第2章 草狩市/壊滅した都市 前編

 千は、草狩市くさかりしへとやってきた。

 

 草狩市は海に囲まれており、他の都市とも接点が無い為、千達にあまり情報が入って来ない。なので千は草狩市についてはほとんど知らない。耳のデバイスで検索しても、ほとんど情報が無い。

 

 千の周りには、手入れされていない野生の森が広がっている。千の背後には、ご神木なのかしめ縄の巻かれた太い木がある。近くには、倒壊した神社がある。

 

 千は周りを見渡すと、猫の暗魔に囲まれている事に気付く。猫の暗魔は、人並みに大きい猫の姿をしている。

 

 魔機を具現化し、戦おうとする千。するとどこからか飛んできた矢によって、猫の暗魔は一体、また一体と倒されていく。猫の暗魔の注意が千からそれ、矢を飛ばした人を捜す。

 

(今がチャンスだ)

 

 千は銃の魔機を具現化し、残りの猫の暗魔を倒す。


 


 猫の暗魔を倒すと、男性が木から降りてくる。男性は弓型の魔機を装備している。

 

 男性は千を見ると、ため息をつく。

 

「人かと思ったら、魔機使いだったのか」

 

 千はため息をつかれた事は気にならない。

 

「そう、僕は魔機使い。矢を放って、助けてくれたのは君?」

 

「ああ。危なかったな。俺は流鏑馬駆やぶさめかける。草狩隊の隊長だ」

 

「僕は数多千。よろしく」

 

 千と駆は、握手をする。

 

 千は、弓型の魔機を指差す。

 

「その魔機が君の魔機?」

 

「ああ。俺の魔機は馬をモチーフとした弓だ」

 

「ほえ~」

 

 千は、魔機をまじまじと見つめる。

 

「ここで話していたら、追っ手が来るかもしれない。お前を草狩隊本部へ連れて行く。ついてこい」

 

「分かった」

 

 駆に案内され、千は草狩隊本部へと向かう。



 

 千達は、倒壊したショッピングモールに着く。ここに草狩隊本部があるらしく、駆はこの中に入っていく。千も続いて入る。

 

 本部の中には、人々がいる。

 

「本部の中に人がいるんだね。建物も倒壊しているあたり、ただ事じゃない事が伺える」

 

「ああ。ここにいるのは、避難してきた人だ」

 

「避難……」

 

 千は人々を見る。確かに人々は楽しそうな様子ではなく、緊張している様子だ。

 

「草狩市は、暗魔によって滅亡した。今も街や森には暗魔がうろついている。ここにいる人々は、暗魔から避難してきた人々だ」

 

 千は草狩隊本部に来る途中、街が壊滅していた事を思い出す。

 

「だから草狩隊は、普段は本部を守っている。たまに俺が本部の外へ出て、生存者を捜している。丁度千に会った時も、生存者を捜していた。お前は、運が良かったな」

 

「えへへ……」

 

 千は照れる。

 

「駆は、1人でここを守っているの?」

 

 千は知っている。暗魔が現れた都市には、複数人の魔機使いが隊を組んでいる。そして都市を守っている。

 

「いや、違う。草狩隊は俺ともう1人の2人だけだ。草狩隊は、草狩市を守れなかった……」

 

 駆は、悲しげな表情を浮かべる。

 

 その顔を見て、千はいずれ言うつもりだった言葉を口に出す。

 

「僕は、草狩隊に協力するよ」

 

「ああ、助かる」

 

 駆はほほ笑む。

 

「もう1人の隊員を紹介しよう。ついてこい」

 

「分かった」

 

 千は駆に案内されて、屋上へと上る。

 


 

 屋上には畑がある。畑には、野菜が植わっている。

 

 畑のそばで、女性が採れた野菜を運んでいる。女性は巫女服を着ている。

 

「彼女がもう1人の草狩隊の隊員、小鳩舞結こばとまゆだ」

 

 舞結がこちらに気づいたようで、近づいて来る。

 

「舞結は、ここで何をしているの?」

 

 畑、そして野菜を運ぶ舞結が、気になった千は聞く。

 

「私は、避難して来た人々の食料を育てているんですよ。私達魔機使いと違って、人は、食料が無いと生きていけませんから」

 

 千は思い出す。魔機使いは、魔力がある限り生命を存続させられる。人と違い、何も食べなくても生きていく事ができる。

 

「舞結は、神託を聞く事ができる。要は神のお告げだ。主な神託の内容は暗魔がどこから攻めてくるというものだ。草狩隊本部は広く、その上暗魔は四方八方から攻めてくる。暗魔が来る事をいち早く知れるのは、ありがたい」

 

 舞結は何かを感じたのか、目を閉じる。

 

「舞結が目を閉じた時は、神託が下りた合図だ。舞結は今、神託を聞いているだろう」

 

「なるほど……」

 

 そしてしばらくして目を開ける。

 

「神託が降りてきました。神託の内容は、草狩隊本部に猫の暗魔が攻めてくる、というものです!」


「来たか! 千、行くぞ!」

 

「分かった!」

 

 千と駆は外に出て、暗魔を迎え撃つ。



 

 暗魔を倒し終えて、千達は草狩隊本部に戻ってきた。

 

「お帰りなさい」

 

「びっくりしたよ。本当に、外に暗魔がいたから」

 

「ええ、これも神様のおかげです。神様は、駆さんと同じように優しい人なんですよ」

 

 舞結はほほ笑む。

 

「神なんて、本当に存在するのか」

 

「確かに、暗魔が来ることをぴったり知らせる事ができるなんて、何者なんだろうね」

 

「もー2人とも、神様を疑っているんですか!」

 

 舞結が笑いながら言う。

 

「俺は信じないが、味方してくれるのはありがたい。さて、あまり長い話をしている暇はない。俺はまた森を探索する」

 

「僕もついていく!」

 

「いつも通り私はここに残り、本部を守ります。本部に何かありましたら、伝書鳩で連絡しますよ」

 

「頼んだ。俺達は、必ず帰ってくる」

 

 祈る舞結を残し、千達は、森に向けて出発した。



 

 千達は、森の中に集落を見つける。家は木の柱の上にかやぶき屋根がある、たて穴住居のような家だ。

 

 家はあるものの、人はいない。そして、何者かによって荒らされた形跡がある。

 

 集落の中を歩いていると、男性に会う。

 

「こんなところに、生きた人がいるとは」

 

「俺様はロウ。俺様は、集落最後の生き残りだ。この集落は、暗魔によって壊滅した」

 

「ここも……そうなのか……」

 

 千は改めて辺りを見渡す。そしてここが荒らされた原因が、暗魔だと納得する。

 

「貴様たちは、街の方の住民か?」

 

「そうだ。俺達は生存者を捜している」

 

「ふぅん。この辺りに生存者はいねぇよ。ま、暗魔もいねぇけどな」

 

 駆は空を見る。夕方になり、空は赤く染まっている。

 

「千。もうすぐ夕方になる。俺達は魔機使いだから、暗くても目は見える。しかし、夜は暗魔がより一層活発になる。ここで一晩明かし、明日の朝出発しよう」

 

「うん、そうしよう」

 

「それなら、俺様の家に泊まっていくといい。俺様がもてなそう」

 

「いいの? ありがとう!」「そうか。ではお言葉に甘えて」

 

「ああ。独りぼっちだと、寂しいからな」

 

 ロウに案内されて、千達はロウの家に行く。

 


 

 ロウの家に到着し、床に座る千達。

 

「この飲み物は集落で栽培されている薬草から作った。疲れが取れるぞ」

 

 ロウは飲み物を持ってきて、床に置く。

 

「ありがとう!」

 

 千は、飲み物を飲む。

 

「あまーい!」

 

 ロウは、微笑んでる。

 

 千は、駆が飲み物を一口も手を付けていないのに気づく。なので駆に飲み物を薦める。

 

「駆は飲まないの?」

 

「飲んだ方がいいぜ。今の時代、休める時に休んでおかねぇとな」

 

「俺はいい。よく探索に行くから、このくらいの疲れなど平気だ」

 

「ふーん、まぁいいか」

 

 ロウは気にしない様子だ。

 

 千はロウに話を聞こうとする。

 

「そうだ! この集落について、ロウについて、もっと聞きたいな」

 

「いいぜ。集落の人々は自然と共に生き、自然に感謝する生活を送っていたんだ。そしてある日、俺は狩りに出かけた。狩りから帰って来た時、集落は壊滅していたんだぜ」

 

「そっか……。それは大変だったね……」

 

 千はロウを心配する。

 

「気にしてねえよ。さて、そろそろ寝たらどうだ? 暗魔が来ないかどうか、俺様が見張っておくぜ」

 

「何もかも、ありがとう!」「そうだな、休んでおくとしよう」

 

 千と駆は、寝床に案内される。敷物は、わらを編んでできている。

 

 千と駆は横になる。千は寝る。



 

 外が騒がしく、千は目覚める。千は周りを見るが、横にいたはずの駆はいない。

 

 千は家の中を探す。しかし駆もロウもいない。

 

 千が外に出ると、家は猫の暗魔に囲まれている事に気づく。そして駆が、猫の暗魔と戦っている。

 

 千は戦おうとするが、眠気に襲われる。慌てて魔力を使い、眠気を回復する。

 

 駆は千に気づき、ため息をつく。

 

「目覚めたか。まぁいい。ここで暗魔を倒しても、何の得にもならない。俺が馬を召喚するから、そこに乗ってくれ。ここから逃げるぞ」

 

「分かった」


 駆は馬を2体召喚する。千達は、馬に乗る。

 

 馬は高く飛び、森の中に入る。そして千達は、木陰に隠れる。



 

 暗魔が追ってこないのを確認し、一息つく2人。森はまだ夜だ。

 

「まさか、目覚めるとはな。俺は千を、置いていくつもりだったんだが」

 

「起きていたの?」

 

「ああ。ロウが信頼できなくてな。案の定、あいつは寝ている俺達を襲うつもりだった」

 

「そんな……」

 

 千はショックを受ける。

 

「しかもあの飲み物には、強い眠気を起こす毒が盛ってあったらしい。ロウが言っていた。口にしなくて正解だった」

 

「あの飲み物に!?」

 

 千は更にショックを受ける。そして、「千を置いていくつもりだった」という言葉を思い出す。

 

「そういえば、『千を置いていくつもりだった』ってどういう事?」

 

「言葉の通りだ。千を犠牲にして、俺は逃げるつもりだった」

 

「自分だけ逃げるつもりだったの!?」

 

 千は怒る。

 

「目的の為の犠牲ならやむを得ない。そして自分たちの目的は、草狩市を救う事。犠牲とは、自分達魔機使いだ」

 

「そんな事は無い! 弱肉強食は自然のルールだが、助け合う事が人間のルールだ! そして、犠牲になっていい人なんていない!」

 

「まぁいい。俺は自分の考えもお前の考えも変える気は無い。俺は再び森を探索する。ついて来るなら勝手にしろ」

 

 駆は、森の中に入っていく。

 

 千は怒りつつも我慢し、駆の後をついていく。

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