は、成績は普通だった。中間といった所か。受験勉強も人並みに頑張り、並みの大学に入学した。

 だが、記憶が引き継がれた二周目。正直、飲み込みが早い。内容を詰め込む時間が、雲泥の差だ。

 あっという間だ。大体の進度を把握していた俺は、5教科各15分程度の予習で一限分の内容を理解した。思い出す作業に近いのだろうね。脳は若返ってるし、最高だ。


 お風呂に入って、こっそり家を出る。

 時刻は21時。俺の家は名古屋市内。5時まで大須に戻って狩りの時間に充てるのだ。


 移動で四十分は掛かる。なので7時間もないくらいだが、色違い旅はマメにすることが大切なのだ。


「小鬼、天使。攻撃、攻撃、攻撃――!!」

 

 乱獲祭りである。

 オールしてでも手に入れるんだ。

 絶対な。

 

 努力が報われた。

 最初に出てきた色違いは、ウルフであった。

 ウルフは灰色がノーマル。色違いは赤に金の模様が入っている。《遠吠え》スキルのお陰で遭遇率が、他より高いのだ。

 それに裏技もある。ウルフを一匹、瀕死状態にしておけば、それ以降は純粋に探す手間も省ける。延々、《遠吠え》スキルを使ってくれるのだ。

 だから、最初に出たのは順当な結果かもしれない。


「次の増援をしてくる前に瀕死のウルフを倒して!あの色違いウルフは絶対倒す様に!逃がすなよ!」

『グァ…!』

『……あい。』

 良い返事だ。信頼してるぞ。


 今世、初めての色違いカードだ。カードの枠も銀縁でカッコいい。絵は一緒だが、色が違う。そしてキラキラカードなのだ。

 カードゲーマーなら分かるだろう?

 同じカードでもレアが高い方がいいよな。

 因みに、色違いを注ぎ込みまくると、カードのレア度も変わるのだ。

 カードのレア度は……

 ノーマル<レア<スーパーレア<ウルトラレア<アルティメットレア<シークレットレアとなっている。


 今回手に入ったのはレアだ。

 銀縁でキラキラ。これはレアカードだ。

 スーパーレアは金縁でキラキラ。

 ウルトラレアはダイヤモンド縁でキラキラ。

 アルティメットレアは絵に凹凸がある。ダイヤモンド縁でキラキラ……ここはウルトラレアと同じだ。

 そしてシークレットレア。加工は同じようだが、絵が動く。テレビで富豪が見せびらかしているのを見た事が在る。えぐすぎるよな。男心をくすぐるだろう?


 因みに、敵の個体が強ければ強いほど、レア度も高くなって出てくる。それはつまり?―――アルティメットレアやシークレットレアのウルフが出現していたら、死んでいただろうな。

 笑えねえ。これだから迷宮は怖い。探索者は初心者と言えど、ソロで余り潜ることを推奨していないのはそのせいだ。


 まあ、そんな強個体は6桁は超えてくるような天文学的数字でしか出現しない。最低値10万分の1だぞ?色違いがそもそも出る確率が4096分の1で、アルティメットレアやシークレットレアが出る確率はそこから10万分の1なのだ。倒せないなら、それはもう死ぬ運命だったと、倒せるなら一生分の幸運を使い果たしたと思っていい。

 因みにどの程度注ぎ込めば、レア度が変わるのかはよくわかっていない。数枚の人もいれば数十枚、数百枚の人もいる。条件は本当に分からない。分からないし、色違いを集める資金力だって必要で検証が進んでいないのだ。


「取り敢えず、1枚。よしよし。」

 時刻は4時を過ぎている。

 まだ、5時までは時間がある。

 粘りに粘ったが、流石に出なかった。

 

 一旦、家に帰り、朝風呂を浴びる。

 オールするつもりでいたが、15分目を瞑る。傾眠でも脳は休まる。ソファが体を優しく受け止めてくれる。

 父と母は5時50分頃、起きてきた。

 はえぇ。

「あら、あきくんこんな所で寝て。」

「ああ、おはよう。父さん母さん。」

 足音で両親が起きてきたのだと分かった。

「おはよう、あき。今日も早起きだな。えらいぞ。」

 父さんにわしゃわしゃと頭を撫でられる。

 気恥ずかしいけど、うれしいものだ。若いうちに、子ども扱いしてくれている内しかないだろうイベントだ。


「それじゃ、さっさとご飯を作りましょうね!」

 母さんが味噌汁を作り、ウインナーを焼き、予約炊きしていた御飯をよそう。

 十分、十五分でぱぱっと作ってしまう。

「ありがとう。いただきます。んまい。」

 どういたしまして。と母さんは笑う。

 父さんは新聞に目を通しながら黙々とご飯を食べる。

 新聞で時事を知っておくことは大事なんだとか。

 新聞を読むことは仕事の始めらしい。

 だから、母さんも新聞を読みながらご飯を食べても文句は言わない。

「ごちそうさまでした。学校行ってくるよ。」

 


 学校へ着くと、自分の席の前には志水さんがいる。

「おはよう。志水さん」

 目はばっちり合っているので、僕は挨拶をする。

「おはよう、千堂君。」

 そう言うと俯いてしまった。恥ずかしいのかな?


 勉強は予習済みなので、難無く授業についていくことが出来た。予習はすごい。いや、巻き戻った?お陰だけどね。


「志水さん。今日は、探索部の入部見学行くの?」

 放課後、僕は彼女に話し掛けた。

「んー、一応昨日みたから…他も見てみようかなって。料理部とかチア部とか?友達と一緒に?」

 あーなるほど。志水さんしか視界に入っていなかったが、雪村さん名乗る女子高生と回るようだ。

 ふむふむ。じゃあ、行く必要ないな。

「志水さんが探索部の見学に行くなら行こうかと思ったけど、そういうことなら僕はお先に失礼するよ。」

「えっと、用事?」

 志水さんはバッタリ廊下で会う展開とか期待したのかな?考えすぎか。僕が好きすぎるだけだわ。

「大須通りにF級迷宮があるの知ってる?僕はそこで狩りをしてるんだ。」

「え、部活前に、もう活動してたの?」

 遥は吃驚している。隣の雪村さんも驚いている。

「そうだね。僕は探索部に絶対入るって決めてるからね。もし遥が探索部に入る気なら連絡してよ。実際にどんな感じか、F級迷宮で良いなら、僕が迷宮案内してあげるからね。」

「……うん、ありがと。」

 耳が赤い。どうしたのだろうか。

はるかちゃんのこと遥って呼び捨てに?」

 そういうことね。雪村さんが答えを教えてくれた。

「ああ、ごめん。志水さんより、遥の方が呼びやすくて。ついね。」

 俺はおどけて言う。ま、慣れてくれ。遥よ。

「じゃあね。遥に雪村さん。また明日ね。」


 学校を出て、そのまま電車を3駅乗り継いで名古屋駅へ。

 これまた徒歩で、って思っただろう?ざっと千体分の魔石を換金している俺の資金力は十万!!

 だから、地下鉄を使って、大須通りへ。時短にもなるからね。

 ※時短とは……時間短縮の略語。


 いざ、尋常に!!色違いの旅へ!!

 しゅつじーーん!!!!

 15時過ぎに学校が終わり、到着したのが16時。

 乱獲作業を続けること4時間。


 

  ステータス

 小鬼 性格;従順

 力:I 16→25 耐久:I 12→18 器用:I 18→29 敏捷:I 20→28 魔力:I 0 幸運:I 4→14


 天使 性格;のんびり

 力:I 13→19 耐久:I 7→10 器用:I 15→25 敏捷:I 21→29 魔力:I 5 幸運:I 4→14

 

 

 ま、そう簡単には出ませんよ。

 千四百体オーバーか。

 確率的には、だいぶツイている。でもそれじゃ、ダメだ。

 もっと、もっと、もっと。


 狩りに狩る。

 因みに一体だけゴブリンも召喚している。

 こいつは荷物持ちである。

 弱いから前線には立たせない。アイテム回収要員だ。

 性格厳選もちゃんとしている。

 使っているゴブリンは……

 

 ゴブリン 性格;臆病・従順

 力:I 5 耐久:I 5 器用:I 3→12 敏捷:I 5→18 魔力:I 2 幸運:I 0→10


 戦闘経験は積ませていないが、召喚しているので自然と幸運が上がっている。戦おうとしないので、本当に優秀な回収要員である。臆病万歳である。因みに臆病を根気良く治すと勇敢になる。格上相手でも怯まなくなるので性格は大事。



 まだまだ、頑張らないとね。

 今夜も徹夜覚悟だ。無理する必要はないが、4月初週は水曜、木曜、金曜の三日間だけ。水曜は入学式、木曜は軽く自己紹介含め、勉強。そして金曜はレクリエーションで歓迎会があったり、最後の部活紹介だったりがあるだけだ。

 だから、今週は徹夜しても良き。なのです。


 うらあああああああああ。

 木曜、金曜の夜も何も出ず。


 く、くやしぃ!!

 現実はそう甘くないってことよ。


 金曜の夕飯を食べている最中。

 遥からメールが来た。因みに20時には迷宮探索が終わっていることは遥に伝えている。つまり、俺の予定は筒抜けという訳だ。

 だからか、彼女は俺が返信しやすい時間をみて、連絡をくれる。優しいだろう?俺の彼女は。まだ違うだろって?うるさーーーい!

『迷宮探索お疲れさま!千堂君が良かったらなんだけど……土曜か日曜に連れて行って欲しいな。』


 食後、こっそりまた抜け出そうとしたが、これは万全を期さねばならない。よって今日の徹夜色違いの旅は中止だ!


『遥からのデートのお誘いか。断れないね。それじゃ、明日…土曜はどうかな。朝、9時とか10時に名古屋駅の金時計に集合ってことで。』

 返信をして、待ちだ。

『恥ずかしいからそういうこと言わないの!笑 いいよ!じゃあ、10時でお願い出来るかな?』

『了解。気を付けて来てね。』

『うん。千堂君、寝坊しないでよ?』

『しないよ。大好きだよ、遥。楽しみにしてるね。』


 やり取りをみて、母、悶絶中の巻。

 

 丁度良かったかもしれない。

 流石に三徹はやばい気がしていた。

 ※三徹とは……三回連続で徹夜をすること。


 予想通り、眠りが浅くなった体質を引き継いでいるにも関わらず、滅茶苦茶寝れた。6時間は寝ただろうか。

 眠りが浅くなったのは心因性だから、引き継いだのだと思われる。なんせ、ぐちゃぐちゃに食われた痛みも、あの道程までに味わった苦痛は今も尚、鮮明に思い出せるからだ。

 まだ、アイツらとは出会わないだろう。

 だが、出会った時は問答無用で潰す。

 憎悪で息が上がる。

 心拍が急上昇してしまうせいだ。

 あいつ等のせいで死んだ。

 死んだだけでなく、遥を穢した。

 そして仲間も。

 許されない。

 絶対に許さない。


 俺は来る日の為にも、色違いの旅を続ける。

 もう完全に目は覚めている。

 遥とのメールは23時には終わっている。

 そこから寝落ちて、起きたのは5時。

 もう家を出ても補導されることはない。


「いってきます。」

 と、誰も起きてない家内に向かって一人ごちる。


 家を出て、大須通りのF級迷宮へ。


 乱獲だ。

「今日もよろしく頼むよ。小鬼、天使。あと、ゴブリン。」

『グァ!』

『あい。』

『……ごぶぅ。』

 小鬼、天使、ゴブリンは返事をくれる。

 ゴブリンだけ、取ってつけたように言ったからむくれてしまったかな?俺は三体の魔物達の頭を撫でておいた。


 土曜とはいえ、朝活勢はもういた。

 なので、三階まで迷宮探索を進めてまだ人のいない穴場を独占する。


 そして出た。早起きは三文の徳。

 いや早起きという徳は色違いが出る!

『ゴブゥ!!!!』

 強烈な咆哮ハウル

 ゴブリンの通常種ノーマルの個体は緑。

 目の前に現れたのは全身黒に深緑の模様。

 

「小鬼、落ち着いて。回避優先、攻撃は隙を狙って確実に!天使!奇襲攻撃に徹して、逃がすんじゃないぞ!」

『グァ!』

『あい。』


 同じゴブリンだけど、気迫が違うな。

 うちのゴブちゃん、半泣きである。

 これは俗に言う恐慌状態なので、ステータスは半分しか発揮されない。

「大丈夫だぞ、ゴブちゃん。後ろに隠れてなさい。」

『…ごぶぅ。』


 む、思いの外強い。

 ダメージが此方にも入る。

 一撃で二、三度カッターナイフで切られたような感覚だ。

 これは……スーパーレアか?

 そう思える位、色違いウルフより強い感じがする。

 色違いウルフも通常種より強かったがね?

 少なくともレベルが上がって、ステータスが上昇しているのに二対一で此処まで善戦してくるか。まずいな。


 そう思ったのも束の間。

 —――ビキリ。

 やはりか。タイミング最悪だろ。

 迷宮が新しく魔物を産んだのだ。

 出てきたのはゴブリン2体、ウルフ1体、小鬼—―の色違い?

 まずい。


 下手に召喚して倒されると、此方にダメージが入る。

 それは指揮系統が揺らいで、小鬼や天使の士気が下がりかねない行為だ。

 「やるしかないか。」

 初の死線デッドラインの挑戦だ。

 逃げてもいいが、A級探索者としての指揮能力を健在だ。

 勝率は4割……か?

「色違いのゴブリンへの攻撃は中止。まずは数を減らす!一番トロい通常種のゴブリンから倒せ!」

 2対5。

 これを覆すには先ずは数の有利を覆さないといけない。


 ぐうう。てぇ…。

 ゴブリン一匹やるのに4発の頭部攻撃を命中させる必要がある。

 先ずは一匹。我慢比べだ。

 A級探索者の精神力舐めるなよ。

「その調子だ。数を減らしていけ。次はウルフだ。《遠吠え》させるなよ!」

 小鬼は棍棒で捌きながら、ウルフの真正面に位置取り、鼻先を叩く。

 怯んだ所を、天使が小型ナイフで連撃する。

 腹の傷のお陰で、敏捷は大きく下げることに成功した。

 ウルフは避けることもままならず。

 小鬼と天使の—――速攻!

 

 突っ込んできた通常種のゴブリンの攻撃を回避するも、回避先を読まれた小鬼に色違いゴブリンがバックアタックを仕掛けてきた。身を捩って致命傷は避けたが、焼けるような痛みが伝わってくる。

 あの色違いゴブリンは狡猾だ。味方に無理強いさせて、自分は裏からこっそり仕掛けてくる。追撃とばかりに色違い小鬼も攻撃を仕掛けてくる。集中攻撃をしてくる辺り、こいつも厄介だ。


 此方も中々に厳しい。HPヒットポイント的に半分を切ったくらいだ。

「負けられない。」

 俺はそう呟いた。

『……』

 近くにいた、ゴブちゃんにしか聞こえないような声で。

 

 一対一になってからは被弾もだいぶ減っている。

 戦況はギリギリ押し勝てそうか?

 色違い2体はジリ貧だ。

 このまま、ダンジョンが魔物を産まなければ…だが。

 頼む。産むな。


 —―ビキリ。祈りは届かなかった。

 新しく産まれたのはウルフ3体、ゴブリン1匹だ。

 無理か。

 新たに産まれた魔物達に意識が割かれて見ていなかった。


 そう、俺は勝手に諦めた。

 でも諦めなかった奴がいた。


『ゴブゥ!?』

 色違いゴブリンは背中に深々と短刀が刺さって絶命した。

 何が起きたのか。

 —――簡単だ。

 うちにもゴブちゃんがいる。

 ゴブちゃんは、色違いゴブリンを討ったのだ。

 俺も吃驚だ。頼んでもいないのに奇襲が成功してるんだから。

 色違いゴブリンも俺の脚にくっついているゴブちゃんが、攻撃してくるとは思わなかったのだろう。

 俺のゴブちゃん、咆哮ハウル一発で怯えてたしな。

 召喚してる俺ですら驚いているのだから、当たり前か。


 仲間の色違いゴブリンがヤられて、怖気づいたのだろう。

 色違い小鬼は、なまじ知恵が回ったせいで逃げようと背を向けた。僕の天使も小鬼も、逃がすわけがない。恐らく性格が臆病から勇敢に変わったゴブちゃんも。三体の強攻撃を諸に食らった色違い小鬼も撃破。

 3対4。

 新しく産み落とされた魔物に色違いはいない。

 ただの通常種に後れを取るような敏捷持ちはいない。

 

 サクっと通常種を倒した。

 その後は、ゴブちゃんはアイテム回収班としての仕事をきっちりこなす。

 思ったよりダメージを受けたことと、今は9時30分前。約束の時間も近い。

 俺は迷宮を出て、デート終わりの予定も見据えて、買い出しを済ませる。名古屋駅の金時計には5分前に着いた。


「あぶない、間に合った。」

 ギリギリすぎ。走ったので汗をかいている。所々出血もしている。そういや激戦だったわ。

 タオルで拭いていると、


「おはよう!ってええ。ケガしてる?!大丈夫?!」

「遥ちゃんの彼氏……。ワイルドだね。」


 目の前に居たのは、遥…と雪村さんだ。なぜ?

「あ、ウチは偶々だよ。気にしないで。」

 そうなんだ。

「おはよう。遥、落ち着いて。大丈夫だよ。ちょっとお先に迷宮に潜ってたんだ。このくらいの傷なら平気だよ」

 いつもはこんなに傷を負わないし。三階層で負った傷であって、今回は一階層だけ案内するから安全だよ。とちゃんと説明した遥は、なんとか納得してくれた。


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