陰キャコミュ障ぼっちで影の薄い俺、世界最強のダンジョン探索者です ～世間ではダンジョン配信なるものが流行ってるらしいので、そういうのはよくわかりませんが、流行りには乗りたいと思います～

第203話

　全く止まる気配もなく宮本さんに突っ込んでいった騎士の斬撃に対して、宮本さんも避けるような動きは全くなく、そのまま鎧で受けた。甲高い音と共に大量の火花が散る。しばらくすると、片手で持っていた剣を両手にも持ち替えた騎士の追撃により、宮本さんは背後に吹っ飛んでいった。

「カナコンさんの鎧が防げずに攻撃を受けるのを見るのは初めてですね。それだけの力があるのか……それともなにか秘密があるのか」

「今のは多分、ただの膂力じゃないかな」

　やっぱり？　俺もそう思うな……99階層に1体しか立っていないモンスターの攻撃が、簡単に防げるなんて思わないからな。

：いや、傍観し過ぎじゃないか？

：相変わらず味方のピンチにも全く動じないね……もうちょっと心配とかないんですか？

：うーん……これはどうなんだろう

：如月君的にはこれは放置しててもいいの？

「放置しててもいいのって……決闘って言ったんですから、最初から最後まで手を出さないつもりですけど。死にそうになったら助けますかね」

　これに関してはドライとかそういう話じゃなくて……まぁ、命のやり取りをしている探索者にしか理解できない感覚だとは思う。果し合いとかに現代の倫理観で「そんなことするとか意味わからない、殺人は犯罪だぞ」とか時代劇にツッコミいれたりしないだろ。

「私としてはそもそもモンスターが言う決闘なんて対して興味ないんだけどね……如月君とアサガオちゃんがそうしろって言うから多数決に負けた、みたいな？」

「いいじゃないですか。負けませんよ……彼女なら」

　俺は今の宮本さんなら絶対に負けないと思っているから任せたのだ。別に宮本さんのことを見捨てたとかそんな訳ではない。ただ……万が一のことが合ったら助けるよってだけのことで。

　視聴者の心配なんか全く的外れかのように、瓦礫の中から普通に宮本さんが歩いて出てきた。

「ね？　平然としてるでしょ？　今の宮本さんは防御力だけで言えば俺の知っている誰よりも上ですよ」

：逆に今まで如月君が一番だと思ってた人って誰なの？

：知りたい

：如月君が認める防御力の持ち主……気になる

：俺知ってるぞ

：前に言ってなかったか？

「今までの一番？　相沢さんですよ」

「へー……如月君にそう言ってもらえるなんて嬉しいな。私は君の式神の方がよっぽど強いと思うけど」

　式神……勾陳のことかな？　あれは万能な結界に見えて、他の十二天将と違って結界で攻撃を遮る度に魔力を消耗するからあんまり燃費がいいものとは言えないんだ。防御力だけで言うと、そもそも攻撃を受けることがない勾陳は最強に見えるが、なんでもかんでも防いで無敵みたいな感じではない。まぁ……わざわざ式神の弱点を他人に喋ったりしないが。

　俺たちの会話なんて全く関係なく、宮本さんと白騎士の戦いは続く。今度は宮本さんが白騎士に対して攻撃を仕掛けていた。単純に斧を振り下ろす動きに対して、白騎士は余裕を持ってゆったりと避けてからカウンターを放とうとしたが、宮本さんの蹴りに反応できずにそのまま吹っ飛んでいった。

「……足癖悪いね」

　相沢さんが苦笑いを浮かべながらそう言ったが、俺も七海さんも多分戦闘になると結構足が出るタイプなのでなにも言わないでおいた。

：如月君も前にやってた気が……

：いや、如月君は結構やるぞ

：自分は剣士じゃないからみたいな言い訳しながら普通にそういうことやるタイプでしょ、俺は詳しいんだ

「うん、如月君はやるだろうね」

「いや、その認識ちょっとおかしくないですか？」

「勝てばいいと思ってるでしょ？」

　決闘を申し込んできた相手を囲って倒そうとしていた人間には言われたくねー……認めるけど。

　そうこうしているうちにも、白騎士と宮本さんの対決はかなり激化していた。白騎士は宮本さんの斧を脅威だと認識しているのか、丁寧に避けながら剣での攻撃を加えていくが、宮本さんは相手の攻撃を軽いと判断してそれを避けることもなく攻撃を放っていく。

　全体的に見ると宮本さんが圧倒的に押しているようだが……白騎士の速さにイマイチついていけていないように見える。単純な速度で言うとそこまで変わらないと思うが……なにか特別な方法でも使っているのかな。

「……あ、なるほど」

　しばらく戦いを観察していると分かったが、白騎士はまるで背中にブースターでもついているかのような動きをすることがある。つまり、直線での加速が通常状態と違うのだ。魔法か何かだと思うが……白騎士のそれは余りにも短いので気が付きにくい。恐らく、相対している宮本さんも違和感は抱いてもその正体にまでは辿り着いていないはずだ。

「七海さん？」

「どうしたの？」

「あの白騎士、さっきから魔法使ってますか？」

「え？　うーん……鎧から発する魔力の噴射は見えるよ」

　それだ。

：なにイチャイチャしてんの？

：内緒話じゃん

：何話してるんだろう

：リーマン、聞け

「えー……どうせあのモンスターについてでしょ？」

「まぁそうなんですけど……あれ、本当にモンスターなんですかね」

　なんというか……戦いを見ていると全くモンスターには見えないと言うか。余りにも動きと反応が人間らしくて、モンスターなのかも疑わしい気がするんっだけど。喋ってたし。

『────！』

「ほら、なんか喋ってますよ」

「魔法の詠唱じゃないかな？」

　七海さんが即座に魔法の詠唱じゃないかと言ったら、本当に魔法が発動した。

　白騎士が魔法を発動させると、明らかに白騎士の動きが変わった。具体的に言うのならば、足元が数センチ浮き上がり、機動力が今までの倍ぐらいになった。

「魔力の噴射で加速しているって言ってたよね」

「加速しているかどうかはわからなかったけど、多分加速してるね」

「なら、あれであの白騎士は全方位に簡単に加速できるようになった訳か」

　浮遊しているのなら、魔力の噴射で姿勢制御も簡単にできるだろう。魔力噴射による加速も最大限の効果が見込めるし……あれがあの騎士の戦い方か。

　俺の予想通り浮き上がってから即座に加速と減速を繰り返し、宮本さんの鎧に連続で攻撃を与え始めた。加速によって増した威力は、無敵とすら思えた宮本さんの鎧に傷をつけ始めていたが……宮本さんが少し立ち止まった瞬間に鎧の傷が全て消えた。

「あれ……修復できるんですね」

「そりゃあ、作ってるのは彼女なんだから、彼女の魔力で簡単に直せるでしょ」

　理屈はわかるけど……戦闘中にパッと直せるもんなのか。そうなのか……わからん。