第192話

 宮本さんが振るった斧がワイバーンの首を切断する。同時に、七海さんが指から放った魔法が別のワイバーンを襲い、跡形もなく消し飛ばす。


「……如月君って、人を育てるのが上手だね」

「皮肉ですか?」


:草

:皮肉かもしれないなwww

:育てるの上手い……確かに上手いかもしれない

:育てるのが上手いって言うか、才能がある人間を見極めるのが上手いのかな

:才能を見る目があるんだろうな。そうじゃなきゃ、あんな才能の塊を何人も自社に引き込んだりしてないって

:後発のダンジョン配信企業は結構苦労してるのにな……行けても中層までだから

:どうしてもダンジョン配信一本でやっていくのは無理だよなぁ

:アリバもダンジョン配信だけじゃないぞ

:社長の趣味なんだよなぁ……


「アサガオさんは配信者として1人でやっている時から才能があるって言われてましたし、カナコンさんに関しては見る人が見ればすぐに才能の塊だってわかりますよ」

「でも、他のメンバーは違うでしょ?」

「……それは結局、自分たちの努力の問題じゃないですか?」

「でも、努力する方向を示したのは君だ。もっと誇っていいと思うよ」


 そうかなぁ……相沢さんにそんなこと言われると凄い嬉しいけどね。

 俺は師匠が婆ちゃんだから、あんまり他人に物事を教えるのは得意じゃないと思ってたんだけど……存外向いてるのかな。


「ふぅ……ワイバーンの群れ、掃討完了です」


 でも、あの宮本さんの変わり果てた姿を見るとはたしてそれが良かったのかどうか……いや、多分宮本さん的にはよかったんだろうけどね。実力も伸びてダンジョンだけで生計を立てられるようになり、配信者としても実力と容姿で人気を博している訳だから。視聴者層は昔と比べたら大分変ってしまったと思うけど、それはどちらかというと七海さんの方が酷いからな。


「探索者として成功することが彼女の幸せなら、それでいいんじゃない? あんまり気にしすぎてもしょうがないよ?」


:んだんだ

:変わっちまったなってのも所詮はネタよ

:ネットの意見を鵜呑みにしちゃ駄目だよ

:今のカナコンちゃんもかっこよく好きだから大丈夫だって

:師匠はどーんと構えてればいいのよ


「いや、これに関してはネットの意見をまともに聞いたことはないんですけど」


:なんだこいつ

:やんのかてめぇ

:やっぱりお前が悪いわ

:いきなり喧嘩吹っ掛けて来て草

:如月君ってやっぱりレスバトラーの才能あるよ、お前も来いよ高みへ

:社会の底辺定期

:低みに誘うな


 まぁ、いいか。七海さんがEXになっても、宮本さんがSランクになっても変わらないものは変わらないからな。


「むむむ……やっぱりどんどん強くなってるなぁ、カナコンさん」

「そうかな? EXのアサガオちゃんにそうやって言ってもらえると嬉しいな」

「さて、さっさと進もうか。ワイバーン程度なんて肩慣らしにもならないでしょ?」

「相沢さん、事実でも時には口にしない方がいいこともあるんですよ?」

「そうかな?」


:ワイバーンが、肩慣らしにもならない?

:カナコンちゃん……そこまで来たか

:如月君、それはもう言ってるも同然やで

:如月君がまともな感性を身につけようとしている所に成長を感じる

:アサガオちゃんとカナコンちゃんはどんどん感性が怪物に近づいているのに、如月君はどんどん人間に近づこうとしてるの草

:やはり怪物か

:まぁ、リーマンって別に言動が社畜みたいな奴ってだけで、ダンジョンに関して言えば結局は規格外だからあんまり変わってないよね


「ほらね?」


 そんなんだからEXリーマンとか言われるんですよ。俺が配信を始めてから色々と経験して生み出された、頭の中のイマジナリー一般探索者如月司が今の発言はキモいって言ってるもん。


:如月君に同意されてもなぁ……

:なんか、如月君が自分を一般人だと思っているみたいで憐れな気持ちになってきたな

:如月君は生まれながらの怪物なんだから、こっち側の感性が分かる訳ないだろ

:ロボットが人間の真似しようとしてるみたいで草生える

:ナチュラルボーンEXがなんか言ってら


 おかしくない? なんで俺はこんなにボコボコに言われてるのかな?


 なんか納得いかないなーと思いながら歩いていたら、ぱぱっと60階層まで来ていた。初めての攻略旅と言うことで張り切って先走っている宮本さんと、それに負けないようにと走る七海さんによって下層は一瞬で終わってしまった。

 相沢さんと俺は後ろから2人を眺めているだけなので、今のところ武器すら構えてないのだが……流石に60階層にもなると相沢さんも剣を抜いたまま歩くようになった。

 俺は……刀持つよりも式神召喚した方が早いから構えないけど。


「ところで、それはなんなのかな?」

「これ? 新しい魔法だよ」


 しれっと新しい魔法を生やすのやめません?

 七海さんは魔力を視認できるって特性があるからなのか、平然と新しい魔法とか生み出しちゃう人だ。特に、最近は神代さんとも連絡を取り合っているみたいで、インスピレーションが止まらないのだとか。

 今も、新しい魔法と言っていた謎の魔法によって……七海さんの周囲に7色の結晶の様な槍が浮かんでいた。


「ほら、私……昔は槍使ってたじゃん? でも嵩張るからって槍を魔力で生成して使ってたんだけど……折角魔力で作るならなにかしらの能力とか付与したくなるじゃん!」

「まぁ……わからなくもないですけど」

「そこはわからない方が一般的な探索者の感性だったと思うよ」


:草

:ロマンはわかるが、本当にやる奴はお前らぐらいだ

:式神に好き勝手に能力を付け足す如月君と、魔法に好き勝手に能力を足すアサガオちゃん

:やっぱり似た者カップルだね


「似た者同士かー……なんか照れちゃうな」

「照れるところなんでしょうか?」

「あんまり言わない方がいいよカナコンちゃん。如月君はそういうの気にするから」


 いや、自己流で魔法とかアレンジしたくなるのはわかるだろ。


「こうやって常時展開にしておけば使い易いし、いざという時にぱっと識別できるように色も付けたら7色になったんだ。で、7色だったら虹色かなって」

「あ、7本あることが先で色は後なんだ」

「うん。色はただのおしゃれ」


:ただのおしゃれで色を変更することができる魔法

:魔法ってそんなに拡張性あったっけ?

:ないよ

:拡張性がない魔法なら自分で開発すればいいって考えだぞ

:やっぱり頭おかしいわ


 いや、機能を追加したいってのはわかるけど、好き放題に色とか付け加えるのはわからん。やっぱり魔法に関しては天才とか言う次元を超えてると思うわ。

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