第9章サイドストーリー2 染毒隊再結成

 月季は、カフェでかつての染毒隊の仲間と待ち合わせをしていた。

 

 仲間は2人いる。1人の名前は夜見桜やみさくら。もう1人は仙掌咲本せんしょうさぼん。桜と咲本は、月季と共に染毒隊を裏切り、流れ星に着いた。

 

 桜は男性で、背が高く、着物を着ている。咲本は少女で、背が低く、格好と合わせて女の子にしか見えない。2人は耳にデバイスを付けている。


 桜と咲本は入店し、月季の元へ歩み寄る。月季は2人に笑顔を見せる。


 桜と咲本は、月季の向かいの席に座る。


「2人とも、来てくれてありがとう」


「当然さ」


「えへへ~」


 月季は、あらかじめ2人の好物を頼んでおいた。桜は紅茶に、咲本はサボテンジュースに手を付ける。


「2人は、染毒隊に戻れるかもしれない。姉さんは、心が清らかだという事を証明すれば、染毒隊に戻れると言っていた。2人はどうする?」


「もちろん。染毒隊に戻ろうではないか」


「さぼんももどる!」


「よし、じゃあ証明する方法を探そう!」


 桜と咲本はうなずく。


 3人は会計して、カフェを出る。




 カフェを出ると、豆の魔機使いが立っていた。月季は、顔をしかめる。

 

 豆の魔機使いと月季は、会ったことがある。そしてその時と同じように……。


「2人を待っておりました。桜様に咲本様。あなた方も、流れ星に戻っていただきたいのです」


 桜は手を扇ぎ、咲本は首を横に振る。


「僕はもう戻らないよ」


「うん、さぼんも!」


「そうですか……」


 豆の魔機使いは、ため息をつく。


「そういえば、月季様は染毒隊に戻られたと聞きました。染毒隊は、我々の敵です」


「戻ったのはそうだけど、どういう事?」


「我々の最終目的は流れ星の復活。その為には、王の剣が必要なのです。今、王の剣を持っているのは染毒隊です」


 豆の魔機使いは、豆の魔機を具現化する。


「あなた方は、染毒隊へ戻ろうとしているでしょう。染毒隊へ戻るつもりのあなた方は、我々の障害です。なので、あなた方を倒します!」


 豆の魔機使いは、魔機を振りかざす。桜と咲本は、急いで魔機を具現化する。桜の魔機は桜をモチーフとした扇で、咲本の魔機はサボテンをモチーフにした手甲だ。そして、豆の魔機使いの魔機を受け止める。


 豆の魔機使いは下がる。そして階路を作り、階路の上に立つ。階路の上から、豆型爆弾を落とす。


 桜は豆型爆弾を浮かせる。そして、散る桜のエフェクトと共に、豆型爆弾を豆の魔機使いへと飛ばす。咲本は丸いサボテンを召喚し、転がす。サボテンは階路を上り、豆の魔機使いに当たる。


「私では、無理という事でしょうか。ですが我々にはまだ手があります!」


 豆の魔機使いは階路を千達と反対方向へ向ける。そして豆の魔機使いは去っていく。


 


 月季は、口を開く。


「話を戻そう。桜は、どうして染毒隊を裏切ったんだ?」


「そうだな……その答えは、ある場所にある」


 そう言って、桜は月季達を公園へと連れて来た。公園は色とりどりのチューリップが一面に咲いている。


「流れ星で得たお金は、ここの管理費に回していた」


「壮観だねぇ」


「きれーい!」


 月季と咲本は、辺りを見渡す。


「そう言えば、流れ星が土地を汚染していたじゃん。その時は大丈夫だったの?」


 桜は、遠くを見つめる。


「大丈夫じゃなかったさ。花は全部枯れてしまった」


 桜は、月季に向き直る。


「けれど、植え直したのとキャンバスの力で、今は戻りつつある」


「そっか……。それは大変だったね。でも、何でこの公園に、そこまでするの?」


「芽園の為さ。彼女は、この公園を気に入っていた。僕が彼女にできるのは、これくらいさ」


 芽園は月季の姉であり、染毒隊隊長である。


「なるほど。これなら、姉さんも認めてくれるかもしれない!」


「本当かい? それなら良かった」


 月季は、辺りを見渡す。


「そういえば、咲本はどこにいったんだ?」


「さあ。蝶でも追いかけていったんじゃないか?」


「あり得るね」


 月季はデバイスで地図を開く。咲本は、トイレの建物の陰にいる。


「いたいた。咲本を追いかけよう」


「ああ」


 月季と桜は、咲本の元へと向かう。




 咲本は、建物の陰で電話している。月季は咲本の元へとやって来る。


「ちょっと失礼」


 咲本は電話を切る。


 月季は、咲本に歩みを寄せる。そして首をかしげる。


「今のは、どういう事なんだ。咲本は子供じゃなかったのか?」


「あら、気づかれてしまったようね。私はマギアに改造されて、幼い見た目になったのよ。見た目は子供、頭脳は大人……とでも言うべきかしら」


 咲本はニヤッと笑う。


「何で、改造されてまで若くなったの?」


「あら。若くなりたいってのは、誰しもが思う事なんじゃないかしら?」


 月季は、咲本を頭からつま先まで見る。


「確かに、それで10代20代の姿になるのは分かるけど……若すぎじゃない?」


 咲本は、自分の胸に手を当てる。


「この姿になったのは、芽園の娘になりたいからよ。芽園の娘になって、褒められたり世話焼かれたりしたいわね」


「そ、そうなんだ……」


 目を輝かせる咲本。月季は少し後ずさる。


「それで、どこと電話してたんだ?」


「マギアよ」


 月季は、拳に顎を乗せる。そして少し間を置いて、口を開く。


「改造された事といい、マギアとの電話といい、咲本は、マギアのスパイ?」


「そうよ。私はマギアに、流れ星の技術と得た給料を流していたわ。階路も二重属性も、その内マギアでできるようになるかもね」


「そっか。でも流石に、改造の事は姉さんに言えないな……。姉さん引くだろうし」


「証明の事? それなら大丈夫よ。私に策がある」


「大丈夫かな……」


 月季は頬をかく。


 咲本は、口の前で人差し指を立てる。


「改造の事は、芽園には内緒ね」


「あ、うん。特に言う必要もないし」


 そこへ、桜も来る。


「桜と咲本。2人は、姉さんの事を思っていたんだね」


「それはそうだろう。元より我々染毒隊は、芽園の為の組織ではないか。芽園に惹かれ、芽園の為に働きたいという者が、この染毒隊に入った」


「さぼん、芽園お姉ちゃん好き!」


「そうだったね。これなら姉さんも認めてくれそうだ」


 月季は笑顔を浮かべる。


「そうだ。流れ星は、反社会的勢力と繋がっているらしい。咲本、資料を」


「みてみてー!」


 咲本は、月季にやり取りの記録を送る。その内容はメールや映像だ。


「これは、咲本が集めたものさ」


「わるいことしてるでしょ!」


「そんな事が……」


 月季は目を見開く。


「反社は力こそが全てだと思っている。強い者が正義な流れ星と相性がいいのだろう」


 そう桜が述べると、月季に通信が入る。


「街に暴徒達が現れました。暴徒達は街を破壊しています。染毒隊は、対応にあたってください」


「分かった!」


 月季は、桜と咲本に話しかける。


「どうやら、街が危険みたいだ。行こう!」


 桜達はうなずく。


 月季達は、街に向かう。


 


 街に駆けつけた月季達は、暴徒達が街の建物を破壊しているのを見る。暴徒達は、派手な格好をしている。中にはタトゥーが入っている人もいる。


 暴徒達は、月季達の方を向く。そして、暴徒達の中からボスが現れる。ボスも派手な格好をしていて、サングラスをかけている。


「破壊をやめてほしけりゃ、王の剣を渡せ!」


「駄目だ。王の剣は渡せない」


「なら力ずくで奪うまでだ。お前ら、やっちまえ!」


 ボスの声を受けて、暴徒達は、月季達に向かってくる。月季達は暴徒を傷つけないように、けれど自分も怪我しないように立ち回る。桜は積もった花びらに、咲本は大きなサボテンに暴徒の体を埋め、動けなくする。


「どうやら、俺様が行かねぇといけねぇみたいだな」


 コードの魔機使いは、コードの魔機を具現化する。コードの魔機は、コードをモチーフとした剣だ。


 コードの魔機使いは剣を振りかざすと、強い電撃が走る。


「二重属性か!」


「そうだ! 俺様は過負荷の力で、更に強い電撃が使える!」


 コードの魔機使いは剣を振り、コードを数本召喚する。コードの先にはプラグがあり、電気を帯びている。


 コードの魔機使いはコードらを月季達に向かわせる。月季達は受け止めるも、吹っ飛ばされてしまう。


 コードの魔機使いはコードの階路を作り出し、その上に乗る。そして、地面にいる月季達に向けて雷を落とす。月季達はよける。


 桜は桜の花びらを飛ばし、咲本はサボテンを転がすも、コードの魔機使いにかき消されてしまう。


 月季は呼薪こまきの栞を2枚使って、蝶の魔機と蜂の魔機を具現化する。


「2人とも、この魔機を使って!」


 月季は、蝶の魔機と蜂の魔機を投げる。桜は蝶の魔機を、咲本は蜂の魔機を受け取る。


「クイーンの魔機か!」


 蝶と蜂の魔機は、クイーンという暗魔が使っていた魔機だ。


 桜と咲本は、魔機を装備する。すると桜には蝶のはねが、咲本には蜂の翅が生える。桜達は飛び、階路の上に立つコードの魔機使いの元へ向かう。そして、桜達はコードの魔機使いを斬る。


 コードの魔機使いは吹っ飛ばされ、地面に落ちる。そして、月季が魔機の石を破壊する。コードの魔機使いは人間に戻り、階路も消える。


「くそっ、こうなったら最後の手段だ。やれ、カブトムシの暗魔!」


 元コードの魔機使いは檻紙を投げる。檻紙は地面に当たり、檻紙の中からカブトムシの暗魔が現れる。カブトムシの暗魔は、人よりも大きいカブトムシの見た目をしており、飛んでいる。


 月季達はカブトムシの暗魔と戦うも、カブトムシの暗魔のツノに薙ぎ払われ、苦戦を強いられる。


 そこに、芽園がやって来る。


「騒ぎを聞きつけて来たのだけれど、まさか暗魔が現れるとはね」


 芽園は、ラベンダーの魔機を具現化する。ラベンダーの魔機は、ラベンダーをモチーフにしたメイスだ。


「かおり、使わせてもらうわ」


 芽園は、ラベンダーの魔機で香りを放つ。香りに囲まれたカブトムシの暗魔は地面に落ちる。


「今よ!」


 芽園と月季達は一斉に攻撃し、カブトムシの暗魔を倒す。




 捕らえた暴徒達、そしてボスは警察に引き渡された。


 騒動は一通り終わり、月季達は芽園の元に集まる。


「月季から聞いたのだけれど、あなた達も染毒隊に戻ろうとしているのね。いいわ、心が清らかである事を証明しなさい」


「ではまずは僕から。芽園、こちらへ」


 桜は、芽園を公園へと連れてくる。月季達もついて行く。


「流れ星で得たお金は、ここの管理費に回していた。君を喜ばせる為に流れ星に入ったけど、それは間違いだったね」


 芽園は公園を見渡す。


「汚染を受けても、これだけ元通りになっているのは素晴らしいわね。ここはお気に入りの場所だから、元に戻って嬉しいわ」


 芽園は微笑む。


 桜は芽園に向けて膝まづく。


「花は美しいが、花に囲まれている君が世界一美しい」


「はいはい。続いて咲本」


 芽園は桜の言葉を受け流す。


「さぼんはねー、新しい魔機だよ!」


 咲本は芽園に、ハスの魔機を渡す。ハスの魔機は、ハスをモチーフとした爪だ。


「この魔機はね、強い水の力を使えるんだよ」


「二重属性、という物かしら」


 芽園はハスの魔機を装備して、振りかざす。すると水しぶきが高く上がる。


「これはいいわね」


「そうでしょ! お金とわざが、その魔機にこめられているんだよ!」


 咲本は胸を張る。


「私はマギアの人間よ。だからマギアの魔機が強くなり、任務を十分に遂行できるようになるのは大歓迎だわ」


 芽園はまた微笑む。


 咲本は芽園に抱きつく。


「ついでに、むすめにしてくれるとうれしいなー!」


「はいはい」


 芽園は軽くあしらい、咲本を引き剥がす。


 月季は、胸に手を当てる。


「という訳で姉さん、桜も咲本も姉さんの為に染毒隊に入ったんだ。もちろん僕も。姉さんは2人が染毒隊に戻るのを、許してくれるよね?」


 芽園は顔を赤くする。


「あなた達が、私の事を思ってくれていたのは分かったわ。いいわ、あなた達、染毒隊に戻ってきなさい」


「やったー!」「良かった、良かった」


 咲本のハイタッチを、桜は受け止める。


 月季は、桜に向けてささやく。


「かおりは暗魔になってしまったからいないけれど、染毒隊は全員揃ったね」


「ああ。まさかもう一度揃うとはな。かおりもきっと、天から見てくれているだろう」


 芽園は、隊員に向けて告げる。

 

「改めて、染毒隊の任務を伝えるわ。染毒市の復興と、衛星隊の壊滅。この2つに取り組んでもらうわ」


「「「はい!」」」


 月季達は、意欲的に任務に取り組むのであった。

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