第201話
女性陣2人に色々と文句を言われたので、魔法で無理矢理地面を隆起させて吹雪を凌げる場所を作り出し、そこで昼飯を食べた。騰蛇を召喚したままだったので、すぐ近くに寄せて暖を取らせてもらいながらの食事だったが……まぁ、別に特筆すべき点はなかった。ただ飯を食べて、立ち上がって再び階段を探しただけのことだ。
90階層から階段を降りると、そこには見慣れた30階層付近のような樹海が広がっていた。出てくるモンスターも中層のモンスターを大きくしたようなものや、似たような姿をしているが全く別物らしきようなものまで大量に存在した。歩く食虫植物の数が明らかに増えていたし、中層にいるものとは明らかに硬さが段違いだったが……硬くなっただけの敵に今更苦戦するようなメンバーではない。
91階層から92、93、94、95とずっと樹海が続いていたので、七海さんはほっと一息ついているようだった。
「明らかに階層そのものが広くなっていること、植物そのものの大きさが巨大化していること、植物も86階層に生えていたような未知のものであること、それから……歩いている食虫植物モンスターが硬く大きく強くなっていたこと以外に、特別変わったことはないかな?」
「それだけあったら充分では?」
:確かに
:草
:草生えて樹海になっちゃった
:人類未踏の地って実際にこんな感じなのかな?
:いや、ダンジョンは人類未踏の地ばっかりだろ
:これだけ中層と似たような階層が広がってると、なんか感覚が狂いそうじゃない?
:植物の大きさが2倍ぐらいになっているから見分けはつくんじゃない?
「あと、植物のモンスターとは良く出会うのに、中層でよく見かける獣型のモンスターがほぼいないのは気になる所ですけど……ダンジョン探索には関係ないですからね」
「ダンジョン紹介動画には関係あるんじゃないの?」
「あれは不知火さんがやるからいいの」
七海さんの心配も理解できるが、あれは俺が攻略した主観をそのまま当てはめてしまうと正確なダンジョン紹介動画にならないので意味がない。この配信や追加で撮ってある動画の内容を確認して、ダンジョンに潜らない不知火さんの視点から編集してくれることで、初めてしっかりとした客観的なダンジョン紹介動画になるのだ。まぁ、不知火さんが単独で作っている訳じゃなくて、複数人の事務員さんに手伝ってもらって色んな視点から作っているらしいけど。
:不知火さんって誰?
:如月君のマネージャーさん……と言うか、社長秘書みたいな立ち位置になってる人
:へー
:如月君の専属ってこと? 普段から振り回されてばかりで死ぬほど大変そうな仕事だな
:確かにwww
:そうだよな……あの如月君の専属だもんな……勝手に海外行ったり、気紛れにダンジョン攻略したり、趣味で仕事増やしたりするもんな
「不知火さん、普段からまことに申し訳ございません」
:唐突な謝罪で草
:そうだ、もっと謝っておけ
:不知火さん……アリバの縁の下だね
:ちゃんと職位つけて給料上げてやれよ
そうだな……いっそのこと、本当に社長秘書って肩書を付けてあげた方がいいのかもしれない。仕事内容としては殆ど社長秘書みたいなことしてるし、普通にそれぐらいはしてあげてもいいかもしれない。うん……そうだな。
「帰ったらちゃんと社長秘書って役職名つけてあげて、給料上げます。はい」
「そうした方がいいよ。不知火さんいつも大変そうだったから」
はい、すいません。
「会社のお話をしてるところに悪いけど、敵さんが来たよ。数は1体だけどさっきまでの奴より更に大きい……接敵まではまだ余裕があるけどね」
また敵か。
接敵までの時間に余裕があるのは、相手が食虫植物モンスターだからだ。食虫植物モンスターは、植物が元になっているだけあって基本的な移動速度は人間の徒歩以下だ。触手を伸ばしてきたりと面倒なことはしてくるが、移動速度という一点だけで見ると最上層のモンスターと比べても遥かに遅い。ただし……どのような方法なのか知らないが、植物型のモンスターはどんな遠い場所からでもこちらの位置を正確に掴んで進軍してくる。中層でだらだらとしていると結構危険だって理由はこれだが、中層ならまだ探索者の数が多いからそこまで危険度はない。もし、中層の植物型モンスターと同じ特性を、この深層のモンスターも持ち合わせているとしたら……ここにいる探索者は俺たちしかいない。
「囲まれる前に中央突破……次の階層に向かう階段を探しましょう」
こんな場所からさっさと逃げるに限る。なにせ、食虫植物モンスターは絶え間なく地面から生えてくるからな。魔石を集めて金を稼ぐには最適な階層かも知れないな……こんな所まで降りてこなければならない労力さえ考えなければ。
:植物モンスターって不気味だから嫌い
:そりゃあ、感情もない植物だからな
:獣型のモンスターはまだ感情的な動きをしたりするんだけどね……植物はどうしても人間らしくない部分は大きすぎて
:ゴーレムは?
:ゴーレムはああいうものだろ何言ってんだお前
:????
:ゴーレムも一緒じゃんwww
:は? ゴーレムは全然違うが?
:探索者特有のよくわからない感覚の話やめろ
4人で森の中を駆けだした瞬間に、地面の下から植物が飛び出してきた。恐らく反射だろうが、七海さんの周囲に浮かんでいた槍がモンスターだと判断して木を貫き燃やした。
「今のはっ!?」
「ただの植物ですね。ただし『モンスターが魔法で生やした』植物ですが」
「見えてる。今のは地面の下から魔法が発動された……敵は下に潜ってるよ」
今の攻撃に反応して全員が下がった瞬間に、魔力の流れを読んだのか、七海さんは7本の槍を地面に突き刺して魔力を流し込んだ。
「やべ」
「みんなちょっと離れてて!」
七海さんがなにをしようとしているのか誰よりも早く察した俺は、烏天狗を召喚して上空に運んでもらう。同時に、相沢さんと宮本さんは俺の動きを見て動き出し、そこから七海さんが忠告した。
七海さんが突き刺した7本の槍から、魔力が溢れだして……地面を爆発させた。烏天狗を追加で2体召喚して相沢さんと宮本さんを上空へと逃がしていたが……逃がしていなくてもギリギリ巻き込まれない範囲だったかな。これは2人の危機察知能力が高いのか、それとも七海さんの魔力コントロールが緻密なのか……どちらにせよ、あの広範囲攻撃はなんとなく神代さんに似てるよな。
七海さんの魔法攻撃を地面の上から受けた植物モンスターの破片が、周辺に飛び散っていた。
「掃除完了だね!」
いや、掃除したかどうかで言うと多分散らかした側だと思う。
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