第206話
「おー……」
超高速で空を駆ける宮本さんが、空中でドラゴンと戦っている。ドラゴンもその巨大からは考えられないぐらい並外れた速度で飛行しているが、宮本さんの方が速いようだ。ドラゴンは口からビームを吐いたりしているが、そもそも当たらなければどんな攻撃も無意味だ。
巨大な犬と戦っている相沢さんは、堅実に守りを固めてカウンターを差し込みながら戦っている。あっちも口から爆発する魔力を吐き出したりしているが、相沢さんは怯むこともなく相手をしている。
2人ともやはり相応の実力を持っているので、魔王が召喚したモンスター相手と戦ってもそこまで心配することはないだろう。そうすると……俺と七海さんは自分の心配をしなければな。
「『貴人』」
渋谷ダンジョン最下層のラスボスということもあって、魔王はかなり強力な存在だと思う。次々と新しいモンスターを召喚しているのもそうだし、本人も強そうだ。こちらも出し惜しみをしている場面ではないと判断して、俺がぱっと召喚できる最強の式神を初手に召喚する。
『どうも』
「どうも」
あ、そう言えば七海さんと交際を始めてから召喚するのは初めてだったな……ちょっと召喚するタイミングが悪かったかもしれない。
『認めたくありませんよ。えぇ、でも? あの御方が認めた人を認めないなんて式神としての矜持に関わりますので、仕方なーく認めてあげないこともないですよ?』
「はーん? なにその上から目線は?」
『上ですが?』
「今はそんなことしてる場合じゃないから。貴人は周囲のモンスターと他の式神のサポート頼むよ」
魔王とは俺と七海さんが直接やろう。
周囲のモンスターを殲滅させるために雷獣、鎌鼬、牛鬼を召喚する。十二天将を大量に召喚すると、俺のリソースがそっちに削られてしまうので妖怪で済ませ、それを貴人に援護させることで周囲のモンスターは対応させる。
こちらに向かって走って来ていた魔王は、大剣を片手で振り下ろしてきたが、七海さんが魔力で生み出した槍で受け止めた。
「……周囲の槍はやっぱり勝手に動き回るだけで、結局槍は自分で作るんじゃん」
「いいの!」
火車から取り出した刀を抜いて魔王に向かって斬りかかるが、半歩下がっただけでするっと避けられた。
「俺が前に出るから、中距離から援護してくれると嬉しいな」
「いいけど……私も前衛しながら援護できるよ?」
「じゃあそれでいっか」
下手に前衛と中衛で分ける意味もないな。
こちらが2人横に並んだのを見て、魔王はやはり好戦的な笑みを浮かべながら大剣を持っていない左手から衝撃波を放った。魔力を視認できる目でそれを見抜いていた七海さんが即座に防御障壁を張り、衝撃波がぶつかった瞬間に俺が飛び出して刀で首を狙ったが、頭を動かされたので頬を掠めただけだった。
『────ッ!』
「やべ」
頬に傷を受けた魔王は更にテンションを上げたようで、今度は拳を地面に叩きつけて周囲のモンスターを巻き込みながら大爆発を起こした。流石に超至近距離でそんな攻撃を受けたら俺だって危ないので、勾陳を召喚して魔王を囲うように結界を展開して爆発を内側に閉じ込めた。
自分で放った魔力だからなのか、魔王は全く傷もついていないのだが……今の爆発で周囲が更地になっていないことに疑問を持ったのかこちらを睨みつけて来た。
『────! ────!』
「なに言ってるのかわかんねーよ」
いきなり剣の先から雷撃を放ってきたが、七海さんの7色の槍のうち黄色の槍が避雷針のように雷を誘導して受けてくれた。多分、赤色が炎で黄色の雷なのかな? そうすると他にも色々と属性がありそうだけど……緑とか紫ってなんなんだろう。
魔法での攻撃は効果なしだと判断したのか、魔王はその2メートルの巨体からは考えられない速度で移動を始めたが……婆ちゃんほどじゃない。
「見えてる?」
「魔力の軌跡だけ……目で追うのは無理だよ」
「そっか……なら俺が守るよ」
高速移動しながらこちらに向かって放たれた、魔力で生み出されたらしき薄紫色の棘を蹴り砕いて七海さんを守った。高速移動しながら器用なことするな……次々に飛んで来るけど、強度はそれほどじゃないので簡単に壊せるのが救いだな。
魔王も俺とは視線が合っているので、俺は速度に反応しているが七海さんは目が追いついていないことには気が付いているらしい。大剣を構えながら一気に七海さんの首を刈り取りに来たが、当然俺が許す訳がない。
「よっと!」
「はっ!」
『──!?』
大剣を俺が刀で受け止め、魔王の動きが止まった瞬間に俺の動きに合わせていた七海さんが多重に魔法を展開して大量のビームを放った。驚愕した表情を浮かべながら身体にビームを受けた魔王はそのまま吹き飛んでいき、それを追いかけるように七海さんは手に持っていた槍を投げ、周囲の7本の槍も操って向かわせていた。
「ビームの多重展開……魔法が得意だね」
「司君もコツさえ掴めればできると思うよ? ちょちょっと展開するだけだから」
うーん……常に7本の槍を展開しながら大量の魔法を同時に発動できるだけの魔法センスは、俺にはないかな。いや、そもそも多分真似できる人はいないんじゃないかな。
『──、──ハ』
「ん?」
煙の中から飛び出してきた魔王は、鎧をボロボロにされながらもやはり嬉しそうな顔をしていた。よほど好戦的な性格してるんだなって思ったが……なんかちょっと意味のある言語を口にした。
『アー……コレ、オマエタチ、ゲンゴ?』
「は?」
いきなり魔王が片言で喋り始めたんだが……まだ助詞が無い、外国人にありがちな言葉だが確実に意味が通じるぞ。
『オマエタチ、フクザツ、ゲンゴ』
「喋り始めちゃったよ?」
「どうしようか」
『タノシイ? タタカウ、オレ』
戦闘狂みたいなことを呟きながらこちらに向かって突進してきた。鎧を失ったのにまだ近接戦闘を仕掛けてくるとは、かなり自信があるようだが無謀だろう。
俺が正面から剣を受け止めると同時に、七海さんの槍が魔王の背中に刺さった。
「ん……硬いなぁ」
『グゥ……ヌゥッ!』
背中の筋肉を一気に締めるような動きで、背中に刺さった槍を抜いた魔王は、俺に向かって拳を叩きつけようとしてきたので勾陳の結界で防いだ。
『キミョウ、ワザ、オマエ、ツヨイ、イチバン』
「そいつはどうも」
4人の中で俺が一番強いってことかな? 褒められるのは悪い気もしないが……よくわからんダンジョン最下層のモンスターに言われてもな!
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