暫定、無題

イエスあいこす

第1話 無彩色のキャンバス

仮に、人生とは一枚の絵であるとする。

下らない、本当に下らない、そんな一枚の無駄に大きな絵。少なくとも、俺の人生を絵として評するならばそんなところだ。下り坂こそあれど大した上り坂もない。二次元に表してすらつまらないような人生に、この三次元の世界は贅沢に過ぎるとさえ思えてくる。

でも、なんでこの絵は面白くないのだろう?

作品の面白さを言葉で表せるように、下らなさもまた形容できる。そして、その言葉を見つけるのに大した時間は要らなかった。

この作品は自分を描いたものでありながら、決定的に『自己』が欠落していた。『自己』というのは要するにアイデンティティとか自己同一性とか、そういうやつだ。

別に友人がいないわけではなかった。周囲が悪人に溢れていたということもなかったと思う。でも、俺の人生は正直言ってこれっぽっちも楽しくはなかった。それはきっと、俺の中で俺という存在が埋もれていたからだ。自分の人生の主役は自分とは言うが、俺にとって人生とは主役の定められていない群像劇であり、俺はその中でも名前しかないモブ同然の存在だった。

そりゃあ、自分の個性を求めて色んな事をした。文学や音楽。美術的な才能はからっきしだったからしていないけれど、己の存在意義を定義できる可能性がありそうなら躊躇わず手を出した。

でも、所詮モブはモブだった。俺は没個性的かつ存在意義の希薄な人間に過ぎず、あらゆる点に置いて、『俺でなければならない理由』なんてものはなかった。挑戦の後に残るのは、いつも決まって劣等感だけだった。

何をしても、お前が生きている意味はない。

そう後ろ指を差されているような気分だけが消えなかった。まあ、その指を差しているのはきっと自分なのだけれど。

死ぬのは恐いから死なないけれど、生きているのも心底恐ろしい。

そんな俺は、生きている価値を見つけられるのか。

多分無理だろう。無理だろうけど、諦めたくなかった。

それを諦めたら本当に、この世の酸素泥棒でしかないだろうから。


ああ、また明日が来る。憂鬱な、朝が来る。

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