第194話
「砂漠に入ったから攻略速度が遅くなるって思ったんだけどなぁ……」
「あれは、相性の問題ですからね」
相沢さんが言いたいこともわかる。ずっと誰にも攻略されずに放置されていた75階層の龍が、七海さんの放った槍で全身串刺しにされ、落ちてきたところを宮本さんの斧によって首を切断されてしまったらそうも思うだろう。
:草
:空飛ぶより速いじゃん
:いやー……アサガオちゃん、成長したね
:これは成長って呼んでいいのか?
:【¥4,000】これ、2人とも如月君が育てたってマジ? 俺も育ててくれや
:俺にも教えてくれや、授業料幾ら?
:【¥50,000】金なら払うから
:実際、ここまで如月君とリーマンが全く戦ってないから、マジで弟子だけで攻略してるんだよなぁ……如月君、もしかしてそういう縛りプレイでダンジョン攻略やってるの?
育てた人だけでダンジョンを攻略する縛りプレイってか? やかましいわ。
「私はダンジョン探索は最近まともにやってないから、砂漠を超えたことが無かったんだけど……この先は85階層までずっと洞窟なんだったね」
「あ、以前の俺の配信を見てくれたんですか?」
「まぁ、色々と参考になることもあるからね」
そっか……教導に関しては参考になるかもしれないけど、渋谷ダンジョンを神代さんと攻略した時の配信なんてなんの役にも立たないだろって思ったけど黙っておこう。あの2人で自由でやっていただけの配信でなんの参考にしたのか是非とも聞きたいけど、聞きたくない気もする。
「こっから先はひたすらにスライムですからね」
「それも嫌だね」
「スライムも槍に任せてね」
「スライムって槍で倒せるんですか?」
「まぁ……槍の攻撃そのものじゃなくて、そこから発生する魔力的な攻撃なら全然倒せるんじゃないですか? アサガオさんがどんな能力を槍に付け足しているのか知らないから何とも言えないですけど」
刺し貫いた相手を燃やすとか、内部で魔力を爆発させるみたいな能力でもついてればスライムでも余裕で倒せるんじゃないかな。
「じゃあ、ガンガン進もうか。ここから先も如月君にとっては既知の場所だから動画のネタにもならないでしょ?」
「そうですね……スライム以外が出てくるならネタにもなるんですけど、本当にスライムオンリーの場所だったら76階層から85階層まで全部ひとまとめでいいですかね」
86階層はあの陽キャが遊んでそうなビーチだからな。そっから先はまだ行ったこともないが……あんな開放的な階層の先に果たしてなにがあるのか、全く想像もできないな。
さっさと龍の魔石だけ回収して、76階層に足を踏み入れたのだが……本当にスライムしかでてこない。馬鹿の一つ覚えみたいにスライム、スライム、スライム……最初はそれなりに周囲を警戒していた俺と相沢さんも途中から雑になり、張り切っていた七海さんと宮本さんも無言でスライムを鏖殺している。
「はー……」
:無言配信
:スライムが潰されていく音だけが流れてるの草
:なんか……暇そうだね君たち
:暇そうって言うか、余裕が感じ取れるよ
:とか言ってるけど、カナコンちゃんはアサガオちゃんの動きに触発されてるのか滅茶苦茶動きよくなってないか?
:【¥1,000】ため息代
:ため息に金払ってる奴初めて見た
:如月君のガチ勢怖い
七海さんの周囲を飛び回っていた7色の槍のうち、青色の槍がどうやら貫通したものを凍結させる能力を持っているようで、飛び出してきたスライムを一瞬で全て凍結させ、それを追って宮本さんが全てを素手で砕いている。斧ではなく素手な理由は、斧を振り回していると疲れるからだとか。
いや、スライムって言っても10メートルサイズなんだけどね。10メートルサイズを瞬間的に凍らせる七海さんもおかしいと思うし、10メートルサイズの氷をパンチ一発で粉々にしてる宮本さんもおかしいよ。
まぁ……それ以上に死んだような目で深層をダラダラと歩いている現状の方がおかしいかもしれないけど。
:なんか言えや
:草
:視聴者の休憩タイムやぞ
:トイレ休憩タイム
:【¥5,000】頑張れ如月君
:眠くなりそうな配信だなぁ
:多分、普通の人がこの階層に来てもこんなつまんなさそうな顔してないと思うよ。こいつらは頭がおかしいからこうなってるだけで
は? こんな虚無みたいなダンジョン来たら誰だってこうなるわ。これで色んな種類のモンスターが湧いて来るとかなら、まだ色々と喋りながらダンジョン探索できたりもするんだろうけど、出てくるのスライムだけだぞ? 何を喋ればいいんだよ。
「如月君、最近会社の調子いいみたいだね」
「そうっすね……まぁ、みんな頑張ってくれてるんで」
ほらみろ、ついに虚無に耐えかねてあの相沢さんですら適当な雑談し始めたぞ。でも、内容が昼飯を食ってる時のサラリーマンみたいな内容で嫌だな。
「いいなぁ……将来、不労所得とかで生きて行こうかなって思うんだけど、中々ダンジョン組合の後継者が見つからなくてさ。如月君とかどうかな?」
「申し訳ないですけど、会社の経営があるんで嫌です」
「だよねぇ……今でも遊んで暮らせるだけの金はあるんだけど、遊ぶ時間はないからなぁ……」
「もうちょっと仕事を部下に割り振ったりしたらどうですか? 見るからにオーバーワークだと思いますよ」
息抜きがダンジョン探索の仕事とか……明らかに人間がやることではないからな。
:人生相談かな?
:金はあるんだ……
:そりゃあEXだからな
:政府の依頼を受けたり、深層の魔石を売ったりって考えると滅茶苦茶金は余ってるだろうな
「おすすめの金の使い方とかない?」
「株」
「それ、もっと増えるよね」
「米国株とかどうですか? 今なら非課税でそれなりに儲かりますよ」
「だから、金の消費方法だったんだけど」
消費方法? 知らんな……俺だって大量に不動産持ってて、その不動産税とか払ってるけど……明らかに銀行預金残高は増えてるからな。災害が起きた時の寄付とか、単純に全国の孤児院への寄付とかしたりもするけど……こうやって気分だけでダンジョン探索するとそれ以上に入ってくるからね。
「あ、車を1年ごとに買い替えるとか」
「それ、たかが知れてるよね。しかも私は電車通勤だし」
「あはは、俺もそうですね」
:なんでだよ
:えぇ……
:使っても減らない金とか結構羨ましいけど、その為に意味が分からない地獄にいったり、地獄みたいな仕事したりする訳でしょ? 頭おかしくなるぞ
「パソコン買ってもたかが知れてますし、好き放題にゲーム買っても大したことないですしね。ソシャゲに課金したって100万もいかないですし」
:それはお前がガチャ課金の少ないゲームやってるからだろ
:そう言えば如月君がやってるゲームってガチャ課金なんてあってないようなもんだったな
:草
:そりゃあお前が悪いわ
俺のことは良いんだよ。さっさと相沢さんの為に意見出してやれよ。
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