第193話
:あのさぁ……
:アサガオちゃん、自分でなんて言ってたか思い出してみて?
:【¥1,000】かっこいいからヨシ!
:もうちょっとなんか……ないの?
:どうしてこうなった
「えー? 自分で言ったことってなに?」
「『常時展開にしておけば使い易いし、いざという時にぱっと識別できるように色も付けたら7色になった』かな」
「それが?」
「いや、まるで一本ずつ識別して状況に応じた能力を持つ槍を手に持つとみんな思ってたんだと思うよ。というか俺も思ってた」
なのに七海さん……接敵した瞬間に背後に周囲に浮いていた七色の槍が目にも止まらぬ速さで飛んでいき、一気にモンスターを串刺しにした。これじゃあ色を付けた意味ないのでは? だって手に取ってないし一斉に投げてるじゃん。
:【¥50,000】かっこよくていいぞー、その魔法の使い方教えてくれ
:【¥10,000】幾らでも払うから使わせてくれ
:なんで槍の形にしたんだろうね
:イメージし易かったんじゃないかな
:もはや手に持ってなくて草生える
:常時展開ってそういうことなの?
:識別する意味ないのは流石に予想してなかったぞ
「うーん……そりゃあ、手元に武器があったりすると楽な時もあるけど、基本的には邪魔になることが多いから、私がモンスターを認識した瞬間に自動で攻撃するように設定してあるんだよね」
「設定」
そんなプログラムですよみたいなこと言われても、流石に俺だって同意できないわ。宮本さんも相沢さんも引いてるぞ。
「本当に……以前見た時とは大違いの実力になってるね。たった一つのきっかけでここまで変わるのかぁ……もうちょっと教導でも無茶させてみた方がいいのかな」
「いや、死に際にならないと意味ないんでやめた方がいいと思いますよ」
しかも、七海さんに関してはマジで特殊な例だからね。
「わ、私もいつか……EXの探索者に……」
「カナコンさーん?」
:カナコンちゃんもああなるの?
:マジで?
:カナコンちゃんはどんな風に強くなるの? 斧がデカくなるとか?
:既に両手斧を片手で振り回してる危ない奴なんだけどな
:草
「カナコンさん、そこまで焦らなくてもいいんですよ。ダンジョン探索者だってゆっくりでいいんですから」
「そ、そうですか? なら……頑張ります」
「……ちょっとー! 彼女の朝川七海さんが拗ねますよー!」
「配信で平然と本名名乗るのか」
「司君だって相沢さんだって本名名乗ってるじゃん!」
そりゃあ、相沢さんはそもそも配信者じゃないし……俺はあんなクソみたいな厨二病ネームは名乗りたくないからな。
:【¥5,000】UNKNOWNって名乗れよ
:草
:久しぶりに見たなその名前
:如月君、まで探索者名変更の手続きしてないの?
:面倒くさいって前に言ってたけど、厨二ネーム名乗りたくないなら直せよ
「……そのうち直します」
:なおさないやーつ
:草
:面倒くさがってるからいつまで経ってもUNKNOWNなんだよ
:やーいお前の名前UNKNOWN
:いじめ発生してて草
「……今度直しておこうか?」
「できるんですか!? お願いします!」
やり。
「あ、敵」
七海さんが呟くと同時に、七海さんの周囲に展開されていた七色の槍が即座に反応して、ワームを何度も貫通させて消滅させた。
「…………あの、なんの特性が付与されてるのか全くわからないんですけど」
「え? あー……一斉にやるとわかんなくなっちゃうね」
ぱっと見た感じ、それぞれに属性が付与されているっぽいんだけど、他にも色々と能力がついていそうだ。だけど……全部同時に動くから全くわからない。
「自動発動型の魔法ってすごい魔力消費するって聞いたことあるけど、アサガオちゃんは大丈夫なんだね」
「これですか? 私は魔力が視認できるので、魔法のロスを大幅に減らせるんですよね。カンニングしてるようなものなので」
それに加えて、七海さんは魔力の回復速度が常人の倍程度ある。呼吸すればどんどんと魔力が回復していく七海さんにとって、常時展開の魔法なんてものは少しの重りにもならないのだろう。元々、魔法の多重展開が得意な人だったしな。
自由自在に動き回る七海さんの魔法のお陰で、深層に入ってからも攻略スピードが全く落ちなかった。
ガンガン進んでいく俺たち4人に対して、コメント欄は物凄い勢いで流れている。やはり、東京近辺に住んでいる探索者なら誰もが一度は通ったことのある、あの渋谷ダンジョン攻略というだけあって見ている人の数は普段の倍ぐらいになっている。コメントによるとSNSでもかなり盛り上がっているようで、他のダンジョン配信者の方々もミラー配信しながら色々とリアルタイムで解説とかしくれているみたい。まぁ……別にミラー配信禁止にしてないしな。
「砂漠!」
「……本当に久しぶりに来るよ」
「わ、私はそもそも初めてです」
「あれ? カナコンさんって渋谷ダンジョンの深層ってまともに攻略したことないんでしたっけ?」
「はい」
そっか……なら、渋谷ダンジョンの楽しさをちゃんと覚えさせていかないとね。
:普通の人間は深層なんて探索したことなんてないのよ
:そもそも深層って60階層以降のことだろ? そんなに潜れる人間がいることの方が驚きだわ
:これが人類最強の探索者集団だぞ
:【¥5,000】如月君、深層の解説動画作ること覚えてる?
「あ、結構忘れてました。ちゃんと色々と細部まで記録しないと駄目ですね……とはいえ、深層を超えると途端にだだっ広い階層に強いモンスターが出てくるだけなんですけどね、渋谷ダンジョンって」
面倒なギミックとか、こちらを騙してくるようなモンスターっていなくて……ただデカくて強力なモンスターばかり出てくるって印象。実際、他のダンジョンの深層とかだと面倒な敵とか出てきたりするけど、渋谷ダンジョン深層って人間よりデカいモンスターが力で襲ってくるってことが全部だ。
面倒なギミックがないってのは、ある意味探索しやすいのかもしれない。それ相応の実力は求められるけど。
「さて、ここから先はまたきつくなるから……しっかりと心構えをしていこうね」
「わかってます」
「はい……この中だと、私が一番弱いですから」
弱い……弱いかな? 正直、防御力だけで言ったらカナコンさんは普通に七海さんより上だと思うけどな。
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