第2章 草狩市/壊滅した都市 後編

 森の中を探索中の千達は、建物を見つける。森は、もう日中になっている。

 

 建物は倒壊している。

 

「こんなところに建物が……」

 

 千達は建物に入る。


 

 

 建物の中には実験器具や、資料が散らばっている。千は、ここは研究所だったと考える。

 

 千達は、分かれて研究所を探索する。

 

 床には資料が散らばっている。千は資料を拾う。

 

 資料の内容は、ここでマギアが行っていた暗魔に対する実験。研究員が付けている日誌もあった。

 

 研究所が何故滅んだのか、記述を探す千。

 

 日誌によると、暗魔が1体脱走した。1体なら大丈夫だと見逃していた研究所。暗魔は数を増やし、大量の暗魔を連れて帰ってきた。強い暗魔が生まれれば、強い魔機が生まれる。そう考え、研究員は暗魔を捕獲する。

 

 しかし暗魔は予想以上に増えた。そして研究所は暗魔に滅ぼされた。

 

 研究所はマギアに支援を要請した。しかしマギアはデータのみ回収し、研究所を切り捨てた。

 

「助けて」という文字より後には、何も書かれていない。

 

 千は他にも、幾つかの資料を回収した。


 


 千は、駆と合流する。

 

「そこには、何が書いてある」

 

 千は駆に、書かれていた事を説明する。


 


「森にそんな施設があったとは……。そして草狩市崩壊に、マギアも関わっていたのだな」

 

「マギアは目的の為なら犠牲はやむを得ないと考えている。ここの研究所も利用され、そして切り捨てられたみたいだね」

 

「そうだったのか……」

 

 駆は悩む顔を見せる。

 

 すると研究所で破壊音が聞こえる。そしてロウが、千達の前にやって来た。

 

「貴様らが逃げたらしく、追ってきた。まさか、生きているとはな」

 

 千は駆から、ロウが毒を盛った事も、ロウが自分達を殺そうとした事も聞いた。しかし分かり合えるかもしれないと考え、ロウに日誌の事を伝える。

 

「聞いてくれ、ロウ。君達の集落が壊滅したのは、全部マギアの実験のせいだったんだ」

 

「知ってるさ」

 

 予想外の返答に、千は驚く。

 

「集落が暗魔に襲われた時、実は俺様も襲われた。そして、俺様は暗魔になった。俺様は暗魔になって、全てを知った。俺様は集落の人々が、マギアの実験台にされていることが許せなかった。だから、この研究所を滅ぼした」

 

 千は日誌の中に、「暗魔は大量の暗魔を連れてきた」「研究所は暗魔に滅ぼされた」という記述があった事を思い出す。

 

「仲間のいない世界など、生きていても仕方がねぇ! 俺様はこの世界の全てを破壊する!」

 

 ロウは爪型の魔機を具現化する。

 

「俺様の魔機は狼をモチーフとした爪だ。この魔機で、お前達魔機使いを狩る!」

 

 説得が無理だと感じた千は、魔機を構える。駆も魔機を構える。

 

 千達は攻撃しようとするが、ロウは宙返りする。千達の攻撃を、ロウはアクロバティックにかわす。

 

 千は水の魔機を具現化する。水の魔機で四方八方に魔波を放ち、かわそうとするロウに当てる。駆はロウの行動を読み、ロウに矢を当てる。

 

 そうやってロウに勝った千達。ロウは魔機を投げ出し、突っ伏している。千はロウの魔機の宝石を破壊する。

 

「ちっ、」

 

 ロウは狼の暗魔となる。狼の暗魔は、人よりも大きい狼の姿をしている。

 

 狼の暗魔は猫の暗魔らを召喚する。そして集団で千達に襲いかかる。

 

 千達は猫の暗魔らを倒す。そして襲いかかったロウの攻撃を受け止める。千はロウの姿より、狼の暗魔の姿の方が、力が強いと感じる。

 

 千達は苦戦するも、狼の暗魔を倒す。


 

 

 駆は狼の魔機を回収した。そして、口を開く。

 

「千を犠牲にしようとして、すまなかった」

 

「いいよ。でも、何で魔機使いを犠牲にしようと考えたの?」

 

「ああ、それはだな……」

 

 駆は理由を語る。

 

 暗魔が町に侵攻し始めた時、駆は1人でも多くの人を助けようと戦っていた。けれども、数人の草狩隊では草狩市の全員を救う事が出来なかった。時には、見逃さなければならない状況だってある。大勢の人を救う事ができても、少数の人は救えなかった。

 

 そして、犠牲になるのは住民だけでない。駆達草狩隊が戦えば、草狩隊は1人、2人と減っていく。草狩市の為に戦う事は、自分達を犠牲にする事なんじゃないかと駆は考えた。

 

 住民も草狩隊も救えなかった駆は、全てを救う事を諦めたという。

 

「そんな理由が……」

 

 千は同情する。

 

「だが千から資料の話を聞いて、考えが変わった。王の剣を手に入れ、暗魔の主を倒せば、草狩市は平和になるかもしれない」

 

 話している駆の顔が明るくなる。

 

「俺は王の剣の場所を知らない。資料にも書いてなかった。だが、舞結が知っているかもしれない。草狩隊本部へ戻るぞ!」

 

「分かった」

 

 千達は舞結に会う為、草狩隊本部へ戻る。


 


 千達は、草狩隊本部に戻ってきた。

 

「無事で良かったです!」

 

 舞結が千達を迎える。

 

「舞結、王の剣がどこにあるか知らないか?」

 

「王の剣は、神社に奉納されています。でも、何故それを?」

 

「王の剣が、草狩市を救う鍵となるかもしれない」

 

 舞結は驚く。

 

「神社って、ここ?」

 

 千は耳のデバイスで神社の写真を映す。この神社は、千が初めて駆と会った場所だ。

 

「そう、そこです!」

 

「よし! 千、向かうぞ!」

 

「うん!」

 

 千達は、倒壊した神社へ向かう。


 


 千達は、神社に着く。神社は大きな建物だったようだが、今は倒壊している。

 

 千達は倒壊した神社の中を探し、王の剣を見つける。

 

「待て」

 

 男性の声がして、千達は振り向く。男性は浮いていて、白い着物を着ている。髪は足に届くほど長い。顔は駆と同じだ。

 

「久しぶりに暗魔以外が来たと思ったら、お前達か」

 

「誰だ?」

 

「俺は王の剣によって暗魔の王となり、平行世界を越えた駆だ。分かりやすく言えば、『未来の駆』だ」

 

 千は、未来の駆の顔が駆と同じ事に納得する。

 

「舞結に神託を与えていたのも、この俺だ。様々な世界を見てきたからこそ、舞結に神託を与える事ができる」

 

「お前の目的はなんだ」

 

「俺の目的は、舞結を王の剣の持ち主にする事だ」

 

「俺では駄目なのか?」

 

「駄目だ。駆が王の剣の持ち主になると、どの世界も滅びに向かうからだ。俺の世界も滅びた」

 

 駆は、王の剣を手にする。そして、未来の駆に向けて掲げる。

 

「それでも、俺が王の剣を使う。舞結を犠牲にはしない!」

 

「ならば、俺に勝ったら認めよう」

 

 すると、景色が森から草原に変わる。草原の中央に、大樹が立っている。大樹の枝先は、それぞれの時間軸に繋がっているようだ。枝先には、崩壊しなかった草狩市、舞結が王の剣の持ち主になった世界など、色々な時間軸が見える。

 

 そして、未来の駆は駆から王の剣を取り上げ、空中に浮かせる。

 

 駆と未来の駆は魔機を具現化し、戦う。

 

 未来の駆の魔機も、王の剣。千は別の世界の王の剣と推測する。

 

 駆は馬を召喚し、馬に乗る。そして馬を走らせ、未来の駆に向けて矢を放つ。未来の駆は地面からツタを生やし、駆の進路を妨害しようとする。駆はよける。

 

 駆と未来の駆は互角の戦いを繰り広げる。

 

 未来の駆は攻撃をやめる。

 

「その力があれば、草狩市を救えるだろう。草狩市を、頼んだぞ」

 

 未来の駆は自分の王の剣を回す。すると、景色が森へと戻る。

 

 そして未来の駆は、駆に王の剣を返す。駆が剣を受け取ると、未来の駆は消える。

 

 千と駆は、本部へと戻る。



 

 本部へと帰ってきた2人。すると舞結が、慌てた様子で駆けつける。

 

「神託です! 王の剣を狙って、草狩市中の暗魔が草狩隊本部に攻めてきます!」

 

 駆は驚いた様子だが、すぐに真剣な顔になる。

 

「舞結、住民に安全な場所で待つよう伝えてくれ。終わったら、俺達と共に戦ってほしい」

 

「分かりました」

 

 舞結は走っていく。

 

「俺達は暗魔を迎え撃とう。俺の魔機は弓だから、屋上から暗魔を撃つ。千は草狩隊本部に暗魔を入れさせないよう、戦ってくれ」

 

 千はうなずく。

 

 千達は準備をし、暗魔を待ち受ける。


 

 

 駆は屋上から暗魔を撃ち、千は草狩隊本部の前で暗魔と戦っている。

 

 順調に暗魔を倒す千達。しばらくすると、大きな暗魔が向こうから来る。暗魔は猫の暗魔よりも一回り大きい、ライオンの姿をしている。

 

 伝書鳩が千の近くに飛んできて、千は手紙を受け取る。手紙の内容は、舞結が受けた神託について。

 

 最後の神託。内容は、獅子座の暗魔を倒せというもの。ライオンの姿の暗魔が、草狩市の暗魔を統べる獅子の暗魔らしい。

 

 駆と舞結は千の元に降り立つ。

 

 千はそこで初めて、舞結の魔機を見る。舞結の魔機は、鳩をモチーフとした手甲だ。

 

 獅子の暗魔がやって来て、千達は獅子の暗魔と戦う。

 

 獅子の暗魔は地震を起こす。そして大地を隆起、沈降させる。

 

 舞結は遠くから暗魔を狙い、鳩を飛ばして攻撃する。千は隆起した大地を飛び移り、斬る。

 

 駆は王の剣で、獅子の暗魔を倒す。すると、大地が元通りになり、他の暗魔が逃げていく。

 

「終わった……のか?」

 

 千達は、逃げていく暗魔を見つめている。



 

 獅子座の暗魔を倒してから1週間。神託も、暗魔が草狩隊本部に攻めてくる事も無かった。

 

 草狩隊本部にて、近況を話し合う千達。

 

「俺は草狩市中を探索した。しかしどこにも暗魔はいなかった。草狩市は、平和になったのだな」

 

「同じく僕も探索したけど、暗魔はいなかったよ」

 

「やっと……終わったんですね……」

 

 舞結は涙を流す。駆はそんな舞結を抱きしめる。

 

「これから、駆達はどうするの?」

 

「暗魔の狙いはこの王の剣だ。となると、草狩市にいてはまた草狩市が襲われる。そうならないよう、俺は草狩市を離れる」

 

「私は、住民と共に草狩市を復興します」

 

「千は、どうするんだ?」

 

「ちょっと来てほしい場所がある」

 

 千は、駆達を神社へ連れて行く。

 


 

 千が駆達を連れてきたのは、神社だ。

 

「俺と千が初めて会ったのも、この場所だったな。そしてここには王の剣があった」

 

「うん。僕はゲートを通じて、天孔市から草狩市へと来た。そしてここで、次の都市へのゲートを開く」

 

 すると王の剣が勝手に具現化し、浮く。王の剣は空間を切り開き、広い図書館へとつなげる。

 

 駆達は、驚いた様子だ。

 

「僕は次の王の剣を探しに行くよ」

 

「そうか。元気でな」

 

「今度は、復興した草狩市を案内します」

 

「それじゃあ」

 

 千は駆達と別れ、広い図書館へと入っていった。

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