第10章サイドストーリー 師匠を失った魔術師
プロビデンスは魔術師の集団。プロビデンスは、館に住み、自身の魔術について研究している。
他の魔術師は、幸亜を指差してひそひそと話す。
「魔女がいるよ……」
「ねー、早く出ていかないかなー」
幸亜は、大吉を潤った目で見つめる。
「師匠……」
大吉は、幸亜を前に向かせる。
「……気にするな。俺達は、ただやるべき事に取り組めばいい」
「うん、わかった」
幸亜達は、自分達の部屋へと向かう。
幸亜と大吉は、事情があって同じ部屋に住んでいる。部屋は寝室と、大吉の研究室がある。
幸亜達は研究室で、魔術の特訓をしている。
大吉は、カラスを召喚する。
「……まずは召喚だ」
幸亜はうなずき、黒猫を召喚する。
カラスは、大吉に本を持ってくる。
「……俺達の魔術は、使い魔だ。使い魔は俺達に代わって色々な雑務をこなしてくれる。やってみろ」
幸亜も真似して、黒猫に本を持っていかせる。黒猫は持っていく途中で本を落とし、本棚の上で寝る。
「……焦る事は無い。幸亜もいつか、使い魔に完全に言う事を聞かせられるようになる」
「うん……」
幸亜は、目を背ける。
ある朝、幸亜が目覚めると、大吉はいなかった。幸亜は自主練をしながら、大吉を待つ。
夜になっても、大吉は帰ってこない。
「師匠、まだ帰ってこないのかな?」
すると、扉が開き、大吉とは違う魔術師が現れる。
「お前に報告だ。大吉は死んだ」
「嘘……」
幸亜は口を押さえるが、すぐに目つきを鋭くする。
「何で師匠は死んだの!」
「あいつは我々のルールに反したからだ。その上、お前をかくまっている。前々から評判は良くなかった」
幸亜の目つきは更に鋭くなる。そして、ついに聞いてしまう。
「いつも思ってるけど、どうしてそんなひどい態度をとるの!」
「そりゃ当然だろ。お前は改造人間で、純粋な魔術師ではないからだ」
「私は……改造人間だったの?」
幸亜は、目を見開く。
幸亜は魔術師を押しのけて部屋から出る。そして外に出る。
雨の中を走る幸亜。
幸亜の先に、絢華がいる。
「風邪ひくぜ。アタシでよければ、訳を聞いてやるよ」
絢華は結界を傘替わりにして、幸亜を近くの建物に連れてくる。
「どうしたんだ? こんな雨の中走って」
幸亜は、泣きながら答える。
「私、改造人間だったの」
絢華は遠くを見る。
「そうか……アタシと一緒だな」
「え?」
幸亜は泣くのをやめて、絢華の方を見る。
「アタシも、改造人間なんだ」
「どういう事?」
絢華は、キャンバスを展開する。キャンバスには幼い頃の絢華とその家族が、プロビデンスの館にいるところが映し出される。
絢華は、自分の過去について話し出す。
「アタシは魔術師の家に生まれた。しかしアタシには魔術師としての才能は無かった。特訓しても、ダメだったんだ。だからアタシはマギアに頼み込んで、改造してもらった。そして魔術師になれた」
キャンバスの絢華は、結界の魔術を使っている。
「けれども母さんはアタシを魔術師とは認めなかったぜ。そして、真境名家はアタシ以外の人に継がせようとしている。アタシはそれでも真境名家が大切だったけど、天孔隊に入ってからは、仲間が大切さ」
キャンバスの絢華の周りには、天孔隊のモチーフが映し出される。朝日、氷、レーザー、虹、晴天。
「改造されたと知って、絢華は落ち込まなかったの?」
「アタシの体をいじられたのはよく思ってないけれど、魔術師になれた事には感謝しているぜ」
絢華は笑う。
「絢華はどうしているの?」
「アタシは天孔隊として活動しているよ。天孔隊として、各地の平和を守っているのさ」
キャンバスの絢華と仲間達は、暗魔と戦っている。
「ありがとう。元気が出た。魔術師でも、改造人間でも、居場所があるんだね」
「ああ。アタシは幸亜に相応しい人を知っている。その人を紹介しておくよ」
絢華はキャンバスを閉じ、幸亜を吹流隊本部へと連れてくる。吹流隊本部は、洋館の見た目をしている。
「ここに住んでいる人なら、何とかしてくれると思うぜ。それじゃあな」
絢華は去る。
幸亜は、吹流隊本部へと入っていく。
吹流隊本部には、大和がいた。
「僕は大和。君は、どうしたんだい?」
「私は幸亜。師匠がプロビデンスに殺された上、私が改造人間って言われて……。絢華っていう魔術師に案内してもらって、ここに来たの」
大和は、幸亜の肩に手を乗せる。
「そうか、それは辛かったね……。僕も魔術師だったけど、プロビデンスに追い出されたし」
「追い出されたの!? どうして……」
大和は、王の剣を具現化する。王の剣を見て、幸亜は後ずさりする。
「魔機!」
「そう、一応大事な魔機なんだけどね。友人に頼まれてこの魔機を保管していたら、追い出されちゃったんだ。幸亜は、魔機は苦手?」
「いえ、初めて見たので……。そうだよね、他の都市だと魔機は普通に使われているし、そもそも『魔術師が魔機を持ってはいけない』って、プロビデンスが勝手に決めた事だし……」
幸亜は言いつつ、大和に近付く。
「まぁ、その内慣れるよ。それで、幸亜はどうしたいの?」
「私は、自分が改造された事を覚えていない。だから本当に改造されたのか、知りたい!」
「そうだなー……」
大和は少し悩んだ後、呼薪の栞を取り出す。
「これを使おう」
「それは何?」
幸亜は呼薪の栞をのぞき込む。
「呼薪の栞は、1度だけ色々な魔機を使えるんだ。これで改造されているかどうか確かめる魔機があれば……」
そう言いかけると、スパナの魔機が具現化した。
呼薪の栞は、スパナの魔機について書かれた本の1ページに変化する。
大和はページを読んで、幸亜に説明する。
「この魔機は穴が空いている部分に手を通すと、自分が改造されたかどうか、どうして改造されたのかも分かるみたい」
「やってみる」
幸亜はスパナの魔機の先、空いている部分に腕を通す。すると、映像が映し出される。
幸亜は家族で出かけている中、両親が目を離した隙にマギアにさらわれた。そして他の子供達と一緒に、改造させられる。
「改造されたのは、本当だったんだ……」
幸亜は自分の過去を、知る事になった。
映像が終わり、幸亜は腕を離す。
「改造された事は分かったけど、私は何で師匠の元にいたんだろう?」
「うーん。この魔機は改造についてしか分からないから、調べる必要があるね。師匠の部屋に何か残ってないかな?」
「分かった。探してみる」
幸亜は一旦大和と分かれ、プロビデンスの館へと戻ってきた。そして何も聞かないよう、走って自分と大吉の部屋へと向かう。
自分達の部屋に来て、幸亜は大吉の本棚を探す。ほとんどは魔導書だが、1冊だけ記録が書かれている本があった。
幸亜は、本を開く。
『この本が手に取られる頃には、俺はもういないだろう。幸亜が見つけてくれた事を信じて、ここに幸亜の秘密を記す』
幸亜は、ページをめくる。そこには、こう書かれていた。
大吉はある子供の行方を追っていた。そこで、マギアが子供をさらい、改造している事を知った。改造された子供は、マギアの兵士にされる。それを聞いた大吉は子供達が兵士にされる前に助けた。
大吉は助けた子供達を孤児院へ引き渡した。孤児院は、子供達を元の親に戻す事を約束した。しかし幸亜は大吉に懐いていた為、大吉が面倒を見る事になった。その時に大吉は幸亜の記憶を消し、改めて凶猫幸亜と名付けた。後で知ったが、幸亜は親から虐待を受けていたらしい。
幸亜は涙をこぼす。
「私は、師匠を殺したプロビデンスを許さない!」
幸亜は、荷物を持って吹流隊本部へと戻ってきた。そして大和に、大吉の記録を話す。
「そうか。幸亜の師匠は、本当にいい人だったんだね……」
「師匠のいないプロビデンスなんて、意味が無い。私は吹流隊になる。プロビデンスと戦う」
「分かった」
大和は倉庫へ行き、すぐに戻ってくる。大和は、ホウキの魔機を持っている。ホウキの魔機は、ホウキをモチーフにしたメイスである。
「魔術師は魔術を使えるけど、戦闘には向き不向きがある。だから、戦闘に適した魔機を持っていた方がいい」
大和は幸亜に、ホウキの魔機を渡す。幸亜は震えながらも受け取る。
「今日から幸亜は、吹流隊の1人だ」
すると、吹流隊本部の扉を開けて、魔術師が入ってくる。魔術師はプロビデンスの服装ではなく、いたるところに目の描かれたローブを着ている。長い髪は、宝石の付いたヘアゴムでまとめられている。
「形式上、幸亜さんを探していましたが……まさかこんなところにいるとは」
「誰だ!?」
「私はアイズの1人、髪の魔術師です」
大和は少し間を置いて、話す。
「アイズ、聞いた事があるよ。世界を支配しようとする、魔術師の組織」
「そんな組織が?」
幸亜は尋ねる。
「うん。友人によると、各地で被害にあった人もいるみたい」
「そうです。我々は魔機使いよりも、人間よりも偉いのです。なので改造された魔術師などいらない。勿論魔機を使う魔術師など!」
髪の魔術師は、キャンバスを展開する。キャンバスは石造りのスタジアム。観客が、大和達を見ている。
髪の魔術師は、地面から髪を何本も生やす。髪は大和達を狙う。大和は髪を切る。幸亜がホウキの魔機で掃くと、髪は絡まる。
「まだまだ!」
髪の魔術師は、新たな髪を生やす。沢山の髪に大和達は翻弄され、地べたをはいつくばる。
「幸亜、思い出して! 師匠の事を! 魔術の事を!」
幸亜はその言葉を聞いて、立ち上がる。
「そうだ。改造されていても、私は師匠が育ててくれた魔術がある。魔女と呼ばれても、私は戦う!」
幸亜は、ホウキの魔機で空を飛ぶ。そして黒猫を召喚する。黒猫は飛び降り、髪をよけていく。黒猫は髪の魔術師を引っかく。
幸亜はホウキの魔機を持ち、落下しながら髪の魔術師を叩く。すると、キャンバスが解ける。
「アイズは、プロビデンスを管理している。もしお前達の事が知られたら、アイズだけでなくプロビデンスもお前達を狙うだろう」
髪の魔術師は去る。
「髪の魔術師の言う通りだと思う。もう後戻りはできない。それでも、幸亜はいい?」
「うん。私はアイズと、プロビデンスと戦う」
「ああ。プロビデンスという組織を、正常にしよう」
大和と幸亜は、プロビデンス、そしてアイズと戦う決意をした。
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