十二剣戦記(小説版)

本編

第1章 天孔市/氷の都市

 数多千あまたせんは、天孔市てんこうしへとやって来た。天孔市は、西洋の街並みが並んでいる。

 

 天孔市は暑くも寒くもない、穏やかな気候だ。夜には綺麗な星空が見えるらしい。

 

 千は天孔隊本部に用がある。その為耳のデバイスで地図を表示して、天孔隊本部を目指す。


 


 千は、天孔隊本部を訪れる。天孔隊本部は、普通のオフィスに見える。

 

 千がインターホンを鳴らすと、女性が出る。女性の髪は長く、水色だ。

 

「僕は数多千。天孔隊に用があって来たんだ」

 

「私は天孔隊の隊員、氷室琳ひむろりんだ。よろしく」

 

 千と琳は握手する。

 

「話は聞いている。お前も魔機まきを使う魔機使いなのだろう?」

 

「うん。暗魔あんまは街や人を襲う生命体。それを退治するのが、魔機使い(まきつかい)。魔機使いが使う武器は魔機まきと呼ばれている、だよね?」

 

「ああ、大丈夫そうだな。中に入ってくれ」

 

「分かった」

 

 琳に案内され、千は中に入る。



  

 中には雷や虹などの空の写真や星座の写真が飾られている。

 

 千達は会議室のような奥の部屋に着く。

 

「ここが私達天孔隊が普段いる部屋だ。といっても、今は私しかいないが」

 

「わぁ~」

 

 千は辺りを見渡す。

 

「あの、天孔隊って、朝丘望あさおかのぞみさんがいるんだよね! 僕、あの人に助けられて、それから魔機使いを目指そうと思ったんだ!」

 

「そうか。きっと望も喜んでいるだろう」


 言いながら琳は微笑む。

 

「望さんはどうしているの?」

 

「あいつの事だ。きっとどこかで人助けでもしているのだろう」

 

「わぁ~」

 

 千は目を輝かせる。

 

「早速だけど、魔機を見せてもらってもいいかな?」

 

「いいぞ」

 

 琳は魔機を具現化する。

 

「私の魔機は、氷をモチーフとした剣だ」

 

「なるほど……」

 

 千は琳の魔機をまじまじと観察する。

 

「それで、何しに来た?」

 

 琳は魔機を消す。

 

「僕は、天孔隊に協力したい」

 

「そうか、それはありがたい。しかし協力が必要かどうかは、私が判断する。お前の力量を確かめたい」

 

 すると耳に付けている琳のデバイスから、声がする。

 

「蟹座の暗魔が現れました!」

 

「了解」

 

 琳は耳のデバイスで、蟹座の暗魔の位置を映す。蟹座の暗魔は、通りにいる。

 

「丁度いい。通りに蟹座の暗魔が現れたらしい。この蟹座の暗魔を倒してみろ」

 

「分かった」

 

 千達は通りへ向かう。



 

 通りでは、蟹座の暗魔が大量発生していた。蟹座の暗魔は、人ほど大きいカニの姿をしている。

 

 蟹座の暗魔は通りの店や車を破壊していく。

 

「では、見せてもらおう」

 

 琳は腕を組んで、千を見ている。

 

 千は魔機を具現化する。

 

「僕の魔機は、本をモチーフとした杖。本から今までに見た魔機を出せるんだ。例えば、琳の魔機とか」

 

 そういって、千は琳の魔機を出そうとする。しかし、琳の魔機は出せない。

 

「あれ~、おっかしいな……」

 

 仕方なく千は銃の魔機を出し、蟹座の暗魔に向けて撃つ。球は蟹座の暗魔に当たり、蟹座の暗魔は消滅する。

 

 別の蟹座の暗魔が、千に向けて車を投げてくる。千はかわす。

 

「なかなかやるようだな。では私も、戦うとしよう」

 

 琳は魔機を具現化し、氷の刃を飛ばす。


 


 千達は、蟹座の暗魔らを倒した。

 

「お前の実力は認めた。天孔隊への協力を許可しよう。早速だが、気候制御所のある暗魔の討伐を協力してほしい」

 

「気候制御所ってなんだ?」

 

 琳は耳のデバイスをタッチして、気候制御所を映す。

 

「天孔市は、元々人が住むのには困難な寒い地域だった。しかし気候制御装置がある事によって、人々は快適に暮らせるようになった」

 

「なるほど」

 

「その気候制御所に、乙女座の暗魔が現れた。しかも悔しいが、私の魔機ではあいつに通用しない」

 

「通用しないって、どういう事だ?」

 

 琳は乙女座の暗魔の写真を映す。

 

「あいつは本体がツタの中に隠れている。そしてツタを切っても、すぐに再生する。本体まで辿り着くのが、困難なんだ」

 

「分かった。僕に任せてくれ」

 

「ああ、頼んだ」

 

 千達は、気候制御所へ向かう。


 気候制御所の壁は所々、乙女座の暗魔が生やしたツタで貫かれている。

 

 中では、ツタが建物を壊そうと暴れている。奥には太いツタが生えている。

 

「あれが乙女座の暗魔か……」

 

「あの太いツタに覆われている場所に、乙女座の暗魔はいる」

 

 琳は魔機を具現化し、太いツタを指す。

 

 乙女座の暗魔は千達に気づいたのか、ツタで千達を攻撃しようとする。

 

 千は剣の魔機を出す。

 

 千達はツタを切る。しかしツタを切っても、また新たなツタが生えてくる。

 

「本当だ。ツタを切っていては、キリが無いね」

 

 千はある弓矢の魔機を具現化する。

 

「その弓矢でどうするつもりだ?」

 

「この魔機は貫通する。この矢で、乙女座の暗魔をツタごと貫く」

 

 千は矢を放つ。矢はツタと乙女座の暗魔を貫く。

 

 乙女座の暗魔と乙女座の暗魔が生やしたツタは、消滅した。


 


 琳は、千に近寄る。

 

「今回は、お前に勝ちを譲ろう。だがこれで、望みに一歩近づいた」

 

「望み?」

 

「ああ。私の望みは、暗魔を絶滅させる事だ。父が果たせなかった望みを、私は果たす」

 

 すると琳のデバイスから声がする。


「湖に、牡羊座の暗魔が現れました!」

 

「了解」

 

 琳はデバイスで、地図を映す。

 

「どうやら湖に牡羊座の暗魔が現れたらしい。湖に向かうぞ」

 

「分かった」

 

 千は琳の後を追って、湖に向かう。



 

 湖は、木々に囲まれている。

 

 湖のほとりに、老人が立っている。千は老人に話しかける。

 

「あの~、ここら辺で暗魔を見かけませんでしたか?」

 

「暗魔? 暗魔は、わしじゃよ」

 

 そう言うと、老人は牡羊座の暗魔になる。牡羊座の暗魔は、人ほどの大きさで羊の姿をしている。

 

 千達は驚く。

 

「暗魔は、人の姿になれるのか……」

 

「そうじゃ。大体人間は、暗魔について知らなさすぎじゃ。お主らに暗魔の歴史について、知ってもらおう」

 

 牡羊座の暗魔は、暗魔の歴史について話す。

 

「暗魔は人類に火を与え、道具を教えた。ある時は王の側近として仕え、ある時は最前線で戦った。はたまた怪物として、人類の前に現れた。それが妖怪や伝説の生き物として残されているのじゃ」

 

「だから何だと言うのだ。暗魔は一匹残らず絶滅させる!」

 

「それは不可能じゃよ。暗魔と人類の関係は切っても切れない。故に暗魔を絶滅させることは不可能じゃ」

 

「そんな……」

 

 琳は膝をつき、うなだれる。

 

「琳! 暗魔の言う事に耳を貸しちゃ駄目だ! 暗魔は、敵なんだ!」


「そうだな。今は目の前の暗魔を倒すことが先だ!」

 

 千達は、魔機を構える。

 

「大人しくさせるとするかのう」

 

 牡羊座の暗魔は、素早い動きで千達を翻弄する。

 

「千! 二手に分かれるぞ! 千は牡羊座の暗魔を追ってくれ!」

 

「分かった!」

 

 千は牡羊座の暗魔を追いかける。牡羊座の前に先回りした琳が現れ、牡羊座の暗魔を氷漬けにする。そして氷漬けになった牡羊座の暗魔を、千達は攻撃する。

 

「琳様の持つ魔機は王の剣じゃ。王の剣によって暗魔の王になれば、どんな願いも叶う――」

 

 そう言い残して、牡羊座の暗魔は消えていった。

 

(そうか。特別な魔機だったから、本から出せなかったのか)

 

 千は納得する。



 

 次の日、千は寒さで目を覚ます。

 

 千は窓の外を見ると、外は吹雪いていた。

 

(おかしい。天孔市には気候制御装置があったはず。それなのに何故、吹雪が吹くんだ?)

 

 千はデバイスでニュースを見る。

 

 ニュースでは、丁度吹雪について放送されている。

 

「天孔市の異常気象は、気候制御装置が破壊されたものによると思われています」

 

(これは、暗魔の仕業だな)

 

 そう考えた千は琳の部屋の前に行く。そして琳の部屋のドアをノックする。しかし返事はない。

 

 デバイスで連絡を取るが、琳は出ない。

 

 仕方なく、千は1人で気候制御所に向かった。


 


 気候制御所のあるはずの場所には、気候制御所の代わりに氷の城が建っていた。

 

 周りには、誰もいない。

 

 千は、氷の城の中へ入っていく。



 

 氷の城の中にも、何もない。

 

 奥の玉座には、琳が座っている。琳はドレスを着ており、髪も地に着くほど長くなっている。

 

「琳! どうしてここに! そしてその姿は!」

 

「ここは私の世界、そして私はここの王。私は暗魔の王になり、この世界を再構築する。そうすれば、新しい世界に暗魔はいなくなる。まぁ自分達もいなくなるだろうな」

 

「何で、そんな事を……」

 

「暗魔の中には乙女座の暗魔のように、私の力だけでは倒せない暗魔もいる。更に、暗魔は遥か昔から存在している。ならば暗魔を絶滅させるには、これしかない」

 

 千は魔機を具現化する。

 

「そんな事はさせない。僕は、日常を守る!」

 

「ならば、私を止めてみろ!」

 

 琳は吹雪を吹かせ、行方をくらます。そして氷の刃を飛ばす。千は、当たってしまう。

 

 千は氷の刃が飛んできた方向に銃を撃つ。琳に当たり、琳は吹雪を解除する。

 

 次に琳は大きな氷の中に閉じこもる。そして千には氷を落とし、攻撃する。千は火の魔機を使って氷を解かす。大きな氷も解かし、琳に攻撃する。

 

 千は、王の剣にはまっている石を破壊した。魔機は機能を停止し、琳は元の姿に戻る。

 

 千は手を差し伸べる。

 

「僕は、日常を守りたい。その日常には、琳も含まれている。それにみんなで力を合わせて、暗魔を絶滅させる方法を探していけばいい」

 

「そうか……そうだな。結論を出すのは、まだ早すぎる」

 

 琳は千の手を取る。その瞬間、吹雪はやみ、氷の城は無くなった。



 

 千は琳を湖に連れて行く。琳は、王の剣を持っている。

 

「どうして、こんな所に――」

 

 すると、王の剣の石が直った。

 

 琳は王の剣を握り、氷の刃を飛ばす。

 

「魔機を再び使えるようになったな。不思議だ」

 

「王の剣の石は、土地のエネルギーが強い場所に行くと、直るんだ」

 

「そうなのか。何故そんな事を知っているんだ?」

 

 王の剣は琳の手から離れ、浮かび、空間を切り裂く。空間は開き、野生の森が見えている。

 

「僕の本当の目的は、全ての王の剣を資格ある者へ渡らせる事。その為に王の剣について、調べたからね」

 

「そうだったのか」

 

 王の剣は、琳の手に戻る。

 

「僕は新たな王の剣を探して、次の都市へ行くよ」

 

「ああ。元気でな」

 

 千は琳と別れ、開いた空間の中へと入っていく。

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