第207話
『ヌァッ!』
戦っていて思ったんだが……なんかこの魔王様ちょっとずつ強くなってないか? いや、強くなっていると言うより……俺たちの魔法を学習しているのか? 七海さんが展開している槍の動きに対応し始めているのか、背後を確認せずに攻撃を避けているように見える。
「ん」
だが、七海さんもその程度焦るような探索者ではなくなっている。何処からともなく飛んできた岩の塊が、眼前まで迫っていた魔王を吹き飛ばしていった。なんか……アメコミ映画でこんな戦闘シーン見たことある気がするぞ。魔王みたいな奴がひたすらに強くて、でもそれに相対しているヒーローも強いみたいなの。
七海さんが使っている魔法は多種多様で、正直俺でも半分くらいしか理解できないんだが……魔王はそれにも対応し始めている。
「長引かせるのは不利そうだな」
「じゃあちゃちゃっと終わらせちゃう?」
「できるなら」
今はまだ、学習と言ってもこちらの魔法を分析して避けたりするぐらいで済んでいるが、これが完全に原理まで把握されて同じ魔法を使われたとするととても厄介だ。厄介過ぎて最後には俺の全身全霊をかけて神でも召喚しないといけなくなる。以前に海坊主のようなスライムに対して神を降ろしたことがあったが、あれは短時間だからなんとかなっただけで……長時間降ろしたら俺だってすぐに魔力切れを起こしてしまうからな。なるべくなら使いたくない手だ。
『イイゾ……マダ、タノシメソウダ。キサマラノヨウナキョウシャハ、ヒサシブリダ』
「言語もちょっと理解してきてるしな……そういう能力なのかな」
まだ片言だけで助詞が混ざり始めたな……学習が想像以上に早い。
物事を詳しく理解するみたいな能力だったら面倒じゃないかな。俺の式神術まで真似されたら手に負えなくなるから……それまでには片付けたいな。本当に俺の式神術を真似できるのかどうかはわからないけど、可能性は少しでも潰しておきたい。
「『白虎』」
『ヤハリキサマダ……キサマガツヨイ!』
「おー、そりゃあどうも。全然嬉しくないってさっき言ったと思うけどな!」
魔王の背後から出現するモンスターの数も減る気配はないので、白虎を追加で召喚して魔王に一撃食らわせてから、貴人の援護に向かわせる。白虎の一撃を初見で防いだ魔王は、続く俺の蹴りを腹に受けて蹲り、七海さんの放った魔力の衝撃波でそのまま吹き飛んでいった。
「普通のモンスターなら全身が砕けるぐらいの威力で放ってるんだけど……ちょっと自信なくしちゃうなぁ」
「……もっと出力上げていこうか」
どれだけ深層に潜っても、探索者の攻撃によって地上に与える影響が詳しくはわかっていないので出力をある程度は制限しているんだが……流石にそれの影響で倒せないってのは話にならないので仕方ない。これで東京都心で地震が発生しましたとか言われても、人類の偉業なんだから許してくれよな。
『カァッ!』
こちらが魔力を更に放出しているのを察しているのか、魔王も好戦的な笑みを浮かべながら全身から視認できる程に濃い魔力を放ち始めた。魔力だけで言うのなら、今まで見た探索者の誰よりも凄い魔力なんだが?
魔王の姿が消えたと同時に、俺は七海さんを守るように魔王の大剣を蹴る。速度に対応できるのは俺で、攻撃するのは七海さんの役割だな。
指先に圧縮していた魔力を七海さんが魔王に向かって放つ。指を弾くような軽い動作で放たれたそれは、防御しようとした魔王の左腕ごと直線上の全てを消し飛ばした。
『ガッ──!?』
「助太刀しますね」
あれだけの出力を受けても2本の足で立っていた魔王だが、上空から勢いよく降りて来た宮本さんが一瞬で鎧を分厚いものに戻しながら魔力の籠った拳を顔面に叩き込んだ。なんで……みんなEXになると急に武器使わなくなるんだろうね。素手の方がいいのかな?
血を流しながら吹き飛んでいった魔王を見ながら、俺は宮本さんにドラゴンはどうしたのかと聞こうとしたら、上空からバラバラにされたドラゴンの死骸が降ってきた。あぁ……憐れな。
「今のうちに片付けちゃうね」
魔王が吹き飛んでいったから自由時間ができた訳だが、その隙に七海さんは上空に大量の魔法陣を出現させ……そこから雨のように光が降り注いで、魔王の召喚したモンスターを消し飛ばし始めた。うーん……これはかなり精密な魔力操作ができないと再現できない芸当だな……俺にはとてもじゃないが真似できなさそうだ。
『ヌゥ……ヤハリ、ツヨイナ』
「……トカゲかな?」
七海さんの魔法によって消し飛ばされた魔王の左腕が生えていた。多分、魔力で治癒したんだろうけど……そこまで行ったらもう治癒じゃなくて再生だと思うよ。
『ワガシモベヲコウモタヤスクウチヤブルトハ……オモシロイ!』
「なんでだよ」
そもそも、こいつって渋谷ダンジョンに出てくるモンスターじゃないの? なんで以前から何度も戦ったことがあるようなことを口にしたり、平然と部下がいたりするの? もしかして……ダンジョンが異世界と繋がった扉説が真実なの?
「おい魔王」
『マオウ……ナツカシイヨビナダ』
「お前は何処から来た」
『シラン!』
駄目だこいつ話にならないわ。
「考えるのはダンジョン研究者の仕事だから、私たちはこいつをただ倒せばいいんだよ」
「そうですね。私もそれでいいと思います」
槍を自分の周囲に展開する七海さんと、再び鎧をパージして高速移動を可能にした宮本さん。この2人も小難しいことを考えるのが苦手なタイプだな……七海さん、学校のテストは高得点が取れるのに。
『貴方様、私も援護いたします』
「行けるのか?」
『周囲のモンスターは粗方そこの粗暴女が片付けてしまいましたから』
「私、これでも高校生の時は清楚系の美少女って言われてたんだけど、粗暴女ってなに?」
いや、今のEX探索者としてダンジョンを蹂躙している姿は、お世辞にも清楚系とは言えないよ七海さん。
「まぁまぁ、喧嘩は後でね。みんなで片付けるよ」
しれっと巨大犬を始末してきた相沢さんが加わってるし。宮本さんといい、簡単に強力なモンスターを始末し過ぎじゃない? やっぱりEXってみんなこんな感じなんだね……俺もEXなんだけどさ。
『コイ……まとめて相手をしてやる』
あれ? 魔王が今流暢に喋らなかった?
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