第3章 架想市/不思議な都市 後編

 千達はハートの城の前で、少女に呼び止められる。少女は長い青い髪をしている。


「これ以上の捜索はやめなさい」


「その声は、天音さん! 天音さんがどうしてここに!?」


 白愛は飛び上がる。


 天音は聞いてないのか、理由を答えない。


「僕達は行方不明者を元に戻すため、捜索をやめない」


「私もそのつもりだよ!」


「ならば、力づくでも止めるわ」


 天音は魔機を具現化する。天音の魔機は、バイオリンをモチーフとした剣と盾だ。


 千達は、魔機を具現化する。


 千は剣の魔機で天音と刃を交えるが、天音に押される。銃の魔機に切り替えて撃つも、弾は剣で弾かれる。


 千は馬の魔機に切り替える。千は馬を召喚し、白愛はお菓子を飛ばす。天音が相手している隙に千は矢を放ち、天音に勝つ。


 天音に勝つと、天音は消えていった。


 千は、白愛に天音について聞く。


「あの人を知っているの?」


「うん。あの人は、剣達天音けんだちあまねさん。天音さんも、架想隊の隊員だった。だけど暗魔との戦いで、死んじゃった」


「そうか……」


 千は同情する。


「私は天音さんの遺志を継いで、架想市を守っている。だから行方不明者も、元に戻さなきゃ。行こう!」


 千はうなずく。


 千達は、ハートの女王の城へ入る。




 城にはハートの女王がいる。


 白愛は、喜びながらハートの女王に駆け寄る。


「想さん!? 想さんですよね!? 会えて良かったです!」


「白愛。久しぶりね」


 想は微笑む。


「連絡が取れなくなって、心配していました! ハートの女王になっていたんですね!」


「黙っていてごめんなさいね。私は不思議の国を暗魔から守るために、ハートの女王になったの」


 千は、デバイスで連続行方不明事件の記事を見せる。


「架想市では、連続行方不明事件が発生しています。そしてあなたも、行方不明者リストに行方不明者の1人として載っています。この国の女王なら、何か知らないですか?」


「ごめんなさい。私もハートの女王に任命された立場だから、分からないわ」


 想は頭を下げる。


 すると、千に誰かから通信が入る。


「駆だ。暗魔の主を見つけた」


 駆から通信が来て、千は驚く。草狩市にいた時は、デバイスを持っていなかったからだ。


「駆!? そのデバイス、どうしたの!?」


「琳からもらった。まだ使いこなせてはいないが、これは便利だな。って、通信の内容はそれじゃない。暗魔の主を見つけた。しかもこいつは、白愛という人物に会いたがっている」


「分かった。丁度こっちには白愛がいる。白愛と一緒に向かうよ」


 千は通信を切る。


「白愛。どうやら僕の知り合いが、主を見つけたみたいだ」


「本当!? 主を見つけて、行方不明者を元に戻してもらわなきゃ」


 駆の発信源をたどり、千達は駆の元へ向かう。




 駆の前には、道化師の暗魔がいる。道化師の暗魔は、ピエロのような見た目をしている。


「この道化師の暗魔が、暗魔の主だ」


 駆は道化師の暗魔を指差す。


「君が、ここに行方不明者を連れて来たの?」


 千は道化師の暗魔に問う。


「行方不明者は知らないよ。ボクの目的は、不思議の国を破壊する事だからね」


 予想外の答えに、千は驚く。


「キミたちも、ボクと一緒に不思議の国を破壊しないかい?」


「いや、暗魔とは協力しない」


「お前達は、俺達の町を破壊したからな」


「私達の町も破壊しようとした癖に!」


 千と駆と白愛は断る。


「そうかいそうかい。それじゃあ魔機使いは、ここで消えてもらおう!」


 道化師の暗魔は、キノコの暗魔達を召喚する。


 道化師の暗魔はトランプを飛ばして攻撃する。更に分身を作り出し、千達をかく乱する。


 トランプは千が銃の魔機で撃ち落とし、分身は白愛が広範囲にお菓子を落とす事で対応する。


 千達は、道化師の暗魔らを倒す。


 巻き込まれた住人。死んだはずの魔機使い。関与していない暗魔。自分達の他に、記憶を失っていない魔機使い。


 この事件の犯人は、想だと千は推測する。


「白愛、もう一度ハートの女王に会おう。分かった事がある」


 白愛はうなずく。


 千と白愛は、ハートの女王の城へ向かう。




 千達は、ハートの女王の城へとやって来る。


 白愛は、想に近付く。


「想さん! 想さんが、不思議の国を作ったんですか!?」


「とうとう、気づかれてしまったようね。そうよ。不思議の国を作ったのは私よ」


 想は、手の上にウサギを作り出す。


「魔機使いは、キャンバスという力を使える。キャンバスとは、1つの世界を作りだす力。私はキャンバスで、不思議の国を作った」


 千は、琳が氷の城を作り出した事、未来の駆が時の大樹を作り出した事を思い出す。


「私はね、みんなの願いが叶う素敵な場所を作りたかったの。実際幸花も、ここで花屋になるという夢を叶えた」


 白愛は少し間を置いて、話し始める。


「……途中で天音さんに会いました。天音さんは、死んだはずなのに。想さんは、天音さんを死なせてしまった。だから誰も失わない為に、この世界を作ったのですか?」


 不思議の国の空が赤くなる。


「あなた達には、キャンバスの力は効かないみたいね。でも大丈夫。現実から逃げて、この国で暮らさない?」


 白愛は首を振る。


「嫌です。悲しい事や辛い事があるからこそ、楽しい事がより一層強く感じられるんです!」


 千も同じ気持ちだ。


「ここの住人は、皆架想市で行方不明になっている人だったが」


「この世界を保つためには、エネルギーが必要なの。だから人をさらい、現実世界の記憶を眠らせたのよ」


「やっぱり。行方不明者を、元に戻す!」


 千達は魔機を具現化する。


 想は王の剣を手にする。そして白うさぎの暗魔らを召喚する。


「首をはねよ!」


 想は白うさぎの暗魔らに命令する。命令された白うさぎの暗魔らは、千達に襲い掛かる。千達は白うさぎの暗魔らを倒す。


 想はギロチンを千達の上に具現化し、落とす。白愛はチョコスティックを具現化し、ギロチンを固定する。


 そして、千は想の王の剣の石を破壊する。すると不思議の国が閉じ始める。


 想は何か聞いたのか、涙する。




 完全に不思議の国は閉じた。千達は、架想市の通りへと戻ってくる。


 白愛は、座り込んでいる想に駆け寄る。


「私に……天音の声が聞こえたの。自分は自然の一部になった。だからいつまでも、想のそばにいるって」


「想さん。これからは、私達架想隊との思い出を作りましょう。天音がいなくなった心の穴を、少しでも埋められるように」


 想はうなずき、白愛に王の剣を託す。


「白愛。あなたにこの剣を託すわ。私は行方不明事件の責任を取り、マギアに自首する」


「分かりました。架想市は、私達に任せて下さい。想さんの帰りを待ってますよ」


 想は笑顔になり、立ち上がり、歩いていく。


 


 向こうから人が走ってくる。


「白愛ちゃーん!」


「幸花ちゃん!」


 白愛は王の剣を置く。2人は駆け寄り、抱き合う。


「記憶、元に戻ったんだね!」


「うん。白愛のことも……架想隊の事も……思い出した」


「良かったー!」


 2人は抱き合うのをやめる。白愛は王の剣を拾う。


「千はこれからどうするの?」


「ちょっとついてきてほしい場所がある」


 千は、白愛達を図書館の前へ連れてくる。


「僕は――」


 すると、白愛の持っている王の剣の石が直る。そして、王の剣が浮かぶ。王の剣は空間を切り開き、港町へとつなげる。


「――次の王の剣を探しに行くよ」


「お元気でー!」


 白愛達は手を振る。


 千は白愛と別れ、港町へと入っていった。

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