第202話
なんで95階層までちゃんと樹海みたいな見た目だったのに、再び薄暗い洞窟に戻るんだよ。しかも96階層だけじゃなくて、97、98と洞窟だったし……やる気が出なくなるからやめてくれ。
:露骨にテンション下がってて草
:如月君って結構テンションの上がり下がりが大きいタイプの人間だよね
:オタクって結構そうじゃない?
:陰キャオタクは結構そうだね……テンションが一々上がったり下がったりするイメージは確かにある
:酷いこと言われてて草って思ったけど、自分がそうだったわ……鬱だ
「勝手に人を巻き込んで陰キャ談義しないでくださいよ……俺は有名配信者になっていんふるえんさー? になったんですから、もう陰キャコミュ障オタクぼっちじゃないんです」
:インフルエンサーがなにかわかってない感じがもう駄目
:インフルエンサー名乗ってるけど、お前のSNSはゲームのことか日常生活のことしか呟いてないじゃん
:インフルエンサーならもっと情報発信してくれよ
:みんな厳しくて草
:仕方ないね
:あってるじゃん、陰キャコミュ障オタクぼっちで
「は? 俺は彼女いますけど」
「彼女でーす」
:はい戦争
:お前、それを言い出したらもう残るのは殺し合いだけだろうが
:お前は俺を怒らせた
:絶対に許さんからお前、炎上させてやる
:誰も直接的なことは言わないな……やはりEXで人間じゃないからか
:そりゃあ、魔法1つで都市を破壊できそうな人間に対して勝負を挑むような奴はいないだろ
:モテない陰キャがコメント欄でピキピキしてて草
おー……効いてるわ。彼女いる煽りそのものよりも、七海さんが直接画面に映って彼女宣言した方が効いてるなこれは。
現在歩いているのは98階層な訳だが、歩いていてもおどろおどろしいような雰囲気の骸骨騎士みたいなのが襲い掛かってくるだけで、特に変わったギミックなんかもない。ただモンスターが襲い掛かって来て、それを宮本さんが適当に処理して終わりってことがずっと続いている。まるで最上層に戻ったような感覚だが……もしかして、渋谷ダンジョンの本質はこれなのだろうか。
渋谷ダンジョンと言えば環境がコロコロ変わる場所ぐらいの認識だったけど、もしこれが本質なのだとしたら、驚くべきことじゃないか? だって途中の環境がコロコロ変わっている部分はただのおまけってことでしょ?
「まぁ……ちょっと飽きるのはわからないでもないよ。モンスターだってすごい大群で襲ってくるとかならわからないでもないけど、実際は10分ぐらいに1体くるかどうか……そのモンスターもカナコンちゃんがやっつけちゃうし」
「あ、お譲りしましょうか?」
「いや、別に倒したい訳じゃないから」
「でしょう? やっぱりダンジョンとはいえ多少の変化がないとつまらないってのは真理だと思うんですよね。同じ味付けの料理を毎日食べさせられたら、どんなに好きなものだって嫌いになるのと同じだと思うんですよ」
:ダンジョンと食事を一緒だと言い張る男
:言いたいことはわかるが、ダンジョンに対してそこまで緊張感のない発言をできる人間はそう多くないと思うぞ
:如月君らしいと言えば如月君らしいでしょ
:飽きるってのはわかるけどな……
:如月君って結構な飽き性だよね
「飽き性なの? 司君は私にもいつか飽きちゃう?」
「え? いや、女性は別だよ……なにより、俺は七海さんの容姿とかではなくて性格を見て好きになったんだから」
「本当?」
本当、俺嘘つかない。
:急にイチャつくじゃん
:普通に本名で呼んでて草
:お前、普段はアサガオちゃんのことを名前で呼んでるのか
:「さん」はちゃんとついてるのが陰キャっぽくて好きだよ
:陰キャは親しい仲の女性だろうと、女性というだけでなんとなく「さん」をつけてしまう生き物なのだ……悲しいことにな
:悲しい要素どこだよ
:陰キャだってバレたところ
:陰キャは成長したって治らないけど、コミュ障とぼっちは治るからがんばれ
:コミュ障は改善されただろ……社長やってるからかな?
まぁ……最近は確かにコミュ障だって言うのはあんまり自分でも感じないかな。でも、原因は社長をやっているからではなくて、配信をやっているからだと思う。普通に知らない人と初対面で顔を合わせるのは今でも苦手だけど、コメント欄の人と会話するような感覚で喋ればなんの問題もない。勿論、失礼なことは言わないけど。
「面白いことしているとこだけど、次の階層の階段見つかったよ」
「お……てことはこれで99階層ですか」
長かったな……99個も階層を降りたって考えるとすごくない?
「99階層って簡単に言うけど、日本人が降りたもっとも深い階層は如月君と神代ちゃんが降りた86階層だって知ってた? 人類が最も深くまで観測した場所も96階層だし……私たちは絶賛人間が降り立った階層の深い記録を更新中なんだよ?」
そうだっけ? なんか……そんな話を神代さんと渋谷ダンジョンに来た時に聞いたような聞いてないような……どうだっけな。
:曖昧な記憶を思い出す時の顔
:如月君博士いて草
:まぁ、如月君ってそういう記録に興味ないからな
:なお、渋谷ダンジョンスレは滅茶苦茶盛り上がっている模様
:そりゃあな
「潜りましょうか!」
思い出せないからいいや!
普通に階段を降りたった99階層には……コロシアムのようにひたすらに広い円形状の広場が待っていた。後ろを振り返ると、広場の入場口みたいな場所に上へと向かう階段が存在しているような形だ。反対側の入場口には、これまた下へと向かう階段がある。この時点で渋谷ダンジョンは100階層あること確定なんだが……問題は中心に突っ立っている人間ぐらいの大きさの騎士だ。
「ボス?」
:どう見てもそう
:せやな
:うーん……
:倒そう
:でも背後の階段は別に閉じられてる訳でもないから、無視できないの?
『────』
「え、なに?」
突っ立ているだけだと思った騎士は、こちらの姿を確認すると同時に地面に刺してあった大剣を抜いてなにかを喋った……のだが、聞いたこともない言語だ。
「何語ですか?」
「わかんない……でも、多分『決闘しろ』的な言葉じゃないのかな?」
そうなのかな……コロシアムだからそうかもしれないな。
そうすると……1対1を望んでるのかな?
「どうします? 一斉に襲い掛かってぶち殺しますか?」
:人の心を何処に置いて来た
:まぁ、ダンジョン探索者ならそう考えるよな
:せやな
「私……1人で戦ってみます」
全員で囲んで倒せばいいやぐらいに考えていたんだけど、宮本さんが斧を手にしながら1人で戦いたいと言った。すぐさま反対しようとしたが、宮本さんと目が合ってしまった。
「…………相沢さん」
「うん、私は良いと思うよ。危なくなったらその時に助けに入ればいいんだし」
なんとなく……一応は師匠だから好きにやらせたくなった。ここまで渋谷ダンジョンに潜ってる間も、ずっと強くなり続けていた宮本さんが何処までやれるようになったのか、見てみたい。
『────!』
「私がお相手します」
純白の鎧に身を包んだ騎士と、純黒の鎧に身を包んだ探索者の戦いが始まろうとしていた。
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