第208話
魔王は宣言通りに全員をまとめて相手してくれるらしい。それにしても……マジで流暢に喋っているように聞こえたんだけど……地味にやばくないか? もし言語を学習したようにこちらの攻撃を学習されていたとしたら……何人集まっても勝てないのでは?
『いいぞ!』
やはりずっと観察していたのか、真っ先に突っ込んでいった宮本さんの速度に対応して、その斧による一撃を警戒しているように見える。宮本さんの空中での加速は魔力の噴射によるものなので、小回りができない。だから魔王は半身だけを動かして最小限の動きで突進を避けている。
次に突っ込んできた相沢さんの攻撃は腕に魔力を纏わせて受け止め、無理に攻撃をする様子がない。相沢さんの基本は盾で受けてのカウンター。あんな風に無理に攻撃してこない相手に対して、相沢さんができることは少ない。精々、剣に魔力を纏わせてビームのように放つことだけだが……それをするには多少の溜め時間がかかるので、あれだけ接近すると使えない。
『こんなものではないはずだ! もっと楽しませろ!』
大きく旋回して帰ってきた宮本さんの攻撃を再び避けて、今度は地面に大剣を突き刺して魔力による爆発を起こしたようだ。あれなら、確かに相沢さんはカウンターを行うことなんてできない……的確な対処方法だ。
「……」
俺の横で2人と魔王の戦いを観察していた七海さんは、唐突に7本の槍を動かして先からビームを放った。いや、そもそもなんでビームが出るんだよとか、それならもう槍である必要なくないとか色々と突っ込むところはあるんだけど、俺すら知らない攻撃を受けて魔王はただ防御の姿勢で受けることしかできていない。
魔王の動きが止まった隙を見て、旋回していた宮本さんは進行方向に……つまり自分の前方に向かって魔力を噴射して勢いを止めてから、魔王に向かって再加速して突っ込んだ。両手斧による一撃は魔王が咄嗟に出した左腕を切断し、それに続いて相沢さんが剣の先から飛ばした魔力は胸に大きな穴を開けた。
『ぐっ……いいぞ……もっとだ!』
「マジっ!?」
たたらを踏んで倒れそうになった魔王は、あと一歩のところで踏ん張って胸に空いた穴を一瞬で埋め、飛んで行った左腕をつかんでから即座にくっつけた。目の前で再生した姿を見て面食らった相沢さんは大剣の一撃を盾で受けてかなりの距離を後退り、宮本さんは足を掴まれて放り投げられた。あの勢いで吹き飛んで行ったら無傷では済まないんじゃないかと思ったけど、吹き飛ばされる瞬間に重装甲に変化させていたから大丈夫かな。
それにしても……マジで強いな。
「どうしよう……私たちの動きが読まれてる?」
七海さんは今の攻防で、こちらの動きが全て読まれていることに気が付いたらしい。まぁ、七海さんの初見技以外は全て対応されているんだから、そう考えるだろうな。しかし、それを理解したからと言ってなんとかできるのかと言われたら微妙だろう。
「じゃあ、俺がなんとかしよう」
「え?」
初見の技以外は全て見切られているのなら、初見の技だけで叩き潰してやるか……対応できないぐらいの量で一気に攻めるのがいいだろう。
「貴人、白虎」
『お呼びですか?』
周囲のモンスターは粗方七海さんが消し飛ばしてしまったので、貴人と白虎は待機状態な訳だったが……あの魔王の相手をするには相性がいいのは俺だ。なにせ、俺は数で攻めるのが得意だからな。
『そうだ……お前を待っていた。お前が出てくるのを待っていたんだ』
「そこまで期待されても困るんだけどね……でも、お前を倒さないとこのダンジョンは攻略できないからな」
『お前がこの中で一番強い……お前こそがこの集団の主だ』
別に俺はリーダーをやっている訳ではないから、主ではないんだが……説明するだけ無駄だな。
「じゃあ、式神術を見せてやろうか」
俺の言葉を合図に白虎が飛び出していき、俺の影から青龍と朱雀が飛び出してくる。俺が一人で動いても動きを見切られるだけなので、ここはリソースを削ってでも式神の数を増やす。十二天将を複数体一気に召喚すると俺にもそれなりに負荷がかかるんだが……その程度なら問題なし、だ。
魔王は一度白虎の攻撃を受けているから、その速度にも対応していたが、地面から生えてきた青龍の魔法によって動きを制限されてしまえば、思い通りにはいかない。白虎と朱雀に挟み込まれて体の一部分を食いちぎられた魔王は、その場で片膝をついた。
『この力……やはり貴様は異質だ。だが……それも乗り越えて見せよう!』
再び突進する朱雀を避け、白虎の牙を掴んで大剣を振り下ろそうとするが、青龍の植物が伸びて大剣を絡めとり、白虎の魔法によって地面から生えてきた鉄剣が魔王の胸を貫く。串刺しにされて空中に放り投げられた魔王に、全身を燃やしながら突撃した朱雀は、そのまま破裂した。
「……こうも式神を大量に召喚すると俺にできることが少なくて、どうもな」
式神は召喚してから継続的に俺の魔力を消耗したりしないが、あれだけ派手に魔法を扱えば式神の魔力は消耗していく。そうするとそれを補充してやらないといけないんだが……そうするとどんどんと俺の魔力も消耗していく訳だ。特に最後の朱雀の自爆技なんて、体内の魔力を全て爆発させるものだから、あれを復活させるにはもう一度召喚するぐらいの魔力が必要になる。
『ぐ、うぉ……やはり強い……お前が一番!』
「式神使いに対して本体を狙いに来るってのは確かに正解だな」
朱雀の爆発を受けて無傷ではなかった魔王だが、どうもこちらが召喚して使役していることに気が付いたららしく本体である俺を狙いに来た。確かに、式神術によって召喚された式神は、術者が倒れればそのまま消えていくだけの存在だ。本体を叩くのは定石だ。
俺が下手な式神より強くないことを除けば。
『馬鹿なっ!?』
「残念」
「司君はやらせないよ」
『まさか、私の主人を襲って無事に済むと思いましたか? 殺すだけでも生温い……地獄の苦痛を与えて差し上げます!』
俺に向かって切りかかってきた魔王の大剣を、間に入った七海さんが槍を使って受け止めたので、その隙に俺が魔王の腹に魔法で穴を開け、魔王の背後から迫っていた貴人が首を切断してから頭を蹴り飛ばし、残った胴体を八つ裂きにした。
貴人さんや……流石にやりすぎだよ。そんなんだから白虎と青龍に冷たい視線を向けられるんだよ……朱雀は目立ちたがり屋だから気にしてないけどさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます