第9章サイドストーリー 心が清らかだと証明せよ

 夢叶月季むきょうげっきは、染毒隊本部へとやって来た。

 

 月季は染毒隊の1人だったが、染毒隊を抜け流れ星についた。しかし流れ星が解散したので、染毒隊へと戻ろうとしている。


 染毒隊本部のメインルームには、芽園がいる。


 月季は、芽園に向けて頭を下げる。


「姉さん! 染毒隊を裏切った事は、すまないと思っている。でももう一度、染毒隊として活動したい!」


「嫌よ。弟とはいえ、あなたのような心の穢れた人と、もう一緒に活動したくない。染毒隊は、解散よ」


 すると月季に茨が絡まる。そして茨は月季を引っ張り、月季を染毒隊本部から外に出す。


 芽園は染毒隊本部のドアを閉める。



 月季は、植物園で千と会う。


 月季は千に、芽園に追い出された事を相談した。すると千が協力してくれると言うので、植物園で待ち合わせたのである。


「待っていたよ、月季。月季は、どうして染毒隊を裏切ったんだ? 芽園は、流れ星に買収されたと言っていたけど」


「確かに僕は染毒隊を裏切り、流れ星についた。けれどそれは、流れ星の都市開発が、染毒市を活性化させると信じたからだ!」


 月季は流れ星の都市開発の資料を、千に送る。

 

「これだけ見ると、確かにいい事づくめに見えるね」


「けれど、実際はその逆だった。流れ星の強引な都市開発は、染毒市のエネルギーを狂わせた。その結果、王の剣が暴走したんだ」


 すると、男性がやって来る。男性は、月季に膝まづく。


「月季様。我々衛星隊に、加わってはもらえないでしょうか」


「衛星隊って、どんな組織?」


「衛星隊とは、流れ星の復活を目的とした組織です。優れた魔機使いが、世界を支配するべきなのです」


「僕は、流れ星には戻らない」


 月季は、流れ星に戻ることを拒否する。染毒市を破壊した上、流れ星の本来の目的が分かった今、流れ星に戻る理由は無い。


「ならば、力づくでも従ってもらいましょう」


 男性は、豆の魔機を具現化する。豆の魔機は、豆の木をモチーフとした剣だ。


 月季はバラの魔機を具現化する。


「それが君の魔機?」


「そう。バラの魔機は、バラをモチーフとした鋸さ」


 豆の魔機使いは、キャンバスを展開する。キャンバスは平原に、大きな豆の木が生えている。


 豆の木の魔機使いは豆の葉にのり、豆型爆弾を落とす。


 月季は豆型爆弾をよけ、豆の木を焼き尽くす。豆の木にいた豆の木の魔機使いは、落ちる。


 千は飛び上がる。


「すごく強い火の力だ! こんな魔機は見たことが無い!」


「バラの魔機は、流れ星に改造してもらったんだ。ドライフラワーの力を得て、さらに火の力が強まった。流れ星では、このような魔機を二重属性とよんでいるらしい」


 月季と豆の魔機使いは刃を交え、月季が勝つ。


「流れ星は、いつか必ず……」


 そう言って、豆の木の魔機使いはキャンバスを閉じる。そして去る。


「話を戻そう。僕は心が清らかだと証明する物は知らないし、誰かに証明してもらうのが良さそうだね」


 月季は思い当たる人物がいるか思い出す。そしてしばらくして、口を開く。


「姉さんの師匠はどうだろう? 姉さんには確か、師匠がいる。今も時々交流していると聞く」


「それはいいね! 魔機使いは師匠から、色々な事を教わる。その位、師匠とは交流が深い。師匠の言う事なら、芽園も聞いてくれるかもしれないね」


 月季は芽園の師匠の元に向かう事にして、千と別れる。




 芽園の師匠は、麗梨百合子りりゆりこ。百合子は女性である。


 月季は染毒市にある百合子の家を訪れる。しかし、そこに百合子はいなかった。


 月季はかつての染毒隊の1人で、共に流れ星として活動した仲間に電話する。分かったのは、以下の事だった。百合子は魔機使いを辞めたので、ただの人になった。人は、汚染された染毒市には住めなかった。なので百合子は染毒市の外に引っ越したという。


 月季は場所を教えてもらい、百合子の家に向かう。


 


 月季は、百合子がいるという家にやって来た。普通の一軒家で、庭にはユリが植えられている。


 月季は、インターホンを鳴らす。


「はーい、どちら様かしら?」


「芽園の弟の、月季です」


 ドアが開く。


「あら月季、大きくなったわね。さあ、上がって頂戴」


 百合子に案内され、月季は百合子の家へと入っていく。




 月季は、リビングに案内される。リビングは落ち着いた色で、観葉植物が多く置かれている。


 月季は床に座る。百合子は紅茶を出し、座る。


「百合子さんは、魔機使いを辞めたと聞きました。どうして魔機使いを辞めたんですか?」


「ほとんどの魔機使いは戦死するか暗魔になる。けれど、私はそれが嫌なの。私は、人として生きたい。だから私は、魔機使いを辞めたのよ」


「そうなんですか……」


 月季は、自分も戦死するか暗魔になるのではないかと心配する。しかし先に、聞く事があった事を思い出す。


「今日はどうして来たの?」


「実は――」


 月季は事情を話す。芽園を説得し、染毒隊に復帰する。その為に百合子の力が必要だと。


「成程ね。協力するわ。その代わり、あなたの心を見させて欲しい。芽園の言う、心の清らかな人に値するかどうか」


「ど……どうするのですか?」


「簡単よ。私とあなたで戦うの。ちょっと待ってね。魔機を持ってくるから」


 百合子は立ち上がり、壁に立て掛けてあった魔機を手に取る。百合子の魔機はユリの魔機。ユリの魔機は、ユリをモチーフとした細剣。


「さぁ、戦いましょう!」


 百合子はキャンバスを展開する。キャンバスは、ユリの花畑。辺り一面にユリの花が咲いている。


 驚いた月季は魔機を装備する。


 ユリは月季に向けてビームを放つ。月季はくらう。


 月季はもう一度ビームをくらわないように、ユリを焼き尽くす。辺りは焼け野原になる。


「それが噂の二重属性ね。初めて見たわ」


 百合子はまだ燃えている火を消す。そして茨を幾つか生やし、茨で月季を絡め取ろうとする。月季はよける。


 芽園の力を使った事に、月季は驚く。


「その力は……」


「この魔機は他の魔機の力も使えるのよ」


 続いて百合子は、ラベンダーの香りを漂わせる。


「その力にも見覚えが……」


 月季はラベンダーの香りで眠くなった為、頬を叩いて自分を起こす。そして、ラベンダーの香りも焼き尽くし、香りを無くす。


「さぁ、直接勝負といこうかしら」


 百合子は斬り掛かる。月季は魔機で受け止める。百合子と月季は何度も刃を交えるが、遂に百合子が月季の魔機をはじく。月季の魔機は飛ばされ、百合子は月季に剣先を向ける。

「久しぶりに戦ったけれど、力は衰えてなかったようね」


 百合子は、魔機を置く。するとキャンバスが閉じ、元の百合子の家のリビングへ戻って来る。


「ど、どうでしたか……?」


 月季は恐る恐る聞く。


「月季の心が清らかな事は分かったわ。あなたは、染毒隊に戻るべき存在よ」


 百合子は、月季に手紙を渡す。


「芽園にこれを渡しなさい。手紙には、月季を染毒隊に復帰させるようお願いしてあるわ」


「ありがとうございます!」


 月季は頭を下げる。


 月季は百合子と別れ、染毒隊本部へ向かう。




 月季は染毒隊本部へと帰ってきた。外にもう茨は生えていない。


 月季は中に入り、メインルームで芽園を見つける。


「姉さん――」


「何? あなたとはいたくないって言ったでしょ?」


 芽園は振り向き、月季をにらみつける。


「これ、百合子さんから」


 月季は、芽園に手紙を渡す。


 芽園は手紙を受け取る。そして手紙の内容に目を通す。


 手紙を読み終えたらしく芽園は手紙を畳み、ため息をつく。


「師匠が認めたのなら、仕方ないわね。月季、改めてあなたを、染毒隊隊員に任命するわ」


「ありがとう、姉さん!」


 月季は頭を下げる。


「次裏切ったら、あなたの命は無いからね」


 芽園はまたにらむ。


「わ、分かったよ」


 月季はひるみつつも、染毒隊に戻れた事を喜ぶ。




 月季は染毒隊本部の自分の部屋にいる。


 元染毒隊で、流れ星についた魔機使いがもう2人いる。月季はその2人も復帰させるつもりだ。


 月季は2人の意志を確かめようと、電話をかける。

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