第198話

「……全部片付いたか?」

「うん。後は向こうでやってる分だけかな」


 俺が白虎を投入したことで戦局は一変した……と言うより、相沢さんが防御する手間が無くなったので一気に倒す速度が上がったのか。とにかく、白虎の投入によってデュラハンたちは一気に数を減らしていき、最後の1体が宮本さんによって倒されたことで終わった。


「いやー、随分と苦戦した気がするけど、実際には掠り傷ぐらいしかないね」

「数が多かったから時間がかかっただけで、別に苦戦はしてないんじゃないですか?」

「そうかもね。でも、こんなに暴れたのは久しぶりでスカッとしたよ……ストレス解消にダンジョンに来るのも悪くないね」


 そんなにストレス溜まってるのか……尚更、ダンジョン組合の長なんて引き受けたくないわ。俺はストレス溜めながら仕事して、まともに解消もできない環境なんてごめんだね。てか、相沢さんはEXなのに社畜してるってどういうことなの?


:これぞリーマン

:EXリーマン……社畜じゃん

:リーマンやめても社畜してるのは草生えるからもう少し休んだ方がいいよ

:ネット民にすら心配されるレベルの社畜とか、ブラック企業も真っ青か?

:ブラック企業とは違うけど……かなり大きな組合の長だからねぇ

:【¥1,000】これで上手いものでも食えや

:すっくな

:昼食がちょっと豪華になるだけなのやめろ

:草


「最初は好きでやってたんだけど……どうしても責任が増えてきちゃうとね。後継者もいないし……」

「後継者は自分で育てた方がいいよ」

「しれっと後継者になること拒否されたよね、今」


:そりゃあ、誰だって社畜なんて勘弁だろ

:草

:わかりきったことを

:如月君は社長やってるって言い訳があるから

:言い訳w

:誰もやろうとしない仕事をしてるリーマンかっこいいぞ

:もうちょっと部下と仕事分配したらやりたい人も出てくるんじゃないですかね


 出てこないだろ、そんな仕事やりたい人とか。



 デュラハンが落とした魔石を回収するのに苦労したが、全部回収してから荒野を再び歩き出したら、遠くに見ていた砦の中に階段を発見した。同時に、滅茶苦茶広く感じた階層も壁に景色が描かれているだけの様で、実際は階段から階段までかなり真っ直ぐな形をしていたようだ。


「騙し絵って言うんですかね。滅茶苦茶奥がありそうな気がするのに、全部壁なんですよね」

「騙し絵って言うか、ただの意地悪って言うか」

「うーん……別に絵が描かれている訳じゃないからね。不思議な感じだね」

「先に進まないんですか?」

「あー……進みましょうか」


 87階層まで来ても、宮本さんは元気そうだ。いや、普段以上に張り切っている。多分だけど、さっきの戦闘でテンションが上がったまま降りてきてないんだと思う。


 階段を降りて88階層に辿り着いた……と思ったら、そこには86階層と同じ景色が広がっていた。


「……階段、降りたよね?」

「確かに降りましたね。どう見ても86階層と同じ景色ですが」


:頭がどうにかなりそう

:??

:どうなってんの?

:階段降りたのに階段昇ってたってこと?

:ちょっとまて、ややこしくするな

:ただ88階層と86階層の構造が同じってことじゃないの?

:こんな特徴的な景色が同じことある?

:あんまりないと思うけど、実際に同じな訳じゃん?

:とりあえず探索して見ないとなにもわからないんじゃないか?


「まぁ……とりあえず、86階層の階段があった場所まで行ってみますか」


 本当に全く同じ構造なら、同じ場所に階段があるはずだと思うから、攻略するのは滅茶苦茶簡単なんじゃないか? そして、全く同じ構造だとしたら……ここにもモンスターは存在しないってことなんだろうか。でも、前回86階層に来た時は海にスライムがいたからな……どうなってるのかイマイチわからん。


「……なにか、聞こえない?」


 普通に歩いていたら、七海さんが急に立ち止まって変なことを言い出した。


「なにかって……なんですか?」

「いや、よくわかんないけど……なんか変な音が聞こえた気がするけど」

「……波の音が聞こえますね」


 宮本さんと俺もちょっと耳を澄ませてみているが、全くなにも聞こえてこない。七海さん……もしかして疲れて幻聴でも聞こえているのだろうか。休憩タイムが必要なのかな……相沢さんだってさっきの戦いで消耗してるだろうし、宮本さんだって初めての攻略で自分が思っている以上に消耗しているはずだ。

 俺はみんなに休憩を提案しようとした瞬間に、なにかが走るような音が聞こえた。


「今、なにか」

「如月君、あれじゃないかな……原因」


 相沢さんが俺の肩を叩いて、山の方へと指を差すと……山の一面が黒色に染まっていた。


「山が、黒い」

「あれなに?」

「私には……蟻に見えますね」


 うん……宮本さんの言う通り、俺にも蟻に見える。それも、1体が数メートルサイズの蟻だ。


:わぁ……

:キッショ

:なんかこんなゲーム見たことあるぞ

:俺も

:それ、前にも誰か言ってなかったか?

:なんで蟻?

:知らん

:どうでもよくないか、その話


「あー……砂浜に降りますか。見通しが良い場所で戦った方が互いの状況も把握しやすいですし」

「そうだね……蟻の集団がここに来るまで……1分もなさそうだけど」


 砂浜も足を取られるような気もするが、縦横無尽に駆け回る蟻を相手に山の起伏が激しい場所で戦うよりは遥かにマシだろう。そう信じる。

 4人全員が一斉に砂浜に向かって走り出す。幸い、砂浜までの距離は大したことがなかったので俺たちの身体能力を考えると余裕で着くのだが……不幸なことに砂浜の中から蟹のようなモンスターが数十匹飛び出してきた。


「見た目は似てるのにこっちはモンスターだらけだね!」

「蟹は俺に任せてください。3人は蟻を」

「了解! 司君も気を付けてね」


 まぁ……任せてと言ったものの……ここまで乱戦状態になってしまうとあんまり意味はないか。


「『騰蛇』」


 召喚された騰蛇はすぐさま前方にいた蟹に向かって口からビームを吐いた。


「焼きガニにしてやる」


 これが全部高山ダンジョンの蟹だったら、金にもなるし美味いしで嬉しいんだけど……どう見ても全く違うもんな。青色の蟹……死体が高山ダンジョンのように残ったとしてもあまり美味そうではないが、とりあえず殲滅するか。

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