第199話
結論から言おう。数が多いだけで対して強くなかった。
「地味な戦いだったね……蟻がデカくなっても蟻だったし、蟹がデカくなっても蟹だった」
「まぁ……そんなもんなんじゃないですかね。逆にさっきのデュラハンの群れが結構厄介だっただけなのかもしれないですよ」
相沢さんみたいなタンク役からしたらって話かもしれないしな。まぁ、後方からごちゃごちゃやっているだけの俺も、デュラハンの方が厄介だったと思う。蟻は蟻だし、蟹は蟹だっただけだな。
「階段あったよ。しかも本当に同じ場所に」
「なんなんですかね、この階層は」
「さぁ? でも、ダンジョンだから今更なにが起こって不思議だとはあんまり思わなくなっちゃったけどね。そういう、なんて言うのかな……若さ故の新鮮な反応、みたいなのは、擦れたおっさんの私にはあんまり馴染みがないよ」
「擦れたおっさんって……擦れてるのもおっさんなのも本当ですけど、若さはまだあるじゃないですか」
「すごい。擁護してくれてるのに背中から刺してきてる」
:でもおっさんなのも擦れてるのも事実じゃん
:擦れてるって言うか……社会の荒波に揉まれてしまって削れているだけなのでは?
:削れてるは草
:社会怖過ぎだろwwww
:でも、ブラック企業から逃げて来た人間ってみんなあんな顔してないか?
:絶賛ブラック企業にいるような気もするけどな、リーマンは
:確かに
:擦れてるのもおっさんなのも本当だけど、若くない訳ではない……おっさんなのに若いのか
:30代っておっさんなのに若いってイメージない?
:それ、多分おっさんの中では若いの間違いじゃないか
それだ。おっさんの中でもまだまだ若い、だな。
「酷いなぁ……まぁいいけど」
「いいんだ……相沢さんの基準がよくわからない」
本人がいいならいいけどさ……男って、おっさんって言われてもあんまり気にしないんだよな。これが女性だったら、年齢の話出した瞬間にぶっ殺されてるかもしれないけど。
くだらないことを喋りながら階段を降りていた俺たちには、地獄が待ち受けていた。
「……また?」
「海岸、ですね」
88階層から降りて来た89階層にも、同じ景色が……もしかしてループしているんじゃないかと思うぐらいに、全く同じ光景を見せられてしまうと、ちょっと俺も驚いてしまう。
:頭が狂いそう
:こっからどこまでこれが続くのか
:やばくない?
:怖いよ
:ちょっと……マジでやばいな
精神的な問題で結構やばいダンジョンなんじゃないだろうか。コロコロと景色が変わるダンジョンってのは、やっぱりそれだけ新鮮な反応をすることができる。それに、景色に紐づいてこういう対策を取ればいいんだって記憶していたりするんだけど、こうも同じような光景のダンジョン繰り返されるとどうしても気が滅入ってきてしまう。
これが八王子ダンジョンのように見晴らしがよく、尚且つモンスターの数が少ないような場所ならばただ飽きてくるだけで済むが……渋谷ダンジョンの90階層近くでそんなことされて、集中力が切れた状態で後ろから攻撃なんてされようもんなら普通に死ねる。そういう危険さもある。
「同じ景色を何回も続けられると、単純に面白くないんですよね」
後は単純につまんない。
:知らんわ
:それに関してはどうでもいい
:如月君、結構な飽き性って感じだからな……よく、ダンジョン配信はここまで持っていると思うよ
:正直、会社もさっさと投げ出すかなとか思ってました
俺のことなんだと思ってるのかな? 自分で立ち上げた会社を放り投げるほど飽き性になった覚えはないが?
「階段あったよ」
「さっきも聞いた」
「うん、私もさっき言った」
89階層は88階層と違い、モンスターが湧いてこなかった……つまり、86階層と同じ……ややこしいな!
「えー、86階層が以前に来た時は海からスライム、88階層は山から蟻で海から蟹、89階層は完全にモンスター無し……みんなちゃんとメモしておいてくださいね」
:視聴者にメモを委ねるな
:したした(大嘘)
:どうせアリバの事務員さんが動画として編集してくれるから、そっちで確認したら?
:如月君もあの動画見てダンジョンの情報を得るんですね()
おぉ……確かに、動画にすればそこら辺を全部まとめてくれるか。ならわざわざ詳細にメモする必要もないな。単純にダンジョンを攻略するだけでいいだろう。
「それで……90階層、どうなってるかな」
「90とかキリがいい数字なので最下層でデカいモンスターが待ち受けていてくれたりすると嬉しいんですけどね」
「そんなことある? キリがいい数字なら100でしょ」
「100まで行くのが面倒だなって思ったから言ったんですよ」
「私は100まであってもいいと思うけどなぁー」
「わ、私も……ちょっと楽しそうじゃないですか?」
ダンジョン狂どもめ。俺はダンジョンに楽しいとか楽しくないとかを求めて……るな。求めてるわ、うん。
「所で、90階層に向かう階段の下から……霧が流れ込んできてるんだけど、もしかして海岸じゃない可能性あるかな?」
「本当ですか? ならさっさと進みましょう」
未知の階層に出会えるのならば俺は喜んで前進するぞ。やっぱり俺もダンジョンに楽しさ求めてたわ……ただ、俺のは七海さんとか宮本さんみたいな戦闘方面じゃなくて、ダンジョン探索そのものを楽しんでるから。誰も入ったことのない階層に足を踏み入れ、誰も知らない場所を探索するのが好きなんだ……戦闘は式神任せでいいかなって。
90階層への階段を転がり落ちるような速度で降りた視線の先には……霧で覆われた極寒の大地があった。霧に見えたのは吹雪だったのか。
「……ファンタジー小説とかに出てきそう」
「氷の大陸、みたいな? 南極ダンジョンとかも中身がこんな感じなのかな?」
「南極ダンジョン……私、行ってみたいなー……司君は?」
「この夏の時期に南極ダンジョンなんて行ったら寒すぎて死にますよ」
いや、死にはしないけど……ってそうじゃなくて、今は目の前のことだよ。
「これは……進んでも大丈夫なんですかね? 歩いた瞬間に氷が割れて水面に落ちるとかないですよね?」
「さぁ?」
地面も一面の氷ってことは、水面が凍結してるってことじゃないの?
:さっさと進め
:面白そうじゃん
:転ぶなよ
:氷のダンジョンかー……渋谷ダンジョンって本当にコロコロ変わるね
:常夏の海岸を数度見せられてから、急転直下で極寒の大地に放り出されてて草
恐る恐るって感じで凍結した地面の上を歩いていたら、吹雪の向こうでなにかが動いているのが見えた。
「もしかしてドラゴン!?」
翼のように動く長いものに七海さんが驚愕したような声を出すが、どう見てもあれは……ドラゴンではないだろう。
吹雪の中からずんずんと足音を響かせながらやってきたのは、ずんぐりむっくりとした身体に鋭い嘴……いや、お前大物みたいなツラで出て来たけどペンギンだろ。
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