第209話
正直、首を飛ばして胴体を八つ裂きにした程度で死んだのかどうか疑っていたんだけど……残っていた部分が塵になって消え始めたので本当に死んだらしい。
それにしても……言語を操る敵ともなると、もしかして本当に異世界に通じているんじゃないだろうな。前々からその可能性については指摘されていたけれど、名古屋ダンジョンの最下層に広がっていた遺跡と、今回2体遭遇した言語を操るモンスターの存在は、これからのダンジョン研究に大きな爪痕を残しそうだ。
:グロくて草
:大丈夫? 配信サイトからBANされない?
:一応、ダンジョン配信ならBANされない設定になっているらしいけど……流石にここまでグロいとBANされないかと心配になるな……本当に大丈夫かな?
:如月君はさっきからコメント欄見てないからわかんないと思うよ
:これでBANされたら流石に草生える
:ところで、これはどうやって解説動画作るのか楽しみだな
堂々鈴々:社長、マジで頭おかしいよ
:社長が見てないからってパンダが悪いこと言ってる
:スクショ撮って後で如月君のSNSに送ってやるー
「見てますよ」
なにを人のこと頭おかしいとか言ってんだこら。パンダ……君には失望したよ。
:草
:あ
:パンダ、なんてタイミングで……
:パンダタイミング悪くて草
「あんまり変なこと言ってると、来月の給料を笹にしますからね」
:食費じゃん
:全額食費行きは草
:笹で渡されたら税金かかんないからいいじゃん
堂々鈴々:俺は笹食ってねぇ!
人の配信で変なこと言ってるからだろ。全く……こっちはそれなりに苦労してようやく渋谷ダンジョンを最下層までクリアしたっていうのに……ちょっと立場を教えてやろうか。
「何してるの?」
「コメント欄を見てた。パンダ好き勝手言ってたので、来月の給料は笹にしてやろうかと思って」
「笹? パンダだから? かわいそうだから普通に食べられる野菜にしてあげなよ」
:給料が勝手に食費になるのことは確定してて草
:パンダの来月給料が全て野菜になるって……スパチャの分け前も?
:当たり前だろ?
:先月のパンダのスパチャ額って結構あったような……そんな量の野菜どうやって食うんだよ
「大量の葉野菜がある方は、色々と食事方法がありますよ。白菜なら鍋に突っ込んじゃえばいいし、他の葉野菜ならチジミにして食べるのがおすすめです」
片栗粉:小麦粉:水を50:100:200~250ぐらいで混ぜてから、野菜をぶち込んであとは適当に焼くだけだ。簡単でしょ?
:急に如月君の家庭料理話出てきたな
:流石自炊男
:一人暮らしの男ってみんな自炊してるんじゃないの?
:は? 俺はいつも適当だが?
:草
:もっと栄養のあるもの食べろ
「カナコンちゃんも全然平気そうだし、完全勝利だね……って、なにしてるの?」
「戦闘中は全く見てなかったので、コメントの人たちと戯れてます。戦いはちゃんと映ってたんですよね?」
カメラが遠巻きに動いているのはちらちらと確認はしていたけど、本当に映っていたのかどうかまでは確認してなかったからな。
:映ってはいたよ、見えなかったけど
:カナコンちゃんとかモンスターの動きは殆ど見えなかったよ
:アサガオちゃんも突っ立った状態から周囲を綺麗な色した槍が飛び交ってたのと、手から出していた魔法ぐらいは見えた
:如月君も瞬間移動しているようにしか見えなかったけど、ちゃんと映ってた
:最後のはグロかったけど
「それは貴人に言ってください」
オーバーキルしたのは貴人だからな……俺は悪くない。
魔石を回収したらさっさと帰るか……魔王が召喚したモンスターの全てが魔石を落としていったので、回収するのにも時間がかかるけど、それだけでかなりの金になると思うからな。
:ちゃんと植物を採集してから帰ってきてね
:【¥50,000】忘れてないからな
:草
:草回収してこい
:草引っこ抜け
:草抜かれた
へいへい。
流石に100階層から一気に1階層まで帰ってくるにはそれなりに時間がかかってしまった。というか……みんなそれなりに疲れているから行きよりも当たり前に時間がかかってしまうのだ。階段は上る時よりも下る時のほうが膝に負担がかかるとは言うが、心肺に負担がかかるのはやっぱり上る時だと思うんだよね……まぁ、今更階段を上がったり下がったりしたぐらいでは別に疲れないんだけどさ。
みんなが疲れていたので、100階層から上がってくる間をずっと護衛してくれていた白虎を労わりながら消し、ようやく渋谷駅まで戻ってきた。100階層って深さ的にはどれくらいなんだろうか……魔法的ななにかが働いて異空間の如く広がっているといわれているが、多分物理的な距離で地球に存在していたらマントルまで突き抜けてるのかな。実際、地殻なんで数十キロしかないって言うし。
「ふぅ……今日は大々的な感じで攻略してなかったから、マスコミとかに囲まれなくてよかったね」
「そもそも、婆ちゃんが動かないとマスコミなんて動かないんじゃないですか? それぐらい知名度違いますし」
「そうなんだよね……」
「神宮寺さんってすごい」
本当にね。
「じゃあ、ここら辺で解散ってことで……こう言ったらなんだけど、ダンジョン探索はとっても楽しかったよ。久しぶりに、私も個人的な用事でダンジョンに潜りたいなって思ったぐらいには」
「良いと思いますよ。社畜ばかりしていると疲れるでしょう」
「あはは……でも、社畜するのも結構性に合ってて好きなんだよね。君たちみたいな若い探索者のためにもなるし、ね」
そう言いながら相沢さんはさっさと歩いて行ってしまった。まぁ、魔石の売り上げは山分けでそのまま口座に振り込んでおくって事前に決めてあったからいいんだけど……ああいうあっさりとした所がサラリーマンっぽいというか。
「じゃあ……ここら辺で配信は終わりにしましょうか」
:え!?
:待って待って
:せっかく如月君お疲れ様オフ会の話してたのに!?
:どうすんねんこれ
「やらなくていいですし、やるにしてもまた今度でいいです……流石に疲れましたからね」
100階層なんて初めて潜ったから……流石にちょっと精神的にも疲れたよ。普段以上に魔力消耗しちゃったし……それに、宮本さんと七海さんを俺以上に疲労困憊って感じだ。
「じゃあ、お疲れ様です」
:仕方ないな……
:おつ
:お疲れ
ささっと配信の電源を切って、七海さんと宮本さんの方へと視線を向けた。
「帰りましょうか……宮本さんってどこに住んでるんでしたっけ」
「うん……」
「あ、ダメだこれ」
酒に酔ったようにフラフラとしながら目線が曖昧な宮本さん……魔力がからっきしになるとこうなるんだよな、人間って。それだけ、人間の身体にとって魔力が大事ってことなんだろうけど……人間の身体に魔力が宿ったの、数十年前じゃなかったか?
「おっと……七海さんもやばそうだし、いっそのこと俺の家に来る?」
「うぇ? いいの?」
「はい……てか、七海さんは入り浸ってるでしょ」
「えへ」
えへ、じゃないよ。
仕方ない……宮本さんは俺が背負って、そのままマンションまで帰るか。
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