第197話

「とっ!? 本当に首が無いね……モンスターらしくていいと思うけど!」


 デュラハンという妖精が存在する。元々はアイルランドに伝わる人の死を予言する悪しき妖精であるとされる。首のない御者が馬に乗り、首級しゅきゅうを手に持つとされる。本来のデュラハンはその姿を人に見られることを嫌い、見た者の目を潰そうとするらしいが……襲い掛かってくるデュラハンの集団はそんなことお構いなしにこちらの命を直接刈り取ろうとしてきている。


:デュラハンだ

:アンデッド系のモンスターか?

:知らん

:【¥5,000】ゲーム以外でデュラハンとか初めて見たわ

:逆に現実で見たことあったら怖いわ

:今、如月君が見てるが?

:あれはモンスターだから別だろ

:基準はなんなんだよ


 馬に乗っているだけあって、槍を持っているデュラハンが多いようだが……中にはフレイルらしきものを持っている姿も見える。多種多様な武器を持ったデュラハンが一斉に相沢さんと宮本さんに襲い掛かっているが、相沢さんは技術でそれをさばきながら堅実に敵を倒している。じゃあ宮本さんはどうかというと……


「ふっ!」


:ゴリラ

:完全にゴリラになった

:ゴリラは大人しくて争いを嫌う生物なんだが?

:でもネット的にはゴリラって言うと力が強くてブンブン武器振り回している奴のことだろ?

:そうだね


 デュラハンからの攻撃を防御することもなく鎧で受け、そのまま斧を振り回して馬ごと切り裂いている。


:斬馬刀かな?

:斬馬刀は別に馬を斬る為の刀じゃないけどな

:そうなの!?

:斬馬刀は騎馬上から長いリーチを生かして相手騎馬兵を叩き落して殺すための武器だから、別に馬は攻撃しないぞ

:【¥6,000】はえー勉強になったわ

:なんで如月君に金払いながら感謝してんの? 俺に払えよ

:草


「いやー……成長しましたね、カナコンさん」


:成長って言っていいのか?

:いいだろ

:よくないだろ

:どっちだよw

:成長っていうか……進化?

:生物として更に進化した姿!

:カナコンちゃんは怪物になってしまったのだ……昔みたいにオドオドとしたダンジョン探索者ではないのだ

:昔からゴブリンを複数体斧で一気に切り裂いていたけどな

:変わってないじゃん

:せやな

:草


 あれを成長と呼んでいいなら、素晴らしい成長だろう。少なくとも、ダンジョン探索者としては順当に成長してると思うから、後は経験さえ積んでいけば立派なSランク探索者としてやっていけるだろう。


「どんどん来るよ!」

「わかってる。青龍!」


 七海さんの槍は自動で動き回りながらどんどんとモンスターを狩っている。槍が動き回っている間も、七海さんは魔法を放ってはいるが、それでも処理が追い付いていない状態のようだ。流石に数が多すぎるので俺もちゃんと参加しよう。

 青龍に命じると素直に動き出し、荒野の地面には不釣り合いな巨大樹木を生やしていく。樹木はただ生えるだけではなく、素早く動いて騎馬をどんどんと拘束していく。拘束して動けなくなったデュラハンは必死にもがくのだが、脱出する前に七海さんの槍が貫いていく。


:完璧なコンビネーションじゃないか

:やっぱりカップルだとそうなるの?

:おかしいな……俺は彼女と喧嘩してばかりなんだけど

:別れろ


 青龍の樹木にはそこまで攻撃力は期待しない方がいいのだが、この状況ではそうも言ってられない。


「『鎌鼬』」


 この乱戦状態で朱雀のような火力特化を召喚すると、仲間に流れ弾が行く可能性があるので、ここは鎌鼬のような細かい戦力で少しずつ削っていくのがいいだろう。鎌鼬なら、七海さんの槍と同じ様な働きができる。

 七海さんの活躍のお陰で、俺の所まではデュラハンも来ていないが……前線はとんでもないことになっている。まぁ、とんでもないこってのは……2人が暴れ回っているってことなんだが。


「ははっ! 振れば当たるって状況もあんまりないから、ちょっと楽しくなってきたね!」

「まだまだ、行きますよ!」

「カナコンちゃんも乗り気だね。私もテンション上げていくよ!」

「……鬱憤溜まってたのかなぁ」


:リーマンが無双ゲームしてイキイキとしてる

:この大軍を相手にストレス解消にしかなってないよ

:剣からビーム出すリーマンと、敵の攻撃をガン無視して斧をぶん回すカナコンちゃん……ちょっと怖いよ

:カナコンちゃん、これでEXじゃないの?

:ここまで強いSランク見たことないんだけど、これでもEXじゃないの?


「どうだろう……推薦したら普通にEXになるかもしれないですね……基準とか別にないですから」


 この配信を見せれば、普通にEXになっちゃうかもしれない。それぐらい今の宮本さんの防御力は異常だし、攻撃力にしたって半端なものじゃない。深層の、しかも87階層でこれだけの活躍ができるならEXとして名乗っても全然おかしくはないと思う。


「あと一つ、変わった特徴とかあると上の老人たちも文句なしで規格外って認めてくれるんじゃないですかね。俺としては、既にEXだと思いますけど」


:だよね

:知ってた

:変わり種かぁ……

:斧投げるとか

:武器の問題じゃん

:そりゃあ、ブースターかなんかつけて高速移動しながらあの防御力と攻撃力を持ってたらいけるんじゃね?

:あの鎧、自家製だったよね

:自家製って言い方嫌だな

:【¥50,000】背中にブースターつけて、見た目をもっとロボットみたいにしようぜ。起動兵器カナコンちゃんとしてダンジョンを蹂躙しよう


 なんか、みんな自分の願望を書いてないか? でも、機動力って面で見ると確かに宮本さんはまだまだ、だと思う部分はある。それにしても通常の探索者からすると既に目で追えないぐらいの速度ではあると思うが、どうしても鎧を着込んでしまうと速度が落ちるからね。後、どれだけ頑張っても斧を振り回しているだけだから、攻撃力が武器だけってのも良くないのかな。少なくとも、相沢さんは木刀でこのデュラハンたちを相手にできると思うから。

 EXになった瞬間に滅茶苦茶な特典があるとか、なにかしらの特権があるとかではないんだけど……宮本さんも目標とはしているみたいだからね。それは師匠としても応援してあげたい訳で。


「ちょっと司君? さっきからずっと余所見してない? もっと頑張って」

「はーい」


 そうだな……みんな頑張って戦ってるから、俺も手を抜かずにちゃんと戦わないと。


「『白虎』」


 これ以上は過剰戦力かなとも思ったけど、想像よりも敵の数が多いからみんなが消耗するよりも早く殲滅するか。


「蹴散らせ、白虎!」

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